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第4章 王都にて

106.【謁見3 王子達】

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「アレン? おいアレン? 聞いているか?」

 モーリス王子に話しかけられて何とかフリーズから復帰する。

「す、すみません。どういうことですか?」
「あぁ、すまん。順を追って説明しよう。私に2人の兄がいるのは知っているな?」
「サーカイル王子とカミール王子ですね?」
「そうだ。その2人なのだがな……どちらも人の心が無いどうしようもないクズなのだ」

(お、おぉ……はっきり言ったな)

「サーカイル兄様は脳みそが下半身にあってな。美女を抱くことしか頭にない。人妻だろうがお構いなしだ」

 モーリス王子が吐き捨てるように言った。

「カミール兄様は金の事しか頭にない。いかに民から金を巻き上げるかを常に考えている」

(王子2人が性欲と金欲にまみれてるって……そりゃ吐き捨てたくもなるか)

「そんな2人だが、家臣は優秀な者がいるようで、自分達の派閥が多い西側に対しては、下手なことはしないのだ。今のところサーカイル兄様が女性を奪うのも、カミール兄様が金を巻き上げようとするのも東側に限られている」

(……それは本当に優秀な家臣なのか? そんなことを許してたら国が荒れるってことぐらい俺でも分かるけど)

「こんな2人のどちらかが王になったら東側が荒れるのは目に見えている。東側の貴族には軍部には顔が効くものが多い。下手をすれば、反乱が起きてしまう。そうならないために私を王に推す声は、東西問わず多いのだ。だが、現在この国の政治を回しているのは、西側の貴族達に対しては、兄達の家臣が睨みをきかせていて下手な働きかけをする事が出来ない」

(あー、なるほど。支援者に被害を出さなかったり、反逆を防いだり……優秀な人が揃ってるんだ。実際の政治の能力はともかく……)

 政治家にとって優秀な人とは、政治を行える人ではなく、票を集められる人なのだろう。前世の選挙で芸能人が応援演説していた事を思い出す。

「ミッシェル叔母様と貴方でリバーシやチェスを西側の貴族に販売し、繋がりを作ろうとしていることは聞いている。その際に、貴方と私に繋がりがある事をアピールしたいのだ。私とミッシェル叔母様の繋がりは使えないからな」

(……叔母……様?)

 再起動したはずの俺の頭が再びフリーズしかける。

「貴方と私に繋がりがある事を知れば、兄達に不満を持つ貴族は貴方を通じて、こちらに与することが出来る。いくら王子の家臣であろうと、各家の商人とのつながりに対してとやかく言うことは出来ないからな。兄達の傍若無人ぶりに辟易としている者は多い。必ずや、兄達を廃除して私が王になってみせる!」

 モーリス王子が熱弁しているが、俺はそれどころではなかった。

「ま、待ってください! 今、ミッシェル叔母様と言いました?」
「ん? ……もしかして知らなかったのか?」

(いやいやいや! 待って! ミッシェルさんって貴族だったの!? いや、もしかして王族……いや、シャル様の事は『様』付で呼んでたし王族ではないのか? ……いやでも確かに一商人が王女と繋がりがある事自体おかしいよな……いや……でも……)

「ミッシェル叔母様はファミール侯爵家の出身だ。正しくは母様の従妹にあたる」

 パニックになりどうな頭を整理してモーリス王子の説明を聞く。

「ファミール侯爵家は女系家族でな。しかも産まれてくる子は優秀な美女が多い。歴代王妃を一番多く輩出しているのはファミール侯爵家だ。パワーバランスをとるために、ファミール侯爵家に王子が婿入りしていないため、爵位は侯爵だが、発言力は並の公爵をしのぐ。それを妬んだバージス公爵家が側室をねじ込んできたのだが……おっと話が逸れたな。まぁ、もう分かったとは思うが、ミッシェル叔母様はファミール侯爵家の出身だ。ちなみに常にヴェールをしているのは平民にしては過剰すぎる美貌を隠すためだぞ」

(という事は、ミッシェルさんには王家の血は流れていないってことだよな? なら不敬罪にはならないか……いやでも、元貴族であることには変わりないのか……)

「……ちなみにミッシェル叔母様はアナベーラ商会に嫁がれてから、元貴族として扱われる事を極端に嫌っている。貴方はこれまで通り、ミッシェル叔母様に接した方が喜ばれると思うぞ」

 考えが顔に出ていたようだ。モーリス王子が俺の考えを読み取ってフォローしてくれる。

「モーリス王子とミッシェル様の繋がりを使えないというのは?」
「先ほども言ったパワーバランスの関係だな。私が王になるために、ファミール侯爵の力を使いすぎるわけにはいかないのだ」

 ファミール侯爵の力を借り過ぎると、後々ファミール侯爵の発言力が増す。それは、周りの貴族が黙っていないという事だろう。

「貴方にとっても王子とつながりが持てるのは良い話のはずだ。どうだろう? 話を受けてはもらえないだろうか?」

 確かに王子とつながりが持てるとないい事だ。先ほど思った通り、同じ日本からの転生者として可能な限り協力したいと思ってい。だが……。

(……なんだろ。なんか違和感があるんだよな)

 話を聞いてみて感じたのは、共感ではなく、違和感だった。

(言葉が安っぽいというか……有能な王子のキャラを演じているっていうか…………演じる……そうだ。物語の主人公を演じている感じなんだ)

 元日本人で王妃待望の男児として産まれたモーリス王子。側室が産んだ2人の兄達は絵に描いたようなクズでこのままでは国が荒れてしまう。そんな中、前世の記憶があるモーリス王子は、周りからは有能な王子だと思われており、実際に結果も出している。

 まるで物語の主人公のような状況に、モーリス王子は自分を中心としたサクセスストーリーが進んでいるように感じているのだろう。

(だとすると……危ういよな)

 恐らく、モーリス王子は気付いていない。主人公が一方的に勝てるのは、ご都合主義の小説の中だけである事を。廃除しようとしている兄達は生きた人間であり、『ざまぁ』されるだけの存在ではないという事を。
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