愛のない婚約かと、ずっと思っていた。

華南

文字の大きさ
6 / 63

6話

「やだ、目が真っ赤になってしまった。
もうすぐクリストファーのお屋敷に行くのに私ったら……」

ぽとぽと。

だって、だって……。
我慢できなかった。
感情を抑える事が出来なかった。
ずっとモヤモヤした気持ちでクリストファーに会っていた。

聞きたくても聞けない
だってクリストファーと彼女の関係は……。

ずきん。

胸が痛い。
本当にやだあ……。

何を嫉妬しているの、マリアンヌ。
クリストファーにお似合いの彼女の存在に嫉妬して、一体、何がどう変わると言うの?
嫉妬で心を歪ませて醜くなっていくだけで。

姿だけではなく心まで卑しくなるなんて……。
そんなの絶対に嫌!
愚かな自分をクリストファーには絶対に悟られたくない。
クリストファーが蔑む存在にだけは絶対にいや!
私にもなけなしの矜持はある。
クリストファーと対等と思える容姿では無くても、せめて心栄えだけはクリストファーに相応しい女性でありたい。

クリストファーの婚約者として恥ずかしくない女性として……。

(ふふふ、私ったら……。
子供の頃はまだ良かった。
婚約者と言ってもそこまで真剣に考えていなかった。
ああ、この男の子が未来の旦那様だと、ぼんやりと考えていただけで現実味を帯びていなかった。
眩いばかりのクリストファーの美貌にただただ圧倒させられて。
そして美の化身とも言えるクリストファーの存在に顔面格差を意識させられた。
自分の両親だってクリストファーのご両親に負けず劣らずの美男美女の夫婦である。
その娘の顔が平凡以下だったら……。
クリストファーにコンプレックスを抱いてもおかしくないでしょう?)

女性よりも麗しいクリストファー。
おば様似の顔も含めて、子供の頃は本当に苦手だった……。

(はああ、なんか泣いたらスッキリした。
たまには心のデトックスをしないと駄目ね。
感情の赴くまま涙を流すのは決して恥ずかしい事では無いわ)

でも、どうしよう。
涙を流して気持ちがスッキリしたのは良いけど。

(この顔でクリストファーのお屋敷に行くのは流石に気が引けるわ。
変に勘繰られても嫌だし。
目は真っ赤でぱんぱんに腫れて顔は浮腫んでいるし。
化粧で誤魔化そうとしても、これはちょっと……。

……。

行くのをやめようかしら。
うん、それがいい。
変に気遣いされても心苦しいし、それに……)

乙女心としてはこんな顔をクリストファーには絶対に見せたくない。

(でも、どんな理由でお断りしよう?
昨日のパーティーで気疲れして体調が思わしくないって。
そう伝えたらクリストファーの責任になってしまうじゃない。
パートナー同伴での参加を強要したクリストファーの所為だと責められたら、私……)

一体、どうしたら。

コンコン。

「お嬢様、失礼します」

控えめな声で侍女のエマが入ってくる。

「どうしたの?エマ」

「あの、今しがたシャンペトル家から従者の方がお見えになってお嬢様に、この包紙を」

「え?」

「シャンペトル家への訪問ですが、今朝早くクリストファー様に至急の用が入り不在とのご伝言です。なので本日の訪問は控えていただきたいと申されて」

(な、なんて言うタイミングの良さ!
よ、良かった……、行かなくていいなんて!)

ああ、神様って存在するのね。

「……、ありがとう、エマ。
従者に少し待つ様に伝えて。
すぐにお礼を書くから」

「お嬢様」

(なんて現金なの、私って。
クリストファーの一挙一動に心を掻き乱したりして。
でも、嬉しいの!
こんな事されたら、私……)

今日の気分にぴったりの紅茶に私の好きな焼き菓子が添えている。
両方とも凄く人気があって、欲しくても直ぐに売り切れて、中々手に入らない。

(ま、まさか、クリストファー自ら買いに行ったの?
あ、あり得ない。
私が好きな焼き菓子や紅茶の種類も把握していたなんて、そんな……)

どんな気持ちで購入したのかしら。
昨日の私を気にしての行動なの?

婚約者として少しは認められていると思っても良いのかな?

(ふふふ……)

なんだか心がぽかぽかとして暖かい。
擽ったい様な気恥ずかしい感じで……。

「こほん、お嬢様……」

「あ、え、エマ、御免なさい。
こ、この手紙を従者に渡しに行って!
あ、あと、とても喜んでいたと言葉を添えて渡してね」

「もう、お嬢様ったら」

「……」

(や、やだ、頬が熱いわ。
こんな不意打ちをされたら、私、これから先、どんな顔をしてクリストファーに)

ドキドキドキドキ。

鼓動が早鐘の様に鳴って収まらない。
狡い。
クリストファーったら狡いわ。

こんな事をされたら、私はクリストファーの事を……。

***

幸せな気持ちだった。
こんなに幸せな気持ちは今まで無いと思える位、満たされていて……。

でも、その後、私は知ってしまう。
至急の用でクリストファーを呼び出した相手を……。

知りたくは無かった。
彼女がそんな立場の女性だったなんて……。

社交界デビューでクリストファーと親密に会話をしていた女性の事を。

クリスティアーナ・レガーリス公爵令嬢。

レガーリス家の白薔薇と謳われ、クリストファーとは再従兄弟の関係にあたる女性で。
そしてでもあるレガーリス家が決めたクリストファーの婚約者であった事を……。

私はその後、知る様になる。
感想 11

あなたにおすすめの小説

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

幼馴染と夫の衝撃告白に号泣「僕たちは愛し合っている」王子兄弟の関係に私の入る隙間がない!

佐藤 美奈
恋愛
「僕たちは愛し合っているんだ!」 突然、夫に言われた。アメリアは第一子を出産したばかりなのに……。 アメリア公爵令嬢はレオナルド王太子と結婚して、アメリアは王太子妃になった。 アメリアの幼馴染のウィリアム。アメリアの夫はレオナルド。二人は兄弟王子。 二人は、仲が良い兄弟だと思っていたけど予想以上だった。二人の親密さに、私は入る隙間がなさそうだと思っていたら本当になかったなんて……。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

初恋の呪縛

緑谷めい
恋愛
「エミリ。すまないが、これから暫くの間、俺の同僚のアーダの家に食事を作りに行ってくれないだろうか?」  王国騎士団の騎士である夫デニスにそう頼まれたエミリは、もちろん二つ返事で引き受けた。女性騎士のアーダは夫と同期だと聞いている。半年前にエミリとデニスが結婚した際に結婚パーティーの席で他の同僚達と共にデニスから紹介され、面識もある。  ※ 全6話完結予定

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません