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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
2-72.J.B.(47)- Young Turks.(ごんたくれ)
しおりを挟む「なかなかの名演だったろう?」
天幕内のベッドに腰をかけながらニヤリと得意気な笑みを浮かべるのは、“悪たれ”部隊隊長のニコラウス・コンティーニ。
さて本当に名“演”だったのかどうなのか。腕に巻かれた包帯からはまだ血が滲んでいる。しかも受けた傷は毒蛇犬の尾の毒牙なので、痛みにのたうち回りあげていた悲鳴だけは多分演技じゃない。
「お前等の毒消しが役に立った。この分はきちんと支払っておくから安心しろ」
一種の戦争特需だ。戦いが決まってから、事前に手に入れていた魔蠍の毒腺等を使いシャーイダール……のふりをしたナップルには急ピッチで錬金薬を作らせた。それらを各隊に配布してある。支払いは「使った分、無くなった分だけで、残ったら返却」という後払い式の大サービスで、だ。
ニコラウス曰わく、こうだ。
カリーナは襲撃に際して素早く妖を使い敵本隊の居場所を偵察し、“猛獣”ヴィオレトの存在を確認。
太鼓を鳴らし迎撃体制をとらせるが、直下の部隊には同時に「最低限の反撃で、身を守ることを最優先」と指示し、同時に「シャーイダール隊とマヌサアルバ会には反撃をさせず守る」ことも厳命した。
で、なるべく目立つ位置にニコラウスとその護衛部隊で陣を組み、アカデミー賞並みの“名演”で醜態を晒し、それを十分奴らに見せつけた後に、特定しておいたヴィオレトの居場所付近への射撃をして撤退を促した……と。
「アレを見て奴らはこう思ったはずだ。
『成る程、噂通りにこのニコラウスとかいう奴は、親兄弟とは似ても似つかぬすくたれ者だ。見栄っ張りで功名心に逸るばかりで采配も武勇もからっきし。
この戦、こいつさえ仕留めりゃ簡単に勝てる』……とな」
八分の力を五分、三分に見せ、自分を餌にして奴らを引きずり出す───。
そのための布石を巧く打てたとほくそ笑んでいる。
ただまあ少なくとも、「自分自身を餌にして奴らを誘き出す」という策に関しては、かなり本気のようだ。
そして今、その件についての正式な通達が行われている。
俺、ハコブ、イベンダーのオッサンのシャーイダール隊。
マヌサアルバの正会員三人。
ボーマ隊からも、狩人達からも、そして一応囚人部隊からもそれぞれ三人ずつ。
代表者一名と付き添い二名だ。
真ん中に大きめのテーブルがあり、羊皮紙に描かれた簡単な地図。 魔人達のアジトのある遺跡とその周辺の地形だ。
基本としては、と、ニコラウスの副官が説明をする。
北と東はほぼ切り立った崖であり、布陣は出来ない。
南西部それぞれに緩やかな斜面があり、そこも両側を丘と岩場に挟まれた隘路に近い。
布陣できるのはほぼこの方向のみ。完全な死地だ。
「最悪だな、これは」
誰もが思った通りのことをハコブが代表して言う。
城塞としては完璧な守りの地形。
岩場は陣を布くには足場が悪すぎる。
丘は城塞に近すぎる。
その間の窪地に陣を布けば、両サイドから攻め放題になる。
「野営地はこの窪地に設営し、丘を固守する」
副官の言うその作戦は、この地形ならそれしかない……とは言え、「最悪な条件の中でマシな選択肢」というだけだ。
「話にならん。殺してくれと言うようなもんだ」
やはりハコブのその言葉は、ここにいる皆の考えを代弁している。誰もがそれに反論をしない。それを発案したニコラウスですら、だ。
「ああ、まーさーに、だ。
誰もがそう思う。
『この砦の周りは攻めるに最悪の地形。それにも気付かずこんな所に布陣する指揮官は無能の極み』とな。
奴らだってそう思う。
だーかーら……」
じろりと全員を一瞥し見回してから、ニコラウスの視線は俺達とその横のマヌサアルバ会へと向けられる。
「お前たちの存在を、連中の偵察から隠し通した」
先程の“猛獣”ヴィオレトの“威力偵察”の際、俺達シャーイダール隊とマヌサアルバ会へは「反撃せず隠れている」ことを指示された。
