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第十八話 「ヒアン様がやって来た!」

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私は、紅葉とクリスさんと一緒に、宿題をしていた。
 
「あ―も―!ここ、わかんなーい!」
 
「テレサ、これ、時事問題?」
 
「そうだよ。」
 
もう、出さないでくださいよぉ。
 
「ねぇ、お母さん。」
 
道華が、私の洋服をぐいぐいひっぱって来た。
 
「もう、勉強の邪魔、しないでくれる?」
 
「してないもん!」
 
してるじゃん。
 
「どうしたんだ、道華。」
 
ジュンブライトがやって来ると、道華はジュンブライトにだきついて来た。
 
「おじいちゃんって、どんな人?」
 
「どっちの方のだ。」
 
「お父さんの方。あたし、顔は知っているけど、どんな人か、わからないの。死んだから。」
 
ジュンブライトはしばらく、「う~ん。」と、うなった。
それから、ジュンブライトは、ルクトさんに話しかけた。
 
「じいや。俺の親父がどんな人か、言えるか?」
 
ルクトさんは、にこっと笑った。
 
「もちろん。大王様は、とてもどえらい方で、ヴァンパイア界を治める、すばらしいお方です。」
 
ルクトさんに続いて、マドレーヌちゃんが口を出した。
 
「ヒアンおじ様は、とても優しいんですよ。」
 
マドレーヌちゃんに続いて、リリアさんが口を出した。
 
「ヒアン様は、とてもかっこいいお方よ。」
 
「へぇー。」
 
「ジュンブライト様のお義父様って、とてもすごい人なんですねっ。」
 
アキちゃんが、目を輝かせた。
 
「お義父様言うなっ。」
 
「道華のおじいちゃんって、ものすごくえらい方なんだねっ。」
 
ソラちゃんが、アキちゃんと一緒に、目を輝かせた。
 
「うん!」
 
道華が笑顔でうなずくと、ジュンブライトは、ふっと、鼻で笑った。
 
「なにが、とてもすごい人だ。親父はな、とても頑固で、怒りん坊で、げんこつするのが得意なんだぜ。俺だって、240回、げんこつされたんだぜ。そのくらい、とてもこわーい人なんだ、ニヒニヒニヒニヒ。」
 
うんうん・・・・・・って、ジュンブライト!なんて失礼なこと、言ってんの!
もしここに、ヒアン様がいたら、カンカンに怒るよ!
 
「ジュンブライト!貴様、よくも父親に向かって、そんな悪口が言えたな!」
 
って、怒るかもしれないよっ。
・・・・・・ん?今、私のとなりで男の人の声が聞こえたような・・・・・・気のせいかな?
 
「ま・・・・・・真莉亜・・・・・・となりに、ヒアン様がいる!」
 
紅葉、うそつかないでよぉ。ヒアン様が、ここに来るわけ・・・・・・。
 
「ゆるさん!」
 
・・・・・・。
 
「えぇ~!?」
 
私達は、大きな声を出して、驚いた。
 
「だ、だ、だ、だ、大王様!なぜここに!?」
 
「あとで説明する。」
 
ヒアン様は、こぶしをかまえながら、ジュンブライトに近づいた。
 
「ジュンブライト!後ろ!」
 
「ん?」
 
ジュンブライトが、後ろを振り返ると、ヒアン様が、こぶしをかまえながら、立っていた。
その瞬間、ジュンブライトの顔が、真っ青になった。
 
「げっ・・・・・・。」
 
「こんのぉ~!父親をばかにしおってぇ~!」
 
ボカーン!
 
