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第1章 初めての商品
7.【リバーシ販売3 ミッシェルさん登場】
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その後、何人かが5連勝を達成し、食料品の大半を買っていった。皆、前回リバーシを買ってくれた人達だ。
(やっぱり前回買ってくれた人は強いな。あの男の人が、『前に買って対戦してた』事をアピールしてくれたからか、リバーシも半分以上売れたし、いい流れだ! あとは、残っている人と観客にリバーシを買ってもらえれば完璧だ!)
「賞品の食料品が残りわずかとなりました! 対戦の募集は締め切らさせて頂きます! そして次に5連勝を達成した方が現れましたら、食料品の販売は終了とさせて頂きます! 5連勝を達成した方が現れなかった場合、最後まで勝ち残った方に食料品を半額で販売しますので、最後まであきらめずに頑張って下さい! なお、本日対戦して頂いたリバーシの販売も行っていますので、ぜひご覧になってください!」
あらかじめ、早い者勝ちと言っていたので、文句は出なかった。皆、自分が最後の達成者になろうと張り切っている。
そんな中。白いヴェールで頭と顔を隠し、侍女をつれた女性が5連勝を達成した。連勝中だった数人ががっくりと項垂れる。
その女性は、前回の露店にはいなかったはずだ。顔も髪型もわからなかったが、ゆったりとした服を着ていても存在感を主張する胸部は、一度見たら忘れられないだろう。少なくとも前回リバーシを買った人達の中にはいなかったと断言できる。
胸部に視線がいかないように、耐えていると、女性が立ち上がってこちらに歩いてきた。俺が目のやり場に困っていると、その女性は俺の顔に自分の顔を近づけて、俺の耳元でささやいた。
「面白いゲームやね。あんさんが一番強いんか?」
「え……あ、はい! 僕が強い一番です」
ドキドキして変な言葉遣いになってしまう。
「あはは。子供が色気づきおってからに。まぁええわ。ほんなら、わてと対戦してもらおか」
「え?」
「わてはな。食料品には興味ない。一番強いんと戦いたいんや。そやさかい、あんさんと対戦するんを賞品にしてくれんか?」
こちらとしては問題ない。あるとすれば、隣でユリが冷たい眼をしていることくらいだ。
「かしこまりました。では――」
「私がやる!」
「……え?」
突然、ユリが割り込んでくる。
「私も強いよ! お兄ちゃんとやりたければ、私に勝ってからにして!」
「ちょ、ユリ! お客様に――」
「ほほ、かまへんかまへん。ほんなら前哨戦といきましょか」
「……」
女性が机に戻り、その前にユリが座った。他のお客さん達も集まって来る。皆、突然のエキシビションマッチに、興奮しているようだ。
「よろしくお願いします!」
「はい、よろしゅう」
2人の対戦が始まった。
序盤はユリが白駒を増やしていく。一見するとユリが有利そうだが、女性はあえて黒駒を増やさないようにしているように見える。実際、中盤になると、白駒は置けるところが限られてしまい、ユリは自由に動けない。置きたくないところに置かざるを得なくなり、角をとられてしまう。そこからは一気に返されてしまい、最終的に盤面は黒駒ばかりとなってしまう。どうやら、女性は最初からこの展開を狙っていたようだ。
「はい、はばかりさんどした」
「…………ありがとうございました」
ユリはなぜ負けたか理解できないのだろう。黒ばかりとなってしまった盤面を茫然と見つめて呟いた。
「負けちゃった」
「相手が強かったな。仇はとるよ」
「――! うん! お願い!」
ユリが立ち上がり、代わりに俺が席に着く。
「真打登場やな」
「よろしくお願いします」
「よろしゅう頼んます」
序盤、女性は先ほどと同じく黒駒を増やさないように戦っていた。どうやら同じ戦法で来るつもりのようだ。
(それなら!)
俺は女性より、少しだけ多めに駒を返す。半分以上は白駒だが、置けるところは十分残した。中盤に入った時、俺はあえて女性に角をとられる位置に白駒を置く。すると、すかさず、女性は角をとりにきた。
(食いついた!)
