ギソコン~ワケあって偽装婚約した彼は、やり手のイケメン弁護士!?~

深海 なるる

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40話 抗議

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「病院……!? って、え? タツキ君、どこか悪いの!?」
「いや、入院したのはあいつじゃなくて、あいつの……親父」
 お父さん?
「うん。親父さん、最近は福岡の親戚を頼ってあっちで働いていたらしいよ。でも、先週職場で倒れて……検査したら肝臓癌だったって。もうかなり進んでて持ってもあと半年だそうだ。多分、随分前から無理してたんじゃないかな……?」
 そんな……。
「親戚から入院の連絡を受けて母親と妹と一緒に福岡の病院に駆け付けたらしい。ちなみにタツキが目撃された通りのそばに病院があるそうだ。タツキの奴、ここ数日スマホの充電がきれている事にも気が付いてなくて、僕たちが探してたって知って驚いてた。いつもは嫌になるほど冷静な奴なのによっぽど慌ててたんだろうね」
 そうだったんだ……。
 両親はもう離婚しているから、戸籍上は四人はもう家族じゃない。
 でも、やっぱり、割り切れないものがあるんだろう。
 いくら憎んでも父親は父親だ。
「タツキ君、辛いだろうね」
「そうだね……あ! そういう訳であいつの無事は確認できたんだけど、千尋ちゃんが福岡にタツキを探しに行った事や実家に戻ったことはまだ話せてないんだ」
「そ、そんなことは今はどうでもいいことだよ。家に帰ったことは、いずれちゃんと話すから……」
「そうだね、折を見て僕からも話してみるよ」
「うん……ねえ、チカさん。考えてみると……私が家に帰ったのってタイミングが良かったのかも知れないね」
「え? どうして?」
「だって、私や蓮の心配はもうしなくて良くなるでしょ? あっちのアパートも解約できるし……あ! でも、それなら、あれは何だったんだろう? あの、百十万円」
 新聞受けにいれたのはタツキ君じゃないの……?
「ひゃ、百十万円って? 千尋ちゃん! それ、なんの話なの!?」
 金曜日、アパートに帰ったら新聞受けにお金が入っていたことを話した。
 それで嫌な胸騒ぎがして、タツキ君を探しに電車に飛び乗ってしまった事を。
「そんな大金、タツキは何も言ってなかったけど……そもそも親父さんの借金や入院費用もかかるだろうに、どういう事だろう……?」
「うん、不思議だよね……」
 あのお金はママバッグの底に入れたまま。
 タツキ君に会えたら渡そうと思って持ってきていたのだ。
「と、とりあえず、なんのお金かはっきりするまでお金には手を付けずに部屋のタンスにでも入れておくよ……」 



