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Mission3-1
しおりを挟む商業区のビル街。
商業区の中で比較的静かなその場所で数発の銃声が鳴り響く。
「来るな!化け物・・・・・・」
男の怒声が一発の銃声で途切れる。
僅かな沈黙。
そして銃声のしたビルから一人の武装した少女が、正面の出入り口から歩いて出てきた。
少女は手に握った小銃のチェックをしながら一言呟いた。
「疲れた」
少女ーーユキの仕事終わりである。
▼
六日目。
トライグリッドはとても役に立っている。
最初こそ思った以上にパワーがあって振り回されかけたが、他のゲームで運転経験があったお陰で難なく乗りこなせる様になった。
そのパワーとスピードのお陰で現場に急行するにも時間を余り掛けずに行ける。
ラザニアさんの所にも直接移動できるし、移動時間が短縮できるしでさまさまって感じ。
早くも仕事を終えてラザニアさんのお店でアイテムの補給中。
今回はお昼から簡単な任務を一つ受けてきた。
ある商社にて真っ当な理由で解雇した労働者が不当を唱えて武装して本社を占拠。
それを制圧して欲しい、というのがあらましだったんだけど。
セムテックスの起爆スイッチ握ってた男と、ライフルで武装した連中を仕留めた後にその商社で不正が発覚するというなんとも後味ワルワルな任務だったというのをついでに愚痴ってきた。
最近こんなんばっかね。
「話を聞いてると最近は傭兵らしい汚れ仕事も増えてきたみたいね」
「そうなの?」
「掲示板でもツラいって意見、良く見るようになったわ」
やっぱりそうなんだと納得する。
新しく見るようになった任務は結構人間的な、悪く言えば汚い側面を押し出した物が少し増えたのだ。
特に低ランク帯で多いようで、プレイヤーに怒鳴られてるシーラを見た事もある。
良く言えば任務に簡単なストーリーが見られる様になった感じ。
私が発生させた追加任務もストーリーちらりと見られたけど、全部同じなら発生難易度が高くてストーリーを見られない人も一定数いると思う。
それを分かり易くしたのが今回の新任務なんだろうね。
「それと街中での戦闘任務も増えたわ。最近銃撃戦を見掛けるようになってアタシも怖いのよん」
「大丈夫だよ。ラザニアさんなら見ただけで敵兵が逃げ出すから」
「まぁ!生意気言う様になったわねぇ!」
実際筋骨隆々で軍事に長けてそうな相手を見たら逃げると思う。
明らかに慣れてる体格だもの。
「でも実際巻き込まれそうで怖いって意見もあるわ。何かしらテコ入れがあると良いんだけど」
「私からしたらその意見が運営の目論見通りの可能性も考えてるけどね」
「それはどうして?」
「このゲームの生産職って特殊なプレイヤーでもなければ外に出ないでしょ?でもそれだけだとリアルと何も変わらないから、戦闘を通じて生産職プレイヤーにも非現実感を感じてもらいたいんじゃないかなって」
戦闘は非現実を伝える分かり易いイベントだ。
リアルの日本は紛争も過激なデモもテロともほぼ無縁な平和な国だ。
小さな諍いはあれど、そこそこの人数が死亡するような大きな事件は暫く起きてない。
なので多くの人々は殺し合いとは縁遠い。
命のやり取りが近場で発生するだけでも大きな変化に感じる筈だ。
ましてやこの世界は現実では見られない様な武器兵器が存在している。
日常だけで完結するのは難しいと思う
「セオリー破りではあるけど効果的なのは間違い無いわね」
「だからその内警備員みたいな依頼も、出てくるんじゃない?」
水分補給の為に購入したスポドリを一口飲みながら続ける。
生産職にとってデスペナは致命的だ。
怪我の状態次第では暫く手一つ動かせなくなる。
その間生産行動の一切が取れなくなって他の生産職に差を付けられてしまうのだから堪ったものではない。
生産職としてアバターを育ててるなら、戦闘用のスキルなんて殆ど持ってないだろうしね。
ならばどうするか。
そういう人達は戦闘出来るプレイヤーに守ってもらうのだ。
このゲームにおいて依頼できるのは何もNPCだけではない。
プレイヤーだってちゃんと適正な報酬さえ出せるなら依頼を出す事ができる。
受けてくれるかは運頼みだが、何もしないよりはマシだろう。
そんなお話をしている途中でなにやらMTTからデジタルタイマーみたいなシンプルな音が鳴り始めた。
