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第四十九話 「ウルフ一郎さんとウル子ちゃん」

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ザ―、ザ―。
 
「はぁ、はぁ、はぁ。」
 
「ふぅ。まさかこんなに雨が降るとは、思わなかったぜ。」
 
「しばらくここで、雨宿りしよう。」
 
「うわ!服がびしょぬれだぁ。」
 
「満月荘に戻ったら、風呂に入ろう。」
 
「クゥ~、クゥ~。」
 
「ん?誰かいるのか?」
 
「クゥ~、クゥ~。」
 
「あそこからか。声が聞こえるのは。」
 
「クゥ~、クゥ~。」
 
「ん?あれは・・・・・・。」
 
「クゥ~、クゥ~。」
 
「オオカミだ!しかもまだ子供の!」
 
「クゥ~、クゥ~。」
 
「すっごく、おびえてる・・・・・・。」
 
「おいで。こわくないよ。」
 
「クゥ?」
 
「なにもしないから、おいで。」
 
「クゥ―!」
 
「アハハハハ。かわいいなぁ、お前。一緒に帰るか?」
 
「クゥ!」
 
「えへへへへ。」
 
 

 
ザ―、ザ―。
今日は雨で、ピクニックは中止です。
 
「あーあ。」
 
「せっかく、てるてるぼうず、つくったのに。」
 
「お母さんのお弁当、食べたかったなぁ。」
 
「なんかたいくつ~。」
 
子供達が窓の外を眺めている。
 
「仕方がないでしょ?」
 
「また今度、行こう。」
 
「今度はいつなの!?来年!?来年の来年!?来年の来年の来年の来年!?」
 
も―、あんたったらバカなことを言うねぇ。
 
「ただいまぁ。」
 
「ウルフ一郎様!あぁ、こんなにびしょぬれになって!」
 
「あとで風呂に入る。」
 
「クゥ~、クゥ~。」
 
ん?今、誰かなんか言った?
 
「さぁ。」
 
「きっと、空耳じゃない?」
 
「クゥ~、クゥ~。」
 
また聞こえる。
 
「クゥ!」
 
うわ!なんか出てきた!
って、あれ?オオカミの子供じゃん!
ウルフ一郎さん、なんでこの子を!?
 
「あぁ。どうやら、迷子らしい。」
 
「ぷっ。」
 
「なんだよ。」
 
「だって、オオカミがオオカミの子供を拾うなんて!」
 
「てめぇら、俺様をバカにすんなっ!」
 
「クゥ~。」
 
どうやらそのオオカミの子、ウルフ一郎さんになついてるみたいですねっ。
 
「そ、そうかなぁ?」
 
「クゥ~。」
 
「うふふふふ。」
 
「かわいい♡」
 
すると、子供のオオカミが、ウルフ一郎さんのほっぺをぺろっとなめ始めた。
 
「こ、こら。くすぐったいじゃないかぁ。」
 
「ウルフ一郎様、そのオオカミの子供と一緒に、お風呂に入ってくれます?その子、すごいびしょぬれですよ。」
 
本当だ。体をぶるぶる振っている。
 
「わかったよ。さ、俺様と一緒に入るぞぉ!ここのお風呂はものすごく、気持ちいいからなっ。」
 
「クゥ!」
 
二人は仲良く、お風呂場に入って行っちゃった。
あの二人、気が合いそう。
そして30分後。
 
「ふぅ、気持ちよかったぁ。」
 
「クゥ!」
 
よかったね、ウルフ一郎さんと一緒にお風呂に入って。
 
「クゥ~!」
 
うふふふふ。
 
「クゥ~!」
 
子供のオオカミが、体をぶるぶる振った。
 
「こらこら。やめろ。ひっかかるじゃないかぁ。」
 
「クゥ~。」
 
「さぁ、髪をかわかしてやるぞぉ。」
 
ウルフ一郎さんが、子供のオオカミの髪をかわかそうとした、その時!
ボン!
うわ!白いけむりが出た!
 
「・・・・・・ん!?」
 
「だ、誰なの?あの子!」
 
「見知らぬ子だねぇ。」
 
「見て!あの子の頭の上に、黒い耳がある!」
 
本当だ!なんで!?
私達の目の前に、女の子が立っていた。
頭の上には黒いオオカミの耳があって、おしりには黒いしっぽが生えていて、黒い髪のショートヘアーで、白いワンピースを着ていて、オオカミのような、黒い鼻で、4歳くらいの女の子。
 
「お、お前は誰だ!」
 
「私はおじさんに助けられた、オオカミだよ。」
 
「え~!?」
 
私達は、大きな声で驚いた。
あ、あなたが、ウルフ一郎さんが助けた、子供のオオカミ!?
 
