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第五十三話 「ウルフ一郎さんの里帰り」

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はぁ~。ジェラード、おいしかったなぁ~。
ぶどう味のジェラード、また食べた~い。
 
「はいっ、真莉亜ちゃん、これ!」
 
ウルフ一郎さんが私の前に出したのは、なんと、ジェラード食べ放題のチケット6枚!
 
「いいんですか、これ!」
 
「いいよ~♡君が食べたいと言うなら、いつでもあげるよ~ん♡」
 
何枚持ってるの、それ。
 
「へ―。食べ放題かぁ。」
 
「また食べたいですねっ。」
 
ジュンブライトとギロさんが、食べ放題のチケットをぱっと取った。
 
「て、てめぇら!」
 
「お母さん、あたしにもちょうだい!」
 
「あぁ!だめだよ!」
 
「この、クソガキィ~!」
 
「私も一枚、もらおうかしら。」
 
「あぁ!俺様があげた、チケットが・・・・・・。」
 
「チケットも―らいっ。」
 
クリスさんが、チケットをぱっと取った。
あーあ。チケット、たったの一枚だけになっちゃった・・・・・・。
 
「大丈夫だよ~ん♡まだまだあるから、好きなだけ、取っていいよ~ん♡」
 
ごめんなさい。一枚で充分なので。
 
「ガーン。」
 
ウルフ一郎さんは、腰をぬかして、地面に両手を置いて、がくっと落ちこんだ。
 
「さぁ、早く行こうぜ。モタモタしてると、日が暮れっちまう。」
 
「ウルフ一郎、案内してよ。」
 
すると、ウルフ一郎さんが、スッと立ち上がった。
 
「あぁ!案内するぜ!」
 
ウルフ一郎さんは、ニッと笑った。
私達は、ウルフ一郎さんの実家に向かった。
 
「ねぇ、まだぁ?」
 
「まだだ。」
 
「まだ着かないのぉ~?」
 
「まだって言ってんだろ―が。」
 
「きっつ~い。じいや、茶。」
 
「すみません。もう、これだけしかありません。」
 
「ぬわんだとぉ~!?茶、茶、茶!今すぐ出せ!」
 
ジュンブライト、わがまま言わないの。
 
「しりとり!り!」
 
「リリア。」
 
「なんで最初に私が?」
 
「つーいーたかっ!」
 
「まだっつってんだろ!」
 
「よし、着いたことにしよう!」
 
「だめ!」
 
「よし、着いたことにしよう!」
 
「だめ!」
 
「よし、もう少しで着くぞぉ。」
 
はぁ、はぁ。ようやく、着くんですね。
 
「お前んち、けっこう遠いんだな。」
 
「あったりめぇだぁ!こっから30分かかる。」
 
「本当ですねぇ。30分、かかってます。」
 
ルクトさんが、腕時計を見た。
そして、ウルフ一郎さんが立ち止まった。
 
「ここが、俺様の実家だ。お前ら、「じぇ!」とか、言うなよ。」
 
「わかった。「じぇ!」っとは言わねぇ・・・・・・え?」
 
どうしたの?急にかたまって。
 
「あ、あれを見ろ!」
 
ん?
私達が、ジュンブライトが指をさした方を見ると・・・・・・。
 
「じぇ!じぇ!じぇ!じぇ!じぇ!?」
 
「なんですか、こりゃあ―!」
 
和風のお屋敷で、お庭は広くて、大きな池があって、その池の中には、鯉が6匹いて、盆栽があって、大きな木があって、そして、蹲がある、とても大きな家!
 
「あはっ、まちがったかなぁ~?アハハハハハ。」
 
「ちょっとまったぁ!」
 
ウルフ一郎さんが、帰ろうとしているジュンブライトを引き止めた。
 
「な、なんだよぉ。」
 
「ここが、俺様の家だぁ!」
 
「そ、想像したより、ちがうし。」
 
「どんな想像、したんだよ。」
 
「オンボロ。」
 
「ビンボー。」
 
「ってめぇらぁ!」
 
ウルフ一郎さんは、二人のコメカミを、ぐりぐりし始めた。
 
「俺様の家に謝れ!」
 
「はい、すみません。」
 
ウルフ一郎さん、そのくらいでいいじゃないですか?
二人とも、とても謝ってるし。
 
「そうだねぇ~♡よ―し、ゆるしてやろ~う♡」
 
ゆるすの早っ。
 
「ところで、大きな家ねぇ。東京ドームの4個分もあるわ~。」
 
「アハハハハ。俺様が10歳の時、ビフォーアフターしたんだよ。ま、10万円かかったけど。」
 
10万も!?
 
