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第2章 商会の設立

34.【フィリス工房 追加発注】

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(フィリス工房で待ち合わせなんだから、そりゃ、途中で会ってもおかしくないよね!)

「どうやらわての娘がお世話になったみたいやのぉ」
「そ、そうですね。明日から従業員として働いてもらう予定です」

 俺の言葉にミッシェルさんは嬉しそうにうなずいた

「そかそか。それは何よりや。癖が強い娘やけど仲良うしたってや」

あんたミッシェルさんが言うな!)

 俺は心の中で突っ込む。

「――なんか言いたげやなぁ。まぁええわ。フィリス工房に行くんやろ? 一緒に行きましょか」

 そう言ってミッシェルさんは俺達と一緒にフィリス工房に向かう。

「そういえば、ニーニャさんはご一緒じゃないんですね」
「ああ、明日から寮生活やろ? 色々・・準備しとるようや」
「色々……ですか」
「色々や」

 余り詮索しない方がいいだろう。嫌な予感がしたが、女性の荷物に口出しすることはできない。

「そないなことより、ユリちゃんに依頼した看板はどんな感じや? いつ頃下絵見られそうや?」

 ミッシェルさんがウキウキしながら聞いた。この人が人をいじる時以外でこんな声を出しているのを初めて聞いた気がする。

「あ、下絵は今日見せられますよ。フィリス工房に着いたらお渡しします」
「ほんまか! おおきに! ずっと楽しみやったんや」

 子供のようにはしゃぐミッシェルさんが凄く新鮮だ。そうこうするうちにフィリス工房についた。

 受付に向かうと、いつものようにミケーラさんが出迎えてくれる。

「お待ちしておりました。皆様、こちらへどうぞ」

 ミケーラさんの案内で応接室に向かう。応接室にはマリーナさんが待っていて、テーブルの上には3種類のチェスのサンプル品が並べられている。

「「「お~!!!!」」」

 サンプル品を見た俺達は思わず感嘆の声を上げた。

「お待ちしてました! こちらが一般向け、布教向け、高級向けのサンプル品です」

 ミッシェルさんが指さして教えてくれる。一般向けが木製、布教向けが陶器製、高級向けがガラス製となっており、見た目も俺のイメージした通りだった。手に取ってみると、駒はいい感じに手になじむ。また、一般向けと布教向けの駒の裏には、駒の動きが書かれていて、裏を見ればどの駒がどのように動くのかが一目で分かる作りとなっていた。

「素晴らしいです! まさに俺のイメージ通りです!」

 そう言うと、マリーナさんは満足そうにうなずく。

「ありがとう! それじゃこれで量産していくね。約束通り、5日後に一般向けを1000個、布教向けを1000個、高級品を100個、クランフォード商会にでいいかな?」
「はい! それでお願いします」
「ほなら、追加でその10倍作うてくれや」
「「……え!?」」

 俺が了承したら、ミッシェルさんが追加で注文した。

「せ、先生!? 10倍ですか?」
「ああ、10倍や。追加分はアナベーラ商会に納品しれくれ。ああ、もちろん先にクランフォード商会に納品してからアナベーラ商会に納品で大丈夫や。その場合、いつまでに納品できる?」

ミッシェルさんの目が大商会の会頭の目になっていた。

「え、えっと……10日頂ければ納品は可能ですが……本気ですか?」
「ああ。これは売れるやろ。間違いなく、国中に広がるやろな。いや、売れなんだらそれはわての責任や。必ず売り切ってみせるで」

 そこまで評価してくれるのは嬉しいが本当に大丈夫なのだろうか。俺は心配になってミッシェルさんに聞く。

「だ、大丈夫ですか? 万が一売れなかったら大赤字ですよ?」
「――アレンはん。自信をもってええで。これは売れるわ。わても実物を見るまでチェスがここまで心惹かれる物やとは思わなんだが、これは革命を起こせるで? まさに天才的発明や」
「あ、ありがとうございます」

 チェスは俺が考えたものではないので、そこまで褒められると気恥ずかしいが、悪い気はしなかった。

「10日後で十分や。出来次第、アナベーラ商会に運んでくれ」
「承知しました!」

 ミッシェルさんが商会証を提示して、ミケーラさんが魔道具をかざす。ピッ! という音がしたことを確認して、ミッシェルさんが立ちあがる。

「新しいサンプルの話はアレンはんに任せるわ。隣の部屋借りてええか? ユリちゃんに描いてもろうた下絵見せてもらうわ」
「え? あ、はい。どうぞ」

 そう言って、ユリを連れて隣の部屋に移動した。『新しいサンプルの話』というセリフにマリーナさん達は目を光らせた。

「もしかして、もう新しい商品を開発したの?」
「信じられない……一体どんな商品を?」

 2人が聞いてくる。フィリス工房としてもリバーシやチェスの大量発注は特需だったのだろう。他にもネタがあると聞いて期待しているようだ。

「今回はリバーシやチェスと違い、身体を動かす娯楽品です。まずはこちらのデザイン画を見てください」

 俺は、2人にユリが描いてくれたデザイン画を見せて、それぞれの娯楽品の説明をした。

「――なるほど……『メンコ』に『独楽』、『蹴鞠』、『羽子板』ね。これは、どれもかなりの強度が無いとすぐに壊れちゃいそうね」
「そうですね。大きさは小さいですが、その分、素材は慎重に選ぶ必要があるかと………………申し訳ありません。サンプル品の作成に少々お時間いただけますでしょうか。完成のめどが立ち次第、クランフォード商会の支店にご報告に伺わせていただきます」

 指摘されて気付いたが、大量生産するためには、この世界の技術で壊れないように作る必要があるのだ。それは時間がかかるだろう。

「かまいません。お手数をおかけしますが、よろしくお願いします」
「うん! よろしく!」
「よろしくお願い致します」

(フィリス工房に任せておけば大丈夫だろう。仕事は・・・できる人達だから)

 その後、チェスの料金を支払い、その日の打ち合わせは終了した。隣の部屋で、ユリが描いた下絵を見ているミッシェルさんの所へ向かう。

「――これや! これがええ! これで頼むわ」
「分かりました! これで進めます!」

 扉の前に立つと、ミッシェルさん達の話し声が聞こえてきた。俺が扉をノックすると、中から返事が聞こえる。

「お、アレンはんか? 入ってええで」
「失礼します」

 扉を開けると、見るからに上機嫌なミッシェルさんが出迎えてくれた。

「いやぁ、ユリちゃんほんま凄いわ! 下絵、3枚見せてもろうたけど、3枚とも素敵やわ。どれにするかめっちゃ迷ってしもうた。いずれは他支店の看板も描いてほしいわ」
「ありがとうございます! ぜひ描かせてください!」

(アナベーラ商会の看板を何枚も手掛けるって……一気に有名デザイナーの仲間入りだな)

「そっちの話し合いは終わったんか?」
「ええ、先ほど終わりました。今回のサンプル品作りは少々時間がかかるとのことで、めどが立ち次第、教えてくれるそうです」
「まぁそうやろな。ほな、話がまとまったところで帰りましょか」

 部屋を貸してくれたマリーナさん達にお礼を言い、俺達はフィリス工房を後にした。
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