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邂逅
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入学式から3週間が無為に過ぎた。
焦るつもりはないが、忍は何一つ進まない調査にいらだちを感じ始めていた。
唯一分かったことといえば、同室の遠野真咲……彼が移植された心臓が香月のものだということが改めて証明されたということぐらいだ。
香月が死亡した際、奇跡的に内蔵の損傷は少なかったという。
実際、香月は校舎の近くに植えられていた木がクッションとなってくれたおかげで、救急搬送されてしばらくはまだ生きていた。
数時間後脳死判定がなされた香月が携帯していた、臓器提供カード。
財布の中に入れられていたことを聞いた法月の伯父は、どんな気持ちでその求めに応じたのか……。
忍が真咲のことを報告すると、翌日には法月の伯父が詳細を調べあげていたのだから、伯父としても行方が気になっていたのは間違いない。
関係ないとは思うのだが、その真咲が『鈴ヶ宮を怖い』と言ったその言葉が、どうしても気になった。
……まるで、香月が犯人を教えてくれてるみたいだ……。
ますます忍は鈴ヶ宮に疑いを深く持つようになるのだが、調べるためには生徒会に近づく必要があった。
問題はそう、法月の伯父との関係を隠している忍はここではただの一般生徒、しかも外部生だ。
ハッキングやトラッキングはお手の物な忍だが、残念ながら生徒会の連中はセキュリティが高度で外からの侵入が難しかった。
生徒会に侵入できればなんとかなるんだろうが……。
不法侵入しかないと思い詰めていたある日のこと、授業が終わり忍が寮の部屋に戻ると、真咲が真っ青な顔で震えていた。
「生徒会、書記?」
「そうなんだよ……今日昼休みに急に呼び出しがっあって……、書記になれって言われたんだ。
断ろうとしたけど、全然聞いてくれなくて……!
どうしよう、僕。
無理だよ……!!」
真咲がそれほどまで怖がっていたのには理由がある。
どうやら、鈴ヶ宮の親衛隊に虐められているらしいのだ。
そう、朝倉学園生徒会役員の5人には、それぞれ親衛隊が存在している。
忙しい役員が円滑に学園生活がおくれるように補佐に回る……というのは表向きの発足理由で、実際には少しばかり過激なファンクラブのようなもの……という話だが、実際のところは忍には分からない。
だが震えている真咲を見ていると、どうやらそれだけではないらしい。
まさかと思うが、親衛隊のメンバーは日替わりで役員たちに抱かれているという噂もあるのだ。
それにしても、ほんの少し鈴ヶ宮に接点を持っただけの真咲を虐めるなんて忍には理解ができない。
忍はぎゅっと胸が締め付けられた。
真咲が泣くと、香月が泣いているようで、キリキリと心が痛んだ。
部屋のドアがノックされ、真咲はびくりと体を震わせた。
「う! あ!」
「どうした?」
「せ……せーとかいの、人かも!!!
どうしよー!!
行きたくないよ!!」
真咲はぎゅっと忍の制服の袖を握りしめた。
「……断ってやるから、心配するな」
忍は真咲の頭を撫で落ち着かせた。
そして真咲の代わりにドアを開くと、目の前に鈴ヶ宮の姿があったのである。
「……遅い!」
鈴ヶ宮の身勝手な物言いに思わずイラッと忍は、「……は?」と不機嫌に答える。
明らかに失礼な態度だったが、部屋に入ろうとする鈴ヶ宮に忍は立ちふさがった。
「遠野!」
「ちょっと!!
勝手に入らないでもらえますか?」
悔しいが、体格のいい鈴ヶ宮は忍より頭一つ分は背が高い。
こういうことは苦手なんだよ!
頭を使うことは得意でも、体力的なことは苦手分野だ。
「……どういうつもりだ?」
低い声が忍の耳に響いた。
資料で見てはいた。
プロフィールのすべてを。
だが紙の資料や遠巻きに隠し撮りされた映像では、鈴ヶ宮の冷気のようなオーラは分からなかった。
鈴ヶ宮の怒気を浴びてぞくりと背筋に悪寒が走ったが、守ると約束したのは忍だ。
無理に押し入ろうとする鈴ヶ宮を阻止しようと忍が体を張った結果、もつれあった二人して床に投げ出された。
「うわっ! あ!」
鈴ヶ宮に押し倒されるように後ろ向きにバランスを崩した忍は、したたかに体を打ち付けられるはずだったのだが……身に受ける衝撃を予感して体を縮こまらせた忍の体は、とっさに鈴ヶ宮に抱きとられ、くるりと体を反転させた。
「………ばっか!!!
何やってんだ!!」
忍は驚いて鈴ヶ宮の腕の中にあった体を起こした。
忍を守るために、鈴ヶ宮は進んで下敷きになったのだ。
なんで俺をかばうんだ!!
鈴ヶ宮の端正な顔が痛みでゆがんでいるのを見て、良心の呵責を覚えた忍は思わず鈴ヶ宮の頭を撫でた。
「……大丈夫か?」
すこしこぶが出来ている……。
あれ? 鈴ヶ宮にけがさせるなんて、俺結構やばいんじゃ……。
「と、とにかく!!
こ……氷で冷やせ!!