ジャンヌ辺りは勝手に応戦してたらしいが、ニコラウスにとっての秘中の秘であるマヌサアルバの魔術に俺達の魔導具の方は使ってない。
奴らの偵察に対して、「指揮官が無能な臆病者」との印象だけを与え、同時に俺たちの存在を隠し玉として秘匿する。
あの瞬時にそこまでの判断をしてたのか、それともこうなる場合に想定してた行動なのか。
何れにせよニコラウスは、やはり一筋縄では行かない奴だ。
「ある程度聞いている者も居るだろうが、基本は二面作戦を取る。
本隊は我々王国駐屯軍、ボーマ隊に、狩人達を含めた射撃部隊。
敵に“猛獣”ヴィオレトが居るため、念には念を入れ騎兵は無し。
この本隊はとにかく魔人達の攻撃を引きつけ固守に徹する」
ホルストを代表とするボーマ隊、ティエジを代表とする狩人達に、それらを率いる射撃部隊の隊長、例の“目立たぬ男”のアモーロ等を見回す。
「そして第二隊はシャーイダール隊、マヌサアルバ会、囚人部隊を中心とし、敵砦内への潜入と攪乱、そして本隊と連動しての挟撃を担ってもらう」
俺達やマヌサアルバ会は先にある程度のことを聞いているが、狩人達やボーマ隊は初耳の者も居るらしく、天幕内はややざわざわとする。
「一応お聞きしますが、内部潜入の手立ては既におありなのですかな?」
マヌサアルバの正会員が聞く。
そう、そこだ。
俺やオッサン、マヌサアルバ会の何人かは飛行の術が使えるが、まさかそいつで飛んで行けというンじゃ話にならない。
しかしその疑問に対し、説明をしていた副官は何も答えない。
答えないのか答えられないのか。
当然視線はふんぞり返ったニコラウスへと向く。
ふん、と荒く鼻息一つ。それから再び厭そうに眉根をしかめて話し始める。
「いいか。俺が対魔人部隊の隊長に任命されて半年ほど。本腰入れて鍛え始めてまだせいぜい二月ちょい。
だがそれまでの間ずっと酒飲んで女遊びをしてたワケじゃあない。
お前たちの知らないようなことも調べたし、方々の伝手を辿って人材を集めたりもしてきた。
そして三悪と黄金頭それぞれの魔人共のアジトや動向も、ある程度は特定されていた」
なら、何故? 何故今の今まで動けなかった?
「奴等は幾つかのアジトを転々とし、急襲作戦を立てて現地へ斥候を送ると、既に引き払って居ると言うことが何度もあった。
情報が漏れているのか、常から用心深いのか。兎に角三悪共の居場所を正確に把握しておくのは困難だった。
だが、奴らがここ最近一つの目的に合わせて動き出していることだけは掴めていた。
そしてお前達がその“目的”を特定してくれたことで、俺達の勝機が見えた」
ボーマ城塞を“炎の料理人”クークが狙っている、というのは半分は過去の因縁を前提とした推量でしかなかった。
しかし、捕らえた“鉄塊の”ネフィルの手下や、逃げてきた囚人達の証言からも、“猛獣”ヴィオレトや“黄金頭”アウレウムを含めた魔人達が連合を組んでボーマ城塞への大規模な襲撃を目論んで居ることが確認されている。
そう考えれば今この時期に機先を制して奴らを叩く流れになってなければ、魔人連合の襲撃でボーマ城塞が陥落していたか、でなくともかなりの損害を受けていた可能性は高い。
そして守りにおいてはこの廃城塞以上、資源もあり水運にも向いたボーマ城塞を奴らが手に入れれば、今まで以上に厄介な存在になるのは間違い無い。
「ボーマ城塞は、元々古代ドワーフ遺跡を改築した城塞だが、今奴らが占拠している廃城塞、センティドゥもそうだ。
というより、センティドゥ廃城塞はボーマ城塞と対を成すものだったと考えられている。
つまりどちらもベースが古代ドワーフ遺跡で、恐らくは同じような機能、構造を持っている。
だから……」
「専門家の出番になる……というワケなのだよ!
はっ! はっ! はははのはー!」
突如乱入してきた躁病的な甲高い声。面食らう一堂の中、俺はその覚えのある声の持ち主に目を向ける。
特徴的な目と耳。すらりとした体躯を奇妙なでっぱりのある服で包んだハーフエルフ。
古代ドワーフ文明研究家のドゥカムその人だ。
◆ ◇ ◆
「どうだ? 絶妙なタイミングでの登場だっただろう?
