9 / 14
Interval2-1
しおりを挟む何だかんだな三日目。
まだ三日目なのにこの疲労感よ。
肉体的な問題ではなく精神的な疲労感が強い。
一日中歩き回ったくらいなら何ともないのだけど、二日も戦闘が続くとなると話が別。
戦闘中は気が抜けないから凄まじく精神が摩耗するのよ。
お陰で今日はダラダラしていたい気分。
そういうわけで友人になったラザニアさんのホームにお邪魔している。
本来は機材のメンテナンスを行うテーブルの前に椅子を置いてお茶会気分である。
ラザニアさんのホーム、腕は良いのに人が全然来ないから静かで寛ぐには持ってこいな事に先日気付いたんだ。
流石に個人所有のマイホームにまでイベントの魔の手が伸びるとは考え難い。
今は何ともなさそうなので、現在はラザニアさんに前日に起こった緊急クエストについてお話中である。
「あらぁ、やっぱりユキちゃんだったのね」
「やっぱりって?」
「実はドッグオーダーズから所属傭兵に緊急任務参加要請がMTTに来てたのよん」
初耳だった。
ラザニアさんが言うには所属傭兵に対してのみ行政区侵攻部隊撃破の参加要請が入っていたらしい。
それも“現在所属傭兵が人質の救出任務に当たっている為、対応可能な傭兵は出撃待機してください”というメッセージがあったとか。
掲示板ではネームドNPC説が挙がっていたが、ラザニアさんは私の目的を覚えていて即座に私が救出任務に当たっている傭兵だと気付いたそうな。
そういえば街の観光するって言ってたね。
そこからどうして私に繋がったのかはよく分からないけど。
「それにしても貴女とフレになって良かったわ。話の種に困らなそうだもの」
「動機が不純過ぎる」
「元々不純だったわよ?」
「そういえばそうだった」
私もラザニアさんもお互いに利益があるからフレンドになったんだった。
初めて出来たフレだったから少し浮かれてた。
苦笑いを浮かべながらマグカップを手に取る。
入ってるのはラザニアさん特製ブレンドコーヒー。
こうした料理スキルみたいな趣味要素の強い物も、レベルが高い程その出来に補正が入る。
でもリアルスキルがあるならその補正をある程度腕だけでカバーする事も出来る。
コーヒーに詳しい訳じゃないからなんとなくしか分からないが、ラザニアさんの淹れるコーヒーは美味しいが料理スキルはレベル4らしい。
スキル一つにレベル上限が30らしいから、この味はある程度自前の技術でカバーされてるのだと思う。
それにカップのデザインが可愛い。
お茶請けに提供されたチョコケーキも手作り。
もしや私より女子力高いな?
「今回は行政区だけに規模を絞ったみたいね。この緊急任務はお試し導入だったかもしれないわ」
「お試し?」
「リリースから今まではこの世界に影響・・・・・・それこそプレイヤーの行動根幹に関わる様な大きな出来事は確認されてないわ。でも2ndロット発売でプレイヤーも増えて初期ロット購入プレイヤーもスキルレベルが上がってある程度強くなってきたもの、梃入れは必要よね」
その“梃入れ”が私がやった緊急任務ってわけね。
あれ、でもそうなるとこれって・・・・・・
「・・・・・・もしかして私がやったのも分隊推奨?」
「どころか小隊推奨だったかもしれないわね」
「あー、なるほど?」
どうりで敵が多かったわけだ。
分隊、小隊というのはこのゲームにおけるパーティーの事だ。
パーティーの規模を順番に少ない順番で並べると分隊、小隊、中隊、大隊、そしてレイド単位である連隊。
分隊はワンパーティー六人、小隊はその三倍。
下手したら本来十八人で臨む任務を一人でやってたわけだ。
そりゃ弾も足りないしスニーキングを意識せざる得ない。
頭数が足りてないんだから数に差があるのは当然だったんだ。
そりゃ掲示板でネームド扱いされるわ。
実際構造情報無かったらB1Fから順番に制圧しなきゃだから絶対無理だった。
ちゃんと情報貰っておいて良かったよ。
「運営からしてみれば救世主のようであって死神かもしれないわねぇ」
「え、なんで?」
「いや、本来は複数人でやって貰う予定だったクエストを一人で突破されたし」
言われてみれば確かに。
でも機甲兵団まで相手には出来ないから半分は成功したんじゃないかな。
関係の無い複数の傭兵が手を取り合う・・・・・・あれ、私だけハブ?
私だけ手を取り損ねてない?