なんだこれと首を傾げてるとラザニアさんが教えてくれた。
「それ、未設定時の無線呼び出しよ。誰かから通話を求められてるのよ」
「そうなんだ・・・・・・どうするの?」
「普通に操作すればトップ画面で表示されるわ」
言われた通りにしてみると何やら画面が立ち上がった。
コールしてきたのは・・・・・・リリーラだ。
そのまま繋げると、モニターにソファーで行儀良く座るリリーラの姿が映った。
【聴こえますかユキ様!】
「聞こえるよ。穏やかな感じじゃないね、どうしたの?」
【緊急の依頼ですわ。以前の襲撃を実行したならず者達が生き残りを連れて浄水管理施設を占拠しました。彼らは報復にラットホール浄水機能を止めて水質汚染を行うと声明を出しましたわ、これを制圧して下さい」
素早く浄水施設の建造物情報を引き出して表示。
マップを叩き込みながら内容を詰める。
「戦力規模は?」
【MD2機にBD16機、対歩兵兵器や歩兵の数は不明ですわ】
BDというのはビーストドール、つまり脚しか無かったり奇怪な形状したMDに分類されない兵器の事だ。
人型じゃないから獣、単純だが分かり易い。
しかし歩兵じゃキツイ相手が多過ぎる。
まさか一人で制圧してこいって言わないよね?
「MDとかは相手できないよ、他の傭兵は?」
【既に依頼を出しました。ユキ様は先行部隊と共に彼らのウイルス兵器を無力化して下さい】
「なるほど、二面作戦ね」
大規模な戦闘部隊を囮に、少数精鋭で先じて敵の切り札を使えなくするのが目的ね。
これなら敵の防衛戦力を割けるから侵入経路も確保し易い。
なら部隊の展開位置を聞いてルート構築とリカバリールートを確認しておかないと。
【成功報酬として15万bisを用意させて頂きました。詳細は後程、データを送らせて頂きます。必ず阻止して下さい】
「ん、りょーかい」
【それと・・・・・・】
何か言葉を続けようとして言い淀むリリーラに思わず手を止める。
その直後に少し顔を朱に染めて控え目な声で言葉にした。
【ユキ様・・・・・・お気を付けて】
通信が切れる。
うん、言葉にした事の無い言葉って口に出し難いよね。
私も経験あるよ。
一時ボッチだったし。
「あ、え?ユキちゃん、今の娘って・・・・・・」
何やら狼狽するラザニアさん。
こんなに動揺するラザニアさんを見るのって初めてかもしれない。
なんか新鮮。
「リリーラ?最近友達になったの」
「リリーラ!?それってラットホール代表リリーラ・ラヴィアン!?」
「合ってるよ。あぁ、帰ってから話すね。ラザニアさんのコーヒー飲めなくなっちゃうし」
「ああ、ぁぁあ、後でちゃんと話してよねぇー!」
目が飛び出る様な形相で取り乱すラザニアさんをそのままに、私は店を出てバイクに飛び乗った。
▽
トライグリッドを停めて物陰に隠し、装備プリセットを呼び出した。
素早く各種装備の点検を行なって初弾を装填しておく。
万が一敵に出会してもすぐに発砲できるようにしておかなくちゃね。
それにしても装備をインベントリに仕舞うと初弾装填無かった事になるのどうにかならないかな。
面倒臭い。
今回はまだベスパは使わない。
サイレンサー買ってないし、そもそも過剰な攻撃力は周辺被害が大きくなるから万が一タンクを誤射したら取り返しが付かない。
消費した装備品はラザニアさんの所に寄ったついでに補充済み。
弾薬等も問題無し。
チェック終了、念の為周辺をグラスの望遠機能で索敵。
視界の通る範囲には人影無し。
ドローンも飛んでない。
目標ポイントまで前進する。
草木を掻き分け真っ直ぐに浄水施設近辺のダム管理棟に移動。
ここが合流ポイントになっている。
侵入経路はここからダムを右に迂回して向かった先の下水道だ。
この下水道を通っていけば丁度浄水施設内部に侵入できる。
歩いていく事五分程度。
管理棟に到達、念の為周辺をサーマルで確認しておく。
このサーマル、グラスの前に仮想光学レンズが浮き上がるから目立つのが難点だ。
姿勢を低くして一目したが生物の反応無し。
サーマルを切って物陰に隠れて待つ事にする。
その間に構造確認。
それとリリーラに送って貰ったデータを確認しておく。
使用されるであろう場所と汚染範囲から予想されるタンクの推定容量と大きさ等々が記されている。
細かい情報の取捨選択を行いながら思う。
遅くない?