吐き気がしたら病院だからな!!」
あわてて氷を取りに走った忍を、鈴ヶ宮はじっと見つめていたのだが、忍はまだそのことには気付いていなかったのである。
焦るつもりはないが、忍は何一つ進まない調査にいらだちを感じ始めていた。
唯一分かったことといえば、同室の遠野真咲……彼が移植された心臓が香月のものだということが改めて証明されたということぐらいだ。
香月が死亡した際、奇跡的に内蔵の損傷は少なかったという。
実際、香月は校舎の近くに植えられていた木がクッションとなってくれたおかげで、救急搬送されてしばらくはまだ生きていた。
数時間後脳死判定がなされた香月が携帯していた、臓器提供カード。
財布の中に入れられていたことを聞いた法月の伯父は、どんな気持ちでその求めに応じたのか……。
忍が真咲のことを報告すると、翌日には法月の伯父が詳細を調べあげていたのだから、伯父としても行方が気になっていたのは間違いない。
関係ないとは思うのだが、その真咲が『鈴ヶ宮を怖い』と言ったその言葉が、どうしても気になった。
……まるで、香月が犯人を教えてくれてるみたいだ……。
ますます忍は鈴ヶ宮に疑いを深く持つようになるのだが、調べるためには生徒会に近づく必要があった。
問題はそう、法月の伯父との関係を隠している忍はここではただの一般生徒、しかも外部生だ。
ハッキングやトラッキングはお手の物な忍だが、残念ながら生徒会の連中はセキュリティが高度で外からの侵入が難しかった。
生徒会に侵入できればなんとかなるんだろうが……。
不法侵入しかないと思い詰めていたある日のこと、授業が終わり忍が寮の部屋に戻ると、真咲が真っ青な顔で震えていた。
「生徒会、書記?」
「そうなんだよ……今日昼休みに急に呼び出しがっあって……、書記になれって言われたんだ。
断ろうとしたけど、全然聞いてくれなくて……!
どうしよう、僕。
無理だよ……!!」
真咲がそれほどまで怖がっていたのには理由がある。
どうやら、鈴ヶ宮の親衛隊に虐められているらしいのだ。
そう、朝倉学園生徒会役員の5人には、それぞれ親衛隊が存在している。
忙しい役員が円滑に学園生活がおくれるように補佐に回る……というのは表向きの発足理由で、実際には少しばかり過激なファンクラブのようなもの……という話だが、実際のところは忍には分からない。
だが震えている真咲を見ていると、どうやらそれだけではないらしい。
まさかと思うが、親衛隊のメンバーは日替わりで役員たちに抱かれているという噂もあるのだ。
それにしても、ほんの少し鈴ヶ宮に接点を持っただけの真咲を虐めるなんて忍には理解ができない。
忍はぎゅっと胸が締め付けられた。
真咲が泣くと、香月が泣いているようで、キリキリと心が痛んだ。
部屋のドアがノックされ、真咲はびくりと体を震わせた。
「う! あ!」
「どうした?」
「せ……せーとかいの、人かも!!!
どうしよー!!
行きたくないよ!!」
真咲はぎゅっと忍の制服の袖を握りしめた。
「……断ってやるから、心配するな」
忍は真咲の頭を撫で落ち着かせた。
そして真咲の代わりにドアを開くと、目の前に鈴ヶ宮の姿があったのである。
「……遅い!」
鈴ヶ宮の身勝手な物言いに思わずイラッと忍は、「……は?」と不機嫌に答える。
明らかに失礼な態度だったが、部屋に入ろうとする鈴ヶ宮に忍は立ちふさがった。
「遠野!」
「ちょっと!!
勝手に入らないでもらえますか?」
悔しいが、体格のいい鈴ヶ宮は忍より頭一つ分は背が高い。
こういうことは苦手なんだよ!
頭を使うことは得意でも、体力的なことは苦手分野だ。
「……どういうつもりだ?」
低い声が忍の耳に響いた。
資料で見てはいた。
プロフィールのすべてを。
だが紙の資料や遠巻きに隠し撮りされた映像では、鈴ヶ宮の冷気のようなオーラは分からなかった。
鈴ヶ宮の怒気を浴びてぞくりと背筋に悪寒が走ったが、守ると約束したのは忍だ。
無理に押し入ろうとする鈴ヶ宮を阻止しようと忍が体を張った結果、もつれあった二人して床に投げ出された。
「うわっ! あ!」
鈴ヶ宮に押し倒されるように後ろ向きにバランスを崩した忍は、したたかに体を打ち付けられるはずだったのだが……身に受ける衝撃を予感して体を縮こまらせた忍の体は、とっさに鈴ヶ宮に抱きとられ、くるりと体を反転させた。
「………ばっか!!!
何やってんだ!!」
忍は驚いて鈴ヶ宮の腕の中にあった体を起こした。
忍を守るために、鈴ヶ宮は進んで下敷きになったのだ。
なんで俺をかばうんだ!!
鈴ヶ宮の端正な顔が痛みでゆがんでいるのを見て、良心の呵責を覚えた忍は思わず鈴ヶ宮の頭を撫でた。
「……大丈夫か?」
すこしこぶが出来ている……。
あれ? 鈴ヶ宮にけがさせるなんて、俺結構やばいんじゃ……。
「と、とにかく!!
こ……氷で冷やせ!!
吐き気がしたら病院だからな!!」
あわてて氷を取りに走った忍を、鈴ヶ宮はじっと見つめていたのだが、忍はまだそのことには気付いていなかったのである。
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