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兄と学友の楽しいランチタイム
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「お昼をご一緒してもいいかな?」
ふらりと現れた学友の姿を認めて、ランスロット=アークライトはこれ見よがしに眉根を寄せた。
「……だから気軽に来るなと言っているだろう」
「迷惑だったかい?」
「周りがな」
「おや、でも警備員は顔パスで通してくれたよ?」
「当たり前だ」
ため息をついて飄々としている男に冷めた目を向ける。
にこにこと愛想よく笑っているその好青年こそ、我が国の次期国王・ユアン=レイフォードその人である。
「お前が来たら顔パスで通さないわけにもいかんだろうが。王宮の護衛はどうした」
「撒いた」
「撒くな」
普段優しいだの温厚だのと噂されている我が国の王子は、中身はとんでもない策士であり武闘派だ。学生時代も妙に喧嘩っ早い彼を何度引き留めたことか。
とはいえたとえ自分に都合の悪いことが起きても大抵はあの笑顔で丸め込んでしまうので、本当に引き留める必要があったのかは分からない。分からないが、まさか王子様が喧嘩を吹っかけて国民にケガをさせてしまうわけにもいかないだろうと、あの頃は必死だったのだ。
それなのに彼は一向に反省する様子がなく、結局卒業まで変わらないどころか今でも変わっていない。むしろ用意周到さに拍車がかかった分、性質の悪さは確実に悪化していた。
そんな厄介な男とまじめ一辺倒な自分がなぜ気が合ったのか、なぜ気に入られたのかは今でもさっぱり分からない。しかし学生時代から始まった付き合いは卒業後も変わらず、むしろこちらが王国軍に入隊したことをラッキーとでも思っているのか――絶対に思っている――彼はこうして度々ふらりとこちらの職場に現れるのだった。
「毎回それで騒ぎになるだろう。いいかげんやめろ」
「学友にも自由に会いに来てはいけないと?ひどいこと言うじゃないか」
「俺が言っているのは一般常識だ」
冷たい視線を返したが、王子は全く気にする様子がない。
大抵の人間はランスロットが視線を投げるとひどく怯えるか緊張するかのどちらかだが、昔からユアンだけは別だった。
「それにここは王国軍の施設だから、王子である僕がいてもおかしくないだろう?」
相変わらずの飄々とした態度でそんなことをのたまう。
ランスロットは目つきを更に鋭くしてみたものの効果はあまり期待できそうになかった。
「王子様が何で王国軍の本部にいるんだよ。命令があるなら鳩でも飛ばせ」
今時伝書鳩など使わないことは重々承知の上で申し上げてみたが、学友兼王子はこちらの嫌味を全く気にした様子はなく、むしろ楽し気な笑みを浮かべている始末。
「悪いけど僕は鳩よりも確実に情報伝達できる自信があるよ」
「情報源だからな」
「まあね。だから僕は君の友人であり王子であり鳩ということで。ところで鳩はお腹がすいたんだけど、そろそろ食事に行かないか?」
食事を促すなどとんでもない鳩がいたものである。
ランスロットは大きくため息を吐き、手にしていたペンを置いた。報告書は全く進んでいないがたしかに昼時であるし、この厄介な友人が素直に引き下がるとも思えない。
観念して椅子から立ち上がり、頭一つ下のユアンを見下ろした。ユアンの背が低いのではない。ランスロットの背が高いのだ。
「分かったよ、行けばいいんだろ行けば」
「そうそう。頼みたいこともあるし」
「……やっぱりか」
こののんびりしていそうな王子は実のところ、のんびりしている暇などない程度には忙しい。そのくらいランスロットにも分かっていた。将来有望の次期国王が暇なわけがない。
つまり彼が来たということは、頼み事――もとい面倒ごとを持ってきたということ。だから嫌なのだ。
「鳩って言ったろ?悪いけどレース用じゃないんだ」
王国民の愛する笑顔を惜しみなく見せた彼は、そう言ってこちらを見上げている。その完璧な作り笑顔に思わず眉根を寄せた。
こうやって王国民はみんな騙されているのだな、と思ったが口には出さなかった。
不敬罪で失職するつもりはない。
「ぜひ我が国のために助力してほしい。あと我が妹のためにも」
「こちらこそ王子様のためなら何でも。で、妹ってどっちの?」
その質問に特段の意味はなかった。何の気なしにした質問だ。
