上 下
12 / 185

第六話 「道華のもう一つの正体」

しおりを挟む
今日は土曜日。私と道華は、いつものように、満月荘に来ています。

「マドレーヌちゃ~ん。スッポンの生き血ジュース、もってきたよぉ。」

テレサさんが、笑顔でスッポンの生き血ジュースをもってきた。

「ありがとうございます!」

マドレーヌちゃんが、笑顔でジュースを受け取って、ごくごく飲んだ。

「あ―!最高です~!」

マドレーヌちゃん!口の周りに、血がついてるよ!

「あ、ごめんなさい。」

マドレーヌちゃんが、ティッシュで口の周りをふいた、その時。

「・・・・・・血・・・・・・血・・・・・・血!血をくれ!」

道華がよだれを流しながら、言った。
あんた、人間でしょ?

「血をくれ!」

聞いてないし!

「急にどうしたのよ。」

「血・・・・・・!」

「なにか悪いものでも食べたんですか?」

「食べてない!血が欲しい!」

「道華様、なにかあったんですか?」

「血~!」

「ヴァンパイアみたーい。」

「血・・・・・・!早くくれ~!」

「おしばいなの?」

「ちがーう!血をくれ~!」

「あー!血、血、血、血、うっせー!」

今日の道華、ヴァンパイアみたい。

「だーめ。これはヴァンパイア界の飲み物だから、人間が飲むと、死ぬよ。」

テレサさんがからっぽになったコップを、片づけながら言った。

「ご・・・・・・ごめ~ん。さっきの冗談、冗談。」

・・・・・・あやしい。

「お前、またなんか隠してねぇか?」

「か、隠してなんかないよ!あ!それより、これ・・・・・・。」

道華が、私に白い紙を差し出した。
なに?これ。

「土曜参観。」

「土曜参観?」

私とジュンブライトは、ハモリながら、首をかしげた。

「マドレーヌ。土曜参観、いつあるの?」

「来週の土曜日です。」

あ!そういえば、琉理が言ってた!

「来週の土曜日に、土曜参観がある。」って!

「そ。それでね、二人に来て欲しいの。土曜参観に。」

え~?私、家でゴロゴロした~い。

「へー、おもしれぇじゃねぇか。で、なにをやるんだ?」

「家族を紹介するの。」

それって、発表?

「うん!あたし、二人のために、とってもいい文章を書いたんだ!」

道華が私達のためにぃ!?ジュンブライト、楽しみだね。

「お前、よけーなこと、書いてそー。」

「よけーなこと、書いてないよ!ちゃ―んと、真剣に書いたんだもん!」

「『真剣に』ということばがあやしい。」

「ねぇ、観に行くでしょ?」

「もっちろん。土曜参観を、観に行くぜ。おめぇも行きたいだろ?真莉亜。」

ジュンブライトがそういうなら・・・・・・行ってあげてもいいよ。

「やったぁ~!」

道華が喜びながら、飛び跳ねた。





けど月曜日、道華がお腹をこわして、早退した。
原因は、今日の給食がぎょうざだったらしく、にんにくのにおいをかいだとたん、急に「オェー!」って、吐いたらしい。
しかも、人前で。
保健室まで運んだ先生が、お母さんにこう言ったんだって。

「道華ちゃん、ヴァンパイアみたいですね。」って。

「今日の給食のこんだて、見るの忘れてた・・・・・・。」

私のベッドでねこんでる道華が、そうつぶやいた。

「あんた、やっぱりなにか、隠してない?」

「ぎくぅ!」

だって、満月荘に行った時、「血をくれ!」って、言ってたじゃん。

「そ・・・・・・それはぁ、冗談だって、言ったじゃん。」

本当のこと、話しな。
そうしたら、スッキリするよ。

「やだ!」

道華がベッドにもぐりこんだ。
道華、なぞだらけだなぁ。
だって、未来からやって来た理由、一言も話さないんだもん。
おまけに、ヴァンパイアみたいだし。
不思議だなぁ~。
また、やっかいなことになりそう。
ピンポーン。
ん?誰なんだろ。
私は部屋を出て、階段を降りて、玄関を開けた。
そこには、道華と同じ歳の女の子が立っていた。
黄色い髪の色で、毛先がふんわりしていて、ハートのワンピースを着ていて、優しい瞳をした女の子。

「道華ちゃんのお姉ちゃんですか?」

あっ、はい。

「私、道華ちゃんと同じクラスの、安藤美鈴といいます。学級委員をやっています。」

年上に敬語でしゃべるなんて、なんていい子なんでしょー!
おまけに、学級委員をやっているなんて!

「道華ちゃん、大丈夫なんですか?」

心配してくれて、ありがとー。
道華に、こんな友達がいるなんて、うらやましいよ。

「これ、よかったら。」

美鈴ちゃんが、私に箱を渡した。
ケーキを買ってきてくれたの?ありがとー。
道華、きっと喜ぶよ。

「ありがとうございます。うちの両親、パティシエなんで。」

美鈴ちゃんち、ケーキ屋さんなんだぁ。

「じゃあ、さようなら。」

美鈴ちゃんは、ワンピースをひらりとゆらしながら、そのまんま、歩いて行った。

「あ。」

美鈴ちゃんが立ち止まり、にっこりしたかわいい笑顔で、私の方を振り向いた。

「道華ちゃん、ヴァンパイアみたいだねって、クラスのみんなが言ってましたよ。」

と、言い残して、歩き始めて、帰っちゃった。
ヴァンパイアみたいだね・・・・・・か。





土曜参観当日。
私とジュンブライトが、道華の教室に向かっている時だった。

「真莉亜お姉様ぁ~!」

「王子~!」

マドレーヌちゃん、ルクトさん、リリアさん!
どうしたんですか?息を切らして。

「道華が美鈴っていう子を、裏庭に連れて行くのを見たわ!」

えぇ!?

「もう、授業、始まるぞ!てか、それがどうしたんだ。」

「なんか、いやな予感がするんです!」

ルクトさんが、あわてながら言った。
いやな予感?

「はい!早く行きましょう!」

マドレーヌちゃんが、私の手をぎゅっとにぎった。
でも、授業が・・・・・・。

「今は道華が優先よ!早く行きましょう!」

私達は、急いで階段を降りた。
美鈴ちゃん、大丈夫かなぁ?


しおりを挟む

処理中です...