少し動揺したが、チョコケーキを一口食べて心を落ち着かせる。
大丈夫だ、まだ慌てる程深刻じゃない。
そもそも私の傭兵ランクはまだ低いし、協同任務が依頼に出てきてないし。
傭兵同士で交流する機会自体が少ないんだからボッチだって珍しくはないはず。
「そういえばだけど」
「なにさ」
「貴女に売った装備、使った?ユーザーがいないから他者の反応が分からなくて、感想が聞きたいのよぉん」
クネっと笑顔で催促された。
よく考えたら他の人と任務した事無いから宣伝も出来ないんだよね。
その辺は少し悪い感じはする。
せめてレビューくらいはした方が貢献できるか。
「良かったよ。使ったのはヒートナイフと閃光弾、あとハッキング装置」
「ふむふむ」
「閃光弾は強力だけど使い所見極めないといけないね、でも兵器にも効きそうだから今度試してみる。ハッキングシステムも手間が省けて楽だったわ・・・・・・でも特に良かったのはナイフね。接近戦用とはいえプレートを貫通できるのは即応手段としては上等、シースの軽量化が進んだら使う人多くなりそう」
つらつらと思った事を話すとそれを瞬時にメモしていくラザニアさん。
その目は職人的で緩い目元も引き締まっている。
普段は意識して目を丸めているのか、今が単純に鋭くなっているだけなのかは知らないけど。
こうしている時はやっぱり男なんだなと感じる。
本人は凄い否定しそうだけどね。
「ありがと、生の声は貴重だから助かるわぁ」
「こんなんで良ければ」
メモを纏めたラザニアさんが目元を緩めて礼を言うので応える。
私の意見で装備が強くなるならそれに越した事はない。
これも一つの投資だ。
一般的なミリゲータイプのフルダイブVRは一度装備が固まれば装備の更新はほぼ必要ない。
アップデート等で新しい装備が追加されると一度は使用感を試す為に解放を目指すが、一度でも使用して合わなければ結局元の装備に戻ってしまう。
こうしたゲームは武器による性能差が存在しないので、一度入手出来れば皆細かなアクセサリの違いはあれど性能に差はできないからだ。
その装備を用いた戦術、戦法、そして最後には個々のプレイヤースキルによってそのゲームにおける強さが決まる。
有名になると対策され易くなるが、逆に味方からその対策におけるフォローも貰える。
だから余程心境に変化でもなければ装備構成が変わることは無い。
だが私が現在プレイしているのはミリゲーの皮を被ったSF系のMMORPG。
純粋なミリゲーと違って生産職や戦闘職と明確に分けられており、且つ生産職による最新装備の更新が行われる。
このゲームにレベルは無いが、スキルによってアバターを強化出来るし装備だって強化できる。
同じ装備でも性能差が生まれる場合があるのだ。
つまりプレイヤーの努力次第でどこまでもアバターの可能性を拡げる事ができる。
勿論それにだって限界はあるけど、そうして試行錯誤を繰り返したアバターは唯一無二のもの。
誰にでも真似出来る物じゃない。
唯一無二の自分になれる、それもこういった成長要素のあるゲームの魅力だ。
私が意見を出すだけでそれに近付けるなら安い投資じゃないだろうか。
ま、あくまで私の意見に過ぎないけどね。
「あぁそうそう」
思い付いたかの様にラザニアさんが両の手を合わせる。
「来週の土曜だっけ、運営主導で初のイベントをやるらしいわ」
「そうなの?初耳」
「内容はお宝争奪戦だって。地区毎の総力戦で未踏査地区のお宝を奪い合うんですって」
地区毎の?
あれ、もしかしてプレイヤーの初期リス地ってラットホールだけじゃないの?
