俺が子連れエルフに一目惚れした話

kaduki

文字の大きさ
10 / 18

私の太陽【4】 ヒースside

しおりを挟む
アンさんに連れて行かれた部屋には、きつい目つきの女性とにこやかな老紳士がいた。

「執事長、侍女長、例の方々です。お連れいたしました。」

「ああ、イアン様からある程度は聞いている。ご苦労だったね。」

執事長と呼ばれた老紳士はアンさんを労う。

「君達が、イアン様が連れてきたという子たちだね。」

「はい、私はヒースと申します。こちらが・・・」
「よろしくありませんね。」

自己紹介をしようとすると、きつい目つきの女性に遮られる。

「自己紹介はよろしいのですが、子供の自己紹介まで勝手にやってしまうの、非常によろしくありません。」

つかつかと、女性は近づいてくる。

「坊や。自分の名前は言えますか?」

ロベルトは少し怯えながらも、頷く。

「そう、ならば自分で名前をおっしゃい。親に頼りきりでは、いつまで経っても自立など見込めません。」

「ろ、ロベルトと、・・・申し、ます。」

「そう、よい名前をつけてもらいましたね。これからは自分の名に誇りを持って、自分で名乗りなさい。
よろしいですか、ロベルト?」

「は、はい!」

呆気にとられていると、女性の目線が、こちらへと向く。

「ヒースさん。息子さん思いなのは結構ですが、何でも代わりにやってあげればいいというものではありません。
それは、回りまわってロベルトくんの為になりません。」

きつい目つきに気圧される。

「ロベルトくんは、イアン様の意向で学び舎に通うことになります。そこでは、あなたが付きっきりというわけにはいかないのです。」

その目は真剣で、本気でロベルトの未来を憂いていることが分かった。
少し、目頭が熱くなる。

「親であるあなたが、他でもないロベルトくんの成長の機会を奪っては・・・」

他人であるはずのロベルトを、こんなにも憂いてくれる人がいる。
至らぬ私を親と認め、注意してくれる。
こんなにも、嬉しいことだとは思わなかった。

「な、泣いているのですか?」

強く言いすぎたかと、女性は戸惑う。
目元をぬぐってみれば、確かに涙がこぼれていた。

「すみませ・・・!こんな、こんな奴隷である身で、未来を心配してくださって・・・!」
「いけません。」

また、待ったをかけられる。

「あなたは、確かに奴隷として買われてきた。けれど、イアン様がここの使用人として使うと決めたからには、奴隷である前に、アイゼンシュトンの使用人です。奴隷であることを理由に、自身を卑下してはいけません。
ここで過ごすのならば、まずはアイゼンシュトンとして誇りを持ちなさい。」

女性は、私の目元をぬぐう。

「そのためにはまず、アイゼンシュトンにふさわしい身なりになってもらいましょう。」

「ありがとう、ございます。」

「その感謝は、寛大なイアン様と、イアン様に拾っていただけた自分の強運になさい。
私たちはイアン様にふさわしい振る舞いを、と思っているだけですから。」

勝手に、イアン様に対する期待が膨らんでいく。
 これほどまでに慕われているイアン様なら、私たちをよく扱ってくださるのではないか。
 もしかしたら、人間らしく扱ってもらえるのではないか。
期待など、すればするだけ残酷なものだというのに。

「コホン。申し遅れましたが、私はアイゼンシュトン家の侍女長マチルダと申します。
“侍女長さん“もしくは“マチルダさん”とお呼びなさい。」

今まで静観していた老紳士も口を開く。

「ついでの自己紹介ではありますが、私が執事長のハリスでございます。」

ハリスと名乗ったその人はにこやかではあるものの、感情が読めない。
きつい目つきで表情が乏しくても、感情が真っすぐ伝わってくるマチルダさんとは真逆だ。

「それでは早速、身なりを整えましょう。ロベルト、あなたは私についてきなさい。
ヒース、あなたは執事長について行きなさい。」

**********

ハリスさんについていく。
無言で私の前を行くハリスさんはにこやかな顔を一切崩さない。少し不気味なほどだ。

長い廊下を、ハリスさんの靴音と私の足音だけが通っていく。
アンさんがたくさん喋ってくれたからか、この沈黙がとても気まずい。

「・・・ヒースさん。」

どれほど歩いただろう。
三度ほど角をまがったとき、ハリスさんが口を開いた。

「はい、何でしょうか。」

振り返ったハリスさんの表情はにこやかなままで、表情からは感情を読み取ることはできない。

「あなたに、聞きたいことがあるのです。」

しかし口調は重く、これから聞かれることが彼にとって軽いものではないことが察せた。
促されるままに部屋へ入り、シャワールームへ向かう。

「今着ている服は、もう二度と着ることは無いでしょうから、そちらの隅に適当に固めておいてください。」

何を聞かれるのだろう。

「身体をきれいにした後は、髪を整えます。」

少し、緊張してしまう。私に答えられることだろうか。

「浴槽の中に入ってください。洗いますよ。」

もし、答えられなかったら・・・叱責を受けるのだろうか。
私がうまく受け答えができなかったせいで、ロベルトの扱いが悪くなってしまったら、私は自分を恨んでも恨みきれないだろう。

