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第4章 王都にて

113.【ロイヤルワラント授与4 国王陛下への挨拶】

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 国王陛下の宣言の後、貴族達は思い思いに談笑を始めた。だが、その視線はこちらに注目している。やはり、皆、俺達が王族とどのような挨拶をするか、そしてその後、どのような順で貴族達に挨拶していくのかを気にしているようだ。

「まずはキュリアス商会が挨拶に行く。よく見ておけよ」

 事前にカートンさんと話し合って先にキュリアス商会が挨拶に行くと決めていたらしい。国王陛下への挨拶がどんな物になるのか想像もつかなかったので、正直ありがたい。

 カートンさん達が王族の前に歩み出て膝をついた。キュリアス商会を推薦した王妃様が話しかける。

「キュリアス会頭、お元気そうね」
「はっ! おかげさまで、この上ない名誉を頂きました。元気も出るという物です」
「ほっほっほ。相変わらず口がお上手ね。あなた、こちらがキュリアス商会の会頭さんよ」
「うむ。カートン=キュリオスだったな。そちらのケーキは美味かった。これからも励むがよい」

 瞬間、貴族達の眼の色が変わった。国王陛下がケーキを評価したというのもあるが、なによりカートンさんの名前を憶えていた事を重く受け止めているようだ。それだけ、国王陛下がキュリアス商会に注目しているという事であり、貴族達にとって、キュリアス商会は無視できない存在となった。

 その後、カートンさんは側室や第一王子達とも言葉を交わして、王族への挨拶を終える。王妃様に推薦されているカートンさん達はこの後、王妃様の生家であるファミール侯爵家に向かう事が確定しているので、貴族達の注目は俺達に移った。

「よし、行くぞ」

 父さんの掛け声で俺達は王族の前に歩み出て膝をついた。俺達を推薦したモーリス王子が話しかける。

「クランフォード会頭、元気そうだな」
「はっ! モーリス王子におかれましも、お元気そうで何よりです」
「ははっ。そちの息子のおかげで、。王宮内の居心地がよいのだよ」

 貴族達の間に動揺が走った。国母である王妃様は感情を表に出すことはない。ゆえに、王妃様の機嫌が悪かったことを知るものはいないだろう。幾人かの貴族は公の場でこのような事を暴露したモーリス王子に怪訝そうな眼を向けている。

。いつ私の機嫌が悪かったというの?」
「母《・》、お気づきでないかもしれませんが、母上の近衛兵が顔に傷を負ってから、母上はずっと不機嫌そうでしたよ。彼女の傷が
「あら、そうだったかしら? おほほほ」

 公の場で行われた王妃様とモーリス王子の私的な会話に貴族達は訝し気な目をしていたが、その中に聞き逃せない会話があった。

「なんと……」
「噂は本当なのか……いや、しかし……」
「だが、確かに王妃様の近衛兵は職務に復帰していたぞ……」
「王妃様をかばって顔に矢を受けたあの者か!? あの傷では、回復魔法を使っても近衛兵は続けられぬだろう……」
「という事は、傷が消えたというのは本当なのか……」

 王妃様の近衛兵というのは、能力だけでなく、見た目も重視される。ゆえに、目に見える場所に傷を受けてしまうと、近衛兵から外されてしまうのだ。

(あー、あの人、王妃様の近衛兵だったのか……傷が治った時、本人より王妃様が喜んでいたのはそういうことか)

 『整形』に必要な情報は聞いていたが、それ以外の情報は聞いていなかったため、知らなかったのだ。

(ってか、『整形』の依頼、あんまり来ないなって思ってたけど、信じてもらえてなかったのか……まぁ、仕方ないか)

 『傷跡には回復魔法は効かず、傷跡を治す手段はない』というのが、この世界の常識だ。いきなり『傷跡を消す方法を発明しました』と言われても信じられないのも無理はない。

「アレン=クランフォード……だったな?」

 不思議と響き渡った国王陛下の言葉に、これまでにない衝撃が貴族の間を走り抜けた。国王陛下が会頭ですらない、俺の名前を憶えていた事が信じられないようだ。俺自身、国王陛下に名前を呼ばれるとは思っていなかったため、動揺してしまう。

「は、はい! アレンと申します」
「ふむ。そちのおかげで王妃の機嫌がよくなったのは本当のようだ。他にも、傷跡のせいで不憫な思いをしていたものが救われたと聞く。大儀であったな」
「はっ! もったいないお言葉に、感謝致します」
「それでな、アレン。そちに聞きたいことがある」
「はっ! 私に答えられることでしたらお答え致します」

(なんだ!? 何を聞かれる!? 『整形』の事か? それともシャル様の事か?)

 国王陛下から問いかけられるという予想外の事態に、俺は緊張を隠せない。口が渇き、うなじや背中に汗が伝うのを感じる。

「リバーシの必勝法を教えよ」
「……………………は?」

 予想外の質問に思わず変な声が出てしまう。

「え、あ、あの……リバーシの必勝法……でしょうか?」
「そうだ。モーリスと勝負したのだが一向に勝てん。そちが開発した遊具であろう? ならば、必勝法も知っているのではないか?」

 ちらりとモーリス王子を見るとニヤリと笑い返された。転生者であるモーリス王子は当然、リバーシを知っているはずだ。初心者である国王陛下に勝つことなど容易であっただろう
とは言え、国王陛下からすれば、9歳の息子に遊具で勝てないのは我慢ならないのかもしれない。

「恐れながら申し上げます。リバーシは遊具です。どちらが勝つか分からないからこそ楽しめるという物。ゆえに、必勝法はございません」
「むぅ……であるか。ならば強くなる方法はあるか?」
「お力になれず、申し訳ありません。対戦の数をこなすことが強くなることの近道かと愚考致します」

 プロの棋士でもない俺に言えるのはそれぐらいであった。無難な回答ができたはずと、一安心していると、側室が口をはさんでくる。

「おや、貴方は国王陛下の貴重な時間を遊具に割けというの? なんとまぁ恥知らずな事が言えるものね。流石は『脳筋』の息子と言ったところかしら?」
「え、あ、いえ……そんなことは」
 
 突然の指摘に俺はまともに答えることが出来ない。そんな俺に助け舟を出してくれたのは国王陛下だった。

「ブリンダ。分をわきまえよ。側室たるそなたに余の私的な時間の使い方について口出しされるいわれはない」
「これはこれは。失礼致しました」
「それとまさかとは思うが、『脳筋』とはイリス=クランフォードの事ではあるまいな?」
「はて? 申し訳ありませんが、私、平民の名前を一々覚えてはおりませんの」

 場をピリピリとした空気が支配する。

(国王陛下と側室様って仲悪いのか? ってか、側室様の名前ってブリンダ様っていうのか……)

「はぁ、もうよい。……さて、アレンよ。パーティーの後、時間を作る故、余の相手をするがよい。よいな?」
「はっ! 身に余る光栄に感謝致します」
「うむ。そちらの働きに期待しておるぞ。これからも励むがよい」

 こうして、国王陛下との挨拶は終了したが、まだ、王妃様や側室及び、第一王子達への挨拶が残っている。側室の様子を見る限り、第一王子達との挨拶もキュリアス商会のように簡単ではないだろう。気が重くなりながらも俺達は王妃様の前へ移動した。
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