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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-276. マジュヌーン(122)ねこの森には帰れない - 真夜中のダンス
しおりを挟むしばらくして、遠吠えと喧騒、それから火の匂いが漂い出す。何が起きたかは明白だ。どうやったかは別として、ボバーシオ側が奇襲を仕掛けてシーリオの陣に火を放ったんだろう。
壁を登り素早く確認すると、何ヶ所かから火の手が上がり、さらにはそこへと何かが飛んで来てさらに火が上がる。
いわゆる投石機、大きな石や岩を敵陣へと飛ばす大型の機械兵器で、石じゃなく火のついた油瓶でも放ったのか。
オアシス側のやや小高い丘に少数の部隊。城攻めが始まっている以上大規模な奇襲部隊は有り得ない。だがこの程度でどうなるのか……だが、騒ぎが起き、正確に兵糧庫や武器庫といった重要施設を狙い撃ちし、しかも事前に潜入してただろう工作員に油を撒くなどの下準備もさせてたようだ。
奴隷たちに食糧増産もさせてるとは言え、この大規模な遠征軍の胃袋を満たすにゃそれだけじゃ足りてねぇ。粗食に耐える犬獣人とは言え、備蓄を焼かれるってのはかなり手痛い。
やるじゃねぇか、と感心してばかりもいられねぇ。かといってこの流れではどちらかに手を貸すも糞もねぇ。確認するべき事は確認出来た。ならこの混乱に紛れて脱出するかと、ネルキーと合流し連れ立って南へ向かい……路地から現れた影を見て急ブレーキを踏む。
後続のネルキーが俺の脚にぶつかるが、そんなの構ってられる状況じゃねぇ。
路地から現れたのは2人連れ。怪我をしてる犬獣人戦士、そしてそいつに肩を貸す猫獣人と人間の混血の男……まだガキ臭さが抜けきってねぇアリオだ。
何故こんなところに? てな疑問は今更だ。アイツも俺と同じ。農場を焼き、仲間を殺したリカトリジオス軍への復讐を誓ってここまで来た。そしてそこには……「殺された俺の復讐」も含まれてるんだろう。
糞ッたれ、あの馬鹿、何やってやがんだ、と、そう思ったところでどうしようもねぇ。今更馬鹿面下げて「実は死んでなかった」とでも言うか? 「だから復讐なんてやめて、農場に戻れ」と?
言えるかよ、そんなこと。
「ネルキー!」
「何!?」
「やり方は任す。あの連中が上手く脱出出来るよう誘導してくれ!」
「分かった!」
各所で上がる火の手に、騒がしくなるシーリオの陣内。こんな所でモタモタはしてらんねぇ。
だが丁度そのとき、寺院の方から現れた一隊から、アリオたち2人連れへと突進を仕掛ける巨大な影が。
そいつは片腕だけが異常に肥大化し、猛烈な勢いでタックルをかまして掴み掛かる突進食屍鬼だ。その体当たりをモロに食らって吹っ飛ばされる2人。そしてアリオが肩を貸していた犬獣人が首根っこを掴まれ、そのまま何度も何度も地面へと叩き付けられる。
そこへと割り込むのは別の猫獣人。突進食屍鬼よりも早い速度で走り寄って曲刀一閃。背中からまずはと斬りつけて、返す刀で深くわき腹を突き刺して抉る。チーターみてぇな模様のあるそいつは、倒れた犬獣人を再び抱えようとするが、そのまま地面へと下ろす。
「……ドゥーマ!」
アリオの呼び掛けに首を振るそいつが、
「糞ムカつくぜ! オグェドはもうだめだ! ウーヒェもやられた!」
と返す。
そこに再び、今度は女の腕くらいの太さの長い舌が飛んできて2人を締め付けようとする。
ドゥーマと呼ばれた猫獣人は振り返りざまに曲刀でそれを斬るが、アリオは短めの山刀を振るうも間に合わずに絡め捕られる。助けようとするドゥーマは、それより先に、上空から別の食屍鬼に跳びかかられ押し倒された。
馬乗りになり腹や胸や腕を抉るように切り刻もうとする狩人食屍鬼の爪先を、ドゥーマは間に曲刀を挟みなんとか致命傷を回避しているが、あいつにこの体勢になられると自力で返すのはほぼ不可能。
助けられるとしたらアリオだが、そのアリオも、肥大した喉元から煙を吐き出してる煙たい食屍鬼のカメレオンのような長い舌で締め上げられ引っ張られ動けない。
だが、その煙たい食屍鬼の舌が突如ブツリと切れる。伸ばしすぎて耐えられなくなったか……と言うとそうじゃねぇ。建物の影に隠れていたネルキーの投げたナイフが舌を切断したからだ。正面きってのガチ戦闘はからきしだが、隠れての投擲技術ならムーチャをも凌ぐ。
とにかく解放されたアリオは数回ほとゴホゴホと咽せながらも、半ば転がるかにドゥーマにのし掛かかっている狩人食屍鬼へと駆け寄り蹴りあげる。仰向けに転がる狩人食屍鬼を、止めとばかりに両手に持た二本の短刀で何度も刺して倒す。
その間にも寺院から出て来た犬獣人食屍鬼兵たちは近付いてくる。隊列を組む盾持ちの犬獣人食屍鬼兵の一隊と、魔力が強く、活性化したことで独特の攻撃をしてくるようになった特殊食屍鬼兵。その数は総勢20体近く。さらにその背後からぬぅと現れるのは、全身が筋肉の塊のように肥大化した巨人のような食屍鬼兵……重戦車食屍鬼の2体だ。
廃都アンディルに居た死霊術師は、支配し使役できる食屍鬼自体は多かったが、一度に具体的な命令で指示出来たのは4、5体までだった。だが特殊食屍鬼は別としても、今操られてるのは20体近い。じゃあ今コイツ等を操ってる奴はあの死霊術師より上なのか? と言うと、多分違う。死霊術師と同じ“血晶髑髏の杖”を持ち掲げてる1人の犬獣人兵は、パッと見特に何の変哲もない犬獣人だ。何が違う? 多分そりゃ、コイツ等がリカトリジオス軍の犬獣人食屍鬼兵だ、ってところだ。食屍鬼は他の死霊術による操り人形のような動く死体と違い、生前の魂を死した肉体に閉じこめられ、狂気と正気の狭間を行き来する。そして何より、狂気の挾間においても、生前の習慣に従って動くと言う。
その食屍鬼と化したリカトリジオス兵を、“血晶髑髏の杖”を使いながら“慣らし”、さらには何らかの特殊な方法も交えて軍隊として行動出来る食屍鬼兵に仕立てた……。
奴隷頭の書き付け、日誌に書かれていた事と併せての推測も含んでの話だが、多分そう言う事だ。基本的なリカトリジオス軍の軍事行動に加えて、さらに“血晶髑髏の杖”によってコントロールが出来る。
奴隷頭が今シーリオでやっているのは、さらにリカトリジオス軍兵士でなかったシーリオの人間種を含む奴隷たちを、そう言う「コントロール出来る食屍鬼兵」へと変えられるかどうか? と言う実験だ。その為、少しずつ少しずつ、シーリオ住人の奴隷たちを寺院の中で食屍鬼化させている。
ドゥーマとアリオは連れ立って走り出し、迫り来る食屍鬼兵の部隊から逃げる。それに応じて特殊食屍鬼兵を中心とした数体がそれを追う。数の不利だけじゃなく、地の利に状況、全てにおいて絶対絶命。
どっちに向かうか? アリオ達の事はネルキーに任せた。任せた以上、そこは信頼するしかねぇ。じゃあ俺は何をするか……って言うなら、ネルキーが奴らを撤退させる為のアシストだ。
陰に潜んだまま“血晶髑髏の杖”を持った犬獣人兵へと投げナイフを投げつける。三本のうち二本が腕、肩へ刺さるが、この投げナイフは小型でほとんど殺傷力はない。ただし蛙人薬師特製の麻痺毒付きだ。
アリオ達への追撃を指示された食屍鬼兵達の動きは止まらないが、これで新たな追跡者が増える事は無くなるだろう。
だが、この場に残った指揮官を失った食屍鬼兵はと言うと、目に見えて不審な動きを始める。いや、単純な話だ。指揮官である“血晶髑髏の杖”を持ったリカトリジオス兵への攻撃をしてきた者を探し出したんだ。
こりゃ、廃都アンディルの食屍鬼じゃあ無かった反応。リカトリジオス食屍鬼兵は、どうやらその辺もまた違っているらしい。
その中の一体が奇声を発しながら俺を見つける。その食屍鬼兵を中心に、残った食屍鬼兵たちは猛烈な勢いで俺へと向かってくる。
ここでの大立ち回りはそりゃよくはねぇ。なんとかして退散するか。
▽ ▲ ▽
「ふん、まあまあの運動にはなったな」
と、不機嫌そうな顔で言うムスタだが、言葉以上に満足をしてるのは鼻の穴の開き具合で分かる。
