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第3章 躍進の始まり
57.【ミルキアーナ男爵3 ミーナ様の決意】
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「店長様? ……です?」
「バミューダ君? なんで?? いや、それより手当だ! バミューダ君はリンダさんをお店まで運んでマグダンスさんに診せて! ナタリーさんはミーナ様を解放してあげてください!」
「はい! ……です!」
「分かりました」
バミューダ君はリンダさんを背にしたままお店に向かった。マグダンスさんなら、リンダさんを見て、適切な対応をしてくれるだろう。
ナタリーさんはミーナ様の猿ぐつわと腕のロープを手際よくほどいていく。
「……ケホッ! あ、アレン様……ありがとうございます。」
猿ぐつわを解かれたミーナ様がお礼を言った。
「ご無事で何よりです。いったい何が……あ、いや、まずは店内に行きましょう」
ミーナ様に傷はなさそうだが、よく見ると身体が震えている。刃物を持つ男に襲われたのだ。外傷はなくても、心に傷を負っているだろう。
俺はミーナ様に手を差し出した。ミーナ様は俺の手を掴んで立ち上がったが、立ち上がった後も俺の手を離さない。よほど怖かったのだろう。
ミーア様に手を握られたまま、気絶している男を見て言う。
「ナタリーさん。申し訳ないですが、こいつを治安部隊の所に連れて行ってもらえますか?」
「分かりました。これも持っていきますね」
ナタリーさんが、男が持っていたナイフを拾って言った。よく見るとナイフの柄に馬の刻印がされている。
「お願いします。奴らが襲ってくるかもしれません。お気をつけて」
「任せてください。必ず生きたまま治安部隊に届けます」
(え? そっちの心配!? あ、いや、確かに口封じに来る可能性もあるのか……)
俺が、ナタリーさんの指摘に戸惑っていると、ナタリーさんは、手慣れた様子で男の腕を縛ると、肩に担いだ。
「奴らがこちらに戻ってくる可能性もあります。お店の裏口まではご一緒しましょう」
「あ、そうですね。ミーナ様、歩けますか?」
「だ、大丈夫ですわ」
俺はミーナ様と手をつないだままお店の裏口に向かう。裏口でナタリーさんと別れて、店内に入ると休憩室の前にマグダンスさんがいた。
「マグダンスさん。リンダさんは?」
「今、休憩室の中でクリス様とマーサさんが診ています。傷は浅そうですが、念のためバミューダ君とユリさんに医者を呼んできてもらっています。売り場がニーニャ様とマナさんだけなので、私は戻りますね」
「ありがとうございました。助かります」
マグダンスさんなら、上手く采配してくれると思ったが、正しかったようだ。マグダンスさんを見送ってから、休憩室の扉をノックする。
「アレンです。入って大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ」
ミーア様を連れて休憩室に入ると、リンダさんがソファーに寝かされていた。
「リンダ!」
「シーッ! ミーナ様、落ち着いて下さい。リンダさんは寝ているだけです」
大声を出してしまったミーナ様にクリスさんが優しく諭す。ミーナ様は慌てて手で自分の口をふさいだ。
「大丈夫なんですの?」
ミーナ様が小声で尋ねる。
「ええ。念のためお医者様に見せた方が良いですが、大きな傷はなさそうです。止血もできましたし、問題はないかと」
「あぁ、良かった。良かったですわ。ううぅぅ……」
安心したのか、ミーナ様が泣き崩れてしまう。
「ミルキアーナ様、とりあえずこちらのソファーに座ってください。今お茶を淹れますから」
マーサさんがミーナ様に手を差し伸べた。
「うぅ……す、すみません。お手数をおかけしますわ」
ミーナ様は泣きながらもマーサさんの手を取り、ソファーに座る。マーサさんはミーナ様を座らせた後、お茶を淹れてくれた。
マーサさんが淹れたお茶を飲むと、ミーナ様も落ち着きを取り戻したようだ。
「そういえば、マーサさんはなぜここに?」
「それが……寮の裏から声がしたと思ったら、バミューダ君が飛び出して行って……窓から外を見ると男達とバミューダ君が争っていたんです。慌てて店長さんを呼びに来たんですが……どうやら入れ違いになってしまったようですね」
「……そのようですね」
店長室でも声が聞こえたのだ。寮ならもっと聞こえただろう。
「……正直、驚きました。長年旅館を営んできましたが、こんなこと初めてです」
「そうですね……役所からも治安はいい場所だと聞いています。ナイフを持った男達が集団で人を襲うような場所ではないはずなんですか……」
