無詠唱魔法が強いなんて誰が決めた! ~詠唱魔法を極めた俺は、無自覚に勘違い王子を追い詰める~

ノ木瀬 優

文字の大きさ
7 / 11

6.マッチポンプ? 【馬鹿は予定がちょっとでも狂うと、パニックを起こす】

しおりを挟む
【side クロ】

「――に応じて全ての敵を射殺せ。風弓ウィンドアロー!】」

 俺は詠唱魔法によって、オークキングや配下のオーク達を狩っていく。

「ふふ。やっぱりクロちゃんも来てたね」
「ん? おお、マリアか。気付かなかった」

 茂みの中から、気配を消していたマリアが現れた。マリアの後ろには、マリアが狩ったであろうオーク達が飛行フライで浮いた状態でついて来ている。

「凄い狩ったね! 大丈夫なの?」
「ああ。今日はのおかげでどれだけ狩っても無駄にならないからな」

 俺は、マリアに腕に付けた魔道具を見せた。今回の演習の為に学校から支給された収納機能のある魔道具で、大容量で時間停止の機能ついている優れものだ。

「ああ! なるほど! それじゃ、私が狩ったのも収納してもらえる? 血抜きはしたんだけど、どうせなら新鮮な方が良いし」
「あいよ。んっ!」

 俺は自分が狩ったオークとマリアが狩ったオークを対象に、収納魔法を起動した。

「これで全部かな。よし、そろそろ『指定区域』に戻ろう!」
「え? オークロードは?」
「ん? ここにいるよ」

 俺は再び腕に付けた魔道具を見せる。

「オークロードが深部の主みたいだね。今は、狩り漏らしたオークキングを狩っていたところだよ」
「……絶対私よりクロちゃんの方が強いよね」
「状況によるだろ? それより、早く行こう。あの王子様達がオークキングに遭遇してたら面倒だ」

 そう言って、俺は『指定区域』に向かって歩き出した。

「むー……」
「マリア」
「わかってるよ。でも、『むー』は『むー』なの!」

 文句を言いつつも、マリアもすでに『指定区域』に向かって歩き出している。

「ふふ。ありがとう。そんなマリアが大好きだよ」
「――っ!! 『むー』『むー』『むー』!!」

 そんな事をいいつつ、俺達は、『指定区域』へと向かった。


【side フィリップ王子】

 結界を壊した俺は、索敵を行っていた取り巻き達と合流した。

「よし、索敵結果を報告せよ」
「はっ! この辺りに魔獣はおりませんでした」
「ふむ。ご苦労」

 取り巻き達が心配そうに俺を見つめる。おそらく、演習の結果を心配しているのだろう。

(ふふ。心配しなくとも魔獣はもうすぐやって来るさ。俺達にふさわしい魔獣がね)

「よし、ではこれより、マリアと合流する。行くぞ」
「はっ!」

 俺の計算では、マリアと合流する頃に深部の魔獣達が俺達の匂いにつられて、やって来るはずだ。そこで冷静な対応をすれば、マリアは俺に惚れるに違いない。

「くくく」

 もうすぐ来る未来を想像した俺は、こらえきれず、笑みを漏らす。

「大変です! け、結界が!」

 突然、取り巻きの1人が大きな声を出した。

「え? うわ、マジだ!」
「そんな! 結界が消えるなんて!」
「ま、まずいです、フィリップ王子! 今すぐ逃げないと!」

(ちっ、気付いたか。マリアと合流してから気付いてほしかったのだが)

 『全員がパニックになる中、1人冷静な俺』という演出をしたかったのだが、気付いてしまったものは仕方がない。俺は、取り巻き達を一喝する。

「うろたえるな! 俺達は魔法使いだぞ! いついかなる時も冷静であるのだ!」
「し、しかし……」
「何も心配する事は無い。ここには俺がいるのだ! 仮に深部の魔獣が現れたとしても、俺達の敵ではない!」
「ふぃ、フィリップ王子……」