あの後シーリオからなんとか脱出するも、麻痺毒で昏倒させた“血晶髑髏の杖”を持つリカトリジオス兵の操ってた食屍鬼兵には追われ続け、結局はシーリオ南側の山肌に作った野営地にまで向かい、火の手が上がり騒がしくなっていた様子に我慢できずシーリオ近くまで降りて来てたムスタと合流し、食屍鬼兵をシーリオからは十分に引き離してから撃破。特に重戦車食屍鬼とはムスタは二戦目ながら、前の時以上に楽しんで戦っていた。
「んで、どうよ、再戦のほどは?」
と、そう岩場に腰掛けムスタへと聞くと、
「ふん! 他愛のない相手だったわ!」
と吠えるが、
「だがよ、廃都アンディルのときよりは手ごわかったろ?」
と聞くと、ふん、と鼻息で同意。
そう、実際戦ってみると、何体かは明らかに廃都アンディルの食屍鬼達よりも強く、手ごわかった。
元となったのが精鋭リカトリジオス兵だったからか、あるいは単純に魔力量からの理由か。そりゃ分からねぇが、手ごわいと言う事実だけは変わらねぇ。
こりゃ、色々と考えどころな話だ。リカトリジオスが食屍鬼兵を囲ってるのは事実として、その戦力を以前の廃都アンディルでのそれで考えてると、対応をしくじるかもしれねぇ。
しばらくしてネルキーが戻ってきてアリオ達が無事退却出来た事を確認する。そこで今回のシーリオでの仕事にはひとまずけりを付け、ネルキーにはボバーシオにまだ居るウペイポと共にこちらでの情報収集等々を引き続き任せて帰還することにする。
▽ ▲ ▽
「いかがでしたか、主どの?」
「悪かなかったぜ」
慇懃に出迎えるアルアジルへと投げ渡すのは、奴隷頭の部屋から盗んできた日誌や書き付け、そして例の赤石の腕輪などの成果品。
「ほう……これはこれは……」
「分かるか?」
まず目を向けるのは当然赤石の腕輪だ。
おそらくは血晶髑髏と同じ原材料で作られているそいつは、リカトリジオスの食屍鬼兵から攻撃をされない、厳密に言えば初見時に敵対されない効果があるようだった。
もちろんこちらから攻撃をしたりすれば反撃もされる。ただ、食屍鬼が見境なく生者を襲い喰らおうとするハズの狂気の状態であっても、こちらから手を出さない限りは獲物とは見なされない。
「これをあの者が量産していたと言うのであれば、我々もあの後に廃都アンディルへ行き収集しておくべきでしたな」
「状況的にゃ仕方ない。それに、俺たちがあの死霊術師の成果物を独占しなかったからこそ、リカトリジオスがそれを利用する策を考えて、だからこそその隙を突ける」
食屍鬼兵を作り出し、それを操り戦力とする、ってのは、そりゃボバーシオはじめ狙われた都市側からすりゃ恐ろしい話だ。
だが、リカトリジオスはそもそも魔術嫌い。犬獣人自体があまり魔術を得意としない、使わないのに加え、犬獣人を奴隷として来た帝国人、クトリア人、そして邪術士たちはそれぞれ、ある種の呪い、離反や逃亡を妨げるなんらかの術を使う事が多かったことからも、リカトリジオスにとって魔術はおぞましくて忌まわしく、害をもたらすもの……てな先入観、意識がある。だから嫌われるしタブー視もされる。
だがだからって治癒術なんかも含め、魔術そのものは巧く使えば便利で有用なのも確か。
なので、魔導具や魔装具、錬金魔法薬の使用はそれほど禁忌ともされない。それらまで魔術絡みの全てを禁止しちまったら、さすがに勝ち目が無くなるし、何よりそれらは、本来なら魔術の苦手な犬獣人にも問題なく使えるからだ。
で、こりゃ別の視点で言やぁ、リカトリジオスには本当の意味での魔術絡みの専門家が居ない、居ても立場が弱い、って事だ。それは、魔術師ではないものの、固有の魔術の力を持ち、高い戦力ともなるハズだった“黄金頭”アウレウム、ネフィルやクーク、ヴィオレト達魔人を、シュー以外のリカトリジオスの高位の将軍らが冷遇していた事からも分かる。
そこが、穴だ。
「シューはこの食屍鬼兵を本格的に使い出すときには前線に出て、自ら指揮を執るだろうぜ。
アルアジル、お前ならそのときどうすべきか、奴らの裏をかく方法が見つけられる……だろ?」
俺のその言葉に、蜥蜴人の魔術師はやはり腹の内の読めねぇトカゲの顔で、だがハッキリと分かるくらいにニヤリとし、
「仰せのままに、主どの」
と応えた。
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