俺が子連れエルフに一目惚れした話

kaduki

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私の太陽【3】 ヒースside

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言いたいことも言い終わったのか、イアン様は足早に部屋を後にしようとする。
私には、聞きたいことが山ほどあった。
 どうして私たちを買おうと決断してくれたのか。
 どうして私たちに部屋を与えてくれたのか。
 どうして騒ぎを起こした私たちを叱ったり殴ったりせず、謝ってくれたのか。
 どうして私たちの名前を聞いてくれたのか。
 どうして。
 どうして。
 どうして。
 どうして、そこまで妻に似ているのか。
けれど、呼びとめる暇もなくイアン様は部屋を出て行ってしまった。

**********

「来て早々、災難だったね。」

案内してくれる使用人の方は、アンと名乗った。

「テオ様もね、普段は嫌な方じゃないんだけど・・・お酒が入るとどうもね。」

あの男はイアン様の弟君で、テオ、というらしい。

「その、言ってもいいのかはわかりませんが、あまり似てらっしゃらない、ですよね。」

「そうだねえ。テオ様は領主さまに似てらっしゃって、イアン様は今は亡き奥方様に似ておられるからねえ。」

あ、ここの領主さまも、奥様をなくしているのか。
いや、それよりも。

「イアン様は、領主さまじゃないんですか。」

アンさんは自慢げに笑う。

「優秀な方だからね!そう勘違いする人も多いけど、イアン様は領主じゃなくって領主補佐だね!
そして、このアイゼンシュトンの次期領主と見込まれるお方さね!」

なんでも、アンさんはイアン様が5歳のころ、テオ様が3歳のころから働いている大ベテランらしい。

「昔に比べたら、イアン様はだいぶ感情豊かになられたんだけど、おチビちゃんにはちと怖く感じたかね?」

ロベルトは私にしがみついて、離れようとしない。少し、顔色も悪い。
何がこの子をここまで怯えさせているのか。分からない、理解が出来ない自分が憎たらしい。私と離れている間に、この子の身に一体何が起こったのだろう。

そっと頭を撫でる。そうしても、ロベルトの体の強張りがほぐれることはない。

「イアン様は怯えたからって気分を悪くされる方じゃないからね、ゆっくり慣れていけばいいさね。」

アンさんは優しい目でロベルトを見る。その目は、信じてもいいのだろうか?
今までの場所は他人、それも奴隷に優しい目を向けるどころか、蹴落とし蹴落とされるのが普通だった。如何に自分が損をしないか、如何に自分が得をするか、それがすべてだった。

「アンさんは、奴隷にもお優しいのですね。奴隷だからと蔑んでらっしゃるわけでもないようだし。」

気がつけば、そう漏らしていた。
しまった、と口を塞いでも時はすでに遅く、アンさんの顔はみるみると曇っていく。

「・・・申し訳ありません。新入りの分際で、差しでがましいことを・・・」
「謝んなくていいんだよ!!!」

ぎゅっ!!ときつく抱きしめられる。

「辛かったろうとは思ってたけど!!そんな言葉が出るほどまでとは思ってなかったよ!!!
大丈夫だよ、もう、大丈夫だからね!!!
あんた達を傷つける奴はいないし、あんた達にはイアン様が付いてる!!
もう、理不尽に怯えなくっていいんだよ!あたしだって守ってやるさ!!!
奴隷だからって、可哀想だからって肩入れしないと決めてたけどね、あんた達は別だよ!!アンさんが特別に肩入れしてやるからね、堂々としてなさいな!!俺たちはアンさんのお気に入りだぞって、威張っていいから・・・!!」

快活そうな顔をくしゃくしゃにして、アンさんは泣き出してしまった。
里では、私だけがそんな扱いを受けていた。奴隷になってからは私だけではなくなった。それだけでもマシな環境になったと思っていたのに、あなたは私の境遇に涙を流してくれるのか。

「これだけは言うつもりなかったけどね、あたしのお気に入りには教えてあげる。」

アンさんは真剣な目で、私を見つめる。
きっとたくさんの奴隷と接してきたことだろうに、私に同情するのか。
ただ、他より劣っているから虐げられていたにすぎないのに。

いつの間にか、ロベルトの体の強張りもほぐれている。アンさんの本気の感情が感じられたのだろう、すっかりその視線は信頼のものだ。・・・少し、妬けてしまう。

「ヒースさんあなたね、イアン様のお手付きになんなさい!!」

不意打ちの言葉に思わず噴き出す。

「お、おて、・・・!?はい!?」

「そのまんまの意味よ!イアン様と体の関係持っちゃいなさい!!
イアン様は義理を通す方だからね、一度でも関係を持ってしまえば占めたもの。おちびちゃん共々面倒見てもらえるし、すぐにでも一市民としての身分も取り戻せる。
それにね、あんたを見つめるイアン様の目!イアン様はあんたに確実に気があるはずよ!」

10年以上イアン様を見てきたあたしが言うんだから間違いない!!とアンさんは胸を張る。
脳裏に、イアン様の顔がよぎる。私の太陽によく似た、整った顔。妻よりも少し、無愛想な顔。

彼と、体を重ねる。

買われた主人と体を重ねることなど、なんどもあったことなのに、慰み者になることなど慣れているはずなのに。
どうしようもなく顔が熱くなる。
嫌悪感すら感じていない自分に、ひどく戸惑う。

「ま、無理にとは言わないよ。
時間をかければ、ここでは確実に一市民に戻れる。あたしは裏技を教えたにすぎないからね、やるかどうかはあんた次第さ。」

ロベルトを見れば、嫌悪を浮かべず赤面している私を不思議そうにしながらも、笑っている。
・・・ロベルトも笑っているし、いいか。

アンさんに肩をばしばしと叩かれながら、私たちは、執事長の部屋へと向かった。
その間も、私の脳裏からはアンさんに言われたことが離れなかった。
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