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第4話 あたたかな日々
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それから何日かして、再び来海と出会った。
その日は休日で、久しぶりの好天に恵まれていた。曜が昼間から例の公園へと出向いてみると、期待した通り屋根付きベンチの下に来海がいて、特にすることがないのか中空を見つめてただ漫然と時を過ごしていた。
「来海姉ちゃん!」
「……あれ、曜くん?」
小走りで近づいてくる曜を見て一瞬、呆気にとられた顔をした来海だったが、すぐさま微笑んで小さく手を振り返してくれる。曜は何となく胸の鼓動が高鳴るのを感じた。
「この前はありがとう……また会えたね」
「ううん、ぼくこそありがと!」
「ごめんね、今日晴れてるし傘持ってくるの忘れちゃったんだ」
「全然いいよ」
備え付けテーブルの真向かいに座ると、曜はちょっとだけ視線を上げるかたちで来海とニコニコ笑い合う。その日の来海はセーラー服に三つ編みツインテの、前と全く同じ格好だった。しかし晴れていて空が澄み渡っている分、最初に会った時よりも一層その細部の美しさを観察することが出来、特に太陽の光を浴びているのもあって、曜の目には来海の笑顔が実際以上にキラキラと眩しく輝くものに見えていた。
「今日は何してるの?」
「何もすることがないから困ってるの」
来海は改めてベンチの外に目を向けた。晴れた休日の昼間というのもあって、公園には幼い親子連れの姿がかなりあった。遊具ではしゃぐ小さな子たちの動きを、来海はまるで金魚でも眺めるみたいに目だけで追っている。
「曜くんが来てくれなかったら、退屈で死んじゃうかと思った」
「テレビとかネットとか、家で見ないの?」
曜は純粋に疑問でそう訊ねる。
「休みだからアニメとか朝いっぱいやってるし、配信とかだってあるよ」
「逆。お休みの日だから、家にはあんまりいられないの」
「……どうして?」
「どうしても」
来海の答えは、曜にはいまいちよく分からない。可愛くて、頼もしくて、しかも優しい来海だったが、その時だけは何処か遠くを見つめて、まるで答えたくないみたいに静かになるのだ。はぐらかされているんだろうか。
曜にはそれが不思議であり、同時に少し怖くもあった。
「曜くんこそ、ケータイでゲームとかやったらいいんじゃない?」
「ぼくまだケータイ持ってないんだ」
曜は素直に打ち明けた。
「中学入るまでは早いって、お母さんが。タブレットとかもネット切られてるし」
「じゃ、もしかしてクラスのみんなと、話とか合わないんじゃない?」
「うん、ユーチューバーとかテレビに出てても、誰かよく分かんなくて正直つまんない」
曜は自分で言ってて少し情けなくなった。
「ごめんなさい」
「そんな、謝らなくていいよ。正直わたしもママに駄目って言われて、持ってないんだ。ラインとかメールとか、やったことなくて全然分かんないよ」
「中学生なのに?」
「だから、曜くんとおんなじ。ホント似てるね、わたしたち」
悪戯っぽく来海に言われて、曜はちょっとだけ嬉しくなる。
とはいえ来海も、連絡手段がないからといって不便することは左程ないそうだ。ここへ来る以前から転校が多かったらしく、普段から部活に入ったり、友達を作ったり、あまりしないようにしているのだという。
曜はふと、自分との関係を来海はどう思っているんだろうか、と不安がよぎった。そう遠くないうち彼女と別れなければいけないのだとしたら、曜はとても寂しくなるだろう。その時、彼女もまた同じように寂しいと思ってくれるのだろうか……。
「良かったら、」
曜は咄嗟の思いつきで言った。
「ウチで一緒にゲームとかやってく? 今日、親も姉ちゃんも夕方までいないし、テレビ使えるから。ネットの制限だけ面倒だけど、きっと色々遊べるよ」
「…………曜くん、あのね」
何故か来海は、一瞬呆れたような顔をしてみせて、それから遅れて苦笑いした。
「ううん、ごめん。何でもない」
「えっ、何かぼく、変なこと言った?」
「そうじゃないけど曜くん、あんまり女の子にそういうこと言っちゃ駄目だからね?」
来海はクスクス笑っていたが、曜は最後まで意味がよく分からないままだった。
結局その日、来海は曜の家には来なかったが、曜がお昼を食べるために一回家に戻った以外は、ずっとふたりは同じ場所で、他愛のないお喋りをして過ごし続けた。
