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教皇と元聖女
閑話 再起動
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隣国フィラディルシア連合王国首都、シア国にて――
教皇庁から僧たちの中で一番仰々しい格好をした初老の男が出てきた。
「もう、おかえりになってしまうのですか、御遣い様?」
「悪いが待っている人がいるのでね。間違ってもあんただけは始祖龍信仰から乗り換えるんじゃないぞ。私はそもそも、聖龍であって聖龍でない。始祖龍とは格が違う下っ端だ。――いいな?」
両腕と翼が一緒になったワイバーンタイプの龍は長い首をもたげ、嘴を持った口を不敵にゆがめた。
漆黒の羽毛に覆われた巨体がぐっと力み、翼を一度おろすと青い斑点のある翼の表が見えた。そしてもう一度翼を振り上げると、それを勢いよく振り下ろして舞い上がる。
「教皇よ。我らが国にて待っている。――約束は違えるなよ?」
薄氷色の瞳に銀の虹彩を浮かべるその聖龍は、そう告げた後、上空へと駆け上がっていき、やがて、東の方角へと飛び去った。
それを見送った教皇は振り返り、尋ねた。
「ノエル」
ノエルと呼ばれた少年がトテトテとやってきて背筋を伸ばす。
「お呼びでしょうか、教皇様?」
「アリシアが自分から聖女をやめたって聞いて吃驚して、悲しくて仕方がなかった。それに…やっぱり構ってやれなかったから、一人では耐えきれなくて、唐突にあの子の意思でやめてしまったのだと思っていたけれど…それは大嘘だったんだね」
「失礼ながら、教皇様。アリシア様が自らの意思で聖女をやめるはずがありません。御遣い様のおっしゃる通り、様々な思惑が蠢いているようです。アリシア様は頑固なところがありますゆえ、絶対に信念は曲げないお方。そんなアリシア様であれば教会政治の均衡を破ろうとする輩には断固として抵抗するはずです」
「まあ、あの子のことだから、その意図には気が付かずにみんなで仲良くしようと言い張るんだろうけれどね。それにしても、新しい聖女の召喚をしても思惑通りに動いていないようだね」
ノエルは恭しくお辞儀をした。
「すぐに旅支度をさせますゆえ、お待ちを」
「うん、頼んだよ。それと、一つ、人を使って調べてほしいことがあるんだけど…」
教皇がノエルにゴニョゴニョと耳打ちすると、その少年の顔に呆れた色が浮かんだが、教皇が離れた後に恭しく頭を下げた。
「承知しました。――まあ、あのアリシア様のことですから、そんなことはないと思うんですけれど、一応調べておきますね」
「頼むよ。万が一、なんてことがあったら、絶対に相手の男を許せないもん」
「アリシア様の性格からして、アプローチを受けても気が付かないと思いますよ。かなり熱烈にいかないと、天然だから…というか、そういう方面はてんで鈍感ですからね」
教皇の目から笑みが消え、嘘笑いが浮かんだ。
「ノエル? なんで知っているのかな?」
「え、みんな話していますよ。アプローチしたのに全然気が付かないって司祭たちや修道士たちが。それに、お抱えの教会騎士団の面々も、です」
「いや、確かに上級司祭より下は恋愛してもいいけどさぁ…うちの娘に手を出すとか、許せないからね? お父さん、絶対に許さないよ? アリシアが選んだなら…その男を見極めるけど……」
教皇が唐突に言葉を止めたのでノエルが不思議そうに小首を傾げた直後、教皇は大空に向かって叫んだ。
「やっぱり決闘じゃああああああぁぁぁぁっ! うちの娘に手を出したやつは私が絶対に、ずぅええぜったいに、許さあああああああぁぁぁぁん!!」
ノエルは耳を塞いでその声に耐えていたが、小さくぼやいた。
「…よかった。再起動した」
教皇が血走った眼で振り返ったのでノエルは姿勢を正すと、教皇は言い放った。
「ノエル、各所に伝達を! アリシアにすぐに会いに行く!」
「は、はい!」
この指示によって伝令龍が放たれ、アリシアの元に伝令龍がやってきたのである。
