逍遙の殺人鬼

こあら

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脆弱ぜいじゃくになった声は、小さく私の口元から放たれたけれど、それを遮るものはなく確実にジャンさんの耳元へと届いた
離れていこうと動く彼は、一旦それを止めた
振り向かず、そのままでジャンさんは言った

「会話も嫌なわけか」

「嫌じゃない…」

「あ?んだよ、聞こえねぇよ」

「嫌じゃないです!!会話も、ジャンさんと居るのも全部全部嫌じゃないです!」

これで聞こえるだろと、腹の底から出た声は後々喉にきた
無理して叫んだりするからだ
その少しの違和感と痛みに耐える代わりに、彼の服を掴む手にギュッと更に力を込めた

今度はちゃんと言えた
言ったから、ちゃんと伝わったかな…って不安がる私は、高ぶる感情を鎮めたくって肩で大きく呼吸をした









「あの時は…変にっ、誤解…して欲しくなくて…」

「あんた何必死になってんの?誰もそんな事聞いてないし」

「そう……ですよね…」

さっきの勢いは何処へやら、明らかにしょげる私は掴む手を離した
もうお終いだとバッドエンドが脳内を駆け巡って、これが最後なのかもと心が挫けた

春さん、ごめんなさい
私はまた、上手く言えなかったみたいです
春さんみたいな話術は持ち合わせて無いし、ジャンさんとの時間は少なくってまだ知らないことの方が明らかに多いです

肩からサラサラッと流れ落ちた髪は、春さんに真っ直ぐにしてもらったままの状態を頑張って保っていた
下を向く私の髪の毛に触れれば、ジャンさんは怖いくらい冷たい声色で言った

「この髪の毛」

「…春さんに、真っ直ぐにしてもらったんです……」(また話題を変えるの?…)

「この髪も遅疑ちぎってるあんたも、すげぇ目障りだ」

「っ!?」(っ痛い…)

絡まりや癖のなくなった毛を捕まえたまま、力の征くままに引っ張られた
必然的に上を向く事になり、私の視界に入ったジャンさんは照明のせいか暗い影が顔に落ちていて、その中にある2つの瞳が睨むように私を覗いていた

イライラするって前に言ってた
やはり私の髪の毛は、ジャンさんの好みでは無く逆鱗付近をチラつく鬱陶しい存在らしい

私はそんな髪の毛が、いっときの間だけだと分かっていても真っ直ぐになった事への喜びに舞い上がっていた
その髪は今、無様にも手荒く握り潰されてしまっている
1束と言えど、掴まれている毛は少なく無くて、毛根まで抜かれそうな程強く痛みが生じる

遅疑逡巡ちぎしゅんしゅんし続ける私を、目障りだと言うのは理解できる
誰だってこんなぐずった赤子のような手の掛かる存在、好ましく思わない
でも、春さんの好意で真っ直ぐになった髪の毛まで言われると、もう私の髪の毛には望みはないのだと落ち込んでしまうではないか

_____まぁ…そもそも、自分自身が好んで無いのに相手に好いてほしいだなんて差し出がましいにも程がある

「あんたさ、"全部全部嫌じゃない"って言葉ちゃんと理解してんの?」

「……はい?…」

って言ってんだよ」

「…"男"って、相手はジャンさん…ですし……」(見知らぬ人とかじゃないから…)

えっと…えっと……と目を泳がせて一生懸命反論文を提示しようとする
でも、どうにもこうにもジャンさんを前にすると、恐怖からなのか口が思うように動かなくって、脳内もパニック寸前だ

引っ張る手を緩めれば、後のカウンターに手をつける
私を挟むように置いて、身動きの自由を奪う
しゃがんで下から脱出とか無理過ぎだ…
前のめり状態のジャンさんに比例して、私は後ろへと仰け反っていて、崩れないようにするので手一杯
そんな私にジャンさんは、少し顔を傾けて近づいて来た
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