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第五十七話 「待って!道華を連れて行かないで!」

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「こら~!まて~!」
 
「お、追いかけてこないでよ~!」
 
私と道華は、おいかけっこをしていた。
なんで追いかけっこをしているのかって?原因は道華!
私のナポリタンを、ぜ~んぶぺろりと食べたんだよ!
超~むかつくぅ~!
 
「おしりペンペン、いやだよぉ~。」
 
「あんたが勝手に、私のナポリタンを食べたからでしょ!」
 
「いやだぁ~!」
 
「まてぇ~!」
 
「おい、なんでこんな騒ぎになってんだ。」
 
「道華ちゃんが真莉亜ちゃんのナポリタンを、勝手に食べたから、あんな風になったんだよ。」
 
「ふーん。全ては道華が悪い!」
 
「こら!あんた達!ほどほどにしなっ!」
 
まて~!
 
「うわぁ~!」
 
「って、聞いてんのかいっ!」
 
「うわぁ!」
 
道華がコケた!
私は道華をつかまえた。
 
「もう、逃げ場はないからねぇ。」
 
「ひぃ!」
 
私は道華におしりペンペンをし始めた。
 
「う、うわ~ん!ごめんなさい、お母さ~ん~!」
 
謝ってもムダですっ!
 
「お母さんのいじわる!」
 
いじわるで悪かったね、いじわるで!
 
「おい、どうしたんだ?」
 
「ジュンブライト!」
 
「お父さん!」
 
道華は立ち上がって、走って、ジュンブライトにだきついて来た。
 
「どうしたんだ?道華。」
 
「あのね、お母さんがおしりペンペンするの~。」
 
「道華が私のナポリタンを、勝手に食べたの!」
 
「ふーん。なるほどぉ。」
 
それからジュンブライトは、立ち上がって、道華をだっこした。
 
「痛かったなぁ。真莉亜、食いもんくらいで、子供のケツをたたくなよぉ。」
 
でも、でも!
 
「いいか?道華。人の食いもんを、勝手に食べるなよ。わかったか?」
 
「うん!わかった!」
 
道華が笑顔になると、ジュンブライトは道華を下した。
ちょっとジュンブライト、道華にあますぎるんじゃない?
 
「別にい―じゃねぇか。子供には優しく、だろ?」
 
と、ジュンブライトは私に向かって、ウインクをした。
も、もう、知らないからね!
 
「お母さんなんか、大っ嫌い!」
 
そ、そんなぁ~。
 
「真莉亜、母親ってそういうものよ。」
 
リリアさんが私の肩をポンっとたたいた。
 
「ん!?」
 
どうしたんですか、リリアさん。顔色、悪いですよ?
 
「いや、なんでもない。ただ、ちょっと、嫌な感じがするの。」
 
嫌な感じ・・・・・・ですか?
 
「えぇ。」
 
リリアさんが、うなずいた。
 
「なんか、道華の身に起きることよ。」
 
リリアさん、深く考えすぎじゃないですか?
 
「そうですよ。」
 
「紅茶でも飲んで、スッキリしましょう。」
 
「え・・・・・・えぇ、そうしとくわ。」
 
リリアさんは、ルクトさんのところへ行った。
道華の身に起きることって言っても、なにもないしぃ。
ていうか、今日のリリアさん、おかしすぎじゃない?
 
「もし、道華の身になにかあったら、俺が道華を守るぜ!」
 
「キャハハハハ~。お父さん、かっこいい~♡」
 
「いやぁ、それほどでもぉ~。」
 
・・・・・・。
ピカ―ッ!
えっ!?鏡が光り出した!?
ま、まぶしい・・・・・・。
 
「もしかして、アンクさん!?」
 
「バカ!アンクさんが来るわけなかろう!てかアンクさん、今日来るって言ってなかったし・・・・・・。」
 
「じゃあ、リナンさん!?」
 
「ちがうよ!」
 
「ソアン!?」
 
「それもちがう!」
 
「ジャン様ですか!?」
 
「それもちがう!」
 
「アクアお姉様!?」
 
「それもちがう!」
 
「アルマか!?」
 
「それもちがう!」
 
「みんな、落ち着いて!私達が知っているヴァンパイアより、オーラがちがうわ!」
 
えぇっ!?
 
