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しおりを挟むそうして迎えた四日目。
私はドッグオーダーにて名指しの呼び出しを喰らっていた。
別に何かヘマをした訳じゃなくて、私を名指しで依頼した者がいるらしい。
それがとんでもない重鎮で、ドッグオーダー史上初の依頼者による名指しらしい。
どんな人物かって言うとーー
「また、お会いできましたわねユキ様」
ふんわりとした長いゴールドブロンドにおっとりとした目尻ながら鋭くも見える蒼眼。
色白のきめ細やかな肌に質の良さそうな白いワンピースドレスの似合う上品な装いの美少女。
行政区代表、リリーラ・ラヴィアンである。
なんで?
私今日は獄一門の皆さんに会いに行く予定だったのに。
断れない案件だから来たけどどうしろというのか。
私に政の腹芸は出来ないよ?
基本的に直球で行くよ?
人には得て不得手がある事を偉い人は知るべきだね。
どちらにせよ用件を聞かない事には進まない。
こうなった以上は逃げる事は諦めて立ち向かうべきだ。
普通に会話すればいいんだ。
それ以上をする必要は無い。
ドッグオーダーズのお偉いさんだって一傭兵に政治的な判断なんて求めてないはず。
「早かったね、人質ちゃん」
「リリーラ、とお呼び下さいませ」
一般人にお偉いさんの呼び捨てはハードルが高いでしょ。
私が言えた事じゃないけど。
「今回はなんの御用かな?」
「ユキ様、是非リリーラとお呼び下さい」
これはー・・・・・・呼ばないと話が進まないパターン?
ちょっと試してみようか。
「人質ちゃんはーー」
「リリーラとお呼び下さいませ」
「人質ちゃんは私にーー」
「リリーラとお呼び下さい」
「人質ちゃん」
「リリーラと」
繰り返しているとどんどん涙目になってきた。
そしてシンクロする様に護衛の目付きが鋭くなっていく。
まぁここで襲われたとしても返り討ちには出来るけど、面倒事にする程忌避してるわけじゃない。
というか私の無神経さは先程から代表の呼び方で察して頂けてると思う。
私は被りを振って降参宣言しておく。
「あー、分かった分かったリリーラ・・・・・・長いからリリーでいい?」
「っ!?も、もちろんですわ!」
泣き顔から一転、涙目のままそれはもう花の咲く様な笑顔で肯定した。
いやー、美人は泣き顔で笑っても華になるね。
夢心地のようだけど、私としては気が気じゃ無いんだ。
なんで呼ばれたのか未だに解らず仕舞いなんだ。
そもそも今日の予定、この急な指名依頼でキャンセルになってるんだよね。
相手方にも悪いからあんまりこういうドタキャンはしたくないんだけど、イベントに進行があった事を考えると余り軽視出来ないし。
「んで?私みたいな新人傭兵を指名依頼なんてどういう用件なんだい?」
「あぁ、申し訳ありません。つい取り乱してしまいました」
リリーラは従者から受け取ったハンカチで目元を軽く拭い、先程の様なエレガントな装いに戻る。
取り乱した理由が傭兵に名前を呼ばれなかったからと考えると変な人にしか思えないけど、どうせ付き合いも長くないだろうしスルーしとこ。
精神的にまだ幼いだけかもしれないし。
仕切り直したリリーラはいよいよ話を始めた。
「先ずは先日の御礼を。有難う御座いました」
「それは報酬を貰ってるからいいよ。その時に何度も聞いたしね」
頭を下げられたので気にしてない旨を伝える。
態度は変えない。
これで舐められても困るからね。
女性、傭兵となるとその見た目で侮られる事だってあるかもしれないし。
「今回お呼びしたのは前回の件で追加のお礼と今後についてお話をしたいと思い、こうして依頼させて頂きました。わたくしは傭兵会社ではなく、貴女個人を評価しておりますので」
言いたい事はなんとなく分かった。
傭兵会社は信用してないけど私個人は信用できるから、傭兵会社のお偉いさんじゃなくて私個人にコンタクトを取ったのね。
何故あれだけで信用が得られたのか解らないけど、考え方としては正しいのかな。
それにしても追加のお礼は気になる。
貰える物は貰っておきたい序盤の懐事情である。
遠慮する気は毛頭無い。
「報酬は貰ったと思うけど」
「それだけじゃ足りませんわ。自惚れる気はありませんが、わたくしが再起不能となればラットホールそのものが麻痺するでしょう。恐らく彼らもわたくしを生かす気は最初から無かったと思いますの・・・・・・我事ながらわたくしに依存した現在の行政機能の弱さが露呈してしまいましたわ」
