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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-110.マジュヌーン(62)砂漠の砂嵐 -炎達の唄
しおりを挟むその南方人の男は、全身に立ち上る炎のような入れ墨をしていた。褐色をさらに濃くした黒いトーンの肌の背から首、腰に四肢にと、鮮やかな緋色が踊っている。
ボロ布と呼ぶのも上等すぎる雑巾のつぎはぎみてーな腰布一つで、背負っている重荷は常人なら30分も背負えば疲れ果て歩けなくなるだろう量だ。
だが、苦悶に顔を歪めつつも足取りは確かで、他の奴らとはやや様子が違っている。まったく、たいしたタフネスだぜ。
荷運び奴隷達の列だ。
ほとんどは南方人か犬獣人で、まれに他の獣人種やクトリア人らしき姿もある。
連中が運んでいるのは主にバラした野営用の天幕に食料に飲料、その他の道具類。他に荷を運んで居るのは、数頭の巨獣───鎖に繋がれ、口枷をはめられた猫獣神だ。
リカトリジオスの廃都アンディル攻略部隊。アラークブの、またボルマデフの情報にあった通りに、この中規模部隊のリカトリジオス兵はおおよそ300人くらいか。
そして奴隷達の数はその半分程。ボルマデフのように正式なリカトリジオス兵として編成された元捕虜の戦奴兵は含まれていない。
その、400人を超える軍の陣営の中へと俺たち三人は入って行く。
リカトリジオスの兵装を身に付けたカリブルとルゴイ。そしてボロ布同然の身なりに扮した俺。
つまりは廃都アンディルで捕らえた捕虜の猫獣人と、生き残りの兵士……という設定で、だ。
「所属と名を名乗れ」
俺の理解力だとやや怪しいが、恐らくは番兵らしき犬獣人にそう聞かれるカリブル。
「“黒鼻”のジダール先遣隊、ボルマデフ。タファカーリ閣下へと重要な報告がある」
毛染めを使い一応毛の色を変えて、見た目はそっくりな従兄であったボルマデフへと扮したカリブルがそう答える。
天幕前の番兵は中の何者かへとそれを報告。しばらくしてから入るよう促される。
天幕の中では左右それぞれ5人ずつの兵士が並び、その中央の奥、野営用の簡易椅子にしてはなかなか豪華な造りの椅子に座った一人の大柄な……いや、巨漢と言っていいだろう体格の犬獣人。
他の一般兵士たちとは違いやはり豪華な造りの鎧に、頭部には別の犬獣人の剥製みたいな飾りがある兜だ。
恐らく、というかまぁ間違いなくこいつがこの廃都アンディル攻略部隊の指揮官、“不死身”のタファカーリだろう。
顔立ちも体格も、全体的に筋肉質だが引き締まってもいる。色合いとしては灰色がかった薄茶ベースに白黒まだらで、短毛だが野性味のある風貌。
リカトリジオスの中でも主要部族とされるリカリウス族の特徴だそうだ。
その中でも目立つのは、顔のみならず全身にある無数の傷。雰囲気、面構えも含めて、まさに歴戦の勇士と呼ぶのに相応しい風格がある。
「“黒鼻”のジダール先遣隊所属、ボルマデフ。閣下へとご報告があります」
リカトリジオスへの強い怒りと恨みを持つカリブルにとっては、ボルマデフへとなりすまして潜入するというのはかなりキツイものがあると思っていたが、今のところあの単純馬鹿にしてはかなり上手いこと演じている。
「報告か……」
右手で頬杖をつきつつ、“不死身”のタファカーリは退屈そうにそう答える。
その瞬間、俺とカリブルの間を何かが飛来し通り抜けた。
冷や汗……なんてもんじゃねえ。
ぱっと見、忍者の手裏剣みてーにも見える、曲がりくねった3本の刃のうねる小さめの投げナイフ。それが俺たちの間を抜け天幕を支える柱の一本に突き刺さった。
投げたのは恐らくタファカーリ。投げた瞬間を見てねえから確実とは言えねえが、右手で頬杖ついていながら、左手で弄んでいたそれを、正確無比な精度と速度で投げつけてきた。
「……は!