チームの合流、遅れてるんですけど。
それとも先に向かっちゃったのかな。
私が遅れてる可能性もある、けど予定時間ピッタリに来たつもりだったんだけど違ったのかな。
再度予定時刻を確認、現在時間と照らし合わせるが既に予定より七分超過している。
任務、開始すべきだろうか。
それともリリーラに確認を取るべき?
迷っていると複数人の足音と声が聞こえてきた。
随分大きな声で喋る。
遠足かな?
現れたのは先頭に金髪の派手な装いの青年だった。
若く見えるので二十代前半かそこらかな。
手にはショップで見た中口径のARだ。
見た目はスカーに似ている。
他にもランジェリーを身に付けたミニスカの女子や似たようなホスト紛いの男性が現れる。
ペチャクチャと喋りながら。
「うっし到着ー」
「俺ら一番乗りじゃね?」
「マジ?他に受けたやついないんじゃね?」
「みんなビビって来なかったんじゃないのぉ?」
なんだ、その・・・・・・なんだ?
特殊任務だって聞いてたんだけどフリーミッションだったのかな。
あぁ、それともそういうロールプレイかな。
だとすれば見た目通りに見るのは可笑しいか。
オヤジさん達だって見た目は悪そうな事してそうだもん。
観察してるとそれとは別にゴツい人が来た。
人相がヤバい。
目に刀傷、マッチョ、ショートモヒカンにガテン系な顔立ちと鋭い目付き。
そんなのが三人現れたのだ。
見なよ、チャラ男プレイヤーも固まってるじゃん。
でも装備はちゃんとプレートキャリアも着込んだPMCスタイルだ。
プレートキャリア前面のベルクロに「夜露死苦」と刺繍されたワッペン付けてるけど。
そして更に後ろから一人だけ、女性プレイヤーが付いてきていた。
装備は近未来系。
顔以外の全身を覆う白基調にグリーンのラインが入ったラバースーツに、バイタルエリアに着けられたプロテクター。
耳にはアンテナみたいなヘッドセットを付けているので見た目はウサギにも見える。
武器は分からないけど、体術が強いのかもしれないし見た目で侮れない。
見た目のせいで侮れない人もいるけど。
「これで全員?」
「いや、一人足りねぇ」
「先に現地に向かった奴がいるはずだが・・・・・・」
どうやら私以外も到着したらしい。
今回は小隊規模だね。
そろそろ私も姿を見せようか。
茂みからゆっくりと姿勢を直立に戻しながら出ていった。
「揃ったみたいだね」
「てめぇ・・・・・・!何時からそこに・・・・・・」
人相の悪い人の人相が更に悪くなって怖いわ。
でも同僚だから警戒しないでほしい。
「最初から。誰もいなかったから遅れたのかと思ってたよ」
「言うじゃねぇか」
「まぁまぁ、こっちも編成に手間取ったのは事実だしさ」
もう一人の大男が反応したのを見て近未来装備の女性が割って入る。
「遅れてゴメンね。私は小松菜、アナタは?」
「ユキ、今回の任務は宜しく」
「そう、アナタがユキちゃんね。ヨロシク!」
ウインクして握手を求めてくる小松菜さん。
その仕草が似合っていてお茶目な女性らしさが感じられる。
「へっ、ガキは後ろでガタガタ震えてな!」
「クソ野郎どもはオレ達の獲物だ」
「テメェの助けなんていらねぇよ、オレ達の仕事でも見てな」
言葉通りに受け取るととんでもない悪党にしか見えない。
見た目の所為で余計にね。
でも私はこの人達に既視感を感じるんだよね。
最近会った気がする。
「要約するとー・・・・・・“オレ達が守ってやるから安心しな”“敵は全部オレ達が倒す”“見てるだけでもいいから無理するなよ”だね!」
「「「訳すな!」」」
「息ピッタリ」
小松菜さんが全部翻訳してくれた。