 俺の言葉を聞いた取り巻き達が落ち着きを取り戻していく。

「そ、そうだ。我らにはフィリップ王子がついている!」
「深部の魔獣など、恐れるに足らず!」
「フィリップ王子万歳! フィリップ王子万歳!」

 取り巻き達が俺を褒めたたえた。

(くくく、決まった! それにしても、この雄姿を、マリアに見せられなかったのが、残念でならないな……深部の魔獣と戦う時には、絶対にマリアにいてもらわないと)

「よし! では、はぐれているマリアと合流するぞ。その後、あいつと合流してから、ここを脱出するのだ!」
「「「はっ!」」」

(ま、その頃には、あいつは死んでいるだろうがな……そうだ! 幼馴染を無くして悲しむマリアを優しく抱きしめてやろう。そうすれば、マリアは……ぐふ、ぐふふふ)

 そんな事を考えながら、マリアと合流すべく、俺達は先を急いだ。しかし……。



(………………おかしい。そろそろ合流してもいい頃だぞ?)

 しばらく歩いたが、一向にマリアと合流できずにいる。

(なぜだ? 『指定区域』内を探索しているのだから、この辺にいるはずだ。なぜいない? …………ん?)

 俺は、索敵の魔道具が魔獣を見つけたのを感じた。

(ちっ! マリアと合流する前に魔獣が現れてしまったか! 仕方ない。先に倒すか)

 いくらマリアにかっこいい所を見せるためとはいえ、この魔獣を放置するのはまずい。この先も魔獣はやってくるのだ。マリアに見せるのが初戦でなくてもいいだろう。

「止まれ!」

 俺は、取り巻き達に声をかけた。

「背後に魔獣がいる。深部の魔獣だ。警戒しろ」
「「「――!」」」

 取り巻き達の間に緊張が走る。

「なに、心配するな。俺の風魔法できっちり倒してやるさ。お前達は万が一に備えてくれればいい」
「「「ふぃ、フィリップ王子……」」」

 取り巻き達からが熱い視線を向けてきた。本当はその視線をマリアから貰いたかったのだが、仕方がない。

「よし、ここで魔獣を狩るぞ。俺はここから魔法を放つ。お前達はそことそこの茂みに隠れて、万が一俺が外したらお前達が魔法を放つのだ。いいな?」
「「「はっ!!」」」

 取り巻き達が茂みに隠れ、俺は道の真ん中で深部の魔獣を待った。



 そうしてしばらくすると、深部の魔獣がやって来る。

(あれは……オーク、だな)

 オークジェネラルやオークキングでない事にがっかりしたが、それらと会うのはマリアと合流してからの方が良い事に気付いた。

(くくく。俗に言う、『ウォーミングアップにはちょうどいい』というやつだな。軽く倒してやるか!)

 俺は、オークを見据える。すると、オークもこちらに気付いたのか、威嚇の声を張り上げた。

「ぶぅぉぉおおおんんんん!!」
「――ひっ……くっ!」

 一瞬ひるんでしまったが、気を取り直して風魔法の準備を始める。人間が珍しいのか、オークは俺を観察していて、まだ、襲ってくる様子はない。だが、オークとの距離は30メートルほど。俺の魔法の射程範囲内だ。

(くそが! オークの分際で俺に威嚇するなど……身の程を知れ! 行くぞ【風弓ウィンドアロー!】)

 俺の【風弓ウィンドアロー!】がオークの額に命中する。

(よしっ!)

 オークの額に命中した【風弓ウィンドアロー!】はそのまま額を貫き、オークの脳を破壊する……事は無かった。

「ぶぉ?」

 オークが痒そうに額をかく。

「………………え?」

 オークの額には赤い跡がついていたものの、血すら流れていない。攻撃されたとすら、思っていないようだ。

「ぶぅぉぉおおおんんんん!!」
「――ひぃ!!」

 再びオークが威嚇してきた。魔法が効かなかったことに動揺した俺は、情けない声を出して、後ろに転んでしまう。そんな俺を見て、オークが突っ込んでくる。

(やばい! やばいやばいやばい!!!)