私が不思議そうな顔をしていたのか、ラザニアさんが上品に含み笑いしながら補足してくれた。
「疑問がありそうね、どっち?」
「どっちも」
「じゃあ先ずは他地区の事を話しましょうか」
ラザニアさんがコーヒーを一口飲み込んで話し始める。
「プレイヤーに割り当てられる初期リス地は一つじゃないの。ラットホール、ティガーネスト、ラビットハット、ゴートレスト、バードレイクの五つが初期リス地として割り当てられるわ」
「え、そんなに?」
「珍しいでしょ?大抵のVRMMOといえば最初の街から次の街、次の街とレベルも素材も敵の強さだって上がっていく物が殆どですものね」
そう、RPGゲームというのは基本的にレベル制。
だから最初から強い敵が跋扈する場所にはレベル1のニュービーが訪れる事は無い。
やった事は無いけど、ある程度の基礎知識は頭に入れてあるのだ。
「そしてどの地区にも差が無いわ。環境の違いはあるけど現れる敵や任務には殆ど差が無いの。初心者に対する配慮だと思ってたんだけど実は違ったのよねぇ」
「どういう事?」
「このゲームのバックストーリーは知ってるかしら」
「地続きの世界で戦争しているって奴?」
「それはこのゲームの主題ね。この世界は一度大きな戦争で壊滅してるの」
てっきり戦争中とばかり思ってた。
でもそうだよね。
良く考えればそれらしい雰囲気は全く無い。
多少荒れてる感じはするけど戦争中って程ピリピリしてないもの。
「過去の文明は物凄く技術が進んだ文明らしくって、その文明同士が戦争をした事で世界が荒廃し人々は地下に逃げなければならなかった」
「それが今の地下都市群ってわけね」
「今は再生が行われてるけど、草木が勝手に枯れてく様な凄まじい環境になったらしいわよ。少しずつ地上に進出し始めた人類でも手の出せない領域があった。暴走した無人兵器群に過去の戦争による汚染環境、そんな人が入り込めない未踏査地区を残された人々はダンジョンと命名した・・・・・・というのがバックストーリーにあるのよん。それを開拓して新しい技術を手に入れるのがこの世界における傭兵のもう一つの役割なの」
つまり未踏査地区というのは足を踏み入れていない場所ではなく、危険過ぎて行けない場所であるダンジョンの事を指すのね。
それでそうした危険な場所から発展に必要な技術を手に入れてくるのが傭兵のもう一つの役割と。
全然軽んじていい存在じゃないじゃん傭兵。
なんでラットホールの行政は傭兵にあんな態度取るの?
命懸けで街の発展に必要な技術を取ってくるなら寧ろ丁重に扱うべきじゃない。
でも建築ギルド行った時の職員の反応。
あれを見る限り傭兵側に問題がありそうな感じだった。
多分プレイヤーじゃないんだろうけど、傭兵絡みで何かしらトラブルがあったのかもしれない。
まだ一方的に悪者と決め付けるのは早計か。
「それでね、傭兵の任務難易度の違いは場所の情報確度と出没するエネミーによる違いなの。例えばどんだけ地形が単純でも出てくる敵が強ければそれなりに高ランクの依頼になったり、敵が弱くても地形がヤバければそれだけ高ランク対象の任務になったりね」
「要するに任務地の危険度によってランク分けされるのね」
「そういう事。だから移動手段とどうにか出来る装備があれば高ランク対象の未踏査地区にも勝手に行く事は出来るのよ」
つまり宝探し自体は勝手にやっても文句は言われないけど、勝手にやった場合は傭兵会社のサポートは受けられないと。
どんな場所にも自由に行き来出来るのは魅力的だ。
ただ問題は移動手段か。
このゲーム、街だけでも相当な広さだしなぁ・・・・・・それが外にまで広がるとなるとどれだけ時間が掛かるか分かったものじゃないね。
「ビークル持ってる人っているの?」
「プレイヤーで?いるわよ。MDを購入するよりは安上がりだし、現実と違って傭兵登録さえしていれば入手可能だから兵員輸送を生業にしているプレイヤーも結構多いわ」
なるほど、確かにゲームなら一々対応した免許取らずに済むしコストを考えれば合理的である。
自身が作戦行動やダンジョン探索をする際には移動手段になるし、兵員輸送を請ければ資金の調達も出来る。
目的に合わせて吟味する必要はあるだろうが、その程度なら数日もあれば出来るだろう。
「アタシも材料調達用の輸送車は持ってるわよん。街だけとはいえ、ラットホールも十分広いもの」
ふむ、私も何か買った方が良いかな。
公共交通機関だけじゃ行けない所もあるかもだし、ラザニアさんとこだって直接乗り付けた方が早い。
どうせ明日もオフだし、見に行ってみましょうか。
「どこかおススメのお店って無い?」
「そうねぇ・・・・・・基本的に品揃えは変わらないけど、NPCショップならグレーターモービルス、プレイヤーショップなら獄一門かしら」
「獄一門?」
なにその怖い名前。
「非合法っぽい感じで合法的にビークルを売るロールプレイヤーの集まりよ」
「普通に良い人じゃん」
逆に行ってみたいわそれ。
どんな人達がいるのか気になるわ。
「それじゃ明日、何も無ければ寄ってみようかな」
「それなら連絡しておきましょうか?あそこの総長とは知り合いなのよ」
「えっ、そうなの?じゃあお願い」
「承ったわ」
さて、ロールプレイヤーの集まりらしいけどどんな感じだろうか。
ヤクザ系なのかな。
まだ見ぬ面白プレイヤーを脳裏に浮かべながら、明日の目的に思いを馳せるのだった。
*************************************************
なお、これは同性同士の会話では無い模様(但し心はレディ
0
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる