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第十三話 「魔法の指輪」

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「ガハハハハハ!『ОNEPICE』、おもしれぇ。続きが楽しみだぜ!」
 
「お父さん、お父さん!」
 
「どうした。道華、マドレーヌ、アキ、ソラ。そんなにあわてて。」
 
「ある大物科学者が、ここに来るんだよ!」
 
「大物科学者?」
 
「変人ガリレオと呼ばれる、科学者が来るんです!」
 
「そ・・・・・・それって、まさか・・・・・・。」
 
「そう!『ガリレオ』に出てきた、湯川学が来るんです!」
 
「こ・・・・・・これは見逃せないぜ!おい!サイン色紙とマジックペンを持ってこい!大急ぎでなっ!」
 
「は~い。」
 
ピンポーン。
 
「来た!」
 
「どうぞ~。」
 
ガチャッ。
 
「おぉ!」
 
「こんにちは~。」
 
「・・・・・・想像してたのと、ちがうじゃねぇか。」
 
失礼なっ。それでも僕は、変人ガリレオと呼ばれてるんですっ!
 
「お前がか?」
 
はいっ。
 
「どー見ても、変人ガリレオとは思えないが・・・・・・。」
 
僕は、ノーベル賞をとったことがあって、あの、iPS細胞で賞をとった、山中さんと、友達なんですっ。
 
「へぇー。」
 
「お父さん、すごい人でしょ?」
 
「理科の成績、悪そー。」
 
悪くありませんっ!理科の成績は、3ですっ。
 
「ま、もう少しがんばれば、いいことでしょう、らへんだな。」
 
なんなんですか?その、『もう少しがんばれば、いいことでしょう。』的な言い方は。
 
「ところでお前、何者なんだ。」
 
あ、自己紹介がおくれてしまいました。
僕は変人ガリレオこと、湯川真莉男です。
で、この二人は、助手の紅葉くんと、クリスくんです。
 
「よろしくお願いします。」
 
読者のみなさーん。春間真莉亜は、湯川真莉男に変装していまーす。
なんで変装しているかって?それは、指輪をはずすため。
科学者に変装した私は、科学の授業をして、ジュンブライトを楽しませます。
と、ここで、電磁石を使った授業にはいる!
道華達が、鉄でできたものを探す。
アキちゃんが、指輪を見つけて、道華達がジュンブライトをとりおさえて、私は電磁石を近づけさせて、指輪をはずすという作戦!
初めて変装するなんて、いい経験をしましたぁ。
どーよ!ジュンブライト!私の変装は!
初めてドキドキしたけど、これならバレずにすむ!
 
「真莉亜だな。」
 
い、一発でバレたー!
 
「ど、どうしよう!紅葉!」
 
私は、小声で、紅葉の耳元でささやいた。
 
「実におもしろいって、言えばいいのよ。」
 
「そしたら、バレずにすむ!」
 
実におもしろいのポーズ、どーするんだったっけ。
 
「ちがう!こーするのよ!」
 
ど、どうですか?
 
「もう少し、こう!」
 
こ、こーですか?
 
「そう!」
 
よーし!
私は、かっこよく振り返った。
 
「実におもしろい。」
 
どう?どう?
 
「・・・・・・。」
 
は、は、は、鼻をほじってる!
ん?まーるく、こねた小さなものは、まさか!
ポイッ。
私のおでこに、まるくこねた小さなものがついた。
なんだろ?
むむむむ!これは、鼻クソ!
こんにゃろー!人のおでこに、鼻クソを飛ばすとは、なんたる行為!
イケメン王子の名が、もったいないです。
 
「ジャンの湯川学のまねの方が、マシだな。」
 
がくっ。ジャンさんに負けました。
ジャンさんの湯川学のまね、そっくりだもんね。
 
「早く帰ってくれ。俺、科学とか、あまり興味がないから。」
 
ま、まってください!実験を見せずに追い出すなんて、ひどいですっ!
 
「ジュンブライトお兄様っ。私、湯川先生の授業を受けたいです!」
 
マドレーヌちゃんが、その場を去ろうとする、ジュンブライトをとめた。
 
「あたしも!理科の勉強に、役に立つと思うし!」
 
今度は道華がとめた。
 
「あたしも!理科っていうものが、どんなにおもしろいか、知りたいです!」
 
「小学生になってないけど、これは小学校にあがるためのお勉強になると思うんです!」
 
ジュンブライトは、「はぁ。」とあきれたように、ため息をついた。
 
「わかったよ。じいや、こいつらにお茶を出せ。今すぐに。」
 
「はい、ただいまぁ~。」
 
私達は、部屋にあがった。
 
「さあてと、授業、始めましょうかぁ。みなさーん、最初は、なんの授業を、やってほしいですかぁ?」
 
「動物の解剖。カエルとか、トカゲとか。俺、解剖が、得意なんだ。」
 
そ・・・・・・そんなにグロい授業なんか、できません!
 