「お前ら! 何をしている! 早く撃て!!!」

 俺は茂みの中に隠れている取り巻き達を怒鳴りつけた。次の瞬間、複数の魔法がオークめがけて飛んでいく。

「ぶぅぉぉおおおんんんん!!」

 だが、オークは意に介さず俺に向かって突っ込んできた。

「ひ、ひぃぃいいい!!」
 
 俺は慌てて、一番得意な【火球ファイアーボール】をオークに向けて連射する。先生から、『火事の危険があるから使うな』と言われていたが、今はそんな事気にしている場合じゃない。

 【火球ファイアーボール】の何発かがオークの服に着弾し、燃え広がる。

「ぶお! ぶおぉぉおおんんん!!」

 オークが初めて悲鳴を上げた。俺に向かって突進していた足を止めて服に着いた火を消そうと転げまわる。

「お前ら、火だ! 【火球ファイアーボール】を使え!!」

 俺は転げまわるオークに【火球ファイアーボール】を連発しながら取り巻き達に叫んだ。オークに襲われる恐怖を知った取り巻き達も、先生の言葉など無視して、【火球ファイアーボール】を連発する。

「おらおらおら!!!」
「死ね死ね死ね死ね!!!!」
「燃えろ燃えろ燃えろぉ!!!」

 暴れまわるオークを取り囲み、俺達は狂ったように【火球ファイアーボール】を撃ち続けた。



 どれだけ時間が経っただろうか。体感的には1時間近く撃ち続けていたが、自分の魔力量を考えると、1分も経っていないはずだ。俺達の魔力が尽きかけてきた頃、ようやく、オークが動かなくなった。

「や、やった……」
「やりました……ね」
「さすが……フィリップ王子、です」

 取り巻き達が息も絶え絶えと言った様子で話しかけてくる。

「あ、ああ。お前達もよくやったぞ。は、はは」

 俺は皆を鼓舞しようとしたが、いつものように上手く笑う事が出来ない。

(これが……これがオーク……深部の中で一番弱い魔獣……こいつが?)

 こいつがオークではなく、オークジェネラルやオークキングだったら、俺達は間違いなく死んでいただろう。そして、それらの魔獣がもうすぐそこまで来ているはずなのだ。その恐怖が俺の心を蝕み、身体を上手く動かす事が出来ない。

 しかし、そんなことはお構いなしに、危機はやって来る。

 バキッ! バキバキバキバキ!!

「「「――っ!!!」」」

 俺の背後から聞こえてきた音に全員で一斉に振り返った。

「あ、あああ……」
「森が……」

 オークに夢中になって気付かなかったが、俺達の背後の木が大量に燃えていたのだ。先ほどの音は、火が付いた木が倒れた音で、倒れた木は、さらに多くの木を燃やしていく。

「ま、まずいぞ。一旦戻って別の道から――」
「「「ぶぅぉぉおおおんんんん!!」」」
「――っ!!!」

 山火事とは反対から、オークの大群がやって来た。仲間の焼死体を見たからか、オークの大群は殺気に満ちた目で俺達を見ている。

「そ、そんな……」
「ど、どうしたら…………」
「ふぃ、フィリップ王子ぃ……」

 取り巻き達が俺に縋りつくような視線を向けてくる。だが、前方を山火事に、後方をオーク達に塞がれた俺は、ただ、絶望するしかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

【完結】奪われたものを取り戻せ!〜転生王子の奪還〜

伽羅
ファンタジー
 事故で死んだはずの僕は、気がついたら異世界に転生していた。  しかも王子だって!?  けれど5歳になる頃、宰相の謀反にあい、両親は殺され、僕自身も傷を負い、命からがら逃げ出した。  助けてくれた騎士団長達と共に生き延びて奪還の機会をうかがうが…。  以前、投稿していた作品を加筆修正しています。

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。

あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...