が、彼らには教皇からの指示で別の使命も命じられていた。――が、まあ、それはまた別の話。
教皇庁から僧たちの中で一番仰々しい格好をした初老の男が出てきた。
「もう、おかえりになってしまうのですか、御遣い様?」
「悪いが待っている人がいるのでね。間違ってもあんただけは始祖龍信仰から乗り換えるんじゃないぞ。私はそもそも、聖龍であって聖龍でない。始祖龍とは格が違う下っ端だ。――いいな?」
両腕と翼が一緒になったワイバーンタイプの龍は長い首をもたげ、嘴を持った口を不敵にゆがめた。
漆黒の羽毛に覆われた巨体がぐっと力み、翼を一度おろすと青い斑点のある翼の表が見えた。そしてもう一度翼を振り上げると、それを勢いよく振り下ろして舞い上がる。
「教皇よ。我らが国にて待っている。――約束は違えるなよ?」
薄氷色の瞳に銀の虹彩を浮かべるその聖龍は、そう告げた後、上空へと駆け上がっていき、やがて、東の方角へと飛び去った。
それを見送った教皇は振り返り、尋ねた。
「ノエル」
ノエルと呼ばれた少年がトテトテとやってきて背筋を伸ばす。
「お呼びでしょうか、教皇様?」
「アリシアが自分から聖女をやめたって聞いて吃驚して、悲しくて仕方がなかった。それに…やっぱり構ってやれなかったから、一人では耐えきれなくて、唐突にあの子の意思でやめてしまったのだと思っていたけれど…それは大嘘だったんだね」
「失礼ながら、教皇様。アリシア様が自らの意思で聖女をやめるはずがありません。御遣い様のおっしゃる通り、様々な思惑が蠢いているようです。アリシア様は頑固なところがありますゆえ、絶対に信念は曲げないお方。そんなアリシア様であれば教会政治の均衡を破ろうとする輩には断固として抵抗するはずです」
「まあ、あの子のことだから、その意図には気が付かずにみんなで仲良くしようと言い張るんだろうけれどね。それにしても、新しい聖女の召喚をしても思惑通りに動いていないようだね」
ノエルは恭しくお辞儀をした。
「すぐに旅支度をさせますゆえ、お待ちを」
「うん、頼んだよ。それと、一つ、人を使って調べてほしいことがあるんだけど…」
教皇がノエルにゴニョゴニョと耳打ちすると、その少年の顔に呆れた色が浮かんだが、教皇が離れた後に恭しく頭を下げた。
「承知しました。――まあ、あのアリシア様のことですから、そんなことはないと思うんですけれど、一応調べておきますね」
「頼むよ。万が一、なんてことがあったら、絶対に相手の男を許せないもん」
「アリシア様の性格からして、アプローチを受けても気が付かないと思いますよ。かなり熱烈にいかないと、天然だから…というか、そういう方面はてんで鈍感ですからね」
教皇の目から笑みが消え、嘘笑いが浮かんだ。
「ノエル? なんで知っているのかな?」
「え、みんな話していますよ。アプローチしたのに全然気が付かないって司祭たちや修道士たちが。それに、お抱えの教会騎士団の面々も、です」
「いや、確かに上級司祭より下は恋愛してもいいけどさぁ…うちの娘に手を出すとか、許せないからね? お父さん、絶対に許さないよ? アリシアが選んだなら…その男を見極めるけど……」
教皇が唐突に言葉を止めたのでノエルが不思議そうに小首を傾げた直後、教皇は大空に向かって叫んだ。
「やっぱり決闘じゃああああああぁぁぁぁっ! うちの娘に手を出したやつは私が絶対に、ずぅええぜったいに、許さあああああああぁぁぁぁん!!」
ノエルは耳を塞いでその声に耐えていたが、小さくぼやいた。
「…よかった。再起動した」
教皇が血走った眼で振り返ったのでノエルは姿勢を正すと、教皇は言い放った。
「ノエル、各所に伝達を! アリシアにすぐに会いに行く!」
「は、はい!」
この指示によって伝令龍が放たれ、アリシアの元に伝令龍がやってきたのである。
が、彼らには教皇からの指示で別の使命も命じられていた。――が、まあ、それはまた別の話。
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