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男女は何故分けるのか
差別主義者
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私の友人A君。男だ。とある国の、サッカー協会に勤めていた。退任したがね。
ある日、中学女子サッカーチームの監督がやって来た。Bさんとしよう。
彼女のチームは優秀だった。敵無しと言っていい。国内大会で優勝。決勝戦すら4-0だった。
Bさんは、男子の大会に出たいと頼みに来た。
A君は拒否した。チームの力量が十分なのはA君も知っていた。だが、拒否した。
一つ付け加えておく。
A君は差別主義者であり、差別主義者ではない。
「なぜですか」
「男子チームと戦えないと思ってるんですか」
「そんなことはない」
「むしろ、その辺の男子チームより強いだろう」
「だが、そういうルールだ」
A君は、頑として譲らなかった。君たちが今、どんな教育を受けているかは知らない。しかしこの頃は、男女平等をはき違えたバカ……いや、頭の足りない者がいた。
先に断っておくが、Bさんはそこまでのバカではない。残念ながら、周囲に流されてしまった憐れな方だ。
Bさんはこれを不満に思ったが、その日は引き下がった。
その夜、ネットの海に、言葉足らずな書き込みがひっそりと流された。
『女子チームだって理由で男子チームと戦ってはいけないのは、うーん…』
A君にも、大いに反省すべきところはある。
言葉足らずなところ、受け答えの印象が悪いところ、挙げればキリがない。
だがこの書き込みは、不幸にも頭の足りない者たちの目に留まった。
……すまない。私的な感情を持ち出すのは本当に心苦しいが、この者たちを、バカ共と呼ぶ。私は、未だに、本当に許せない。これについてはまあ、いつか。
そんなこんなで、バカ共はこの書き込みをやり玉に挙げた。
Bさんは、きっとこんな大事になるとは思っていなかったことだろう。
日に日に、事態は大きくなった。
A君について、あることないこと、様々な噂を聞いた。
セクハラ。パワハラ。男女差別。
協会は、穏便に終えたかった。A君を退任させるべきか、否か。
A君は、自ら退任を申し出た。
ただし、記者会見を開かせて欲しいと。
「僕は、世間的に見て差別主義者だと言われている。というか、まあそうでしょう」
そんな言葉で会見が始まった。
「僕はね、女子チームが男子チームに勝つことに関して、一切問題だと考えていません」
「でもね、男子チームが女子チームに負けること。これは、彼らのプライドを砕くには大き過ぎる」
「君たちはどう言われて育ったのか知らない。でもね、僕はね『男らしく』育てられたよ」
「『女性を守る男性像』『強い男』。僕は現役時代、度々口にしていたでしょう『もっと強く』」
「そんな風に育てられた男の子が、女の子に負けてしまったら」
そこに、数秒間の沈黙が訪れた。
「男女を分けているのは、女性を守るためだと。女性という縛りの中でしか争えないだろうと。そんな考えの下で作られたものかもしれない」
「その考えの中には、きっと女性蔑視的なものも多分に含まれていた」
「でもね、これは男性を守るための機能でもある」
「強くあることを求められてしまった男たちが、せめて男の中で負けられるように」
それだけを言い放って、A君は会見を終えた。
どのメディアも、全文を伝えてはいなかった。
A君は差別主義者のまま、退任した。
話は以上だ。
君たちがこの話をすぐ忘れてくれることを祈る。
ある日、中学女子サッカーチームの監督がやって来た。Bさんとしよう。
彼女のチームは優秀だった。敵無しと言っていい。国内大会で優勝。決勝戦すら4-0だった。
Bさんは、男子の大会に出たいと頼みに来た。
A君は拒否した。チームの力量が十分なのはA君も知っていた。だが、拒否した。
一つ付け加えておく。
A君は差別主義者であり、差別主義者ではない。
「なぜですか」
「男子チームと戦えないと思ってるんですか」
「そんなことはない」
「むしろ、その辺の男子チームより強いだろう」
「だが、そういうルールだ」
A君は、頑として譲らなかった。君たちが今、どんな教育を受けているかは知らない。しかしこの頃は、男女平等をはき違えたバカ……いや、頭の足りない者がいた。
先に断っておくが、Bさんはそこまでのバカではない。残念ながら、周囲に流されてしまった憐れな方だ。
Bさんはこれを不満に思ったが、その日は引き下がった。
その夜、ネットの海に、言葉足らずな書き込みがひっそりと流された。
『女子チームだって理由で男子チームと戦ってはいけないのは、うーん…』
A君にも、大いに反省すべきところはある。
言葉足らずなところ、受け答えの印象が悪いところ、挙げればキリがない。
だがこの書き込みは、不幸にも頭の足りない者たちの目に留まった。
……すまない。私的な感情を持ち出すのは本当に心苦しいが、この者たちを、バカ共と呼ぶ。私は、未だに、本当に許せない。これについてはまあ、いつか。
そんなこんなで、バカ共はこの書き込みをやり玉に挙げた。
Bさんは、きっとこんな大事になるとは思っていなかったことだろう。
日に日に、事態は大きくなった。
A君について、あることないこと、様々な噂を聞いた。
セクハラ。パワハラ。男女差別。
協会は、穏便に終えたかった。A君を退任させるべきか、否か。
A君は、自ら退任を申し出た。
ただし、記者会見を開かせて欲しいと。
「僕は、世間的に見て差別主義者だと言われている。というか、まあそうでしょう」
そんな言葉で会見が始まった。
「僕はね、女子チームが男子チームに勝つことに関して、一切問題だと考えていません」
「でもね、男子チームが女子チームに負けること。これは、彼らのプライドを砕くには大き過ぎる」
「君たちはどう言われて育ったのか知らない。でもね、僕はね『男らしく』育てられたよ」
「『女性を守る男性像』『強い男』。僕は現役時代、度々口にしていたでしょう『もっと強く』」
「そんな風に育てられた男の子が、女の子に負けてしまったら」
そこに、数秒間の沈黙が訪れた。
「男女を分けているのは、女性を守るためだと。女性という縛りの中でしか争えないだろうと。そんな考えの下で作られたものかもしれない」
「その考えの中には、きっと女性蔑視的なものも多分に含まれていた」
「でもね、これは男性を守るための機能でもある」
「強くあることを求められてしまった男たちが、せめて男の中で負けられるように」
それだけを言い放って、A君は会見を終えた。
どのメディアも、全文を伝えてはいなかった。
A君は差別主義者のまま、退任した。
話は以上だ。
君たちがこの話をすぐ忘れてくれることを祈る。
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