龍騎士の花嫁 Extra

夜風 りん

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女スパイと幹部くん 【ディアナ編】

ep6

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 「ルルーちゃん」

 リヒトにそう声を掛けられて振り返ったディアナは始末書の山から顔を上げた。

 「はい?」

 「ちょっとだけ話があるんだけど、いいかな? …一応、君にも言っておかないといけないから」

 そう言われたので、ディアナが怪訝そうな顔をしてリヒトについて行った。
 そして、まだ誰もいない休憩室に足を踏み入れると、彼はちょっと迷ったような顔をしていたが、やがて意を決したように顔を上げた。


 「ヴィンセント・イシュカのことなんだけど」


 「へ? ヴィンセントの? …あの、彼がどうかしましたか?」

 少し焦ったような顔をしたディアナにリヒトは瞼を伏せた。
 「結婚することになったようだから、その報告だよ」

 「え…」

 ディアナの見開かれた表情を見ながらリヒトは続ける。

 「お相手は、僕らが救おうとしていたお嬢様。――ごめんね、ルルーちゃん。僕の不手際で、君の恋人だなんて知らなかったから…」

 「ちょっと待ってください。なんでヴィンセントに白羽の矢が?」

 「普通なら、だけど…彼女のいわゆる専属侍女になっているのが出仕奉公中のリアラ・イシュカだということは知っている?」

 「はい。リアラちゃんと会わないように細心の注意を払ってきました。数年前まではかなり家計が苦しかったと聞いています。苦しいはずなのに、わざわざ私たちのために保釈金を支払ってくれて…イシュカ家には恩があります。それに、ヴィンセントの妹であるリアラちゃんとも一緒に遊んでいたので…」

 「そのリアラ・イシュカに接触して、僕は彼女の親である今や一山あてて大金持ちとなったガルフ・イシュカにお嬢様と子息の縁談を取り付けてはどうかと言ったんだ。彼女はディアナさんが死んだのを、屋敷周りで探ろうとしていたヴィンセントと会った時に知ったらしい。――だから、彼女も許可した」

 「…お嬢様を逃がすため?」

 「そう。一度家を出てしまえば、こちらで何とでもできるからね。リアラからガルフに話が流れる前に別ルートを使ってガルフに接触し、パル伯爵の金欠問題と、ちょっとかわいそうな境遇のご令嬢の話をした。ガルフがパルへ経路を広げたいと思っていた情報もきちんとつかんできたからね」

 「でも、お兄さんであるガイラクティオさんは既婚。弟のヴィンセントは独身で私を失ったばかりだから恋人もいない…ということですもんね」

 「他意があったわけじゃないんだけど、きちんと謝っておこうと思って。――ごめんなさい」

 深く頭を下げた彼を見ながらディアナは複雑な面持ちで瞼を伏せ、首を横に振った。

 「頭を上げてください、班長。私は…彼の恋人であったディアナ・フェレウスは死にました。――いつか、そうなることはわかっていたんです。それが今になってしまっただけの話ですから。それに、お嬢様が救えるなら、私のしくじりもようやくピリオドを打てるというものです」

 頭を上げたリヒトにディアナはポスッと椅子に座ると、深くため息を漏らした。

 「ただ、今は一人にしてほしいですけど」

 「…少し、僕にもできる範囲の仕事を手伝っておくね」

 「…できるものがあればお願いします」

 「うん…」

 気まずい空気の中、リヒトが休憩室を出て行ったのでディアナは天井を仰いだ。
 視界が歪んでぼやけて見えにくくなった。


 「うん、わかってる。…わかっているけど、私の失敗は代償が大きいな……」


 目尻を一筋、雫が伝った。

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