男達は烏合の衆ではなく、明らかに集団だった。だが、この辺りに組織的な犯罪グループがあるなんて話は聞いたことが無い。
「幸いなことにナタリーさんが奴らの1人を捕えてくれました。今頃、治安部隊で取り調べを受けているはずです。とりあえず、治安部隊の報告を待ちましょう」
男達の事は、これ以上考えてもわかることはないだろう。
「それで、ミーナ様はなぜあんなところに?」
「あ……その、アレン様にお会いするために……裏口からお店に入ろうとしましたの」
「え? ミルキアーナ男爵から伝言を聞いたんですか?」
「伝言? 何のことですの?」
どうやらこちらもすれ違ってしまったらしい。
「ミーナ様とお話ししようと思い、先ほど宿にお伺いしたのです。その際に、ミルキアーナ男爵が『ミーナは今いない。来たことは伝えるから明日来い』とおっしゃって下さったんです」
「……お父様が……」
ミーナ様は意外そうな顔を浮かべた。
「いえ、伝言を聞いたわけではないですわ。私からお話したいことがあり、お店に来ましたの」
そう言うと、ミーナ様はちらりとクリスさんとマーサさんを見た。
「承知しました。よろしければ応接室の方でお話を伺います」
内密な話なら、眠っているリンダさんを動かせないので、俺達が移動した方が良いと思ったのだ。
「ありがとうございます。ただ……その……できればクリス様にも聞いて頂きたいのですが……」
「わたくしですか? もちろんかまいませんよ」
どうやらクリスさんにも関係のある話らしい。
「それでは応接室に行きましょう。マーサさん、リンダさんを頼みます」
「ええ。任せてください」
俺達はリンダさんをマーサさんに任せて応接室に向かう
応接室に着くと俺の隣に、クリスさんが座り、向かいにミーナ様が座った。
「それで、お話というのは――」
「――その前に、お伺いしたいことがありますわ。アレン様とクリス様は婚約されておりますの?」
「……いえ、婚約したいと考えていますが、まだ正式に婚約はしておりません」
「…………そうなんですね」
ミーナ様がクリスさん見つめる。クリスさんは優しく見つめ返したのだが、なぜかミーナ様はうろたえた。
(何だろう……なぜかわからないけどまた誤解があるような気がする……)
「ミーナ様? あの――」
「――アレン様には以前は断られてしまいましたが、再度、お願いたしますわ」
ミーナ様が意を決した顔をされる。
「側室でも妾でも構いませんの。わたくしにアレン様の子を産ませてくださいませ!」
そう言ってミーナ様は頭を下げた。
「バミューダ君? なんで?? いや、それより手当だ! バミューダ君はリンダさんをお店まで運んでマグダンスさんに診せて! ナタリーさんはミーナ様を解放してあげてください!」
「はい! ……です!」
「分かりました」
バミューダ君はリンダさんを背にしたままお店に向かった。マグダンスさんなら、リンダさんを見て、適切な対応をしてくれるだろう。
ナタリーさんはミーナ様の猿ぐつわと腕のロープを手際よくほどいていく。
「……ケホッ! あ、アレン様……ありがとうございます。」
猿ぐつわを解かれたミーナ様がお礼を言った。
「ご無事で何よりです。いったい何が……あ、いや、まずは店内に行きましょう」
ミーナ様に傷はなさそうだが、よく見ると身体が震えている。刃物を持つ男に襲われたのだ。外傷はなくても、心に傷を負っているだろう。
俺はミーナ様に手を差し出した。ミーナ様は俺の手を掴んで立ち上がったが、立ち上がった後も俺の手を離さない。よほど怖かったのだろう。
ミーア様に手を握られたまま、気絶している男を見て言う。
「ナタリーさん。申し訳ないですが、こいつを治安部隊の所に連れて行ってもらえますか?」
「分かりました。これも持っていきますね」
ナタリーさんが、男が持っていたナイフを拾って言った。よく見るとナイフの柄に馬の刻印がされている。
「お願いします。奴らが襲ってくるかもしれません。お気をつけて」
「任せてください。必ず生きたまま治安部隊に届けます」
(え? そっちの心配!? あ、いや、確かに口封じに来る可能性もあるのか……)
俺が、ナタリーさんの指摘に戸惑っていると、ナタリーさんは、手慣れた様子で男の腕を縛ると、肩に担いだ。
「奴らがこちらに戻ってくる可能性もあります。お店の裏口まではご一緒しましょう」
「あ、そうですね。ミーナ様、歩けますか?」
「だ、大丈夫ですわ」
俺はミーナ様と手をつないだままお店の裏口に向かう。裏口でナタリーさんと別れて、店内に入ると休憩室の前にマグダンスさんがいた。
「マグダンスさん。リンダさんは?」
「今、休憩室の中でクリス様とマーサさんが診ています。傷は浅そうですが、念のためバミューダ君とユリさんに医者を呼んできてもらっています。売り場がニーニャ様とマナさんだけなので、私は戻りますね」
