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翼の標
ep2
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アリシアが薬草探しに草をかき分けながら森に入っていくのを、追いかけてきたギュスターヴが呼び止めた。
「アリシアさん」
振り返った彼女は瞬いた後、不思議そうに首を傾げた。
「はい?」
「ラクラの花のアテはあるのか?」
「……そういえば、ないです」
アリシアはシュンとしていると、ギュスターヴは口元を覆って顔を背けた。
だが、微かに肩が震えており、彼が必死に笑いをこらえていることが明白でアリシアがムッとした。
「で、でも、野山にありそうじゃないですか!」
「方向的には奇跡的に間違っていないが、ラクラはそもそも、崖の下にいるものだ」
「…いる?」
ギュスターヴが頷いた。
「ああ。ラクラというのはそもそも、翼をもたない大地を這う四つ足の龍のことを言う。草食であり、非常に温厚で、この森の中に原生しているものだ。魔物ではなく分類的に龍なので城壁の中にあっても大丈夫なんだが」
「そうなのですね。私の育った町の近くにはラクラという龍がいなかったので知りませんでした」
「ラクラの花というのは、ラクラの背中に咲いている花のことを示す。彼らは非常にまったりしているから、植物の温床地にもなり、別名で『蠢く大地』とも呼ばれるな」
「そうなんですね」
アリシアは目を閉じて耳を澄ませていると、少し遠くの方でガサガサガサッ! という音が聞こえ、目を見開いた。
そして、思わず駆け出す。
「あっちですね!」
ギュスターヴはそれに気づかずにまだ話をしていた。
「――そして、ラクラから生えた花には鎮静作用があって、薬にいいんだ。それに、ラクラに生えた木の幹から零れた樹液は火傷などの治療にもいいとか。――って、あれ?」
アリシアがいつの間にか消えていることに気が付いてギュスターヴはかなり焦った顔をした。
「いつの間に…!」
急いで探索のための魔法をくみ上げたが、それを発動させる前に術式が崩壊した。
「そうか…ラクラの魔力の影響で探索術式が組み上げられないのか。ラクラは探知されるのが大嫌いだからな…って、そんなことを言っている場合じゃないか」
ギュスターヴはとりあえず足跡のようなものがなにか残っていないか見渡した。
「…! あった」
アリシアのものらしき足跡を見つけ、ギュスターヴはそちらを辿り始めた。
☆
アリシアはキョロキョロしながら森の中を進んでいた。
「うーん、このあたりから聞こえた気がしたんですけどね…」
そんなことを呟いた時、少し離れたところで声が聞こえた。
「確か、前はこのあたりで見かけたんだが…」
アリシアはビクッと肩を震わせた。
こちらに気が付いていないのか、その男の声はのんびりとしていた。
「そうだね、だけど、ラクラは生き物なんだし、いつまでも同じところをグルグルしているわけはないよ」
別の声がそう言ったのでアリシアは余計に緊張感でギュッと握り拳を固めた。
「ラクラの木、まだあればいいね」
「そう、だな…」
そんな声を聞きながらアリシアは足音を忍ばせてゆっくりと様子を窺うと、黒フードの人物が頭に白い鳥を乗せて佇んでいることに気が付いた。
「この足跡なら、だいたい、数日前のものか」
その人物――ナハトはかがみこんで何かを調べていたが、立ち上がった。
「ナハト、ラクラを見つけられればいいね」
「そうだな…」
白い鳥――飛燕ののんびりとした声にナハトが同意を示し、歩いていく。
それを見ながらアリシアはごくりと生唾を飲んだ。
(ついて行けばラクラに会えるかもしれない…!)
そんなことを考えて後を追いかけた。
「アリシアさん」
振り返った彼女は瞬いた後、不思議そうに首を傾げた。
「はい?」
「ラクラの花のアテはあるのか?」
「……そういえば、ないです」
アリシアはシュンとしていると、ギュスターヴは口元を覆って顔を背けた。
だが、微かに肩が震えており、彼が必死に笑いをこらえていることが明白でアリシアがムッとした。
「で、でも、野山にありそうじゃないですか!」
「方向的には奇跡的に間違っていないが、ラクラはそもそも、崖の下にいるものだ」
「…いる?」
ギュスターヴが頷いた。
「ああ。ラクラというのはそもそも、翼をもたない大地を這う四つ足の龍のことを言う。草食であり、非常に温厚で、この森の中に原生しているものだ。魔物ではなく分類的に龍なので城壁の中にあっても大丈夫なんだが」
「そうなのですね。私の育った町の近くにはラクラという龍がいなかったので知りませんでした」
「ラクラの花というのは、ラクラの背中に咲いている花のことを示す。彼らは非常にまったりしているから、植物の温床地にもなり、別名で『蠢く大地』とも呼ばれるな」
「そうなんですね」
アリシアは目を閉じて耳を澄ませていると、少し遠くの方でガサガサガサッ! という音が聞こえ、目を見開いた。
そして、思わず駆け出す。
「あっちですね!」
ギュスターヴはそれに気づかずにまだ話をしていた。
「――そして、ラクラから生えた花には鎮静作用があって、薬にいいんだ。それに、ラクラに生えた木の幹から零れた樹液は火傷などの治療にもいいとか。――って、あれ?」
アリシアがいつの間にか消えていることに気が付いてギュスターヴはかなり焦った顔をした。
「いつの間に…!」
急いで探索のための魔法をくみ上げたが、それを発動させる前に術式が崩壊した。
「そうか…ラクラの魔力の影響で探索術式が組み上げられないのか。ラクラは探知されるのが大嫌いだからな…って、そんなことを言っている場合じゃないか」
ギュスターヴはとりあえず足跡のようなものがなにか残っていないか見渡した。
「…! あった」
アリシアのものらしき足跡を見つけ、ギュスターヴはそちらを辿り始めた。
☆
アリシアはキョロキョロしながら森の中を進んでいた。
「うーん、このあたりから聞こえた気がしたんですけどね…」
そんなことを呟いた時、少し離れたところで声が聞こえた。
「確か、前はこのあたりで見かけたんだが…」
アリシアはビクッと肩を震わせた。
こちらに気が付いていないのか、その男の声はのんびりとしていた。
「そうだね、だけど、ラクラは生き物なんだし、いつまでも同じところをグルグルしているわけはないよ」
別の声がそう言ったのでアリシアは余計に緊張感でギュッと握り拳を固めた。
「ラクラの木、まだあればいいね」
「そう、だな…」
そんな声を聞きながらアリシアは足音を忍ばせてゆっくりと様子を窺うと、黒フードの人物が頭に白い鳥を乗せて佇んでいることに気が付いた。
「この足跡なら、だいたい、数日前のものか」
その人物――ナハトはかがみこんで何かを調べていたが、立ち上がった。
「ナハト、ラクラを見つけられればいいね」
「そうだな…」
白い鳥――飛燕ののんびりとした声にナハトが同意を示し、歩いていく。
それを見ながらアリシアはごくりと生唾を飲んだ。
(ついて行けばラクラに会えるかもしれない…!)
そんなことを考えて後を追いかけた。
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