「お前、科学者だろ?そんなことをできないなんて、科学者とは言えないぜ。」
 
解剖はなしとして、電磁石を使う授業は、どうでしょーう?
 
「いいね、それ!」
 
「電磁石、電磁石~!」
 
「したい、した~い!」
 
「湯川先生!電磁石を、早く出してくださいっ!」
 
「はいはーい。では、紅葉くん、電磁石を出してくれたまえ。」
 
「話し方が変わった!」
 
「少々おまちを。」
 
「お前も!?」
 
紅葉は、カバンの中から電磁石を出した。
 
「はい。」
 
紅葉が、電磁石を私に渡すと、私はそれを受け取った。
 
「ありがとう。」
 
「声、低くなってね?」
 
「湯川先生は、実験になると、キャラが変わるのよ。」
 
「そーゆー設定なのかよ!」
 
さぁ、みんなで、鉄でできたものを、探してくれたまえ。
 
「わーい!」
 
道華達は、部屋を探し回った。
 
「アキちゃん、今だよ!」
 
私が小声で教えると、アキちゃんは、うんっとうなずいた。
 
「あれぇ?この指輪、鉄でできているみたーい。」
 
アキちゃんが、指輪の方を指さした。
私達は、ジュンブライトのところに集まった。
 
「本当だ。この指輪、鉄でできてる。」
 
私は、指輪をじろじろ見つめた。
 
「ちょっ・・・・・・なに見つめてんだよ。」
 
いよいよ、作戦を実行する時が、キターッ!
 
「うふふふふ。」
 
私がニヤニヤしながら、電磁石を見せると、ジュンブライトは、ぎくぅ!とした顔になって、向こうに逃げようとした。
 
「道華、マドレーヌちゃん、アキちゃん、ソラちゃん、紅葉、クリスさん!ジュンブライトの体をおさえて!」
 
「うん!」 「はい!」
 
道華達は、逃げようとするジュンブライトの体をおさえた。
 
「は・・・・・・離せ!」
 
ジュンブライトは、体を動かしても、道華達は離さなかった。
薬指を出している!今だ!
私が、電磁石を指輪に近づけさせようとした、その時。
シュッ、シュッ、シュッ、シュッ!
バサッ。
か・・・・・・かつらが、まっぷたつにきれた!
 
「変装して、指輪をはずそうとするなんて、バカなまねをするなぁ。」
 
女の人の声が聞こえた。
後ろを振り向くと、刀を持った、身長が172cmのかっこいい女の人が立っていた。
あ!
 
「ネル!」
 
ジュンブライトは、道華達から離れて、ネルさんにだきついた。
 
「こ・・・・・・こわかった・・・・・・超~こわかった・・・・・・。」
 
ジュンブライトは、涙を流している。
 
「安心してください、ジュンブライト様。この、桜吹雪のネル様が、春間真莉亜をたおしますっ!」
 
ネルさんは、表情を変えて、私の首に刀を向けた。
 
「桜吹雪のネル。趣味は、賞金首の首をきること。好きなことは、賞金稼ぎと手を組んで、賞金首を殺すこと。」
 
趣味と好きなこと、こわすぎる!
 
「この刀は、いろんな賞金首の首をきったり、殺したりした、最強の刀だ。賞金首じゃないが、お前の血を、この刀で吸ってやる!」
 
ひぃぃぃぃぃ!
だ、誰か、助けて~!
 
「そうはさせませんっ!」
 
外の方から、声が聞こえた。
 
「ん?」
 
ネルさんが振り返ると、黒い影が、シュッと、部屋の中に入ってきた。
パコーン!
 
「うわぁ!」
 
誰かが、おもちゃのトンカチで、ネルさんの頭をたたいた。
ネルさんは、気絶している。
 
「大丈夫ですか?真莉亜様。」
 
その声は!
 
「ルクトさん!」
 
もう、死ぬかと思いましたよぉ~。
 
「じいや!」
 
ジュンブライトが、ルクトさんの胸ぐらをつかんだ。
 
「てめぇ、俺のネルに暴力をふるうなんて、いいまねをしてくれたなぁ!」
 
「す、すみません!これも、王子のためでして・・・・・・。」
 
「ゆるさん!ネル、しっかりしろ!ネル!」
 
ジュンブライトは、ルクトさんの胸ぐらをつかむのをやめて、ネルさんの体をゆすった。
 
「キスしたら、起きるんじゃないの?」
 
道華!なーに、ふざけたことを言ってんの!
 
「おもしろいじゃん。」
 
どこがよ。
 
「キス・・・・・・?」
 
ジュンブライトは、気絶しているネルさんの唇を見つめた。
 
「ネルの唇、ぷるんとしてる・・・・・・かわいい。」
 
ま、まさか、本気でするんじゃないでしょーね?
 
