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第1章

第四十一話 「ネルさんのなやみ」

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あたしは実家で、おふくろのひざの上で、泣いていた。
ものすごく、悲しい気分……。

「そう。それで悩んでたのね。」

う……うん。
あたしは泣きながら、うなずいた。

「よしよし、もう泣かないの。子供じゃないんだから。」

おふくろが、あたしの肩に両手を置くと、あたしは、顔を上げた。

「私もね、なやんでいたの。あなたと同じ、なやみをかかえていたの。」

えっ?

「その時、がまんできなくて、あなたと同じく、手を出してしまったの。けどね、お父さんがね、「いくら自分を責めたらだめだ。」って言ってくれて、私は子育ての勉強をし始めた。どうしたら、この子と上手く接することができるのかってね。その一週間後、ちゃんとほめて、ちゃんと怒るようにできた。母親らしくなった。あなたにも、それを実感して欲しい。あなたはいつも、イライラしてるから、だめなのよ。少しずつでいいから、一歩ずつ、歩みなさい。そして、母親らしくなりなさい。わかった?」

おふくろ……うん、わかったよ。

「うん。それでいい。」

おふくろが笑った、その時。

「奥様。」

「なに?」

「ウルフ一郎様が、お見えです。」

「あっ、ネル!ここにいたのかぁ。」

ウルフ一郎、ガオン!
あたしは一歩ずつ、二人に近づいた。
どうして、ここに?

「おめぇがいきなり飛び出すから、あわてて探したよ。」

そう……ありがとう。

「それと、ガオン……。」

「う?」

あたしは、ガオンをだっこした。

「ごめんな、暴力をふるって。あたしはもう、母親失格だよ。」

「う、う!」

え……ガオン、あたしをはげましてるの?


「あい、あい!」

ふっ。ガオン、お前は優しい子なんだね。

「お義母さん、うちの嫁がめいわくかけて、すまなかったな。」

「いいのよ。またなにかなやみがあったら、いつでもおいで。お母さん、相談に乗ってやるから。」

おふくろ……ふっ、ありがとう。

「じゃあな、おふくろ。親父によろしくたのむ。」

「えぇ。」

あたし達は、あたしの実家を出て行った。

「さあて、晩飯、なんにする?」

「……久しぶりに、外食はどうかな?」

「おぉ、いいね、それ!」

「なんにする?」

「焼肉!」

「ふっ、お前は肉のことしか考えてないなぁ。」

「な、なんだとぉ!?」

うふふふふ。




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