「ゔぅ、げんこつされたの、これで241回目・・・・・・。」
 
ジュンブライトは泣きながら、でっかいたんこぶをおさえた。
 
「お久しぶりです、ヒアン様っ。」
 
「おぉ、真莉亜さん。元気にしていましたか?」
 
はいっ。
 
「それはよかった。」
 
「お義父様~♡お久しぶりでぇ~す♡」
 
クリスさんが、目をハートにして、ヒアン様に近づいて来た。
 
「私はいつ、君のお義父さんになったんだね。」
 
「ヒアンおじ様っ。お父様はお元気ですか?」
 
マドレーヌちゃんが、笑顔でヒアン様に聞いて来た。
 
「あぁ。お前がまたいなくなって、相当、悲しんでたぞ。」
 
リアン様は、親バカだったね。
 
「なぁ、親父。なんでここに来たんだよぉ。」
 
「お前の様子を見に来たんだ。真莉亜さんとどんな生活を送っているのか、気になってな。」
 
「ということは、満月荘に泊まるのかい?」
 
ヒアン様が笑顔でうなずいた。
 
「あぁ。明日、ヴァンパイア界に帰る。」
 
「やったぁ~♪」
 
道華がうれしそうに跳びはねると、ヒアン様があやしい目で、道華を見つめた。
 
「誰だ、この子は。」
 
ヒアン様が、道華の方を指さした。
 
「死んだおじいちゃんと明日まで一緒にすごせるなんて、うれしい!」
 
道華がうれしそうに、ヒアン様にだきついて来た。
あ・・・・・・あぁ・・・・・・。
 
「ジュンブライト!」
 
ヒアン様が怒った。
 
「なんだよ!」
 
ジュンブライトが、怒りながらヒアン様の方を振り向いた。
 
「貴様、真莉亜さんをおそって、子供をつくらせたな!」
 
ヒアン様、そ、それには深ーい理由が・・・・・・。
 
「ちげーよ。誰が真莉亜をおそって、子供をつくらせるか、ぶあーか。」
 
「言いわけはゆるさん!別れてもらうぞ!」
 
「大王様!話を聞いてくださいっ。」
 
「ふん、聞くもんか。さ、ヴァンパイア界に帰るぞ。」
 
ヒアン様は、ジュンブライトのうでを強くひっぱって、鏡の方へ向かった。
 
「ちょっ・・・・・・離せよぉ!」
 
ど、どうしよう・・・・・・。
このままじゃ、ジュンブライトが帰っちゃう・・・・・・。
 
「まってください、ヒアン様!」
 
私が止めると、ヒアン様が立ち止まり、私の方を振り返った。
 
「真莉亜・・・・・。」
 
「これには、とっても深ーい話があるんですっ。お願いです!私の話を聞いてください!」
 
ヒアン様は、真っ赤にして、ジュンブライトのうでを離した。
 
「・・・・・・・わかった。聞いてやろう。」
 
「今、真莉亜のこと、かわいいと思ったな。」
 
 

 
 
私は、道華のことを全部話した。
 
「ジュンブライトと真莉亜さんの未来の子供で、ヴァンパイアと人間のハーフかぁ。」
 
ヒアン様、わかってくれたみたい。
 
「未来でルクトと私は死んでるなんて、ショックだなぁ。」
 
ヒアン様が、冷たい麦茶をごくごくと飲み始めた。
 
「で、この双子の姉妹は?」
 
ヒアン様が、アキちゃんとソラちゃんを見つめた。
 
「あたしの双子の妹の・・・・・・。」
 
「アキで~す。」
 
「ソラで~す。」
 
ヒアン様は、首をひねった。
 
「うーむ、見分けがわからんなぁ。」
 
ピンク色の髪の毛がアキちゃんで、水色の髪の毛がソラちゃんです。
 
「説明ありがとう。」
 
「ただいまぁ~。」
 
ギロさんが帰って来た!
 
「お帰り、ギロ。」
 
「ただいま、リッちゃん。あ、これ。」
 
ギロさんが、弁当袋に包まれた弁当箱を、リリアさんに渡した。
 
「オムライス弁当、おいしかったよ。明日、つくってよ。」
 
「あなた、卵料理ばっかり食べると、体が悪くなるわよ。」
 
「それはわかってる。だって俺、医者だから。ん?」
 
ギロさんは、ゆっくりしているヒアン様に気づいた。
 
「リッちゃん。」
 
「なに?ギロ。」
 
ギロさんは、ヒアン様の方を指さした。
 
「このおじさん、誰?」
 
「・・・・・・!?」
 
ギロさん!失礼ですよ!
 
「こんのぉ~!私に向かって、おじさんって言ったなぁ!」
 
「ひぃぃぃぃぃ!」
 
ギロさんはぶるぶるおびえ始めた。
 
「ギロ!このお方は、ヴァンパイア界の大王、ヒアン様で・・・・・・。」
 
「ジュンブライトの親父さんだよっ。」
 
「え?え?」
 
ギロさんは、ヒアン様の顔を、見たり見なかったりした。
 
「えぇ~!?せ、せ、せ、先輩の、親父さ~ん!?」
 
「驚きすぎだろ。」
 
「こ、こ、こ、これは、失礼しましたぁ~!」
 
ギロさんが、ヒアン様に土下座で謝った、その時。
ゴン!
おでこを強く打っちゃった。
 
「・・・・・・痛いよぉ。」
 
ギロさんは、泣きながら、おでこを両手でおおった。
 
「君は天然だな。」
 
「こちらは、私の幼なじみで、私の恋人の、ギロです。」
 
リリアさんが、ギロさんを紹介した。
 
「初めまして!俺はギロといいます!先輩とリッちゃんには、いつもお世話になっていますっ!」
 
ゴン!
あらら。また打っちゃった。
 
「お前、土下座するの、禁止だな。」
 
「先輩?」
 
「ギロは、俺の暴力団時代の後輩なんだ・・・・・・。」
 
タッタッタッタッタッ!
玄関の方から、足音が聞こえた。
 
「誰だい。勝手に人の部屋に入るやつは。」
 
「あたしだよ。」
 
ネルさん!
 
