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第4章 王都にて

102.【デート2 洋服屋さん】

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「よ、洋服屋さんかぁ……」

 自分に服選びのセンスが無いことは重々承知している。そんな俺がデートで洋服屋さんに行って大丈夫だろうか。

「ふふふ。そんな顔しないでください。アレンが洋服を選ぶことが苦手なことは分かっています。わたくしがアレンの服を選びたいんです」
「俺の服を?」
「ええ。アレンの服はユリ様が選ばれた服なのでしょう?」

(バレてる!)

「う、うん……」
「ユリ様が選ばれた服も素敵ですが、せっかくならわたくしもアレンの服を選びたいのです」

 そう言ってクリスはほほ笑んだ。

(本当にいい婚約者だな……)

 デートの服装を義妹に選んでもらうような俺でも、クリスは笑って受け入れてくれる。本当に優しい子だ。

「……よろしくお願いします」
「ふふふ。ええ、もちろん」

 霧散した心地よい空気が、再び馬車の中に戻ってきた。



 しばらくすると、洋服屋さんに着く。

「つきましたね。さぁアレン、お手を」

 クリスが先に馬車を降りて、俺に手を差し出してくる。

(エスコートするのにはまったのかな? 凄く楽しそうだ)

 差し出された手を取り、俺は馬車を降りた。

「男性服は2階ですね。行きましょう」

 案内板を見ると、2階が男性服、3階が女性服売り場と書かれていた。クリスに手を引かれ、2階に向かう。

「ここですね。そういえば、初めて男性服売り場に来ました。アレンに似合いそうな服は……」

 端から順番に服を見て行く。1人で服を買いに来る時は、売り場全体を見渡して、良さそうな服があったらそれを買っていたので、こんなに丁寧に服を選んだことはなかった。

「あ、これなんか似合いそうですね」

 クリスが選んでくれた服は服の間に埋もれていた服だ。俺では見つけることはできなかっただろう。

「これなら、下は落ち着いた色の方が似合いますね。これとこれ、組み合わせて着てみてください。あ、こっちの服もいいですね。こっちは明るい色同士の組み合わせにしたいから、こっちと合わせてみましょう」
「分かった。それじゃ試着して――」
「――待ってください。それぞれの服を見比べたいので試着は最後にお願いします」
「あ、はい……」
「こっちの服も似合いそうです。なら下は――」

 クリスが選んでいく服を受け取りながら後を付いて行く。時に戻りながら、店内を1周しきる事には、30着近い服が俺の手の上に置かれていた。

「それじゃアレン。試着してください。服の組み合わせは覚えていますか?」
「大丈夫だよ。行ってくるね」

 順番に渡されたので服の組み合わせは覚えている。俺は一組ずつ試着してクリスに見せて行く。

「その組み合わせもいいですね! 先ほどの色より落ち着いた雰囲気です」

(なんか……着せ替え人形になった気分だ……)

 次々と新しい服を着てはクリスに見せて、良し悪しを判断してもらう。30着近くあった服は6着まで減っていた。

「残った服は購入しましょう。定員さんを呼んできますね」

 クリスが近くにいた定員を呼んできてくれる。

「すみません。これ購入します。」
「ありがとうございます! お会計は1階でお願いします。他にご入用なものはありませんか?」
「はい、大丈夫で――」
「――待って、クリス」

 俺は会計しようとしているクリスを止めた。エスコートしてくれているクリスには悪いと思うが、買ってもらうだけというわけにはいかない。

「せっかくだから3階も行ってクリスの服も見てみようよ」
「わたくしの服、ですか?」
「うん。その……頑張って選んでみるから……着てみて欲しいなって」

 俺のようにセンスのない人間に選ばれるのは嫌かもしれない。だけど、俺もクリスの服を選んでみたいと思ったのだ。

「アレン……ありがとうございます! 嬉しいです!」

 クリスは満面の笑みを浮かべてくれる。

(俺の服のセンスは知っているだろうに……本当に優しいな)

「その……変な服を選んじゃったらごめんね」
「大丈夫ですよ。アレンが服を選ぶことが苦手なのは知っています。それでも、わたくしのために選んでくださることが嬉しいんです」

(……これ、変な服を選んだとしてもクリスは買って着ちゃうな……絶対ちゃんとした服を選ばないと!)

 思っていたより責任重大になってしまった。クリスが選んでくれた俺の服を店員さんに預けて俺達は3階に向かう。

「あ! 忘れていました。アレン、お手をどうぞ」
「え? あ、うん。ありがとう」

 クリスが差し出してくれた手を取って、エスコートしてもらう。

(だんだんエスコートしてもらう事にも慣れてきたな)

 クリスがあまりに楽しそうにエスコートするので、俺もついのってしまう。 そのせいで店員さんが俺達を怪訝そうな眼で見ていることに気付けなかった。



 3階に着いた俺は、色彩豊かで種類も豊富な女性服に圧倒される。

(この中からクリスに合う服を見つけるのか……よし!)

 先ほどクリスがしたように端から順番に見て行く。

(この服の色はクリスの肌や髪の色にあうかな……………………ダメだ分からん)

 選び始めたばかりで躓いてしまう。

「女性服って色も種類も多いので難しいですよね」

 俺の手が止まっていることに気付いたクリスが話しかけてくれる。

「うん……こんなに多いとは思わなかったよ」
「ふふふ。アレン。今、アレンはわたくしに似合う服を見つけようとしてましたよね?」
「え? そりゃもちろん……」
「服が似合うかどうかは着てみないと分かりません。それを頭の中でイメージするのは困難です。それよりも、わたくしにと思う服を選んでください。似合うかどうかは試着してから考えましょう」
「……なるほど」

 先ほどまで、1着1着、頭の中でクリスに着せて似合うかどうか考えていたが、いまいちピンとこなかった。今度はクリスをイメージしながら服を見る。

(クリスの肌は白くて綺麗だから、落ち着いた感じの色で……これかな?)

「これとかどうかな?」
「いいですね! 色も形もわたくし好みです。後で試着しますね」
「良かった! 後は……」
「これが落ち着いた色なので明るい色も試してみたいです」
「あ、そっか。明るい色なら……これとか?」
「いいじゃないですか! はい、着てみます」

(なんか楽しい! 服選びってこんなに楽しいんだ!)

 その後も、クリスに試着してもらう服を選んでいく。15着ほど選んだ後に試着してもらった。

「あ、その服に合うね! 黒い服もありなんだ!」
「ありがとうございます。試してみて良かったですね」

 俺の色も試してみたいと言われて選んだ服だが予想以上に似合っている。

(肌が白いから黒い服は微妙だろうと思ってたのに……)

「……着てみないと分からないものだな」
「そうなんです。……ところで、結局どれを買いますか?」
「全部似合ってたから全部買おう!」
「まあ……ふふふ、ありがとうございます」

 定員さんを呼んで先ほど預けた服と一緒に1階に運んでもらい、まとめて購入する。

(色々心配してたけど……めっちゃ楽しかったな!)

 良い洋服を選ぶことが出来て満足した俺は、再びクリスにエスコートしてもらい、洋服屋さんを後にした。
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