面白いなこの人達。
「オレ達は泣く子も黙る極一門の戦闘員だぜ?」
「あー、やっぱり?オヤジさんの所で見たなって」
「「「客かよ!?」」」
「おやっさんのお客さんならその反応も分かるわー!」
ケラケラと笑いながら共感してくれる小松菜さん。
でもそろそろブリーフィングを始めたい。
予定時刻少し過ぎてるんでね。
「これからブリーフィングを始めるよ。とりあえずみんな集まって」
MTTにメモリを差して更に立体映像にして建造物の仮想MAPを表示する。
それを見て周囲がどよめくが一々反応してられないのでスルーして説明を始める。
「今回の任務はバイオウェポンの使用を阻止する事。流出さえ防げれば手段は選ばなくていい。私たちがこれから侵入するルートはここ」
長い木の枝を指揮棒代わりにダム横の大穴を指す。
ここから下水道に入る訳だが、ここを通るにはメンテナンスデッキを渡る必要がある。
「ここを狙撃されたらどうする?」
「ここから通じるマンホールは現在使用されてないんだよね。だからここのダムを管理している人間だって知らない、知ってるのは責任者か行政区の要人くらいね。一般の職員には知らされてすらいない」
それ故に突入には覚悟がいる。
主に虫とか、臭いとか。
「なんで貴女がそれを?」
「もう知ってる人も少ないけど、建造物の情報全てを取り扱っている商社がある。そこに建造した物の情報を提出する義務があるから大体の建築物の情報はそこで揃う」
余り長時間喋る事がないから精神的に疲れる。
でも余裕も無いからさっさと喋り切ろう。
「この下水道を通れば浄水施設の真下に出れる。そこからは二手に分かれてバイオウェポンの入ったタンクを処理する・・・・・・場所は浄水槽、もしくは生活水供給水路のどちらかね」
時間は一刻を争う。
陽動に焦れて使われる前に排除しなきゃ。
そう思ってると反論の声が上がった。
「なんでガキが取り仕切ってんだよ」
「普通あたしらじゃね?」
「俺らは俺らで行こうぜ。ガキが一緒じゃ何されるか分かったもんじゃねぇし」
するとチャラ男グループが勝手に動き始めた。
しかもさっき説明したルートとは別の方向に。
ちょっと待って、行動するならせめてどのルートに行くのか話してほしいんだけど。
「おい、お前ら」
「勝手な行動すんな!この子は・・・・・・」
「あーぁ、行っちゃったよ」
うーん仕方ない。
まだ無線のペアリングも済んで無いから呼び戻すのもリスクがある。
彼らにも陽動をして貰おう。
少なくともこの任務を受けたならそれなりに強いはずだから死にはしないでしょ。
「無線の同調を。私達は私達で予定通り動く」
「いいのか?放っておいて」
「彼等なりに考えがあるんだと思うよ。だから私達は当初の予定通り隠密作戦で行く」
無線を開いて周囲のMTTとの同調処理を開始。
他も釣られて同調を始めた。
『ユキ、ダスク、怒紋、デイダラ、小松菜により部隊が結成されました』
「済んだね、行こうか」
「おうよ」
「嬢ちゃんの出番なんざねぇと思いな!」
「オレ達の恐ろしさを頭にブチ込んでやるぜ」
「元気ねぇ」
こうしてまさかの緊急任務が始まったのだった。
そういえばあのチャラ男さん、名前聞いてなかったや。
**********************************************
最近仕事が増えて帰って一通り終えて「さぁやるぞ!」で気付いたら朝のパターンが多くなって参りました。
慣れるまであんまり書けないかも。
私は悲しい(ポロロン
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