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31話

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「マリアンヌ」

互いの唇が重なっていく。
ゆっくりと唇が触れては離れ、そしてまた一つに重なって。

「マリアンヌが好きだ」

キスの合間にクリストファーが囁く。
クリストファーの言葉に応じるかの様にマリアンヌもクリストファーに愛を囁く。

「私もクリストファーが好き」

ふと視線が交わり苦笑を洩らす。

ゆっくりと愛を語りながら互いを感じたい。
そう思いながらクリストファーとマリアンヌは互いを確かめていく。

クリストファーがマリアンヌの目を見詰めながら、指でマリアンヌの顔の輪郭をなぞり出す。

「マリアンヌの濃褐色の瞳が好きだ。
いつもくるくると変化して僕の心を掴んで離さない、マリアンヌの愛くるしい瞳が大好きだよ」

照れながら告白するクリストファーが愛しくて、マリアンヌは小さな声で「私もクリストファーの紺碧の海の様に深くて綺麗な瞳が好き」と伝える。

クリストファーの耳朶が赤く染まる。
ずっと母親似である事に少なからずコンプレックスを抱いていたが、今、マリアンヌから自分の瞳が好きだと言われて心が浮き立つ。

ざああ、と雨の音が部屋に木霊して、2人を雨音が包み込む。

腰までドレスが下されシュミーズも一緒にワンピースに引っ掛かる様に絡まっており。
対峙するクリストファーはジャケットを脱ぎ、タイとベストもベッドに落としシャツとトラウザーズだけの姿となっている。

今、クリストファーの目にマリアンヌの裸身が映っている。
ずっと触れたいと思っていた。

マリアンヌが対なる君だと知らされた幼い頃。
自分の運命の相手。

でも、対なる君だから運命なのかと言う事に反発して。
違う、そうでは無いと何度も何度も否定して、だから言葉を表情を封印した。
マリアンヌが知ればきっと自分の愛に疑問を投じる。
対なる君だからマリアンヌを愛しているときっと誤解する。
恐ろしかった、マリアンヌへの自分の愛を否定され罵られる事に。

侮蔑の目で見られクリストファーを厭うマリアンヌがクリストファーは怖くて堪らなかった。

それを理由に逃げる自分は卑怯だと脳裏を掠めたのも事実だった。
実際は自分に自信が持てなかった。
マリアンヌの愛を得る相手として相応しい男だと思えない情けない自分。

ただ好きだとマリアンヌに素直に告白すれば良かった、だけど……。

それが対なる君の魔力で告白させるのか、意識を奪われ、言葉の自由を奪われるのが怖かった。
抑えるにも抑えようも無い対なる君への飢餓。
目の前にいるマリアンヌに衝動的に奪いたいと思う心を必死に抑え込んで。

マリアンヌの愛をただただ心の支えとして必死に魔力を抑えていた。

(マリアンヌ……)

対なる君の呪いで伴侶を得られない者は若くして奇病に侵される生を終える。
ずっと一族の中で伝えられた伝承。
そして、事実、目の前で奇病に侵され命を落とした者を見詰めてきた。

そして、今、その奇病の兆しが出ている人物を己は知っている……。

(ティア、僕は。
ごめん、僕はマリアンヌだけしか受け入れられない。
君の命を救う手段を僕は閉ざしてしまう。
僕を許して……)

眦に涙が滲む。

クリスティアーナの慈愛の満ちた瞳を思い出す。
ずっと実の姉の様に慕ってきた。
同じ対なる君の呪いの保持者として互いを励まし合い心を通わせた。

そんなある日、クリスティアーナの対なる君が命を落としたと言う衝撃。
元々身体の弱いクリスティアーナの対なる君の寿命は出会った時には既に黄泉の国へと導かれる兆しが見えていた。

あの時のクリスティアーナの嘆き哀しむ姿をクリストファーは生涯、忘れる事は無い。
目の前のクリスティアーナの姿はいつかの自分。
将来、もし、マリアンヌが自分を受け入れなかったら、もし、マリアンヌの命が危険に晒されたら。

恐怖でしか無かった。
すうと身体中の血が引く。
幼いクリストファーには既にマリアンヌは自分の世界の中心であり命そのものだった。

だからマリアンヌを愛したと言うのか?と言えば、それは否である。

マリアンヌだから好きになった。
マリアンヌだから愛した。

マリアンヌだから欲しい、一つに結ばれたい。

今、そのマリアンヌと触れ合おうとしている。
自分の一部となり愛を交わす。
涙が頬を掠める。
交錯する感情の中、今、クリストファーは震える指でマリアンヌの髪に触れて。

「マリアンヌ……」

マリアンヌの柔らかい髪を堪能するかの如く何度も梳き、そしてマリアンヌの輪郭から首筋を辿って、鎖骨に指を這わせて。
なだらかな双丘に指を進めて、乳房に触れて。

目を逸らさずクリストファーの指先をマリアンヌは見詰める。
頬を上気させ目を潤ませながらマリアンヌはクリストファーの愛撫に身体を震わせて。

はっと息を呑む音が聴こえる。

「綺麗だよ、マリアンヌ。
柔らかくて先端が少し赤く色付いて、僕に触れて欲しいと誘っている。
とても、魅惑的だ……」

身体を屈めてクリストファーがマリアンヌの先端に口付けする。
素肌にクリストファーの髪が当たってマリアンヌの肌が粟立つ。

口に含みながらクリストファーはマリアンヌの背に腕を回し、ゆっくりと押し倒す。
素肌にシーツのひんやりとした冷たさに一瞬、顔を歪ませるが、それもほんの一瞬の事で。

夢中になって胸を愛撫するクリストファーにマリアンヌの身体が赤く染まり出して。
淫らな吐息が上がり抑える事が出来ない。

喘ぐ声を抑える事が出来ない気恥ずかしさ、マリアンヌが呻く様に呟く。

「あん、クリストファー、わ、私、声が……」

ぎゅうとシーツを握り、どうにか声を抑えようとするが気付いたクリストファーに手を重ねられて。

「僕の指に絡ませて、マリアンヌ。
君が感じる事を直に知りたい」

そう言いながらまた乳房を口に含み、甘く先端を噛む。
ぴりりとした甘い痺れが背筋に走り思わずクリストファーの指を強く絡ませる。
力が籠るマリアンヌの指にふっと微笑む吐息さえマリアンヌの肌は敏感に感じとる。

「や、やだ、そんな所で笑わないで……」

「どうして?」

くすりと笑うクリストファーにマリアンヌが睨め付ける。
知っての愛撫である。
今だって下肢がじんわりと潤んでドロワーズに染みついている。
クリストファーが知ったらきっと軽蔑すると思った途端、唇がワナワナと震え出して。

(や、いやよ、ぜ、絶対にいや……。
こ、こんなの、愧死しそうよ、私……)

ぐっと歯を噛み締め悶えそうになる身体を、滲む下肢をどうにか止めようと踏ん張るが、クリストファー先端を強く指の背で押した事で声が漏れてしまい。

「きゃああ、ん……」

「もっとマリアンヌの声が聞きたい」

そう伝えクリストファーはマリアンヌを攻め立てる様に更に胸への愛撫を強めていった。
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