「ありがとうございました。助かります」
マグダンスさんなら、上手く采配してくれると思ったが、正しかったようだ。マグダンスさんを見送ってから、休憩室の扉をノックする。
「アレンです。入って大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ」
ミーア様を連れて休憩室に入ると、リンダさんがソファーに寝かされていた。
「リンダ!」
「シーッ! ミーナ様、落ち着いて下さい。リンダさんは寝ているだけです」
大声を出してしまったミーナ様にクリスさんが優しく諭す。ミーナ様は慌てて手で自分の口をふさいだ。
「大丈夫なんですの?」
ミーナ様が小声で尋ねる。
「ええ。念のためお医者様に見せた方が良いですが、大きな傷はなさそうです。止血もできましたし、問題はないかと」
「あぁ、良かった。良かったですわ。ううぅぅ……」
安心したのか、ミーナ様が泣き崩れてしまう。
「ミルキアーナ様、とりあえずこちらのソファーに座ってください。今お茶を淹れますから」
マーサさんがミーナ様に手を差し伸べた。
「うぅ……す、すみません。お手数をおかけしますわ」
ミーナ様は泣きながらもマーサさんの手を取り、ソファーに座る。マーサさんはミーナ様を座らせた後、お茶を淹れてくれた。
マーサさんが淹れたお茶を飲むと、ミーナ様も落ち着きを取り戻したようだ。
「そういえば、マーサさんはなぜここに?」
「それが……寮の裏から声がしたと思ったら、バミューダ君が飛び出して行って……窓から外を見ると男達とバミューダ君が争っていたんです。慌てて店長さんを呼びに来たんですが……どうやら入れ違いになってしまったようですね」
「……そのようですね」
店長室でも声が聞こえたのだ。寮ならもっと聞こえただろう。
「……正直、驚きました。長年旅館を営んできましたが、こんなこと初めてです」
「そうですね……役所からも治安はいい場所だと聞いています。ナイフを持った男達が集団で人を襲うような場所ではないはずなんですか……」
男達は烏合の衆ではなく、明らかに集団だった。だが、この辺りに組織的な犯罪グループがあるなんて話は聞いたことが無い。
「幸いなことにナタリーさんが奴らの1人を捕えてくれました。今頃、治安部隊で取り調べを受けているはずです。とりあえず、治安部隊の報告を待ちましょう」
男達の事は、これ以上考えてもわかることはないだろう。
「それで、ミーナ様はなぜあんなところに?」
「あ……その、アレン様にお会いするために……裏口からお店に入ろうとしましたの」
「え? ミルキアーナ男爵から伝言を聞いたんですか?」
「伝言? 何のことですの?」
どうやらこちらもすれ違ってしまったらしい。
「ミーナ様とお話ししようと思い、先ほど宿にお伺いしたのです。その際に、ミルキアーナ男爵が『ミーナは今いない。来たことは伝えるから明日来い』とおっしゃって下さったんです」
「……お父様が……」
ミーナ様は意外そうな顔を浮かべた。
「いえ、伝言を聞いたわけではないですわ。私からお話したいことがあり、お店に来ましたの」
そう言うと、ミーナ様はちらりとクリスさんとマーサさんを見た。
「承知しました。よろしければ応接室の方でお話を伺います」
内密な話なら、眠っているリンダさんを動かせないので、俺達が移動した方が良いと思ったのだ。
「ありがとうございます。ただ……その……できればクリス様にも聞いて頂きたいのですが……」
「わたくしですか? もちろんかまいませんよ」
どうやらクリスさんにも関係のある話らしい。
「それでは応接室に行きましょう。マーサさん、リンダさんを頼みます」
「ええ。任せてください」
俺達はリンダさんをマーサさんに任せて応接室に向かう
応接室に着くと俺の隣に、クリスさんが座り、向かいにミーナ様が座った。
「それで、お話というのは――」
「――その前に、お伺いしたいことがありますわ。アレン様とクリス様は婚約されておりますの?」
「……いえ、婚約したいと考えていますが、まだ正式に婚約はしておりません」
「…………そうなんですね」
ミーナ様がクリスさん見つめる。クリスさんは優しく見つめ返したのだが、なぜかミーナ様はうろたえた。
(何だろう……なぜかわからないけどまた誤解があるような気がする……)
「ミーナ様? あの――」
「――アレン様には以前は断られてしまいましたが、再度、お願いたしますわ」
ミーナ様が意を決した顔をされる。
「側室でも妾でも構いませんの。わたくしにアレン様の子を産ませてくださいませ!」
そう言ってミーナ様は頭を下げた。
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