けれどその質問に、ユアンの笑みが深くなる。
「可愛い方だよ」
ふらりと現れた学友の姿を認めて、ランスロット=アークライトはこれ見よがしに眉根を寄せた。
「……だから気軽に来るなと言っているだろう」
「迷惑だったかい?」
「周りがな」
「おや、でも警備員は顔パスで通してくれたよ?」
「当たり前だ」
ため息をついて飄々としている男に冷めた目を向ける。
にこにこと愛想よく笑っているその好青年こそ、我が国の次期国王・ユアン=レイフォードその人である。
「お前が来たら顔パスで通さないわけにもいかんだろうが。王宮の護衛はどうした」
「撒いた」
「撒くな」
普段優しいだの温厚だのと噂されている我が国の王子は、中身はとんでもない策士であり武闘派だ。学生時代も妙に喧嘩っ早い彼を何度引き留めたことか。
とはいえたとえ自分に都合の悪いことが起きても大抵はあの笑顔で丸め込んでしまうので、本当に引き留める必要があったのかは分からない。分からないが、まさか王子様が喧嘩を吹っかけて国民にケガをさせてしまうわけにもいかないだろうと、あの頃は必死だったのだ。
それなのに彼は一向に反省する様子がなく、結局卒業まで変わらないどころか今でも変わっていない。むしろ用意周到さに拍車がかかった分、性質の悪さは確実に悪化していた。
そんな厄介な男とまじめ一辺倒な自分がなぜ気が合ったのか、なぜ気に入られたのかは今でもさっぱり分からない。しかし学生時代から始まった付き合いは卒業後も変わらず、むしろこちらが王国軍に入隊したことをラッキーとでも思っているのか――絶対に思っている――彼はこうして度々ふらりとこちらの職場に現れるのだった。
「毎回それで騒ぎになるだろう。いいかげんやめろ」
「学友にも自由に会いに来てはいけないと?ひどいこと言うじゃないか」
「俺が言っているのは一般常識だ」
冷たい視線を返したが、王子は全く気にする様子がない。
大抵の人間はランスロットが視線を投げるとひどく怯えるか緊張するかのどちらかだが、昔からユアンだけは別だった。
「それにここは王国軍の施設だから、王子である僕がいてもおかしくないだろう?」
相変わらずの飄々とした態度でそんなことをのたまう。
ランスロットは目つきを更に鋭くしてみたものの効果はあまり期待できそうになかった。
「王子様が何で王国軍の本部にいるんだよ。命令があるなら鳩でも飛ばせ」
今時伝書鳩など使わないことは重々承知の上で申し上げてみたが、学友兼王子はこちらの嫌味を全く気にした様子はなく、むしろ楽し気な笑みを浮かべている始末。
「悪いけど僕は鳩よりも確実に情報伝達できる自信があるよ」
「情報源だからな」
「まあね。だから僕は君の友人であり王子であり鳩ということで。ところで鳩はお腹がすいたんだけど、そろそろ食事に行かないか?」
食事を促すなどとんでもない鳩がいたものである。
ランスロットは大きくため息を吐き、手にしていたペンを置いた。報告書は全く進んでいないがたしかに昼時であるし、この厄介な友人が素直に引き下がるとも思えない。
観念して椅子から立ち上がり、頭一つ下のユアンを見下ろした。ユアンの背が低いのではない。ランスロットの背が高いのだ。
「分かったよ、行けばいいんだろ行けば」
「そうそう。頼みたいこともあるし」
「……やっぱりか」
こののんびりしていそうな王子は実のところ、のんびりしている暇などない程度には忙しい。そのくらいランスロットにも分かっていた。将来有望の次期国王が暇なわけがない。
つまり彼が来たということは、頼み事――もとい面倒ごとを持ってきたということ。だから嫌なのだ。
「鳩って言ったろ?悪いけどレース用じゃないんだ」
王国民の愛する笑顔を惜しみなく見せた彼は、そう言ってこちらを見上げている。その完璧な作り笑顔に思わず眉根を寄せた。
こうやって王国民はみんな騙されているのだな、と思ったが口には出さなかった。
不敬罪で失職するつもりはない。
「ぜひ我が国のために助力してほしい。あと我が妹のためにも」
「こちらこそ王子様のためなら何でも。で、妹ってどっちの?」
その質問に特段の意味はなかった。何の気なしにした質問だ。
けれどその質問に、ユアンの笑みが深くなる。
「可愛い方だよ」
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