「しかもビフォーアフター、しただとよ!」
 
「すごいですぅ~!」
 
あの二人、それくらいで目をキラキラさせちゃって。
 
「ビフォーアフター!ビフォーアフター!ビフォーアフター!ビフォーアフター!」
 
あらら。肩まで組んだよぉ。
そこまで喜ぶ必要、あるのか?
 
「うちには家政婦が7人いる。」
 
「か、家政婦さんもいるんですか!?」
 
「あぁ。掃除とか、皿洗いとか、なんでもしてくれている。料理は、俺様がしていたんだ。」
 
へぇー。
 
「な、なんという、俺んちに負けない、大金持ちなんだ。」
 
「王子の家では、メイドが76人いますからねぇ。」
 
多っ!
 
「さぁ、中に入ろう。」
 
私達は、ドアのところまで行った。
ピンポーン。
 
「母ちゃ―ん、俺様、帰って来たぞぉ~。」
 
ガラッ。
引き戸を勢い良く開けたのは、ウルフ次郎さんと、ウルフ三郎さんだった。
 
「兄貴!」
 
「よぉ、元気にしてたか?」
 
「はいっ!」
 
3兄弟、感動の再会です。
 
「お―い、母ちゃ―ん!ウルフ一郎兄貴が、帰って来たよぉ。」
 
黒い人影が、だんだん、こっちへ向かって来るのが見えた。
黒いオオカミさんで、おだんごヘアで、菊の着物を着ていて、真っ赤な口紅をたっぷりつけていて、ウルフ一郎さんと同じ、夜行性の目で、ちょっとこわそうな感じで、しわが生えていて、ちょっと失礼だけど、体格が太めの女の人。
この人が、ウルフ一郎さんのお母さん!?
 
「ん?なんだい。あんただけかと思ったよ。」
 
「あっ、こいつらはな、人間界に一緒に住んでいるやつらだよ!」
 
ど、どうもぉ~。春間真莉亜でーす。
 
「ん?」
 
ひぃぃぃぃぃぃ!に、にらまれたよぉ~!
 
「真莉亜ちゃん、大丈夫だよ。俺様の母ちゃん、見た目はこわいけど、中身は優しいんだよ。」
 
「見た目はこわい?」
 
ひぃぃぃぃぃ!やっぱり無理ですぅ~!
私はジュンブライトの背後に隠れた。
 
「ったく、お前、人は見た目で決めるもんじゃねぇ―って、母ちゃんから言われたろ?」
 
「こいつはジュンブライト。ヴァンパイア界の王子さ。ま、自分勝手でわがままで、超~ウゼーけどな、ガハハハハハハ!」
 
ボカッ!
 