少し気落ちしたように声のトーンが落ちる。
最終決定する上位の存在は必要だと私も思うけど、全部集約するのは違うよねぇ。
こういう事も想定してリアルだと分権という方式になったんだし。
「今回はわたくし達も現在の仕組みの弱さを痛感しました。今後この脆弱性を解消するべく協議していくつもりですわ」
「それがいいだろうね。指揮系統の集約は混乱を防げるけど、分配しないと意味が無いし」
指揮系統の統一は悪い事じゃないけど、アフターフォローも考えておかないと弱点になってしまう。
今回の一件はその典型例。
ちゃんと反省しているなら、今後は人質救出の労力は減るかな。
「それと追加の報酬なのですが・・・・・・」
「あぁそれね。何を用意してくれるんだい?」
「ロバート」
彼女がそう呟くと護衛の一人が動き出し、部屋の隅に置いてある長いケースを持ち出して私の前に置いた。
置いた時の音からケース含めて約9kgかな。
もしかしなくてもガンケースだねこりゃ。
ロバートさんがケースを開くと、16インチのARより長い程度のブルバップ式の大型ライフルが鎮座していた。
複列式ケースで弾頭の大きさは12.7mmくらい。
バレル形状からして狙撃用だと思うけど、それにしたって全長が短い
サイレンサー前提の仕様なのかな。
「少し、いえかなり迷いましたが、こちらを用意させて頂きました」
「対物ライフル?」
「その通りです傭兵。こちらはSM-127 vespaとなります。スマートマテリアル社の最新型アンチマテリアルライフルで射程距離よりも携行性を重視して設計されております。発射方式はセミオンリー、装弾数は8発、口径は12.7mm重量は装填済みマガジン含めて8.3kgになります」
ショップじゃ見た事ないな。
細い円筒型のマズルブレーキにフルート形状のアウターバレル。
レールは上部ストック基部からアウターバレル基部まで伸び、更にバレルを囲う様に三面レールが付いている。
ピストルグリップは内側にチェッカリングのある箱型、ストックと一体化した機関部には可変式チークパッドが付いている。
手に取ってみると重いには重いが、機動力には支障無い程度だ。
スコープは可変式光学スコープ、というかナイトビジョンとサーモを切り替えられる。
どういう構造してるんだろう。
「最近傭兵が持ち帰った技術が使われておりまして、従来の対物ライフルよりも反動が軽減されているそうですよ」
「へぇ、それはいいね」
傭兵・・・・・・プレイヤーかな?
初期ロットからやってる人はレベルの高いダンジョンにも行けるだろうからあり得なくもない。
このゲーム中にもしかしたら本当にネームドがいる可能性もあるけど、そんな優秀な傭兵がいるならテスト版からもう少し進歩があるだろう。
プレイヤーの職業も自由度が高いからか色んな人がいるみたいだし、探索専門がいても可笑しくはない。
「如何、でしょうか?」
「ん?」
何かを伺う様な不安そうな表情のリリーラ。
一傭兵なんて怖くないだろうにどうして・・・・・・あぁ、そういや言ってない言葉があった。
「気に入ったよ、ありがと」
「っ!良かったですわ」
途端に安心した表情で胸を撫で下ろす。
・・・・・・大きいな。
じゃない、無言でプレゼントしたものを弄くり回してたらそりゃ不安にもなるよね。
配慮が足りなかったわ。
「それと、ユキ様。これからは個人的に相談したい事もありますし、色々とお頼みしたい事もあるでしょうし、その」
「その、なに?」
「れ、連絡先をお聞きしたいのですけど・・・・・・」
別に異性に訊くでもないし、そんな緊張しなくても。
もしかして偉くなり過ぎて友達いないのかな。
連絡先を教える程度なら問題ないし、この子がどういう目的で連絡先を聞きたいのか分からないけど別に変な事には使わないでしょ。
私はライフルをケースに戻して蓋を閉じると、MTTを指先で二回突いた。
「ユキ様・・・・・・!」
それを察したリリーラが自身のMTTを触って申請を送ってきた。
プレイヤーだとフレンド申請画面が表示されるが、NPCだと普通の連絡先登録の画面が表示されるようだ。
迷わずOKを押して登録する。
『NPCネームド“リリーラ・ラヴィアン”をフレンド登録しました』
『これによりネームド“リリーラ・ラヴィアン”による特殊任務が発生するようになります』
(特殊任務・・・・・・?)
