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初めて大切だと思った存在だった。
初めて「異性」として感じた……。
淡い想い。
多分、初恋。
今まで、男に理想なんて求めた事なんて無かった。
物心つく頃から毎夜母がアパートに客を連れ込み、セックスに明け暮れていた。
襖越しに聴こえる粘着質の音に母の喘ぎ声。
布団を深く被って耳栓をして夜を過ごした。
子供の頃からそんな環境で育った所為で、恋愛にマトモな感情なんて持つ事など出来なかった。
男なんて所詮ケダモノ。
女を性的処理としか考えていない。
歪な考え。
純真に男を信じたい感情なんて何処にあっただろう?
そんな凍てついた私の心にすっと入ってきた義父。
優しくて穏やかで、そして信頼できる……。
私に安らぎと平穏を与えてくれた。
生きるために必要な教養と生活を確保してくれた。
初めて知った幸せ。
大切な存在だと思われる喜び。
綺麗で可愛い瞳を見つめても、義父の深い愛情で卑屈に思う事も無かった。
そんな感情すら抱く事など無かった……。
明け方、帰宅した義父が力なく微笑む姿に胸が痛む。
「出て行ったのか……」
無言のまま、頷く私に義父が寂しそうに笑う。
「私が不甲斐ないばかりに美夜にも迷惑をかけた。
すまない……」
そう穏やかに言う義父に、私は一瞬、涙が出そうになる。
違う、義父が悪い訳ではない。
母が身勝手なのだ。
この穏やかで平穏な生活を踏み躙ったのだから。
この家の幸せを奪ったのだから。
なのに、どうしてそんなに私の事を気遣うの?
違う。
本当は私は罵られる存在なのに……。
既に義父との縁も切れた赤の他人の私が、このまま家に留まっている事自体おかしな事なのに。
なのに、その事には一切触れずに自分の事を責める。
「お義父さん、ご免なさい……」
後から後から涙が出る。
母と関わった所為で、財産の殆どを奪われた。
この家だって既に抵当に入っている。
会社の運営が難しいのに、義父は従業員の借金まで肩代わりして負債を膨れさせている。
そればかりではなく、母が新しい生活の為に持ち株を売りさばき、貯金を崩し当面の生活に当てるために自分の通帳にお金を移した。
そんな事をされても母に対して非難の言葉を言わない。
「美夜が悪い訳ではない。
謝る必要なんて無いんだよ。
だから泣かないで……。
可愛い美夜が泣くと、僕はどうして良いか解らない」
そう言って私の頬に触れ優しく涙を拭う。
「お義父さん……」
「笑って美夜。
君が一番辛い思いをしているのに、僕がこんなに落ち込んでいてはいけないね」
「……」
「本当は美穂と一緒に行きたかったんだろう?
なのに、僕と瞳の事を考えてここに留まったんだろう?
済まない、美夜。
この先、君には苦労をかける様になるかもしれない。
だが、僕はどんな事があっても君と瞳は守るから。
君と瞳は僕にとって、かけがいの無い大切な娘だから……」
義父の言葉に広がる熱い感情。
暖かい想い。
それと同時に痛みを感じる感情。
この男性にとって私は永遠に娘のままなんだ。
異性と見られる事等、決して、無い……。
(だけど側にいられる。
娘としてずっと側にいれる。
だから、この想いを封印しよう。
ずっと義父の側にいたいから。
娘でもいい。
大切な存在だと思われるんだから……)
そう決心しながら義父に微笑む。
「やっと笑ってくれたね、美夜……」
そう言って目を細め私を優しく見つめる。
母がいなくなって数ヶ月、生活に苦しくても心穏やかで静かな生活を営んでいた。
だがそんな平穏な生活もある日を境に崩れていく。
会社の負債の為に、夜通し働き続け無理が祟った義父が血を吐き倒れた。
胃癌と医師に診断された。
知った時には既に手遅れで末期に入っていた。
治療の甲斐もなく、半年後、義父はこの世を去った……。
初めて「異性」として感じた……。
淡い想い。
多分、初恋。
今まで、男に理想なんて求めた事なんて無かった。
物心つく頃から毎夜母がアパートに客を連れ込み、セックスに明け暮れていた。
襖越しに聴こえる粘着質の音に母の喘ぎ声。
布団を深く被って耳栓をして夜を過ごした。
子供の頃からそんな環境で育った所為で、恋愛にマトモな感情なんて持つ事など出来なかった。
男なんて所詮ケダモノ。
女を性的処理としか考えていない。
歪な考え。
純真に男を信じたい感情なんて何処にあっただろう?