「それ、ど―ゆ―ことだ!」
・ ・ ・ ・ ・ ・
「・・・・・・どうやら、未来から来た人みたい。」
 
未来から来た人!?
 
「道華!なにか知ってる!?」
 
道華の方を振り返ると、道華は「ううん。」と首を振った。
 
「知らない!」
 
そのとたん、鏡が光り出すのをやめた。
そこには、男の人が立っていた。
ん?身長が180cmのイケメンで、天パで、青い服を着て、王冠をかぶっていて、赤いマントをつけていて、ステッキを持っているのは・・・・・・。
 
「ジュンブライト!?」
 
「えっ!?俺!?」
 
「!?」
 
道華!どこに行くの!?
もう、道華ったら、どこに行ったのやら。
ん?まてよ。
もう一人のジュンブライトが現れたってことは・・・・・・。
 
「もしかして、未来のジュンブライト!?」
 
「いかにも。」
 
やっぱり!うなずいてるし!
てか、感じがこっちのジュンブライトより、ちがう・・・・・・。
 
「私は、ヴァンパイア界の大王、ジュンブライトだ。」
 
しかも自分のこと、『俺』じゃなく、『私』って言ってるし!
言葉遣い、ちゃんとしてるんだね。
 
「おぉ~!未来の俺!いや、大王になった俺!かっこいいなぁ~。」
 
ジュンブライトったら、未来の自分を、キラキラした目で、じろじろと見つめている。
 
「ジュンブライト!今はそうしてる場合じゃないよ!」
 
「あ、すまん・・・・・・。」
 
ジュンブライトは、未来の自分をじろじろ見つめるのをやめた。
 
「アハハハハ。過去の私は、明るい、明るい。なつかしい。」
 
未来のジュンブライトは、笑っている。
 
「あ、真莉亜!過去の真莉亜か!?」
 
「あ、はい。そうですけど・・・・・・。」
 
「かっわいいなぁ。俺の嫁は。」
 
未来のジュンブライトが、私の両手をぎゅっとにぎった。
私となると、『俺』って言うんだね。
だって、未来のジュンブライトの奥さんは、私だもの。
 
「ところであなた、なにしに来たの!?」
 
リリアさんが怪しい目で、未来のジュンブライトを見つめて言うと、ジュンブライトは、口を動かした。
 
「実は・・・・・・娘を迎えに来たんでねぇ。」
 
道華を?
 
「なんでタイムスリップしたこと、知ってんだ?」
 
「死んだ親父からもらったステッキでねぇ、娘が今、どこにいるか、調べたんだよ。全く、バカなことをしやがって。」
 
バ、バカなこと!?
 
「真莉亜とまた仲良くやってもらいたいなんて、もう無理なんだよ!」
 
!?
 
「ちょっとあんた!」
 
私は未来のジュンブライトに向かって、さけんだ。
 
「なんだ。」
 
「あんた、いくら大王になったからって、えらそうにしないでよ!道華はね、あんたと未来の私のために、タイムスリップして来たんだから!少しぐらい、感謝した方が、いいじゃないの!?」
 
「ちょっ・・・・・・真莉亜!それぐらいにしとけ・・・・・・。」
 
「うるさいっ!」
 
ドッ!
 
「キャッ!」
 
未来のジュンブライトに蹴られた・・・・・・。
 
「真莉亜!大丈夫!?」
 
うん。大丈夫。
 
「てめぇ、俺の恋人に、なにしてくれてんだ!」
 
「道華はこれから、ヴァンパイア界の王女になるんだ。あの子もきっと、喜んでいるだろう。」
 
喜んでなんかない!
私は立ち上がった。
 
「うるさい!この、偽物の母親が!」
 
に、偽物の、母親・・・・・・?
私はよろよろとすわりこんだ。
 
「真莉亜!」
 
「大丈夫!?」
 
「てめぇ、なに言ってんだよ!」
 
「てめぇもな、偽物の父親め。お前たちの娘に対しての両親ブッてる接し方が、非常におかしくてねぇ。水晶玉で見ながら、笑ったよ。」
 
「・・・・・・てめぇ~!」
 
ジュンブライト、だめ―っ!
 