「ネル?あの、桜吹雪のネルか?」
 
ネルさんは、驚いているヒアン様を、じーと見つめた。
 
「誰だ。この男は。」
 
「ジュンブライトのお父さんよ。」
 
「!?」
 
ネルさんは、ヒアン様を見て、驚いた。
 
「こ、この人が、ジュンブライト様のお義父様!」
 
「『お』と『父』の真ん中に、『義』という字が出てきたような・・・・・・。」
 
「ヒアン様。」
 
「おぉ、久瀬紅葉。元気にしとったか?」
 
「はいっ。」
 
紅葉が笑顔で返事をした。
ヒアン様は、ジュンブライトの方を振り向いた。
 
「ジュンブライト。」
 
「なんだ。」
 
「疑って、悪かったな。」
 
「謝るのがおそいんだよっ。」
 
ジュンブライト、ゆるしてやってよ。
 
「・・・・・・わかった。」
 
「大王様。道華様と一緒に、お出かけするのは、いかがでしょう。」
 
ルクトさん、ナイスアイデア!
 
「あたし、おじいちゃんと一緒に、どっか行きたーい!」
 
道華がヒアン様にだきついた。
 
「わかった。じゃあ、行くか。」
 
「うん!」
 
二人が部屋を出て行こうとした、その時。
 
「大王様!」
 
ルクトさんが、出て行こうとするヒアン様をとめた。
 
「なんだ。」
 
「これを着てください。」
 
ルクトさんは、ヒアン様に黒いスーツを差し出した。
 
「なんでこれを着らなきゃならないのだ。」
 
「そのかっこうだと、周囲から変な目で見られると思うので。」
 
ヒアン様は、顔をムスッとした。
 
「やだ!誰がこんなもの、着るか!さっさとかたづけろ!」
 
 
「お願いです!どうか、着てください!」
 
「ふん!やだねーだ!」
 
あんたといい、ヒアン様といい、道華といい、性格、ほんっとにそっくり。
 
「親父は頑固なだけだ。」
 
「王女様、大王様の王冠を取ってください。」
 
「は~い。」
 
マドレーヌちゃんは、ヒアン様の王冠を取った。
 
「あ、こら!マドレーヌ!王冠を取ったらいかん!それは、先祖代々伝わる、大切な王冠なんだぞ!」
 
「知ってます。」
 
「服、脱ぎましょうねぇ。」
 
リリアさんが、ヒアン様の服を脱ぎ捨てた。
 
「リリア!人の服を勝手に脱ぐなっ!」
 
「落ち着いて。」
 
黒いスーツを着せられたヒアン様は、道華と手をつないだ。
 
「おじいちゃん、かっこいい~。」
 
道華にほめられると、ヒアン様は、顔を真っ赤にした。
 
「そ、そうか・・・・・・。じゃあ、行くぞ。」
 
「うん!」
 
二人は仲良く手をつないで、外に出た。
気を付けてね~。
 
 

 
 
「ただいまぁ。」
 
道華が、ほっぺたをふくらませながら、リビングにやって来た。
道華、どうしたの?
道華は、怒りながら、ジュンブライトにだきついて来た。
 
「お父さん、聞いてよ。おじいちゃんね、いじわるなの。あたしがね、コーラー飲みたーいって言ったら、体に悪いからだめって言うし、デパートでキティちゃんのぬいぐるみがあって、欲しいって言ったら、だめって言うし、菜の花広場でおじいちゃんの絵を描いたら、私はこんな顔をしていないって、あたしがせっかく描いた絵を消したの。」
 
「な―にぃ!?」
 
ジュンブライトは、着がえているヒアン様の方を振り向いた。
 
「おい、親父!俺のかわいいかわいい娘を、よくも泣かせてくれたなぁ!」
 
「泣かしてない。しつけただけだ。」
 
ヒアン様は、なにもなかったかのように、道華に近づいた。
 
「道華、今日は楽しかったか?」
 
「全然っ!」
 
道華は、ジュンブライトの後ろに隠れた。
ヒアン様、ちょっと、厳しすぎではありませんか?
 
「そうよ。もうちょっと、子供に優しくしないと・・・・・・。」
 
私と紅葉がそう言うと、ヒアン様は、私と紅葉の方を振り返った。
 
「真莉亜さん。子供を厳しくしつけるのが、親の仕事なんですよ。」
 
そ、それは、わかってますけど・・・・・・子供に優しくしないと、子供は成長しませんよ。
 
「それはわかっておる。マドレーヌ、一緒にお風呂に入ろうか。」
 
「はい!」
 
ヒアン様は、マドレーヌちゃんを連れて、お風呂場に向かった。
 
「なんなの!?さっきの態度!全然お義父様らしくないわ!」
 
クリスさんが、ぷんぷん怒ってる。
 
「クリス、俺の親父は、お前のお義父さんじゃねぇ。」
 
 
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