「失礼だな、クソヤロー!」
 
「す、すみませ~ん。」
 
ウルフ一郎さんの頭の上には、大きなたんこぶがついている。
 
「で、こいつはバカ王子のしつじ、ルクト。こいつのつくる紅茶、すっごくおいしいんだぞぉ~。」
 
「どうも、初めまして。ルクトです。」
 
ルクトさんは、ウルフ一郎さんのお母さんの方に向かって、お辞儀をした。
 
「あら。よろしくね。あたしはウル代だよ。」
 
「で、こいつはマドレーヌ。ヴァンパイア界の王女で、バカ王子のいとこ。超能力ヴァンパイアなんだ。」
 
「よろしくお願いしまーす!マドレーヌですぅ~!」
 
「あら、かわいいねぇ。あめちゃんあげよう!」
 
ウル代さんは、マドレーヌちゃんにあめをあげた。
 
「アハッ、ありがとうございますぅ!」
 
マドレーヌちゃんは笑顔でお礼を言って、あめを取った。
 
「へぇ―。おめぇの母ちゃん、優しいんだなぁ。」
 
「あぁ。俺様の母ちゃんは、子供を見ると、あめをやるんだよ。」
 
「うわ、めんどくさっ。」
 
「さぁ、あんた達も、どうだい?」
 
「うわーい!ちょうだいちょうだい!」
 
子供達は、ウルフ一郎さんのところに走って行った。
 
「あめちゃん、何個持ってんだよ。」
 
「続いてはリリア。マドレーヌのしつじなんだ。」
 
「よろしく。」
 
「こいつはヴァンパイアキャットなんだ。」
 
「ヴァ、ヴァンパイアキャット!?」
 
お母さんも、猫が苦手なんですね。
 
「親子だもの。」
 
「次は久瀬紅葉。」
 
「よろしく。紅葉よ。」
 
「続いて、クリス。」
 
「ヤッホー!よろしく~!」
 
「こいつは猫娘なんだ。」
 
「ね、猫~!?」
 
あぁ。またウル代さん、おびえちゃって。
 
「続いて、アキとソラ。」
 
「ど―もぉ、アキで~す。」
 
「こ、こ、こ、こ、こ・・・・・・。」
 
ソラちゃん、がんばれ~!
 
「やっぱ無理~!」
 
あらら。ソラちゃんはウルフ一郎さんの背後に隠れちゃった。
 
「あ、こいつはソラだ。」
 
「へぇ―。かわいいねぇ~。どら、あめちゃんやろうか。」
 
「こいつら、もうあめちゃん、持ってるよ。」
 
「ところで、どっちが姉ちゃんで、どっちが妹なんだい?」
 
「ピンク色の髪の色がアキで、水色の方がソラ。」
 
「へぇ―。」
 
「で、こいつらはクリスの双子の妹で、猫娘なんだ。」
 
「ま、また猫かいっ!」
 
「続いて、ギロ。」
 
「よろしくお願いしますっ!ギロッス!」
 
ギロさん、ウルフ次郎さんと握手してる―っ!
 
「てめぇ!俺様は母ちゃんじゃねぇ―!」
 
「え・・・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁ!すみませんでした―っ!」
 
ギロさんは、あわててウルフ次郎さんの方に向かって、お辞儀をした。
 
「ギロはこー見えて、天然だけど、実は医者なんだ。で、ヴァンパイアキャット。」
 
「あんたの周り、猫が多いねぇ!」
 
「続いて、テレサ。」
 
「よろしく。」
 
「テレサは俺様達のお姉ちゃん的存在なんだ。」
 
「おねっ・・・・・・お姉ちゃん的存在だなんて、そんなの、ほめすぎるよぉ~。」
 
テレサさん、照れちゃって。
 
「続いて、道華。」
 
「よろしくー。」
 
「道華は真莉亜ちゃんと天パヤローの未来の子供なんだ。」
 
「えぇ!?未来の子供!?あんたの周りには、すごいやつがいっぱいいるねぇ~。」
 
「最後はネル。」
 
「よろしく。」
 
「ネル!?あの、桜吹雪の・・・・・・。」
 
「ネル様ぁ!?」
 
えっ!?
 
「ネル様ぁ!?」
 
「ああん?」
 
ウルフ三郎さんは、ネルさんの方に向かって走り、ネルさんの両手をぎゅっとにぎった。
えっ?えっ?どうなってんの、これ。
そして、ウルフ三郎さんは、真剣な顔で、ネルさんの顔を見た。
 
「俺様、あんたのファンなんですっ!」
 
「えぇ~!?」
 
「はぁ!?」
 
「おい!ウルフ三郎!そんなの、初耳だぞ!」
 
「すみませんっ、ウルフ一郎兄貴!ず―っと、秘密にしていたんです・・・・・・。俺様、あんたのファンクラブに入っていて、熱狂的なファンなんですっ!ポスターに、フィギィア、あんたのボイス付き目覚まし時計を持っていますっ!さらに、クッションまで持っていて、あんたのグッズをぜ~んぶ、部屋にかざっていますっ!」
 
「あ―!だから、お前の部屋に入ったらだめって、言ってたんだな。」
 
さすがはウルフ三郎さん、どこまでネルさんのことが好きなのやら。
すると、リリアさんが、ネルさんの肩をポンっとたたいた。
 
「よかったわね。熱狂的なファンがいて。」
 
「よ、よくない!」
 
ネルさんは、顔を真っ赤にした。
 
「照れてるネル様も、ステキだぁ~♡」
 
「き、気持ち悪い・・・・・・。」
 
「さ、早く家の中へお入り。ず~っと外にいると、かぜひくよ。」
 
ウル代さん、やっぱ優し~い。
 

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