「ジュンブライト様!バカ剣士にキスするなんて、きたないですよ!」
 
「そうです!こいつのよだれが、あなたの唇にたらーんと、たれるかもしれませんよ!?」
 
アキちゃん、きたないこと、言わないでくれる?
 
「それに、こいつの口臭、くさいかもしれないですよ!?」
 
ソラちゃん、失礼なこと、言わないの。
 
「お前ら、やかましい。」
 
って、ジュンブライト!マジでキスするの!?
やだよ~!見たくない、見たくな~い絶っっっっっ対に、見たくないっ!
うわぁぁぁぁぁ!唇、近づいてきてるよぉ~!
もし、キスしたら、ネルさんは興奮して、起きるはず。
ジュンブライトぉぉぉぉぉぉ!キス、しないでぇ~!
すぽっ。
ん?今、指輪が、はずれたような・・・・・・。
あ!誰かが電磁石をもっている!
そして、その電磁石には、指輪がついてる!
 
「ふぅ、危機一髪って、ことかしら?」
 
「リリアさん!」
 
いいタイミングではずしてくれて、ありがとうございますっ。
 
「あと少しで、危ないところを、見てしまうところだったねぇ。」
 
「テレサさん!」
 
「えぇ。もしキスしたら、あの子が興奮して、大量の鼻血を出して、世界中に広がって、地球が真っ赤になってたわ。」
 
リリアさん、よく平気で、こわーいことが言えますね。
 
「・・・・・・あれ?俺、なにをしてたんだ?」
 
「ジュンブライト!」
 
私はジュンブライトに飛びついた。
 
「真莉亜!どうしたんだよ。」
 
よかった。戻って。
私が、小声でつぶやくと、ジュンブライトは、首をかしげた。
 
「俺、指輪をはめたとたん、急に記憶がぶっ飛んだんだよ。一体、なにがあったんだ?」
 
またぁ?
 
「あぁ。早く教えてくれ。」
 
それは、ナ・イ・ショ。
私が、ジュンブライトに向けて、ウインクをすると、ジュンブライトは、目がハートになった。
 
「かっわいい~♡小悪魔みてぇだなぁ、お前。もう一回、してくれ!」
 
もう、しません。
 
「ん!?」
 
ジュンブライトが、気絶しているネルさんに気づいた。
 
「ネル!大丈夫か?おい、ネル!」
 
ジュンブライトが体をゆすっても、ネルさんはなかなか起きない。
ジュンブライトは、ルクトさんの方を振り向いた。
 
「じいや!いそいでネルを看病してくれ!マドレーヌ!ネルを運んで、ふとんにねかせろ!」
 
「はいっ。」
 
二人は返事をして、ジュンブライトの命令通りにした。
 
 

 
 
寝室で、私達は、気絶しているネルさんの周りをかこんでいた。
ネルさん、大丈夫かなぁ?
 
「大丈夫と思うわ。あの子、泣き虫だけど、本当は、強い子なの。」
 
早く、目覚めて欲しいなぁ。
 
「・・・・・・う~ん。」
 
ネルさんが目覚めた!
 
「ネル!」
 
「ジュンブライト様・・・・・・!」
 
ネルさんの顔が、急にりんごみたいに赤くなった。
 
「あたしは、一体・・・・・・。」
 
「気絶していたのよ。」
 
「よかったなぁ、目覚めて!一時はどうなるかと思ったぜ!」
 
ジュンブライトが、二カッと笑った。
すると、ネルさんが、ジュンブライトの薬指を見て、目をまるくした。
どうしたんですか?
 
「ジュンブライト様、あたしがあげた、指輪は・・・・・・。」
 
「捨てた。」
 
道華がきっぱり言うと、ネルさんは、口をあんぐりと開けた。
 
「ぬわんだとぉ~!?」
 
ネルさん、驚きすぎです。
 
「あの指輪、ジュンブライト様の薬指には、似合わないと思ったから、捨てた。」
 
ネルさんの表情が、急にしゅんとなった。
 
「せっかく、あたしがジュンブライト様のために買ってきた、指輪なのに・・・・・・。」
 
「ジュンブライトのためじゃないでしょ。」
 
ジュンブライトとつきあいたいために、買ってきたんでしょーが。
ネルさんは、肩をぶるぶるふるわせて、唇もぶるぶるふるわせて、顔を上げた。
 
「あたしの・・・・・・あたしのラッキーアイテムを、返せぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
 
ネルさんの声が、夜空まで響いた。
 
「あの指輪って、ラッキーアイテムだったのか?」
 
ジュンブライトが、リリアさんに聞いた。
 
「別の意味での、ラッキーアイテムよ。」
 
リリアさんが、ぽつりと言った。
 
「あ、そ。」
 
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