逍遙の殺人鬼

こあら

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「与えられる事に感謝しない、思考も行動も、全てが気に食わない。」

「"全て"って………」

「あのオカマは俺が願っても、努力しても地を舐めても手に入らないモノを持っている。なのに、それを手放したんだ。」

「春さんは…何を手放したんですか…?」

ゴクリと唾を飲み込んだ
後部座席から助手席に座る朔夜さんの声に集中し、このモヤモヤっとした疑問の解決を求めた

臼田うすたさんも、私同様に知りたがっていた
「僕も知りたいです。」と運転しながらも、聞いていた

そんな私との臼田うすたさんの直球な質問に、朔夜さんは、はぁっとため息を吐いて話し始めてくれた









春さんは峻厳しゅんげんな家に生まれた嫡男で、ただひとり子供だった
作法やしきたりに縛れた暮らしと一族からの圧を受けながら成長して行った春さんは、ジャンさんと幼い頃からの幼馴染みだった

その厳しさは朔夜さんもちゃんと理解していたが、約束されたその位置に嫉妬心を感じていたそうで、小さい頃からよくは思っていなかったみたい
そんな想いを抱えている時に耳にした、家を継がないといった話に朔夜さんは激怒した

同じく財閥家の生まれの朔夜さんは、5番目に生まれた
自分は家の役に立ちたいと幼子の時から思っていたにも関わらず、その意に反して現実は朔夜さんを必要とはしなかった
求められず、期待もされず、上を目指しても兄や姉の存在には勝つことが出来なかった

努力しても、死にものぐるいで頑張っても報われる事はなく、時間だけが過ぎてしまった
春さんは春さんで、過度な期待を背負わない朔夜さんをすごく羨ましく思っていたようで、その自由さを求めていたみたい

「あいつは馬鹿だ。不特定多数の誰かの為になれる事なんてそうそうない。なのに、自らその機会を泥水の中に放り投げやがったんだ。」

「あーー、確かにお家の話すると凄い剣幕でまくし立てられますし…かなり嫌ってるみたいですよね。」

「望まずとも、努力せずとも手に入るモノを拒んで、何をするかと思えばあんなだらしない仕事だ。理解が出来ない。」

「まあ、ハルカさんもハルカさんなりに事情があるでしょうし。」

そうだ…
春さんも春さんでつらい思いをしているはずだ
平行線の2人

互いに羨むその立場を見ていたら、だんだん苛つき、憎く思ってしまうのかもしれない
いっそ、2人が真逆に生まれていたら…

春さんが朔夜さんとして、朔夜さんは春さんとして産まれていたら、2人は仲良く出来ていたのかもしれない
春さんの望む自由と、朔夜さんの望む期待
どちらの想いも分かるし理解出来る
ただ、解決方法が見当たらないのが悲しいんだ

「家を継がないで、あんなしょうもない仕事して呆れる。」

「でも…、ある意味人の為にはなってますよ」(お客さんを楽しませてるし…。)

「次期社長の座を捨ててまで選ぶ価値があるとは思えない。それは、代々受け継がれてきた会社よりもすごいのか?」

「…春さんは、そう思って家を出たんじゃないんですか…?感じ方も想いも、みんな違いますし…」

そんな風に言われても困る
だって…私は春さんじゃないし、必要とされたこともない…
それでも、誰かに押し付けられる人生なんて…辛いだろうな

2人は仲が悪い
でも、そんな単純な話じゃなくて、もっと入組んでいる

「なら……春さんがそれ相応の事をしたら、仲良くするんですか?」

「いや、それはそれで腹が立つな。」

(何ですか、その回答は!?)

結局……春さんが何をしても気に食わないのですね…
大人気ない方だ…
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