俺は女性がとった角の隣に白駒を置いた。
「?? ――っ!?」
女性は気付いたようだがもう遅い。角はとられたが側面は俺がもらった。そのまま反対の角も取り、最初にあえて取らせた角以外の角を全てとる。勝敗は決した。
「……ここまでやね」
「ありがとうございました」
「おおきに はばかりさんどしたなぁ。最初角をとらせたんはあえてなん?」
「はい。罠を張りました」
「いけずやねぇ。ま、楽しませてもろうたさかい、賞品としては十分やわ。またやろな」
「喜んで! あ、よろしければ、リバーシいかがですか? 1セット1000ガルドです」
「あはは。商売上手やねぇ。ほなら3セット買わせてもらいましょか」
女性が侍女に視線を向けると、侍女が荷物から3000ガルドを取り出す。
「仲間内で遊ばせてもらいますわ。幾人かが、そのうち買いにくると思うから気張りや」
「ありがとうございます!」
侍女からお金を受け取り、リバーシを3セットを渡す。
「……あんさん、名前は?」
「アレン=クランフォードといいます」
「アレン=クランフォードな。覚えとくわ」
女性はかみしめるように呟いた後、立ち上がる。
「ほなまたな」
「「「ありがとうございました!」」」
俺とユリだけでなく、父さんもお辞儀をした。女性を見送った後、父さんに声をかけられる。
「やったな。あの方はアナベーラ商会の会頭、ミッシェル=アナベーラ会頭だ!」
父さんが珍しく興奮して言う。
「ここらでは一番大きな商会だ! あの方のお墨付きがもらえれば、リバーシは一気に広がるぞ!」
どうやら想像以上に偉い方だったようだ。無礼がなかったか心配になったが、帰り際の様子を見るに大丈夫だろう。
その後、リバーシはすぐに売り切れた。1人で3~5個購入された方が何人かいたためだ。
(一人で複数買ってどうするんだろ。まさか、転売!?)
前世で転売のせいで嫌な思いをした俺は、父さんに聞いてみた。
「いや、あの人達の目的は転売じゃない。そもそも法律で『許可のない定価以上での転売』は禁止されている。多分、仲間や部下の教育に使うんじゃないかな。アナベーラ会頭が仲間内で遊ばせてもらうっておっしゃっていたからね。それだけアナベーラ商会の影響力は大きいんだよ」
優れた商人は常日頃から情報収集を怠らない。アナベーラ商会の会頭がリバーシを気に入って『仲間内で遊ぶ』と宣言したことは、すぐに知れ渡るだろう。リバーシのルールを理解し、感想を言えるようになっておかないと、『情報収集力が低い』もしくは『アナベーラ商会を軽視している』と取られてしまう。
リバーシの未来が一気に開いた気がした。
「こうなってくると、露店じゃなく、支店を開いた方がいいな。後で相談しよう」
その後、残っていた食料品は最後まで連勝していた人達に半額で販売した。1人当たりの量は少なかったが、皆嬉しそうだ。楽しんでもらえたようで何よりだ。
最後の挨拶のため、俺は声を張り上げる。
「皆様、ありがとうございました。本日はこれにて店仕舞いです。リバーシの販売については、近々ここで発表を行います。楽しみにしてください!」
最初の挨拶とは違い、声に自信を乗せて喋れたと思う。
「「「ありがとうございました」」」
俺達はそろってお辞儀をした。観客から拍手が巻き起こる。
3日ぶりの露店は前回以上の大成功だった。
(やっぱり前回買ってくれた人は強いな。あの男の人が、『前に買って対戦してた』事をアピールしてくれたからか、リバーシも半分以上売れたし、いい流れだ! あとは、残っている人と観客にリバーシを買ってもらえれば完璧だ!)
「賞品の食料品が残りわずかとなりました! 対戦の募集は締め切らさせて頂きます! そして次に5連勝を達成した方が現れましたら、食料品の販売は終了とさせて頂きます! 5連勝を達成した方が現れなかった場合、最後まで勝ち残った方に食料品を半額で販売しますので、最後まであきらめずに頑張って下さい! なお、本日対戦して頂いたリバーシの販売も行っていますので、ぜひご覧になってください!」
あらかじめ、早い者勝ちと言っていたので、文句は出なかった。皆、自分が最後の達成者になろうと張り切っている。
そんな中。白いヴェールで頭と顔を隠し、侍女をつれた女性が5連勝を達成した。連勝中だった数人ががっくりと項垂れる。
その女性は、前回の露店にはいなかったはずだ。顔も髪型もわからなかったが、ゆったりとした服を着ていても存在感を主張する胸部は、一度見たら忘れられないだろう。少なくとも前回リバーシを買った人達の中にはいなかったと断言できる。
胸部に視線がいかないように、耐えていると、女性が立ち上がってこちらに歩いてきた。俺が目のやり場に困っていると、その女性は俺の顔に自分の顔を近づけて、俺の耳元でささやいた。
「面白いゲームやね。あんさんが一番強いんか?」
「え……あ、はい! 僕が強い一番です」
ドキドキして変な言葉遣いになってしまう。
「あはは。子供が色気づきおってからに。まぁええわ。ほんなら、わてと対戦してもらおか」
「え?」
「わてはな。食料品には興味ない。一番強いんと戦いたいんや。そやさかい、あんさんと対戦するんを賞品にしてくれんか?」
こちらとしては問題ない。あるとすれば、隣でユリが冷たい眼をしていることくらいだ。
「かしこまりました。では――」
「私がやる!」
「……え?」
突然、ユリが割り込んでくる。
「私も強いよ! お兄ちゃんとやりたければ、私に勝ってからにして!」
「ちょ、ユリ! お客様に――」
「ほほ、かまへんかまへん。ほんなら前哨戦といきましょか」
「……」
女性が机に戻り、その前にユリが座った。他のお客さん達も集まって来る。皆、突然のエキシビションマッチに、興奮しているようだ。
「よろしくお願いします!」
「はい、よろしゅう」
2人の対戦が始まった。
序盤はユリが白駒を増やしていく。一見するとユリが有利そうだが、女性はあえて黒駒を増やさないようにしているように見える。実際、中盤になると、白駒は置けるところが限られてしまい、ユリは自由に動けない。置きたくないところに置かざるを得なくなり、角をとられてしまう。そこからは一気に返されてしまい、最終的に盤面は黒駒ばかりとなってしまう。どうやら、女性は最初からこの展開を狙っていたようだ。
「はい、はばかりさんどした」
「…………ありがとうございました」
ユリはなぜ負けたか理解できないのだろう。黒ばかりとなってしまった盤面を茫然と見つめて呟いた。
「負けちゃった」
「相手が強かったな。仇はとるよ」
「――! うん! お願い!」
ユリが立ち上がり、代わりに俺が席に着く。
「真打登場やな」
「よろしくお願いします」
「よろしゅう頼んます」
序盤、女性は先ほどと同じく黒駒を増やさないように戦っていた。どうやら同じ戦法で来るつもりのようだ。
(それなら!)