元々早く沈みがちだった太陽が、その日はより一層早く沈んでいったみたいだった。
その日は休日で、久しぶりの好天に恵まれていた。曜が昼間から例の公園へと出向いてみると、期待した通り屋根付きベンチの下に来海がいて、特にすることがないのか中空を見つめてただ漫然と時を過ごしていた。
「来海姉ちゃん!」
「……あれ、曜くん?」
小走りで近づいてくる曜を見て一瞬、呆気にとられた顔をした来海だったが、すぐさま微笑んで小さく手を振り返してくれる。曜は何となく胸の鼓動が高鳴るのを感じた。
「この前はありがとう……また会えたね」
「ううん、ぼくこそありがと!」
「ごめんね、今日晴れてるし傘持ってくるの忘れちゃったんだ」
「全然いいよ」
備え付けテーブルの真向かいに座ると、曜はちょっとだけ視線を上げるかたちで来海とニコニコ笑い合う。その日の来海はセーラー服に三つ編みツインテの、前と全く同じ格好だった。しかし晴れていて空が澄み渡っている分、最初に会った時よりも一層その細部の美しさを観察することが出来、特に太陽の光を浴びているのもあって、曜の目には来海の笑顔が実際以上にキラキラと眩しく輝くものに見えていた。
「今日は何してるの?」
「何もすることがないから困ってるの」
来海は改めてベンチの外に目を向けた。晴れた休日の昼間というのもあって、公園には幼い親子連れの姿がかなりあった。遊具ではしゃぐ小さな子たちの動きを、来海はまるで金魚でも眺めるみたいに目だけで追っている。
「曜くんが来てくれなかったら、退屈で死んじゃうかと思った」
「テレビとかネットとか、家で見ないの?」
曜は純粋に疑問でそう訊ねる。
「休みだからアニメとか朝いっぱいやってるし、配信とかだってあるよ」
「逆。お休みの日だから、家にはあんまりいられないの」
「……どうして?」
「どうしても」
来海の答えは、曜にはいまいちよく分からない。可愛くて、頼もしくて、しかも優しい来海だったが、その時だけは何処か遠くを見つめて、まるで答えたくないみたいに静かになるのだ。はぐらかされているんだろうか。
曜にはそれが不思議であり、同時に少し怖くもあった。
「曜くんこそ、ケータイでゲームとかやったらいいんじゃない?」
「ぼくまだケータイ持ってないんだ」
曜は素直に打ち明けた。
「中学入るまでは早いって、お母さんが。タブレットとかもネット切られてるし」
「じゃ、もしかしてクラスのみんなと、話とか合わないんじゃない?」
「うん、ユーチューバーとかテレビに出てても、誰かよく分かんなくて正直つまんない」
曜は自分で言ってて少し情けなくなった。
「ごめんなさい」
「そんな、謝らなくていいよ。正直わたしもママに駄目って言われて、持ってないんだ。ラインとかメールとか、やったことなくて全然分かんないよ」
「中学生なのに?」
「だから、曜くんとおんなじ。ホント似てるね、わたしたち」
悪戯っぽく来海に言われて、曜はちょっとだけ嬉しくなる。
とはいえ来海も、連絡手段がないからといって不便することは左程ないそうだ。ここへ来る以前から転校が多かったらしく、普段から部活に入ったり、友達を作ったり、あまりしないようにしているのだという。
曜はふと、自分との関係を来海はどう思っているんだろうか、と不安がよぎった。そう遠くないうち彼女と別れなければいけないのだとしたら、曜はとても寂しくなるだろう。その時、彼女もまた同じように寂しいと思ってくれるのだろうか……。
「良かったら、」
曜は咄嗟の思いつきで言った。
「ウチで一緒にゲームとかやってく? 今日、親も姉ちゃんも夕方までいないし、テレビ使えるから。ネットの制限だけ面倒だけど、きっと色々遊べるよ」
「…………曜くん、あのね」
何故か来海は、一瞬呆れたような顔をしてみせて、それから遅れて苦笑いした。
「ううん、ごめん。何でもない」
「えっ、何かぼく、変なこと言った?」
「そうじゃないけど曜くん、あんまり女の子にそういうこと言っちゃ駄目だからね?」
来海はクスクス笑っていたが、曜は最後まで意味がよく分からないままだった。
結局その日、来海は曜の家には来なかったが、曜がお昼を食べるために一回家に戻った以外は、ずっとふたりは同じ場所で、他愛のないお喋りをして過ごし続けた。
元々早く沈みがちだった太陽が、その日はより一層早く沈んでいったみたいだった。
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