あの裏で長ったらしい話が終わるのを待つのはなかなか難儀だったぞ!」
「やかましい! 呼ぶまで待っていろと言っただろうが!」
「待ちくたびれた! 話は簡単なのだ! 戦なんぞと言う退屈でつまらんものはさっさと終わらせて、早く遺跡の調査をさせるのだ!」
ニコラウスとドゥカムの関係性は分からんが、これはかなりの腐れ縁っぽい。
少なくともホルストがそうであるように、普通の王国民なら英雄の息子、軍属でそれなりに地位があるニコラウス相手に、こんな態度で接することは出来ない。
しかし……確かにドゥカムは古代ドワーフ文明研究家としては有能……らしい。何せ動かなくなったドワーベン・ガーディアンの再起動まで成功しているというのだしな。暴走状態とは言え、だ。
カストによる「回収してきたドワーベンガーディアンの暴走は仕組まれたものらしい」という情報を手繰ってたどり着いたドゥカムは、しかし「再起動させたものの暴走しかしない」それを、助手に盗まれ逃げられたのだと言う。
その助手こそが、クランドロールのサルグランデが、貴族街の支配者“ジャックの息子”への反乱を計画し雇い入れた“客人”だった……かもしれない、というのはあくまでただの推測。
ドゥカムのところから逃げ出し、サルグランデに拾われるまでのミッシングリンクの期間に、「再起動すれば暴走するドワーベンガーディアン」を誰かに売ったか、奪われたか、無くしたかをしている……というのもまだ推測。
何にせよ、ドゥカム本人の預かり知らぬところで、俺達とは因縁深い関係だ。
しかしそれより何より、今問題なのはあの癖の強い性格の方だ。
とにかく傲慢で尊大。知識自慢が過ぎ、居丈高でうるさったい。
そんな奴がこの場面に乱入してくれば、また一悶着起きてもおかしかねえ。
こんなとき、頼りになるのはイベンダーのオッサンだ。
オッサンは自称商人の交渉術故か、相手の自尊心をくすぐったり、惚けた態度で緊張を逸らしたりと、場の空気をコントロールするのが巧い。
そう思い視線を下げて横を見ると、何やら兜の面を下ろし隠れるようにしてすっみこに。
「おいオッサン、何コソコソしてんだよ?」
「あいつは面倒くさい」
「知ってんのか?」
「……ま、一応な。俺は関わらんぞ!」
ドゥカムが面倒くさいことには反論しようがないし、俺も出来れば関わりたくはない。
気持ちも分かるから無理強いも出来んが……とりあえず様子見しとこう。
案の定、恐らくはドゥカムを知らない、面識無いだろう面々は呆気にとられている。
いち早く反応したのはマヌサアルバ会の代表で、
「それでその……こちらのお方がどのように潜入作戦に関わられるので?」
と、しごくもっともな疑問を口にする。
「こいつは……」
騒がしいドゥカムを押し退けつつ、ニコラウスが説明を始める。
「名はドゥカム。古代ドワーフ遺跡の専門家だ。
様々な遺跡の構造やら仕掛けやらにも詳しい」
「遺跡だーけではないぞ!
古代ドワーフ文明のあらゆることに詳しい、超専門家だ!
だからつまりどういうことかって?」
大仰なまでの身振り手振り。まるで三文芝居の大根役者。
しかしただの大言壮語の大ボラふき……じゃあないことを俺は知っている。
「この私が貴様等を“裏口”から案内してやるということだ!」
問題は知識や能力より、人格性格の方だ。
ニコラウスだけでも面倒なのに、さらに面倒なくせ者が増えちまった。
◆ ◇ ◆
「お前達の中には、戦を経験したことのある者も無い者も居るだろう。
狩りや小競り合い程度の諍い、遺跡の探索……。それらと戦には、似てるところもあるが違うところも多い。
その中で最も違うのは、戦とは“勝つ”事が最重要ではないということだ。
狩りの最大の目的は、獲物を仕留め持ち帰り糧とすることだ。
遺跡探索の最大の目的は、価値ある遺物を持ち帰ることだ。
だが、戦は違う。
戦の最大の目的は、“負けぬ”事だ。
そして負けぬ為に最も必要なのは、武勇でも知略でも魔術でもない。
耐えることだ。
恐怖に耐える。飢えと渇きに耐える。己の逸る功名心に耐える。
矢玉の雨が降り注げば、如何なる英雄豪傑とて肝が冷える。
耐え難き飢えや渇きは聖人すら容易く盗人に変えうる。
機を待てず功名心に逸れば、愚かな突撃をしてしまう。
それらに耐えられる者のみが、戦場で運良く生き残り、次の勝利へと道を繋ぐ。
誇り高き王国の精兵よ!
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我々こそが勝者であり、我々こそが栄光を掴むのだ!」
早朝のモロシタテムの町に轟く討伐軍の雄叫び。
雄叫びというか咆哮とでも言うか、まるで物理的質量を持つかのような声の波に、耳だけじゃなく脳まで揺らされそうだ。
全く、大した演説だ。王国兵のみならず、狩人やボーマ隊のクトリア人達まで乗せられ猛り狂っている。
正直アダンあたりはまだしも、ハコブや俺ですら気が高ぶってきている。
見事に乗せられちまってるぜ。
王国駐屯軍“悪たれ”部隊、ボーマ隊、狩人、囚人部隊、マヌサアルバ会、そして俺達シャーイダール隊。
どれだけの戦果が得られ、どれほどの人数が生き残れるのか。
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