俺は女性より、少しだけ多めに駒を返す。半分以上は白駒だが、置けるところは十分残した。中盤に入った時、俺はあえて女性に角をとられる位置に白駒を置く。すると、すかさず、女性は角をとりにきた。
(食いついた!)
俺は女性がとった角の隣に白駒を置いた。
「?? ――っ!?」
女性は気付いたようだがもう遅い。角はとられたが側面は俺がもらった。そのまま反対の角も取り、最初にあえて取らせた角以外の角を全てとる。勝敗は決した。
「……ここまでやね」
「ありがとうございました」
「おおきに はばかりさんどしたなぁ。最初角をとらせたんはあえてなん?」
「はい。罠を張りました」
「いけずやねぇ。ま、楽しませてもろうたさかい、賞品としては十分やわ。またやろな」
「喜んで! あ、よろしければ、リバーシいかがですか? 1セット1000ガルドです」
「あはは。商売上手やねぇ。ほなら3セット買わせてもらいましょか」
女性が侍女に視線を向けると、侍女が荷物から3000ガルドを取り出す。
「仲間内で遊ばせてもらいますわ。幾人かが、そのうち買いにくると思うから気張りや」
「ありがとうございます!」
侍女からお金を受け取り、リバーシを3セットを渡す。
「……あんさん、名前は?」
「アレン=クランフォードといいます」
「アレン=クランフォードな。覚えとくわ」
女性はかみしめるように呟いた後、立ち上がる。
「ほなまたな」
「「「ありがとうございました!」」」
俺とユリだけでなく、父さんもお辞儀をした。女性を見送った後、父さんに声をかけられる。
「やったな。あの方はアナベーラ商会の会頭、ミッシェル=アナベーラ会頭だ!」
父さんが珍しく興奮して言う。
「ここらでは一番大きな商会だ! あの方のお墨付きがもらえれば、リバーシは一気に広がるぞ!」
どうやら想像以上に偉い方だったようだ。無礼がなかったか心配になったが、帰り際の様子を見るに大丈夫だろう。
その後、リバーシはすぐに売り切れた。1人で3~5個購入された方が何人かいたためだ。
(一人で複数買ってどうするんだろ。まさか、転売!?)
前世で転売のせいで嫌な思いをした俺は、父さんに聞いてみた。
「いや、あの人達の目的は転売じゃない。そもそも法律で『許可のない定価以上での転売』は禁止されている。多分、仲間や部下の教育に使うんじゃないかな。アナベーラ会頭が仲間内で遊ばせてもらうっておっしゃっていたからね。それだけアナベーラ商会の影響力は大きいんだよ」
優れた商人は常日頃から情報収集を怠らない。アナベーラ商会の会頭がリバーシを気に入って『仲間内で遊ぶ』と宣言したことは、すぐに知れ渡るだろう。リバーシのルールを理解し、感想を言えるようになっておかないと、『情報収集力が低い』もしくは『アナベーラ商会を軽視している』と取られてしまう。
リバーシの未来が一気に開いた気がした。
「こうなってくると、露店じゃなく、支店を開いた方がいいな。後で相談しよう」
その後、残っていた食料品は最後まで連勝していた人達に半額で販売した。1人当たりの量は少なかったが、皆嬉しそうだ。楽しんでもらえたようで何よりだ。
最後の挨拶のため、俺は声を張り上げる。
「皆様、ありがとうございました。本日はこれにて店仕舞いです。リバーシの販売については、近々ここで発表を行います。楽しみにしてください!」
最初の挨拶とは違い、声に自信を乗せて喋れたと思う。
「「「ありがとうございました」」」
俺達はそろってお辞儀をした。観客から拍手が巻き起こる。
3日ぶりの露店は前回以上の大成功だった。
応援ありがとうございます!
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