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第4章 王都にて

116.【ロイヤルワラント授与7 貴族達への挨拶】

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 俺達がファミール侯爵達の前に着くと、丁度、キュリアス商会との挨拶を終えたファミール侯爵が俺達に話しかけてくれる。

「おお! よく来たね。私がファミール侯爵家当主のラスキアル=ファミールだ。以後、よろしく頼むよ」
「ご丁寧にありがとうございます。クランフォード商会会頭のルーク=クランフォードです」

 父さんが丁寧に挨拶を返す。なお、相手は王族ではないので、膝はついてはいない。

「いやー、それにしても変なのに絡まれて大変だったね。堂々と断ったのは立派だったよ!」

 ファミール侯爵が声を抑えることなく言い放った。必然的に、他の貴族達にもファミール侯爵の言葉は聞こえてしまう。

「ありがとうございます。これでも商人ですので、理不尽な客の相手は慣れているのですよ」

 父さんも声を抑えずに言い放った。

(これは……意外だな。さっきの件がよっぽど頭に来たんだな)

 モーリス王子に推薦を受けている俺達が王妃派である事は貴族達に知れ渡っている。だが、父さんは、単なる王妃派ではなく『側室派に敵対する王妃派』である事を周囲にアピールしたのだ。

「ぶっはははは! 商人たるものそうでなくてはな! いやぁ、若いのに大したものだ。イリーガル家のご令嬢に選ばれるだけはある」
「光栄です」

 母さんの実家のイリーガル家は正確には貴族家ではないため、この場には参加していない。だが、その名が侯爵家に知られているほど有名な家なのは間違いないようだ。

「それに、ミッシェルからも君達の事は聞いているよ。君がアレン君かな?」

 ファミール侯爵が俺を見ながら聞いてくる。

「はい。私がアレン=クランフォードです」
「やはりそうか! いやぁ、ミッシェルは最近君の事ばかり話すものでね。『久しぶりに投資したくなる人材に会った』とな。ちなみにミッシェルの最上級の誉め言葉だよ」
「……ありがとうございます。光栄です」

 褒められて悪い気はしないのだが、前世の知識を使っている以上、どうしても後ろめたく感じてしまう。

「ミッシェルは、君の独創的な想像力も褒めていたが、何より君のあり方を褒めていたな」
「……え?」
「成功しても驕らず、謙虚な心を忘れない。しかも、弱者と向き合う優しさも持っている。商人としては間違っているが、人として素晴らしい考え方だと言っていたぞ」

 正面から褒められてに頬が熱くなるのを感じる。知識チートではなく、俺そのものを褒めてもらえた事がとても嬉しい。そんな俺にファミール侯爵は声を抑えて話しかけた。

「……サーシスの件、本当の意味で被害者達を救ったのは我々ではなく君だ。心から感謝するよ」

 サーシスの後始末には超法規的な措置をしている。ファミール侯爵も大きな声ではお礼を言うわけにはいかなかったのだろう。

「こちらこそ。ミッシェル様の協力が無ければは出来ませんでした。感謝致します」

 いくら罪人で貴族位を剥奪されていたとはいえ、元高位貴族であったサーシスを人体実験に使えたのは、ミッシェルさんのおかげだ。それに、実験場を提供してくれたり、シャル様に渡りを付けてくれたのもミッシェルさんだ。彼女がいなければ、『実験』は出来なかっただろう。

「はっはっは! そう言ってもらえると、親としては誇らしいよ」

(あ、この人ミッシェルさんのお父さんだったんだ……ってことは王妃のお父さん!?)

 ファミール侯爵が気さくな話し方をしてくれた事と、自分たちが膝をついていなかった事で忘れていたが、相手は国王に次ぐ権力者だ。その発言力は、まだ王太子でない王子達すら凌ぐ。

「君達には期待している。何かあったら言いなさい。力になろう」
「「ありがとうございます!」」

 そんな人から応援の言葉を頂き、俺達はファミール侯爵との挨拶を終えた。その後もファミール侯爵家の人達と会話をするが、皆、気さくな感じで話してくるので、思わず、相手が侯爵家であることを忘れそうになる。

 まるで友人の家に遊びに行ったような感覚でファミール侯爵家の人との挨拶を終え、俺達はその場を離れた。

「なんか……凄い気さくな侯爵様だったね」
「あの方は昔からあんな感じです。わたくし達下級貴族とも気さくに会話して下さる方です」
「とっても話しやすかった!」
「優しい人達だった……です」

 クリス達も好印象を抱いたようだ。そんな俺達に父さんが声を抑えて話しかける。

「あまり大きな声では言えないが、あの方は俺と母さんが結婚する時に力になってくださったんだ。下級貴族どころか、平民にすら対等の立場で接して下さる心の広いお方だよ」
「そうだったんだ……ところで、この後どうするの?」

 ファミール侯爵の良さを堪能していたかったがそうもいかない。この後も挨拶をしなければならない貴族が大勢いるのだ。

「ん? 順番通りバージス公爵に挨拶に行くぞ」
「……さっきあんなこと言われたのに?」

 順番通りならバージス公爵家に行くことは分かっていたが、側室やカミール王子の発言を想うと、正直行きたくない。

「言いたいことは分かるが、バージス公爵自身に何か言われたわけじゃないからな。挨拶しないわけにはいかないさ」
「……分かった」

 確かにここでバージス公爵を無視すれば、クランフォード商会に悪い風評が立つだろう。不安しかないが行くしかない。



 と、思っていたのだが、俺の不安は杞憂に終わる。

「初めまして、クランフォード商会の皆さん。私が、バージス公爵家当主のドルンド=バージスだ。先ほどは娘と孫がすまなかったね」

 バージス公爵はファミール侯爵よりだいぶ年上で貫禄のある風貌をしていた。どんな言葉を浴びせてくるのかと身構えていたところに丁寧な挨拶をされて逆に戸惑ってしまう。

「ご丁寧にありがとうございます。ルーク=クランフォードです。お言葉はありがたいのですが――」
「――分かっておる。の発言は許さずともよい。私とて、同じことを言われたら許せないだろう」

 そう言うバージス公爵の表情は暗い。

(なんていうか……諦めている感じ?)

はもうダメだ。弟も王の器ではない。……いや、そもそも私が娘のわがままを許してしまったのが全ての始まりだな。そもそもあのが王の母になれる器ではなかったのだ」

 あの娘というのは側室の事だろう。バージス公爵がブリンダ様に頼まれて、側室にねじ込んだというのは有名な話だ。

「幸いモーリス王子は賢いお方だ。まだ幼い所はあるが、いずれは立派な王となってくださるだろう。この国のために、どうかモーリス王子を支えて欲しい。我々では……もうダメなのだよ」
「……よろしいのですか?」
「ああ。全てはこの国の未来のためだ」

 バージス公爵の悟った顔を俺は忘れないだろう。諦めとは違う。それが最善であると信じて、身を引いた男の顔だ。

 その後、特に問題なくバージス公爵との挨拶を終える。

(意外だったな……もっと色々言われるかと思ったのに)

 さらにその後も多くの貴族達と挨拶をしたが、王妃派の貴族は終始朗らかで、側室派の貴族はずっと暗い顔をしていた。

(カミール王子はもう無理だとしても、サーカイル王子を支持する貴族がいないのはなんでだ? いやまぁ、俺達にとっては都合がいいんだけど……)

 そんなことを考えながら貴族達と挨拶を交わしていた俺はすっかり忘れていた。この後、重大なイベントが控えていることを。
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