久し振りにアナウンスが入った。
特殊任務というのはなんだろうか。
緊急任務とは違う様だが、攻略サイトに載ってるかな?
後で確認してみようか。
流石にこれは知っておかないと後々対応に困ると思う。
「ユキ様、わたくしまたご連絡致しますねっ!」
「えっ、あぁうん」
「ロバート!御見送りを。今回は予定がある中ご足労頂き有難う御座いました。ロバートに送らせますのでお気を付けてお帰り下さい」
興奮冷めやらぬ様子のリリーラ。
私はそんなリリーラを背に、ロバートの先導で行政塔を後にするのだった。
▽
重いトランクケースを片手に、私がやってきたのは射撃場。
ニュービーと思われるプレイヤーが何人か射撃しているのを見届け、私は端の方まで歩いていきトランクケースを下ろした。
そしてもう一つ、片手にした重い籠をドン。
中から取り出したるは、入場する際に購入した12.7×94mmSIAMという今回貰ったライフルの専用弾だ。
お値段なんと1マガジンで15bis。
この世界で普及している9mmが50発で1bisである事を考えたらとんでもないお値段だ。
こっちに来てベスパの弾無いか聞いたらすぐにこれを渡された。
まだ市場に出てないライフルの弾がなんでもうあるんだとかツッコミ入れたいけどゲームの仕様と無理矢理納得させる。
とりあえず最低でも1マガジンは撃ちたいので32発購入。
弾をマガジンに一発ずつ籠めて四つのマガジン全部にフル装填。
ブルバップだから慣れてないけど、違和感無い程度にスムーズに装填できたからヨシ!
ボルトを引いて脇を締めて確りと保持、スコープを覗いて100m先のターゲットを狙う。
トリガー。
射撃と同時に若干くぐもった鈍く、重い銃声と共に肩に強烈なショックが襲い掛かる。
だが思った程ではなく、精々ショットガンのスラッグ弾を射撃した時より若干強く感じる程度の衝撃だ。
跳ね上がりもそれ程大きくないし、マズルブレーキが特殊なのか弾薬が特殊なのか噴煙もそれほど酷くない。
経済的にも重い弾を景気良く速射。
通常のアンチマテリアルライフルよりもボルトスピードが早く、マークスマンライフルのそれとほぼ変わりない。
精度も良い。
連続射撃の所為でブレはするが、ファーストショットは間違いなく中心を撃ち抜いていた。
後の弾丸も大きくは外していない。
大体が狙ったバイタルエリアを貫いている。
さて、長距離はどれだけ行けるかな?
リロードして先程より遠い的を狙う。
射撃。
そして20m更に距離を伸ばして射撃。
残りの24発全て撃ち尽くし、再度購入して射撃。
驚く事にこの銃、接近戦用と思って侮っていたが有効射程は935mと判明。
短い癖に遠くを狙えるのは凄い。
どういう機関部構造してるんだろう。
私でメンテナンス出来るか?
仕様書は一応貰ってるけど余り自信は無い。
現状は一点物だから大切に使わないといけないんだけど。
そうしてるといつかの教官が隣まで来てるのに気付いた。
この銃に関心を持ってるのか、熱心に見詰めている。
そう思ったので尋ねてみた。
「この銃、前回の報酬で貰ったんだよね」
「そりゃ、随分と太っ腹だな。対物ライフルだろ?」
「そうですよ。ただ現状は一点物なんで整備どうしようかなって思ってた所」
すると教官が顎に手を当て、少し思案顔になったかと思えば急に話し出した。
「なら俺の所に来い。整備の基本を叩き込んでやる」
「いいの?贔屓っぽく見えるけど」
「優秀な傭兵には長く生きていて貰いたいんでな、見込みがある奴には声を掛けるようにしてるんだ」
ゆう、しゅう・・・・・・?
私くらいなら他にも結構いると思うけど、何をもって優秀としたのやら。
もしかして全員に声掛けしてるのかな。
だったら整備教室みたいな、学校の授業みたいな物か。
「それだったらお願い出来る?生きる為には必要な事だしね」
「当然だ。生き残る意思のある傭兵の期待には応えてやりたいからな」
そうしてニヒルに笑う教官。
そうなんだ、教官も出来れば傭兵には長生きして欲しいんだ。
これはなんというか、益々死ねなくなったねぇ。
期待に応える為にもさっさとこいつの整備をマスターしてしまおうか。
私はこの日の最後を、銃の整備勉強に費やす事になったのだった。
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