逍遙の殺人鬼

こあら

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煽り運転をしてきた運転手の顔を、何度も何度も殴るジャンさんに抱きついて、動きを止めようとするも「邪魔だ!」と後に投げ飛ばされてしまう
アスファルトのゴツゴツとした感触が右側に感じる

「ジャンさんっ、駄目だよ…」

運転手は幾度の殴りによって、気絶してしまいぐったりとしている
それが分かると、今度は助手席に居た女性の胸ぐらを掴んみ、顔面を殴り始める
女だろうと容赦なく殴りつけるジャンさんは怖かった…………

「お前もこいつを止めなかった。同罪だ」

そう言って女性も気絶するまで殴り続けるジャンさんに、私は泣くことしかできずその場に座り込んでいた









「もう二度とすんな」

気が済んだのか、それとも殴りがいが無くなったからか、倒れる2人を置いたまま座り込む私の方に歩いてくる
「行くぞ」と私の腕を掴んで車向った
助手席に座らせ、自分が運転席に座ると手に着いた血をハンカチで拭く
それが妙に手慣れているように見えて、恐怖心を煽ってくる

「あんなにっ、殴らなくても…」

「あいつらが死のうがあんたは痛くも痒くもねぇだろ」

「…っ…、」

「あんた、右、血出てる」

ジャンさんが突き飛ばしたからじゃん
そう言うと右手首を掴んで、自分の方に持っていくと小指球しょうしきゅう辺りから滲み出る血をペロっと舐める

「っ!ジャっ、ジャンさん、汚いですよ…はなっ」

「舐めときゃ治んだろ」

彼の舌の刺激と唾液によって、傷口に滲みる痛さに体が強張った
そんな私に「力入れんな」なんて無理難題を言ってくる
誰のせいで力入れてると思ってるんですか…


「っうっ…」

「………、」

「…、っも、もう大丈夫です!」

私は、半ば強引に彼から手を引き離して背を向けた
さっきまであんなに殴っていた手で、触られるの何とも言えないもので、血痕はないのにその手を見ると殴られた男女の血がついているようで、気持ちが悪かった
それが、この人はと告げているようで、怖かった

ジャンさんは「シートベルト」とだけ言うと、そのまま車を発進させた
私は震える手でシートベルトをし、何を見たい訳ではないが窓の外を眺めて彼を避けた
向こうも特に何も話さず、脳裏に残った光景を忘れたくて目をつむり、車の振動に身体を揺らされ、それに従うように私は眠りに入ろうとしている

「……、」

そっと熱くなった目頭を、冷たい何かが触れたような気がしたが、気のせい、とそのまま眠りに落ちた



そんな冷たさのせいなのか、私は夢を見た

一説によると、人間は普段の生活で起きた出来事や脳に貯めていた情報を、整理するために夢を見ると言うものがあった
脳内に溜まった過去の記憶や直近の記憶なんかが結びついて、睡眠時に処理し物語となって、映像化したものが”夢”だと

夢は無数にある情報と記憶が組み合わせられて、心身の内部的な状態が寝ている間に映し出し、脳内にある記憶を適当に結びつける
時には見たくもないものを見せられることもある
意味もわからない状況が夢の中で描写されることもある

どうして夢を見てるのがわかるのか?
それは逃げたはずの孤児院に居るから


『23276番答えなさい』

『……っ、私の名前は、”ちさ”ですっ…』

暗がりの部屋、パイプ椅子を向かい合わせその間には鉄のテーブル
乱雑に置かれた書類を冷淡に眺めらがら、泣く私に続けて『23276番』と呼びかける

『質問に答えなさい、23276番。今年でいくつになる』

『っ……、18、18歳になります………』

『では貴方も役目を果たす時が来ましたね』

『そんなっ、院長先生…お願いです、』

『心配しなくても大丈夫。貴方だけじゃない、みんな通る運命なのですよ』

『嫌です……、』

「嫌?」と私の言葉に院長先生は淡々とした態度で、頬を平手打ちで叩いた
「今まで院にお世話になったのだから恩を返しなさい」と言うと、頬を抑える私を警備員に「連れて行きなさい」と部屋から追い出される
「次」と院長の声が聞こえる中、自室に戻されるところで、どこかから声が聞こえた
その声の主は臼田うすたさんだった
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