逍遙の殺人鬼

こあら

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後部座席が後ろに倒れ、連動して私も倒れてしまう
後頭部と背中に若干の衝撃が走り、勢いとともに反射的に目を瞑った

身を乗り出していたジャンさんも釣られて、後部座席同様に倒れる
それによって、まるで彼に押し倒されたみたいになってしまった、その現実に紅潮こうちょうしてしまう

「なに?誘ってんの?」

「っち、違っ」

意図してやったわけじゃ…
理由を聞き続けるから…、暴れたらこんなことに……

(でも言いたくなかったんだもん…。)

そんな思いで彼から顔を背けた
直視していたら、先程のアラフィフ女性とのキスを思い出してしまいそうで…

まだ香水の香りがする
少しキツイ感じの、ジャンさんに似つかわしくないその香りが、マーキングされているかのように主張してくる









この香りはなんだか好きになれない
なのに、当の本人はそんなこと全然気にしてないように見える

「目ぇそらすな」

「ッ…、」

両頬を掴んで強引に顔を戻す
荒々しいその手つきには、苛立った様子が現れていて少し痛む

"そらすな"って言われたって困る
そらすのをやめたら、あの人の真っ赤な唇の残像がジャンさんの唇と重なって、無性に嫌になる

(なんで、私こんなに……悋気りんきみたいな思いしてるんだろう…………。)


「言えっつってんだろ、言えよ」

「何でもないって言ってるじゃないですか!」

「"何でもない"なら言えるよな?」

怒りとも捉えられるそれに、どうしてわかんないの!?っと、こっちまで苛立ってくる
あの人の香水をまとっていることも、あの人の真っ赤なルージュを着けた唇に触れたその唇も、あの人を触ったこの手も、あの人にかけた声ですら嫌になる

「嫌なんです!……その手も…、匂いも、唇も…全部嫌なんです!!」

「あんた何言って…」

「言ったってどうにもならないじゃないですか!"言え言え"って、何なんですか!!」

どうにもならないその怒りを、ぶつけるみたいにジャンさんに怒鳴り散らした
何でこんなに叫んでるんだろう…
もうヤダ……と目を瞑って顔をそむける

「なに、意味わかんねぇ」

「私には笑わないのに、さっきの女の人には微笑んじゃって。熱く接吻なんかして……」

そんなこと言ったら誤解されるってこと、分かっていないのか私は…
止まらないこの口は、不機嫌度マックスでベラベラとよく喋るもんだ

「あんた、もしかして俺が喜んであのババァとキスしたとでも思ってんの?だとしたら、勘違いも甚だしいんだけど」

「え……、彼女なんじゃ?…キスしてたじゃないですか!」

「年増に興味ねぇ」

眉間にシワを寄せて「仕事だし」と言い放つ
営業スマイルが営業スマイルに見えなくて、あの人のことが好きなのかと思っていたけど…違ったみたいだ
むしろ嫌そうな顔を見せる

おもちゃを取られた赤ちゃんみたいにポカン とし、だったことに気づき、泣きじゃくる代わりに赤面する顔を両手で覆った

「あ、あのっごめんなさい。本当ごめんなさい。」

「まさか、?」

「っ!?っま、まさか!どうして私が嫉妬しなくちゃいけないんですか」

嫉妬それは、自分より他人の方が優れていると認識に伴って生じるネガティブな感情
また、自分の愛する者の愛情が、他の人に向けられるのを恨み憎むこと
ジャンさんが言った"嫉妬"は、多分後者だろう

そんなわけない、ありえない
私はただテストまがいのことをされたのに、2人はイチャついていたから…
だからムッとした……だけ…………
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