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“死を伴う者”サリエル 【1】

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サリエルと名乗った黒ずくめの者は、テキパキと傷口の処理をしていく。

「ダンダリオンさんも随分手荒に処置するなぁ。治すのが私だからって、丸投げし過ぎだと思いません?
あ、そこの綺麗なあなたは早くシャワー浴びてきてください。結構臭いが堪えるので。私鼻が敏感でね、結構苦手なものが多いんですよー。
・・・・・・例えば、生きていることを感じさせるような、匂いとか。」

黒い布で覆われたその顔は目元しか見えず、ただ、その目は笑っていた。だが、温度がない。

「あなたは、思ったより喋るのですね。」

俺の感想に、サリエルが答えることは無い。

「はい、それじゃあとても痛みますからね。叫んでも大丈夫ですよー。」

そう言ってサリエルが、傷口に触れる。
瞬間、激痛が走る。刺された時、傷口を抉られた時とは、比べ物にならないほどの苦痛。

「っは、・・・・・・・・・・・・・!!!!・・・・・・・・・!?!?!?」

叫び声など、あげる余裕もなかった。

「はーい、処置終わりでーす。
もう魔力が逆流することは無いと思いますけど、無理な魔法や身体強化はお控えくださいねー、お大事にー。」

だが痛みは一瞬で、気のせいだったと言われても信じてしまえそうなほどに残る感覚もない。
傷口を見やれば、傷などなかったかのように綺麗な状態になっている。
一呼吸にも満たぬ間に、跡形もなく消えてしまった。魔術の形跡もない。

「一体・・・どうやって・・・・・・?」

「どうやって、といわれましてもね。これがサリエルの権能なのだから、説明のしようがないんですよ。」

なんだか、良く分からない。
このサリエルという者が考えていることも、サリエルという者の正体も。

「あなたは、いったい何者なんですか?」

「漠然とした質問ですね。
私はサリエルです。それ以上も以下もありはしませんよ。」

「ダンダのじっさまの知り合いということは、魔族なのですか?」

少し考えるようなしぐさを見せたが、すぐに納得したかのように頷く。

「もしかして、私に聞きたいことがあるのではありませんか?
それは貴方自身に関することだから、私の素性が知りたい。その質問をするにあたって、問題のない相手なのか。それが知りたい・・・って感じだったりしませんか?」

ゾッ、と背筋が粟立つ。

「あ、図星って感じですね。
得体のしれないものに対して気味の悪さを感じる・・・とっても人間種族的でいいと思いますよ。うまく育ててもらえたようで安心しました、“アンドレアルフス”さん。」

その黄金のような瞳が、すべてを見透かしているかのように弧を描く。

「サリエルに心を読む権能はありませんから、そこは安心してもらっていいですよ。
ただあなたのことをよく知っている。それだけのことです。」

これが欲しかった答えでしょう?
そういうかのようにサリエルは笑う。

「美しいエルフの方が戻ってくるまでかなり時間がかかるでしょうから、それまでゆっくりお話をしましょうか。」

ヒースに何かしたのか。
だとするならば、こいつは敵だ。

「そんなおっかない顔しなくても、私は彼には何もしていませんよ。
ここに来る道中で、心配そうな顔をしている人間種族がたくさんいたので、今頃捉まってるんじゃないかと思っただけです。」

サリエルはそう言いながら、ベッド全体に清浄魔法をかけ腰掛ける。

「こういう臭いが苦手でしてね。
まあ、兎にも角にも、聞きたいことがあるのならお答えしましょうか。」

答えられる範囲でね、とサリエルは付け加えた。
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