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第1章

第二十話 「もう一度……。」

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トントントン。

「ネル、私よ。入っていい?」

「……あぁ。」

「じゃ、失礼するわね。」

ガチャッ……。

「久しぶり。」

……あぁ。

「あんた、いつまでそう、くじけるわけ?いいかげんにしなさい。お父さんとお母さんが、心配してるわよ。さぁ、早くこっから出なさい。出ないと一歩も踏み出せないわよ。」

……うっせぇ。
お前に言われたくねぇ。
あたしはこっから出たくないんだ。
ほっといてくれ。

「ほっとくわけいかないでしょ!ほら、起きて!早く!」

もう、人のうでをぐいぐいひっぱるなよぉ。
もう、もう……。

「ほっといてくれよ!」

あたしが泣き叫ぶと、部屋はしーんと静まり返った。

「……はぁ、はぁ。お前も、いいかげんにしろよ。なにこの状況でオシャレして、うちに来んだよぉ!全然かわいくねぇし、KYか!」

「ネル……。」

「それと、それと……。」

あたしは顔を下に向いて、それから、顔を上げた。

「なんであの男と別れなきゃいけなかったんだよぉ!ああん?なにか理由でもあんのかよぉ!」

リリアはそれから、下を向いた。

「ごめんなさい。私が近づくなって、彼に言ったの。」

!?

「な……なんで?」

「……あなたを守るためだから。警察を呼ぶって、言っておいたわ。」

「お前はあたしの母親かっ!」

あたしはあいつの胸ぐらをひっぱった。

「いーかげんにしろよ!あたしがどれだけ、あの男を愛したのか、わかるだろ!?それに、あいつとの子供もいるし!」

あたしは右手でお腹をさわった。

「えぇ、わかるわよ!あなた達の今までの様子を、ちゃんと見ていたわ!けど、あなたはまちがってた!あの人を愛する方法を!」

「まちがっていねぇ!あたし……あたしには、あの男が必要なんだ!あの男がいねぇと、いねぇと、生きていけねぇんだよぉ!」

「……ネル。」

リリアは、あたしをぎゅっと抱きしめた。

「ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。私が悪かった。」

あ、謝るのがおせぇんだよぉ!

「もう、あなたは相変わらず、泣き虫ね。」

リリアったらぁ!もう!ほほえむなよぉ!

「さて、これからどうする?」

「……あの男に、会わせてくれ。」

「ネル……。わかったわ。すぐ連絡するから、まっといてね。」

あぁ。
もうすぐ、会えるよ、お父さんに。
あたしはお腹をさわった。


                                    ☆


はぁ、はぁ、はぁ。
ネル、まっててくれよ!
俺様、お前のために、お城まで走ってみせるから!
はぁ、はぁ、はぁ。
ちっ、信号、赤になっちまったよ!
早くしねぇと、時間が……。
するとその時、信号が青になった。
よし、行くぞ!
はぁ、はぁ、はぁ。
つ~!息苦し~い!
ネル、まっててくれよ!
お前に言いたいことがあるから!
家に帰らないでくれよな!
はぁ、はぁ、はぁ。
そして、俺様はやっと、お城の前へ。
ふぅ~。つかれたぁ~。

「ウルフ一郎さん?」

あ、真莉亜ちゃんっ。

「どうしたんですか?」

「ごめん、真莉亜ちゃん!今はそういう場合じゃないんだ!」

俺様は、ぱっと走り出した。

「?」

ネル、ネル、ネル!

「お、おい!どーしたんだよ、お前!」

ネル、ネル、ネル!

「ウルフ一郎様?」

ネル、ネル、ネル!

「ウルフ一郎お兄様っ、一緒に遊んでくださいっ。」

だから今はそういうしている場合じゃねぇんだって!

「?」

ネル、ネル、ネル!

「おや、ウルフ一郎くん。お城の中をそんなに走ったら、だめですよ。」

そんなのわかってるって!
ネル、ネル、ネル!
俺様が通ったあと、ルアンおじさんが、くるくる回った。

「あわわわわ!」

よし、もうすぐだ!

「よっ、ウルフ一郎!」

あ、こいつもいるんだった!
俺様は、キューッとブレーキをかけた。

「どうしたの?そんなにあわてて。」

「あ!あそこに巨大なオムライスが!」

「えー!?どこどこぉ~!?」

よし、今だ!
あ、リリアが見えた!

「リリア!」

「ん?」

俺様はまた、キューッとブレーキをかけた。

「あら。時間通りに来たわね。」

「ネルは!?」

「ちゃんと、まってるわよ。」

ありがとう!
俺様が、ドアを開けようとした、その時。

「まって。」

なんだよぉ。
早く開けたいんだよぉ。

「この間は、ごめんなさい。」

リリアは俺様に向かって、お辞儀をした。
リリア……。

「いいんだよ、リリア。」

「ウルフ一郎……。」

「謝ってくれて、ありがとう。」

俺様はほほえんだ。
そして、ドアを開けると……。
黒い髪に、ポニーテール。美人でお腹がふっくらしている女が、窓から外を眺めていた。

「ネル!」

「ウルフ一郎!」

感動の再会に、俺様達はだきあい、そして、熱いキスを交わした。

「……会いたかったよ。」

「あたしも。会いたかったよ、ウルフ一郎。」

ずっと?

「あたり前だろ。ずっと、お前のことしか考えてなかった。」

俺様もだ。
ずっと、お前のことしか考えてなかった。
それに、この子のことも。
俺様は、ネルのお腹をさわった。

「うふふ。こいつも会いたがってたよ、お前に。」

そっかぁ。

「……ネル、一つ、話があるんだ。」
 
「話?」

あぁ。
とても大切な話。

「なんだなんだ?早く話してくれ。」

わかったよぉ。そんなに人をせかすな。
俺様は、深呼吸をして、それから、懐から、なにかを取り出した。

「なんだよ、それ。」

「いーから広げてみろ。」

「お、おう。」

ネルがそのなにかを広げると……。

「!?こ、これって……。」

「そう。婚姻届だ。」

「は……はぁ、こ、こんなもん、渡すのって、まさか……。」

「そう。俺様と、結婚して欲しいんだ。」

「!?」

ネルは口をふさいだ。
なんて言えばいいか、わからないようだ。

「驚かせてごめん。これは、本気なんだ。お前と一緒に、しあわせに暮らしたい。お前だけじゃない。お腹の子も一緒に。三人で仲良く暮らしたいんだ!ずっと、これからも、歳を取ってもずっと!だからネル、結婚してくれ!」

俺様は、ネルの方に手をさしのべた。

「ウルフ一郎……。」

すると、ネルは俺様の手をにぎった。

「顔を上げろ。」

え……?
俺様は顔を上げた。
ネルのやつ、泣いてる……。

「いいよ。あたしと結婚して、いいよ。」

「ネル……。」

「これからもよろしくな、ウルフ一郎。」

「お、おう!」

俺様は、二ッと笑った。
また、新たな道が開ける……。
だが、俺様は、また同じ悲しみを繰り返すことになることを、まだ知らなかった。
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