逍遙の殺人鬼

こあら

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ドタドタとせわしない足音がだんだん大きくなって聴こえた
そして、ドアのすぐそこまで来たかと思ったら映画みたいに扉が勢いよく開き、ゼハゼハし頭を下げたギュウ君が姿を現した

「っぎゅ…ギュウ…君?だいじょうぶ…?」

「ちっ、ちさは…、だっ、いじょうぶ、っだった…か?」

「絶好調です…」

呼吸を整えようと動きが止まるギュウ君は、過呼吸になりかけた息を落ち着かせて、ゆっくりと、若干フラつきながら歩きベッドの縁に腰がけた

私はすかさずお水を差し出した
春さんから連絡を受けて、急いで向かってくれたんだろうなと思った
姿が見当たらず焦ったようで、ずっと探してくれていたみたいだ









「ごめんなさい…。急に居なくなったりして…」

「何かあったんじゃないかって、凄く焦った…。でも、何もなくて良かったよ。」

「スマホをギュウ君に預けていたのをついさっき気付きまして…。決して逃げたりしたわけでは、」

「分かってる。ちさはそんなことしないって、もししたって言うなら致し方なくって事だと思ってるから。」 

聖人みたいな人だと、両手を合わせて思わず拝んだ
ギュウ君は目を丸くして、なにしてんの?みたいな顔でこちらを見てきた

ようやく整った息で、私に「それで?」とどこに居たのかを訪ねる
色々…と答えると、"色々"って?とオオム返しのように聞いてきた

「本当にだよ。知り合いに会って、その人に連れられて知らない人の挨拶に回って…、それで……」

「疲れた?」

「そうね、歩き疲れたよ。見てよ脚がパンパン」

「いいよ見せなくて…。今日はお互いよく頑張ったよな、お疲れさま。」

きっと、ギュウ君も疲れている
それなのに、急に消えた私に怒りもせずにいてくれる

ギュウ君は疲れてないの?って聞いたら、笑顔で「くたくただよ。」と笑って見せる
右手を左肩において、「バキバキかも」と歯を見せて笑う
疲れたと口では言うのに、表情は疲れた顔を見せない

ジャケットを脱いで、首もとを緩める
その仕草に、なぜだかマッサージをしてあげようと思い浮かんだ
教会に居た頃はよく、研さんと肩揉みしあっているのを目にした

「肩凝ったなら私が揉もうか?」

「っえ!?っい、いいよっ!ちさだって疲れてるだろ。」

「ギュウ君を置き去りにしちゃったし…、色々と迷惑かけたから、肩揉みくらいさせて。大丈夫!私、肩揉みは上手いよ!!」

半ば強引に彼の肩に手を置き、動揺を見せるギュウ君を無視して肩揉みを始めた
ジャケットを着たままでは分からない、ガッチリとした肩が私とはまるで違う構造の様に思わせてくる

そういえば、いつかの時に見た…いや、見てしまったギュウ君の身体はたくましかった
私が苦戦して中々上げることのできなかった荷物も、軽々持ち上げていた
私も男に生まれていたら…なんて、思っても…現実味がなくてため息ばかりしていた記憶がある

_____それにしても……

「めちゃくちゃ肩凝ってない!?凄く硬いんだけど…」

「いや…それ、自分の肩と比べてないよね?肩にだって筋肉あるし、そもそも男と女の体は違うだろ。」

「今まで自分以外の肩をじっくりと触ったことなかったから」

「っも、もういいよっ。十分だからっ!」

「っね、ちょっと、私の肩触ってみてよ。どれぐらい違う?」
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