逍遙の殺人鬼

こあら

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私の前方を歩くジャンさんは、銀髪から黒髪にしたというのに存在感が半端なくって、サングラスのせいだろうか?
それとも、全身黒ずくめだからなのか分からないが、すれ違う人みんなが彼を見ている

そりゃ、こんな雰囲気なら芸能人か何かに見えて気になるだろうし、あのスタイル……
ずるすぎる…

「あのー、ちょぉーっとすいません。」

「?」(急に話しかけられた!?)

「私こういう者です。是非、お兄さんを撮らせていただけないでしょうか?」

そう言ってジャンさんに名刺を渡すと、後ろからカメラマンがニョキッと出てくる
編集担当らしく、ジャンさんを雑誌に取り上げたいみたいだ









やはりサングラスでは隠しきれない、オーラとやらがあるのか…
その女性は、是非是非と詰め寄ってくる
さてジャンさん、どうするよ?

「ありがたいですが、今彼女とデート中なので。」

「っえ!?」(今何とおっしゃった!?)

「他の人を当たってください。」

そう言うと、営業スマイルを決めてやるジャンさん
その笑顔はサングラスを通り抜けて編集者に激突し、カメラマン同様に目が点になって固まっている

その周りを囲うヤジは、きゃぁーとざわめいていた
この人が笑うと末恐ろしい

「じゃあ、行こうか。」と今まで聞いたことのない優しさの声色で、私の手を取るとヤジの間を抜けい行く
帽子被っていてよかった…
もはやファンと化したヤジ達に、こんな平凡以下の顔面女が彼女だと思われたら、八つ裂きにされてしまいそう

いつまでもついて来るファンは、もうジャンさんを芸能人だと信じきっていた
そんな追っかけに逃げながら必死に走る私の手を、掴むのではなく握っているジャンさんは、どこか今までの彼とは違って見える
黒髪に見慣れていないから?

「こっち」と裏路地から細道を抜けて建物の影に隠れる
私を中にし、壁とジャンさんに挟まれている状態が数秒、いやもっと続き、見えない様にとくっついた

背中は硬く冷たい感覚で、前は熱く感じるという不思議なものに、心臓の鼓動を早くさせていく
それは走ったせい
そう自己解決してみるが、目の前にある現実がそれを否定している

「まだいやがる」

「…そう、ですか……」

「あんた、顔赤いよ」

走ったからですよ…と言うが「へぇー」とジャンさんは紅潮こうちょうする私を見ている
こうしてくっついている状態が、そうさせていると彼も分かっているだろうに、「俺のせいじゃないんだ?」とあえて聞いてくる

別にくっついているくらい何でもない
その旨を伝えると、口に弧を描き不敵な笑みを浮かべてみせた
そして「じゃあ、これは?」と彼の柔らかな唇を首に当ててくる
当ててくるだけなら何とか耐えられたものの、その中からぬるっとした生暖かいものが、首筋に触れなぞってくる

「っ…、なん、ともないです…」

口どもりながら否定してみるが流石に冷静にはいられない
だけど、私の言葉に対抗するみたいに首から離れ、耳の方に向かうと軽く耳たぶを噛んでくる
一瞬の痛みとその後の味わったことのない衝撃に、両手をぎゅっと握った

「これは?」

「全然…なんとも…、」

「そう、ならこれは?」

耳元で囁くのをやめ、サングラスを取り顔を前にすると角度を変え、形の良いそれを押し付けてくる
首筋や耳たぶで感じていた柔らかい唇は、私の口を確認すると少し開いて侵入しようとして来る
思わず逃げようとする私の首裏を掴んで、強引とも取れるそれを続け、簡単に進入し舌を捕まえる

拙い私の舌の動きに「下手」だなんて余裕を見せながら、角度を変えては何度も絡めてくる
上唇を甘噛みし、時々訪れるその衝撃さえ私には刺激的過ぎて、クラクラする
すでに地べたに座っていると言うのに、倒れてしまいそうで彼にしがみついた
そんな私の頬に手を添えては、涙ぐむ私を見ている彼の瞳と目が合う
呼吸さえもまともにはさせてくれない

強張る私の口に「口開け」だなんて難癖をつけるもんだから困ってしまう
有無を言わせない彼のそれを受け入れ、目をぎゅっと瞑る
その拍子に、目尻からは蓄えられた涙が頬を伝って下に流れ落ちた

前よりも長くしてくるその行為に流れてしまった涙は、戻ることはなく次々と排出され、遂には口の中に入って来た
少ししょっぱいそれに気づき、彼の動きが一瞬止まった
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