そんな凍てついた私の心にすっと入ってきた義父。
優しくて穏やかで、そして信頼できる……。
私に安らぎと平穏を与えてくれた。
生きるために必要な教養と生活を確保してくれた。
初めて知った幸せ。
大切な存在だと思われる喜び。
綺麗で可愛い瞳を見つめても、義父の深い愛情で卑屈に思う事も無かった。
そんな感情すら抱く事など無かった……。
明け方、帰宅した義父が力なく微笑む姿に胸が痛む。
「出て行ったのか……」
無言のまま、頷く私に義父が寂しそうに笑う。
「私が不甲斐ないばかりに美夜にも迷惑をかけた。
すまない……」
そう穏やかに言う義父に、私は一瞬、涙が出そうになる。
違う、義父が悪い訳ではない。
母が身勝手なのだ。
この穏やかで平穏な生活を踏み躙ったのだから。
この家の幸せを奪ったのだから。
なのに、どうしてそんなに私の事を気遣うの?
違う。
本当は私は罵られる存在なのに……。
既に義父との縁も切れた赤の他人の私が、このまま家に留まっている事自体おかしな事なのに。
なのに、その事には一切触れずに自分の事を責める。
「お義父さん、ご免なさい……」
後から後から涙が出る。
母と関わった所為で、財産の殆どを奪われた。
この家だって既に抵当に入っている。
会社の運営が難しいのに、義父は従業員の借金まで肩代わりして負債を膨れさせている。
そればかりではなく、母が新しい生活の為に持ち株を売りさばき、貯金を崩し当面の生活に当てるために自分の通帳にお金を移した。
そんな事をされても母に対して非難の言葉を言わない。
「美夜が悪い訳ではない。
謝る必要なんて無いんだよ。
だから泣かないで……。
可愛い美夜が泣くと、僕はどうして良いか解らない」
そう言って私の頬に触れ優しく涙を拭う。
「お義父さん……」
「笑って美夜。
君が一番辛い思いをしているのに、僕がこんなに落ち込んでいてはいけないね」
「……」
「本当は美穂と一緒に行きたかったんだろう?
なのに、僕と瞳の事を考えてここに留まったんだろう?
済まない、美夜。
この先、君には苦労をかける様になるかもしれない。
だが、僕はどんな事があっても君と瞳は守るから。
君と瞳は僕にとって、かけがいの無い大切な娘だから……」
義父の言葉に広がる熱い感情。
暖かい想い。
それと同時に痛みを感じる感情。
この男性にとって私は永遠に娘のままなんだ。
異性と見られる事等、決して、無い……。
(だけど側にいられる。
娘としてずっと側にいれる。
だから、この想いを封印しよう。
ずっと義父の側にいたいから。
娘でもいい。
大切な存在だと思われるんだから……)
そう決心しながら義父に微笑む。
「やっと笑ってくれたね、美夜……」
そう言って目を細め私を優しく見つめる。
母がいなくなって数ヶ月、生活に苦しくても心穏やかで静かな生活を営んでいた。
だがそんな平穏な生活もある日を境に崩れていく。
会社の負債の為に、夜通し働き続け無理が祟った義父が血を吐き倒れた。
胃癌と医師に診断された。
知った時には既に手遅れで末期に入っていた。
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