「よかった。拒むことなくちゃんと入ってくれましたね。」

そう言われて、今、自分がとても豪華な湯船に浸けられていることに気がついた。
今まで主人からしていた香りが、湯船から香る。
これ、私が入ってはいけないものだったんじゃ・・・どうしよう。

「あ、暴れないでくださいね。高い香油を使っているので、湯船からこぼれてしまうとなかなかの損失なのでね。」

・・・もしかして、もしかしなくても、さっきの聞きたいことがあるって・・・私をおとなしくさせるためだったのでは?落ち着いて、冷静に見てしまえば、この湯船につかる前に拒んだであろうことが予想できる。

「えっと、私は何をすれば・・・」
「じっとしていてください。」

言われたとおりにおとなしくしていると、身体を隅から隅まで磨かれる。
・・・こんなにきれいにされたのは初めてだし、ましてや誰かに洗ってもらうなんて想像したこともなかった。
じっとしていなさいと言われなければ逃げ出していただろう。
何回にも分けて、頭を洗われる。
絡まっている髪を、丁寧にほどかれる。

髪を洗う水音が心地よく、浸かっている湯船の温度が眠気を誘う。

なんだか自分の立場を忘れ、貴人にでもなったかのような心地だった。

「そのまま、気負わずに、すこしお話をしましょうか。」

「はい。」

閉じかかっていた目を開けると、にこやかなハリスさんと目が合う。
・・・どこか、安堵にも似た感情が浮かんでいる。

「このように侍女長や執事長自ら湯浴みを手伝うことなど、本来主人以外にはありえないことなのですよ。」

口調はひたすらに穏やかで、まるで、私が慈しまれているかのような、そんな錯覚に陥る。

「こうしてあなたの湯浴みをお手伝いさせていただいているのは、他でもないイアン様から頼まれたことだからです。」

「イアン様が・・・」

「ええ。決して、特別扱いなどしてこなかったイアン様が、です。
・・・なのでお聞きしたい。」

ザアー・・・と頭にお湯をかけられる。

「どのように、イアン様をたらしこんだのですか?」

すこし、ぞっとする。
特別扱いをしてこなかったみんなの自慢の主人が、ぽっと出の奴隷なんかに特別扱いをしていたら、それはそれは気分が悪いだろう。

しかし、ハリスさんの表情は柔らかく、穏やかだ。
・・・にこやかなままなのではっきりとした感情の変化は分からない。

「・・・ただ、すがりついて助けを請うただけです。なので、・・・ご主人様がどうしてここまでよくしてくださるのかは、・・・分かりません。」

ハリスさんの目が、スッと細められる。
表情の変化はほとんど見られないが、なにか複雑な心境だったのだろうか、少しだけ眉間に力が入っている。

「そうですか。」

いつの間にかふわふわとした心地は消えうせ、気まずい空気になってしまった。
何と答えるべきだっただろう。
悲しいことに、私はジョークを言えるようなユーモアを持ち合わせていなかった。・・・アンさんだったらうまく言えたのかな。

「・・・申し訳ない、少し浮かれていたようです。」

私の頭を拭きながら、ハリスさんは謝る。

「イアン様は昔から・・・私がお仕えし始めたころから、誰にも平等な方でした。
それゆえに、執着のない方でもあったのです。」

身体も拭かれ、簡単に採寸される。

「イアン様があなた方を連れ帰った時、私は嬉しくてしょうがなかった。
ご自身で連れて帰ってくるなんて、とても珍しいことだったもので。もしかしたら、あなた方はイアン様にとっての“特別”たりうるのではないかと。」

見るからに新品の肌着と、使用人の服を渡される。

「少し、先走りすぎました。あなたの境遇を、きちんと気にするべきだった。」

あっという間に着替えさせられる。
手際が尋常じゃない。

「さあ、髪を整えましょうか。」

表情はもう、にこやかな感情が読めないものに戻っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

BLゲームの悪役に転生したら攻略対象者が全員ヒロインに洗脳されてた

BL
主人公のレオンは、幼少期に前世の記憶を思い出し、この世界がBLゲームで、自身は断罪される悪役だと気づく。 断罪を回避するため、極力攻略対象者たちと関わらないように生きてきた。 ーーそれなのに。 婚約者に婚約は破棄され、 気づけば断罪寸前の立場に。 しかも理由もわからないまま、 何もしていないはずの攻略対象者達に嫌悪を向けられてーー。 ※最終的にハッピーエンド ※愛され悪役令息

『定時後の偶然が多すぎる』

こさ
BL
定時後に残業をするたび、 なぜか必ず同じ上司が、同じフロアに残っている。 仕事ができて、無口で、社内でも一目置かれている存在。 必要以上に踏み込まず、距離を保つ人―― それが、彼の上司だった。 ただの偶然。 そう思っていたはずなのに、 声をかけられる回数が増え、 視線が重なる時間が長くなっていく。 「無理はするな」 それだけの言葉に、胸がざわつく理由を、 彼自身はまだ知らない。 これは、 気づかないふりをする上司と、 勘違いだと思い込もうとする部下が、 少しずつ“偶然”を積み重ねていく話。 静かで、逃げ場のない溺愛が、 定時後から始まる。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

処理中です...