まず、“黒鼻”のジダール先遣隊は、我ら二名を除いて壊滅いたしました」
ざわり、と、天幕内の空気がざわつく。
「……続けろ」
ざわつきつつも、誰一人として目に見えた反応することはない。親分であるタファカーリが報告を受け取ってる最中には、発言はおろか、わずかな身じろぎすら許されない。
「我々は廃都アンディルへと潜入し、並み居る食屍鬼達を蹴散らしつつ、城門に程近い寺院跡を占拠し野営地として確保しました。
そこから周辺へと調査を広げ、また食屍鬼達を退治しつつ領域を確保。
我らの猛威の前に、ほとんどの食屍鬼は相手にすらなりませんでした。
しかし、五日目頃になると食屍鬼達の攻めが変わってまいりました。我らリカトリジオスには及ばぬものの計画的で規則だった攻撃をし始め、また特殊な能力を持つ奇妙な変異食屍鬼達が増えだしました。
それらを操っていたのが───クトリア人の死霊術師です」
誰から聞いたか忘れたが、嘘を信じさせるためには真実でコーティングするのがいい……てな。
その報告を聞いて、タファカーリはギロリとカリブルを睨みつける。睨みつつも何やらしばらく黙ったまま考え、それからおもむろに、
「───その薄汚い猫はどうした?」
と、話の矛先を俺へと向ける。
「その死霊術師の捕虜となっていた者です。我らが生き残り、こうして報告ができるのもこの者の助力故」
さて、ここからが俺の演技力。ボルマデフからの事前情報で聞いていた、“不死身”のタファカーリの人物像から立てたこの計画。伸るか反るか、上手く行くか行かないか───。
▽ ▲ ▽
「俺、探鉱、部族。食屍鬼町、狩り場。仲間、たくさん、集まる、食屍鬼町、探す。
ツルツル肌、死霊術師、前、居ない。クトリア、逃げて来た。仮面、魔導具、食屍鬼、操る。仲間、捕まった。
何日も、捕らわれ、仲間、実験。食屍鬼にされる。特殊な食屍鬼。デカいの、ぶよぶよ、舌長、唾吐き、色々。
仲間、実験、皆、殺された」
即興にしてはなかなか設定の凝った バックグラウンドストーリー。
探鉱部族てのは、廃墟になった古い街だとか、人の住まなくなった野営地だとかで、残っている物を頂いてくる連中のこと。
猫獣人の部族の中じゃ「ゴミ漁り」と蔑まれてたりもするが、だからこその説得力もある。
その探鉱部族が、廃都アンディルに住み着いていた「ツルツル肌」、つまり人間の死霊術師に捕まり死霊術の実験台として囚われていた。
仲間は皆実験で殺され、自分一人生き残った時に、ボルマデフの部隊とバッティングする。
そして協力し死霊術師の元を逃げ出し今に至る……まあそんな展開だ。
それなりに説得力のある物語になったのは、前世で友達のいなかった小中学校時代に古本屋に通いつめて、本を読んでた経験が役に立ったってところか。
たどたどしい俺の犬獣人語での説明を聞きながら、“不死身”のタファカーリは無言で目をつむったまま。話に聞き入って考えているのか、音や匂いで探っているのか。
だが当の“不死身”のタファカーリは、隠しようもないくらいの激しい感情が漏れ出ている。
怒り。
怒りの感情の発露を現す匂い。
人間なら気がつく事もないだろう微かなそれは、今ここにいる犬獣人、猫獣人という獣人種にとってはもはや明白なオーラのように全身から発せられている。
「───貴様……」
その怒りのオーラをぶり巻きつつ、タファカーリは俺へと呼び掛ける。
「よくぞ生き延びた!」
天幕内が震えるかの大音声。
ボルマデフ、また、アラークブからの情報、“不死身”のタファカーリの過去。
かつて帝国人の奴隷とされた部族の生き残りであり、リカトリジオス内でも群を抜いた“ツルツル肌嫌い”。
だから俺が“ツルツル肌”の死霊術師に捕らわれて、仲間を殺され怒りに燃えている……となれば、奴は何かしら過剰な反応をする。
「猫獣人の戦士よ、大義であった!」
案の定、“不死身”のタファカーリは俺のその“ストーリー”に食いついてくる。
「まずは食事をとりゆっくりと身体を休めよ。後ほどまた詳細を聞かせてもらう。
その後は───」
ここまでの流れは想定通り。だが、その先がちょっとばかし違ってた。
「神聖なる血の決闘にて、お主の処遇を決めるとしよう」
▽ ▲ ▽
決闘がリカトリジオスにとって神聖にして絶対的なものだというのは知っている。つい先日も、廃都アンディルで先遣隊に潜入する時もボルマデフとやりあったわけだしな。