「うん。そうだよ。」
 
女の子は、笑顔でうなずいた。
 
「私、人間に化けることができるんだぁ♪」
 
「へぇ―。」
 
「かっわいい♡」
 
「えへへへへ。」
 
「ところで、両親は?二人とも、心配してるんじゃないの?」
 
リリアさんが聞くと、女の子は顔をしゅんとして、下を向いて、首を左右に振った。
 
「お母さんと、はぐれちゃったの。」
 
「えっ!?」
 
なんでなんで!?
 
「・・・・・・森の道を歩いている途中、狩人に会ったの。私とお母さんは必死に逃げたんだ。けど、お母さんが途中で、いなくなったの。」
 
「理由は?」
 
「知らな―い。」
 
ウルフ一郎さんが言った通り、迷子だったんだね。
 
「で、お父さんは?」
 
私が聞くと、女の子はさっきよりものすごく、顔をしゅんっとさせた。
 
「・・・・・・死んだ。」
 
えっ!?
 
「私が生まれてすぐ、狩人に撃たれて死んだ。」
 
ご、ごめんね。聞いてはいけないことを、聞いてしまって。
 
「ううん、いいの。もう、なれてるから。」
 
ふぅ。よかったぁ。笑顔に戻って。
 
「真莉亜ちゃんが悪いわけじゃないよぉ~。悪いのはそう、お前の家族を引き離した狩人達だ!」
 
「えっ?」
 
「こいつ、かっこづけてる。」
 
「そう思うだろ?狩人は、森の動物達を襲う、ひきょうな者だぁ!時には、殺した動物達の毛皮を売って、金儲けするやつらもいるんだぜ!?俺様、さっき思い出した・・・・・・。故郷、おとぎの国で、赤ずきんをいじめて、弟達と一緒に、赤ずきんの狩人にバンバン銃を撃たれて、それをよけながら、逃げたことを。」
 
「過去を振り返って、どーする。」
 
「ぷっ。」
 
女の子が、ほっぺたをふくらまして・・・・・・。
 
「ぷはははは~!」
 
と、笑い出した。
 
「おじさん、おもしろ~い!」
 
「そ、そうか?そんなにおもしろいのか?俺様の話。」
 
「うん!」
 
女の子が笑顔でうなずくと、女の子はウルフ一郎さんの方へ向かって走り出し、ウルフ一郎さんにだきついた。
 
「お父さん!」
 
「お父さん!?」
 
「今日からおじさんのこと、お父さんって呼んでいい?」
 
「え・・・・・・。」
 
「だってお父さん、オオカミだし。」
 
あぁ、確かに。
 
「貴様ぁ!俺様をバカにすんなぁ!」
 
ひぃぃぃぃぃ!ウルフ一郎さん、女の子を泣かせたらだめぇ!
 
「ゔ・・・・・・。」
 
あらら。女の子は泣きそうになってるよぉ。
 
「あ、ごめんごめん。泣かすわけじゃなかったんだ。」
 
「じゃあ、お父さんって、呼んでもいいの?」
 
「そ、それはぁ・・・・・・。」
 
いいじゃないですか、ウルフ一郎さん。
 
「真莉亜ちゃん・・・・・・。」
 
「その子のお母さんが迎えに来るまで、その子のお父さんになっていいじゃないですか、ウルフ一郎さん。その子もきっと、喜ぶはずですし。」
 
「で、でも・・・・・・。」
 
「真莉亜様の言う通りですよ、ウルフ一郎様。」
 
「そうだぜ!やってみなきゃ、わかんないぜ!」
 
「なってあげなよ、お父さんに!」
 
みんなが続々言うと、ウルフ一郎さんは、「はぁ。」とため息をついた。
 
「仕方ねぇ。お父さんになればいいんだろ?お父さんに。」
 
「やったぁ~!」
 
女の子は大はしゃぎで、ウルフ一郎さんにだきついた。
よかったね。
 
「うん!」
 
女の子はうれしそう。
 
「ところでお前、名前はなんていうんだ?」
 
「あ・・・・・・。」
 
女の子はしばらくして、だまりこんだ。
もしかして、ないの!?
 
「・・・・・・うん。」
 
女の子は、小さくうなずいた。
 
「じゃあ、俺様が名付けよう。名前はぁ、そうだな。オオカミの子だから・・・・・・ウル子だ!ウル子!今日からお前は、ウル子だぞ!」
 
ウル子・・・・・・いい名前ですねっ。
 
「い―やぁ、君にほめられると、照れちゃうよぉ~♡」
 
一生、この人をほめないようにしよう。
 
「ウル子・・・・・・いい!ウル子、気に入った!」
 
「アハハハハ!そうかぁ。」
 
「ウル子、お父さん、大好き!」
 
「えへへ―ん。どうだ、ヴァンパイア界の王子!お前の子より、俺様の子がかわいいもんね―!」
 
「ウル子はお前の本当の子供じゃないだろ。」
 
うふふふふ。二人とも、まるで本当の親子みた―い。
 
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