「よくもひでぇ口の態度で、俺たちをバカにしたなぁ~!」
 
ジュンブライトが未来の自分を殴ろうとした時。未来のジュンブライトが、シュッと消えた。
 
「なに!?」
 
「ジュンブライト、後ろ!」
 
ジュンブライトが後ろを振り返ると・・・・・・。
ドッ!
 
「うわぁ!」
 
「ジュンブライト!」
 
「王子!」
 
「ふっ、過去の俺より、俺は100倍つえーんだよ。」
 
うそ・・・・・・。
 
「道華ぁ、どこにいる。返事をしなさい!」
 
そう言っても、道華は出て来ない。
 
「仕方ない。水晶玉で探すか。この水晶玉で探すか。この水晶玉は、相手が今、どこにいるかわかる。」
 
未来のジュンブライトが、水晶玉をじっと見つめた。
お願い、やめて・・・・・・。
 
「ふっ、押し入れの中か。」
 
未来のジュンブライトは、押し入れに向かった。
やめて!お願い!
 
「押し入れに手を触れさせないようにしな!」
 
「おぉ!」
 
押し入れの前に、ギロさんとウルフ一郎さんが立った。
 
「なんだ。じゃましようとするのか?」
 
「あったりめぇだ。」
 
「道華ちゃんは、誰にも渡さない!」
 
「あ!あそこにUFОがいる!」
 
「え~!?どこどこどこどこ~!?」
 
「って、反応するなよ、おい!」
 
「よし、今だ!」
 
二人の間から、未来のジュンブライトは、押し入れの扉をガラッと開けた。
 
「!?」
 
「さあ、道華。こっちに来なさい。」
 
「いやだ!」
 
「来いと言ってんだ!」
 
未来のジュンブライトが、道華のうでをぎゅっとにぎった。
 
「は、離してよぉ~!」
 
「離すもんか!さあ、行くぞ!」
 
「お母さ~ん、お父さ~ん~!」
 
「道華!」
 
道華を連れて行かないで!
 
「うっさい!うちの娘のおしりをペンペンしたくせに!」
 
あ・・・・・・。それも見られてたのね。
 
「それは謝りますが、どうか、道華を連れて行かないでください!」
 
「・・・・・・さあ、行くぞ。」
 
「お母さ~ん~、お父さ~ん、みんなぁ~。」
 
道華が連れて行かれる!
 
「道華!」
 
「道華ちゃん!」
 
「道華様!」
 
すると、鏡が光り始めた。
ま、まぶしい・・・・・・。
 
「お母さん、お父さん!」
 
今、助けに行くからね、道華!
私は道華を助けに行った。
道華!手!
 
「うん!」
 
道華が手を伸ばした。
 
「ああ!」
 
道華!
私は強引に、道華の手を引っ張る。
 
「お母さん、もうだめだよぉ~。」
 
あきらめないで!
 
「必ず、この手を離さないでね!」
 
「うん!」
 
「そしてごめん!おしりペンペンして!」
 
「お母さん・・・・・・ああ!」
 
道華!
 
「真莉亜!」
 
ジュンブライト!
ジュンブライトは、道華のうでを、強引に引っ張った。
 
「うおぉぉぉぉぉぉ!」
 
「お父さん・・・・・・ああ!」
 
道華が手を離した。
 
「道華!」
 
私とジュンブライトがさけんだとたん、道華は鏡の中へ入って行っちゃった。
そのとたん、鏡が光るのをやめた。
そ、そんな・・・・・・・道華が・・・・・・道華が!
私はがくんと腰を落として、泣き出した。
道華、道華ぁ~!
 
「くそ!何一つも守れなかったぜ!」
 
ジュンブライトがくやしそうに、床にパンチした。
 
「未来のジュンブライト様は、ずいぶん、自分勝手ですなぁ。」
 
「今もそうだろっ!」
 
「うっせ―!」
 
ジュンブライト・・・・・・。
 
「奪われたもんは、奪い返すしかねぇだろ!」
 
ゔ・・・・・・ゔぅ・・・・・・。
 
「道華ぁ~!」
 
私のさけび声が、青空まで響いた。
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