だがあの時とは違い、今回は筋書き上すでに同じ死霊術師を敵として協力関係を持っているという状況設定でのことだ。普通に考えりゃあ、今更決闘なんかして処刑するか、奴隷にするか、なんてのを決める必要なんかありゃしねえ。実際、普通はそうらしい。
だがなんつーか……そうだな、いわゆる原理主義的とでもいうか、リカトリジオスの理念みてーなのにガチガチに凝り固まっているような奴だと、そこを省略するのを良しとしない……てのがあるらしい。
つまり、“不死身”のタファカーリは「ガチガチのツルツル肌嫌い」であり、「ガチガチのリカトリジオス原理主義」、または「決闘大好きっ子」……てなとこか。
しかもやつは“神聖なる血の決闘”という言い回しを使っていた。
これは特に、徒手格闘や降参による決着をあまり良しとせず、生死をもってして決着をつける決闘を好む連中の言い回しだそうだ。
「……まいったな」
あてがわれた天幕の中でごろりと横になりつつそう小さくぼやく。
おそらく決闘は翌朝、そのまま文字通りの意味で朝飯前に行われるだろう。
「……あの」
その俺の横であぐらになり座りつつも周りを警戒しているルゴイが、またもあの低い声でボソボソと声をかけてくる。
「いざとなったら……俺が血路を開きますんで……その……」
「……本当にお前は義理固ぇ奴だな」
廃都アンディルで成り行き上死霊術師から助け出した形になる俺に対して、やたらとその恩返しをしようとしたがるルゴイだが、なんつーか正直、ちっと重いぜ。
「あんまりそんなことばっか考えるなよ。一応、最悪のケースに備えて隠し玉だって持ってる。
問題はむしろ……」
そう、問題はむしろそっちじゃねえんだよな。
「まだ寝とらんのか?」
天幕を開けて中に入ってくるのは、ボルマデフに扮したカリブル。
ボルマデフとある程度以上に面識のあったのは、“黒鼻”のジダール率いる先遣隊の連中だけで、よほど怪しい真似をしない限り偽物だとバレる可能性は低い。
“黒鼻”というのはこれもまたリカトリジオスの中でも有力な部族の名前で、犬獣人の中でもいわゆる斥候働きに高いスキルを持つ。なので、ある程度大掛かりな作戦で必要な斥候、先遣部隊のために、よそから呼ばれてくるということも多いらしい。
ジダールの隊は斥候働きが主目的なため、隊の中心は当然そういうのに向いたタイプになり、ボルマデフみたいな脳筋戦士タイプの戦奴出身者を下働き、または乱戦時の肉の盾として先遣隊に組み込んでいた……てなところだそうな。
「見つかったのか?」
「……ああ、まあな」
これは、ボルマデフのかみさんと息子のこと。
戦奴に対してあてがう奴隷の妻や子供は、リカトリジオス側にとってはいわば人質。
なので従軍の際に家族揃って同じ天幕に……なんてことは当然無い。
そしてあくまで立場は「部隊の下働きをする奴隷」のままなので、当然他の奴隷達と同じ天幕に纏められている。
ボルマデフのかみさん達もまた、「戦奴に与えた専属奴隷」の天幕にいた。
「特別に……ということでな、今回は」
カリブルの背後には、一人の犬獣人の女と、すでに眠たげな顔をした子供。女は奴隷身分にしてはややがっちりした体格だが、それでも身なり装束はボロ着のまま。
顔立ちはカリブルともボルマデフとも似ていない。白黒まだらな短毛に、目と耳が大きく鼻面もやや長い。首から背に掛けて鬣のような毛が生えている。どちらかというと、ルゴイに似たタイプか。
「そいつらがボルマデフの家族か」
「うむ……」
何やら煮えきらないカリブルの態度に、おどおどしたようなボルマデフの妻。
「事情はもう話してあるのか?」
「まあ、な。どうあれ勇士の妻だ。覚悟は常にしておったろう」
俺を観て、ボルマデフの妻は軽く頭を下げる。犬獣人も猫獣人も、頭を軽く下げるのは挨拶、尾を下げるのは降伏だ。
「なんて呼べば良い?」
「何がだ?」
「名前だよ。“ボルマデフの妻”、“ガキ”じゃやりにくいだろ」
「……ああ、うむ。まあ、“妻”、“息子”でかまわんだろ」
「かまうだろ、そりゃ」
どうにも、カリブルの歯切れか良くない。何かを隠しているのか?
その妙な空気のところに、俺の後ろに居たルゴイの奴が、軽く指でつついて小声に告げる。
「……彼女、多分“悪魔の顎”の一族だ。悪名高き山賊部族……特に、カリブルの“猛き岩山”からすれば、天敵、宿敵関係の……」
……そりゃまた、ボルマデフの奴もたいした決断をしたもんだな。
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