Heartbeat 【BL】

高牧 まき

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鈴ヶ宮という男

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 人がドサリと倒れる音を耳にして、真咲は何があったのか心配になって自室からが顔を出した。

 そこには、よりによって鈴ヶ宮がいた。

 ええ?!

 どうして生徒会長が??

 コワイ!!!

 またゾクリと背筋に悪寒が走った。

「……やっ!!」

 真咲はすぐに部屋に戻ろうとした、しかし。

 真咲が勢いよくドアを締める直前に、鈴ヶ宮は体を足をドアに差し込んだ。

 そして……。

「……お前、絶対ドジだろ?」

 氷を片手に戻ってくると、右足を痛めた鈴ヶ宮が蹲っていた。

 忍は思いがけない光景に呆れて立ち尽くした。

 ほんのわずかの時間の間で、何故傷が増える……。

「……そんなこと言われたことはないぞ?」

 生まれてこの方そんなそしりを受けたことがない鈴ヶ宮は、不愉快そうに右の眉を上げた。

 頭部のたんこぶに加え、右足首の打撲とか……。

 真咲は今でさえ虐められているのに、鈴ヶ宮に負傷させたショックで、血の気を失っていた。

「……すっ、すみませんっ!!

 生徒会長……さまっ」

 土下座しかねない勢いで、真咲は頭を垂れた。

「……怒ってない」

「え?」

「怒ってないし、別にお前のせいじゃないだろう。

 ……私が自分でした行動の結果だ」

 鈴ヶ宮は優しく真咲に微笑んだ。

 忍はその表情を見て、なんだか落ち着かない気持ちになった。

 ……んだよ。

 なんて顔してんだよ。

 ……調子狂う……。

 忍の中では、鈴ヶ宮は冷酷なイメージが出来上がっていた。

 なのに、今の鈴ヶ宮は、どこをどうとってもそんな男には見えなかった。

 鈴ヶ宮の患部を冷やしているため、身近にいる忍は彼の息遣いさえ聞こえる位置だ。

 だから鈴ヶ宮のそんな優しい表情を見てしまったことが、「見てはいけないものを見てしまった」ような感覚に思われて、ただ動揺を隠すために表情を硬くして唇を噛みしめていた。

 その様子が、鈴ヶ宮の心配をしているように見えてることには、忍は全く気付いていなかった。

 一瞬視線を下して鈴ヶ宮が忍の表情を覗き込んでいたことにも、当然のように気付いていない。

「遠野」

「は……はひ……」

 真咲が顔を真っ赤にして鈴ヶ宮に答えていた。

「生徒会入りを拒んだそうだな?

 それは何故だ?」

「それは……」

 まさか、貴方が怖い、そして親衛隊も……と、言えるはずもなく、真咲は助けを求めて忍に視線を泳がせた。

 そんなときの真咲は驚くほど香月の仕草に似ていて、忍は小さく息を飲んだ。

「遠野……君はやっぱり、嵯峨那さがなの縁者だろう」

 思いがけず横から真咲に話しかけたのは、鈴ヶ宮だった。

 法月の伯父が一族を束ねる嵯峨那さがなグループはは日本では五本の指に入る総合商社の一つである。

 そして嵯峨那の最大の特徴は、小さな車両工場から端を発し、現在の巨大な経営規模となった今なお一族の経営支配が続いているということだ。 

 鈴ヶ宮を疑っていた忍は、嵯峨那の名前が彼の口から発せられたことに動揺しながらも、注意深く鈴ヶ宮の言葉に耳を傾けた。

「入学式の時に見て、そう感じた。

 嵯峨那香月に……彼によく……似ている。

 遠野、君がもし……香月のことを知りたくて入学したなら……」 

「ちょっと……ちょっと待ってください。

 嵯峨那とか……、僕には分かりません。

 一体何の話を?」

 当然ながら、真咲は否定した。

 だが鈴ヶ宮は「嘘はつかなくていい。君の気持ちは分かるつもりだ」と、真咲に詰め寄った。

「だからっ……やだっ!!!」

 真咲は鈴ヶ宮の接近のせいで、パニックに陥って、忍の背後に隠れた。

「センパイ!!

 ちょっと待ってもらえませんか?」

 再び押し問答になりそうなところで、忍は鈴ヶ宮を押しとどめた。

「もし遠野君が先輩の言われるような嵯峨那の縁者でも、彼を見てください。

 怯えているじゃありませんか。

 彼に少しは、考える時間を与えて下さるつもりはないんですか?」

 忍が止めたのは、もちろん下心があってのことだ。

 真咲が嵯峨那の縁者だと思われているのならば、忍が多少動いても目立たないはず。

 何なら、法月の伯父に頼んでどこかのパーティーか何かでほのめかしてもらう手もある。

 このまま否定できないほどに噂を冗長させてしまおうか、とすら忍は考えていたのである。

「っ……!」

 一方、忍の言葉に、鈴ヶ宮は自分の性急さを思い知らされた。

 ……仕方ない、いったんここは引いておくか……。

 そう思った鈴ヶ宮は、「分かった。1週間猶予をやる。だから……その時はほんとのことを話してほしい」と、二人に告げた。

「あのっ!

 でも僕……!」

 本当のことを話せと言われても困ってしまう。

 そんな事実はないんだから……。

 真咲は鈴ヶ宮に重ねて言いつのろうとしたが、もちろん思惑のある忍がそれを止めた。

「……遠野君。

 とりあえず今日は帰ってもらおうよ。

 先輩も今冷静じゃない感じだし、ね?」

「……分かった」

 真咲はなんとなく忍が切り上げようとしているのを感じ、それ以上言うのを止めた。

 真咲が頷いたのを確認すると、忍は立ち上がり、足首を痛めている鈴ヶ宮の手を取った。

「じゃあ先輩そういうことで、今日はお引き取り願いますか?」

「……そんなに邪険にするなよ。

 少しは相手をしてくれ」

「はあぁ?」

 邪険ってなんだよ?

 今猶予をやるって言ったよな?

 何が悲しゅうてこいつと仲良くおしゃべりしなきゃならないんだ!

 忍は表情を取り繕うのすら忘れて、イライラを帯びた視線を鈴ヶ宮に送った。

「……拗ねるな」

「はぁぁぁ???

 拗ねるってなんだよ??

 意味わかんねー!!!」

「だから……そんな表情をするのは、止めた方がいい」

「……は?」

「……誘ってるのか?」

 サソウ?

 ダレガナニヲ??

 ナニヲイッテルンダ、コノオトコハ。

 処理しきれないセリフに、忍の思考はショートした。

 そのせいでうっかり抱き寄せられ、唇を鈴ヶ宮のそれで塞がれていることへの対処が遅れた。

「え?! あ? ふぁっ!!!」

 考える余裕もなく唇を舌を口内を蹂躙された忍は、巧みな鈴ヶ宮の舌技に抵抗もできずに翻弄され、その腕から解放されるとともに、脱力してへたり込んだ。

 鈴ヶ宮はそんな忍に「ふっ」っと笑みを浮かべたばかりでなく、「そんな初心な反応してると早々に食われるぞ?
 少しは抵抗しろよ……」と言い残して去っていった。

 そして……。

「お……俺のファーストキスがあぁぁぁ!!!!!」

 という忍の魂の叫びが部屋の外にまで聞こえてきて、鈴ヶ宮は声を上げて笑った。

 香月の事件があって以来、それは久々に鈴ヶ宮の浮かべる笑顔であった。
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