見捨てられ王女……兄の代わりに異国の地で花婿となる☆彡

高牧 まき

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秘密の通路

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「殿下ぁー、疲れましたでしょう? そろそろお茶に……」

 キッチンの掃除が終わったレンタールが、ティーセットを持って姿を現した。

 とっさにユーノスから身体を離したけど、レンタールにはしっかり見られてたみたい。

 カップを渡されたときに、「もしかして私、お邪魔でした?」ってレンタールに囁かれて、顔がリンゴみたいに赤くなった。

 そ、そんなんじゃ、ないもん!!!!

 ユーノスは慰めてくれてただけだし!!!

 そのユーノスは、部屋に漂う埃でも吸い込んだのか、あさっての方向を見ながらこほんこほんと咳をしている。

 私はレンタールのお茶を味わいながら、綺麗になった床を眺めていた。

 最初はどうなることかと思ったけど、床はピカピカに磨きあがり、頑張ればこんなにきれいになるんだなって、誇らしい気持ちになる。

 ベランダから見える中庭も、雑草が生い茂ってひどい状態だけど、ここも手入れして、畑でも作ればもっと住みやすくなる。

 これって、ちょうど兄さんがいなくなったら始めようと思ってた生活そのままじゃない?

 レンタールやユーノスも手伝ってくれるし、むしろずっと楽しい!!!

 3年経ってブーデリアに戻っても、カルディア兄さんが本当にお婿にいってしまえば私は一人だ。

 その時間が、3年遠のいたってことだから、これって嬉しいことのはず。

「……楽しいね!!!」

 私は声に出して言ってみた。

「レンタールも、ユーノスも、一緒にいてくれてすごく楽しい!!!
 ……とっても幸せだよ!!!!」

 うん、私、きっと頑張れるよ??

「……頑張ろうね?」

 私はレンタールとユーノスに向かって、満面の笑みを浮かべた。






 ティータームが済んで、私たちは作業の続きを始めた。

 少なくとも、今日眠れる程度には掃除を済ませておきたいと、作業を進める手に力がこもる。

 せっかくだから寝台の下にも積もった埃も掃除しておきましょうということになって、3人がかりで大きな天蓋付きの寝台の骨組みを動かす。

 ユーノスは重い板張りの頭側の方を一人で、私とレンタールは足側の方の脚を一人ずつ持ち上げる。

 それでもちょっとずつしか動かせなくて、途中で何回か休みを入れた。

 そうやって3人がかりでようやく動かせた寝台の下には、ずいぶんと埃が積もっていた。

 私がほうきをかけて、ユーノスがたわしで床板を磨く。

 そんな作業の途中、急にユーノスが床板をコンコンとこぶしで叩きはじめた。

「ユーノス?

 どうかしたの?」

「……ここだけ、音がおかしいのです。
 床下になにかあるのかもしれません」

 ユーノスは何か所か音を確かめた後、懐から短刀を取り出して床板の境目に先端を差し入れた。

 50センチ四方の床板が、かすかにずれる。

 ユーノスはできた隙間に指を入れて、数回板を揺さぶった。 

 すると、ガコ! と音を立てて、床板が外れた。

 ……人一人が通り抜けるのやっとの狭い縦穴が、地下へとぱっくりとその口を開いていた。

 私とユーノスは、驚きで大きく口を開けながらお互いに見つめ合った。

 なんだかわからないけれど、すごいものを見つけてしまったと、そんな予感がした。

「梯子が朽ちてますね……」

 ユーノスは地下にあいた穴にランプを照らして確認した。

 確かに設置された梯子は、もろく崩れて使用できそうにない。

 ランプの明かりで照らしてみると、底から横に側抗が続いているようなのだが、それがどういった状態なのかは降りてみないと分からなかった。

「……降りて、調べてみます」

「え? でも梯子は使えないし……、どうやって?」

「それほど深くはないようですし、手足を突っ張れば降りれると思います」

 ユーノスはそう言うと、吸い込まれるように床下へと消えた。

 上からランプを照らすけど、穴の中がどうなっているかよくわからない。

 しばらくして、「殿下……! 湿っていて火がうまくつきません。何かに火をつけて落としてくれませんか?」とユーノスの声が聞こえてきた。

「分かった!

 ちょっと待ってて!!」

 私は壊れた椅子の足に細く切った布をきつく巻き付け、油をしみこませてランプの火で火をつけると、「投げるよ!」と声をかけて穴の中に投げ入れた。

「……通路が奥に続いています。
 行けるところまで、行ってみます……!」

 地下の通路に反響したユーノスこの声が響く。

「気を付けてね! ユーノス!!」

 私はほんのりと光る穴の中に、声をかけた。

「うううう!!
 ユーノスが戻ってこない!!!」

 ユーノスが穴の中に入って、もう3時間くらいが過ぎていた。

 私は不安に押しつぶされそうになりながら、レンタールとともにユーノスの帰りを待っていた。

「どうして私が夕食の準備で目を離している間にそういうことになるのです??」

 涙目になりながら、私はレンタールに言い訳した。

「だって、すぐに戻ってくると思ってたんだもん」

 地下で岩が落ちてきて怪我したんじゃないかとか、そういえばベリアモルゼには噛まれたらまず助からない猛毒の蜘蛛が生息してるんだったとか、余計な想像で頭がいっぱいになる。

 とてもじっとしていられなくて、私はただ部屋の中をぐるぐると回っていた。

 ユーノスが戻ってきたのはそれから1時間後、夜の闇があたりを包み始め頃だった。
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