空手激闘録 ナイハンチャー烈

自由言論社

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最終回 懺悔と述懐。

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 わっくん。

 まずは謝らせてほしい。
 きみに妙な誤解を与えたことに。
 空手の型を実戦に応用することは難しい。
 それができるのは高段者のなかでも、ごくわずかの限られたひとたちだけだ。
 初級、中級者のほとんどは無理だといっていい。

 では、なんでおれが空手の型稽古を熱心にやっているのか?
 それは……
 自分に負けないためだ。
 自分の弱さに負けないためなんだ。
 おれのいう『敵』はおのれの内に巣食う弱さだ。

 おれはいままで会社を2回クビになっている。いまじゃ派遣の仕事と臨時の隙間バイトで食いつなぐ低所得者だ。
 それに私生活でもいろいろやらかしている。
 おれは無標塾の道場に通っていたころ、ある女性に恋をした。同じ道場の仲間だ。
 思いきって告白をしたもののあえなく轟沈。でもあきらめきれなかったおれは、その女性を付け回しストーカーまがいのことをしてしまった。
 そのことが無標塾の幹部師範たちのあいだに知れ渡り、おれは破門になりかけた。
 それを庇ってくれたのが、いまの名誉塾長である喜舎場師範だ。きみも見ていただろう、あの白い髭の老人だよ。
 喜舎場師範は年に一度、おれ個人を対象とした昇段試験を行ってくれている。今日がそれだ。道場に通いづらくなったおれに、特別に審査をしてくれているのだ。

 はっきりいおう。おれのようなやつは、ほっとけば女子高の体育館に潜入したり、だれでもいいからとナイフを持って街頭に飛びだしたりしかねない、そんな劣悪な人間なんだ。
 ナイハンチの型稽古はおれを、おれというコンプレックスまみれの人間をフツーの市民にとどめてくれるブレーキであり、唯一のバランス装置だといっていい。
 だからやっているんだよ。自分がモンスターと化さないために……。


 おれは道場に通う子供たちを見ていて思うことがある。
 その子たちはどこか不器用で頑固だ。
 そもそも空手などの武道系を習いにくる子たちにはそんな傾向がある。
 器用で柔軟でコミュ力に長けた子たちは球技にゆく。サッカーとか野球とかバスケとか。
 心になにがしかのわだかまりを抱えたものだけが武道にゆくんだ。おのれの道を知るために……。
 きみもおそらく、そんなタイプだろう?
 だからどうか空手をつづけてほしい。
 もう、おれに習わなくていい。
 どこか他の道場でもいいんだ。
 空手はきっときみを、きみ自身を救ってくれる。
 それが空手だ。



 顔をあげたときにはわっくんはいなかった。
 おれの長い述懐に飽きてしまったらしい。
 所詮は負け犬の自分語りだ。
 おれはベンチから立ちあがった。
 陽は落ち、辺りはすっかり夕闇につつまれている。
 おれは年端もいかぬ少年に『師匠』などと呼ばれ舞いあがってしまった。
 師と仰がれる資格もない人間なのに。
 もう、少年はおれの元にはもどってこないだろう。

 おれはまた、孤独になった……。



     第一部 完

     第2部につづく
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感想 1

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みんなの感想(1件)

ABBAko
2026.01.11 ABBAko

とても読み応えがあって面白かったです。
頑張ってください!

2026.01.12 自由言論社

ありがとうございます。空手関係者には叱られる内容かも💦

解除

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