「というわけで私の部屋のタンスには封筒に入ったままの百十万円があるんだけど……先生、あれ、どうしたらいいと思う?」
 私の問いに先生は眉をしかめた。 
「そうですねぇ……眞島さんの居場所は今も分からないままなのですか?」
「うん、はっきりとは。分かってるのは福岡の親戚の所に身を寄せているって事だけ。タツキ君のスマホの充電が復活したからメッセージアプリでお金のことを聞いてみたんだけどタツキ君、それは自分じゃないって言うの。でも、私達親子にあんな大金をくれる人が他にいる?」
 それも私達が一緒に暮らしていたアパートの新聞受けに黙って入れていくなんて。
「…………」
「そりゃ、正直これから蓮を育てていくのにお金がかかるのは分かってるから、ありがたいと思うよ。でもね、彼だってお父さんの入院で大変なのにあんな大金はもらえない。私、あのお金を返したいの。蓮を産んで育てるって決めたのは私だよ。タツキ君からお金は貰えない……貰いたくないの」
「千尋さん……」
「それに借金の事だってあるでしょ? トーマ先生、お願い、タツキ君を助けて欲しい」
 お父さんが作ってしまった借金。
 始まりはほんの数万円の事だったらしい。
 それが気が付いたら雪だるま式に増えてしまっていたって。
 闇金の取り立てはすさまじくお父さんはかなり追い詰められてしまったそうだ。
「そうですね、債務整理に関しては弁護士としてお手伝いできることがあると思います……あ、車はどこに停めましょうか?」
「じゃあ、とりあえずあの外階段のそばに」
「ええ」
 思った以上に車の流れがスムーズで八時前にはフォレストに着いた。
 いつもより早いくらいだ。
「先生、本当にありがとうございました」
「いいんですよ……千尋さん」
 先生は車を停めて私に向き直った。
「さっきの眞島さんのお父さんの件ですが……債務整理なら私より適任の弁護士がいます。その人なら闇金のやり方も知り尽くしていますし、若輩の私よりも上手に彼らと渡り合えるはずです……誰の事を言っているのか、あなたならお分かりですよね?」
 その真剣なまなざしに私は小さく頷いた。
「その方にお願いしてみてはどうでしょう? 勿論、その為には眞島さんの事をお話しする必要があるでしょうが」
……冬馬先生がいう『その人』とは勿論、父の事だ。
 確かに今、最も頼りになる人は父だと思う。
「お父さんなら……タツキ君を助けられる?」
「ええ……必ず。所長は蓮さんにメロメロですからね。眞島さんの家の問題は蓮さんにも無関係ではありません。きっと力になってくれるはずです。ああ見えてあなたの御父上は凄腕の弁護士ですから」 
 ああ見えてって……。
 私にはいつもカチッとしてて、いかにもやり手の弁護士に見えるけど。
 一体先生にはどう見えているって言うんだろ?
「冬馬先生って、ちょいちょいお父さんをディスるよね?」 
「え? そうですか? これでも所長の事は一応尊敬してはいるつもりですが」
 先生は『心外ですね』と、とぼけてみせる。
「ぷっ、ふふふっ」
 私は可笑しくってつい笑ってしまった。
 あの父を全く恐れない先生ってやっぱり……大物だ。
 先生の手がふいに伸びてきて私の頬に触れた。
「セッ、センセッ!?」
 そして眩しそうにその切れ長の瞳を細める。
「あなたにはやはり、笑顔の方が似合う」
「…………」
 そ、そんな顔されたら、わ、私……。
 先生の綺麗な顔がゆっくり近づいてきたので私はそっと瞳を閉じた。
 唇にフワッと触れる優しいキスにうっとりして、私は先生の胸に顔をうずめた。
「タツキ君の事……お父さんに頼みたい」
 たとえ蓮の出生について知られる事になったとしても。
 タツキ君を助けて欲しい。
「ええ……それがいいでしょう」
 先生は私を強く抱きしめてくれた。
 あんなに怖いと思っていた男の人の腕の中が、こんなに安らぐなんて。
 やっぱり先生は私にとって特別な人なんだ。
 先生の事が……好き、大好き。

 コツン……コン、コン。
「ん?」
 ふいに聞こえた小さな音に振り返って驚く。
「う、うわぁ! チ、チカさんっ!!」
 鳶服を着たチカさんがジトっとした目つきで助手席の窓をノックしていた。
 まさかお父さんに続いて、チカさんにまでこんなところを見られちゃうなんて。
 は、恥ずかしすぎる!
「チ、チカさんっ、お、おはようございます」
 私はあわてて先生から離れると車のドアを開けた。
「おはよう、千尋ちゃん、って……あのねぇ『今日は千尋ちゃんの最終日だ。ついにこの日が来てしまった』って僕は浮かない気持ちでやって来たのにさ。朝からこんなラブシーンを見せつけられるなんて、もう最悪だよ」
「ご、ごめんなさい……」
 そうため息交じりに抗議されちゃ、謝ることしか出来ない。
 ご、ごめんよ、チカさん。
 申し訳ないっ。
「い、痛っ……!」
 車から降りようとして思い出した。
 足を痛めてたんだよ、私。 
「え、足!? その足、どうしたのっ!?」
 大げさに包帯を巻かれた私の足に気が付いてチカさんは大声をあげた。
「千尋さん、手を」
 いつの間にか車を降りていた先生が私の手をとって立たせてくれる。
 私は先生の腕に掴まるようにして立ち上がった。
「千尋ちゃん、この人は……?」
 チカさんは冬馬先生の顔を見たとたん固まってしまった。
 ん? チカさん? 
 どうしたんだろう?
「え、えーっと、チカさん、この人は四宮冬馬さんと言って、あのー、私の、そのぉ」
 言いよどむ私をよそにチカさんはじっと先生を見つめて呟いた。
「婚約者……?」
「ええ、四宮です」
「そうですか、あなたが……僕はフォレストの森宗親です」
「チカさん……ですよね。千尋さんから話は聞いています。この一年半、大変お世話になったそうで、ありがとうございました」
「いいえ、あなたにお礼を言われるようなことは何も」
 お互い笑顔で挨拶を交わしている様に見えるのに漂う空気はピンと張りつめていて、私は息苦しくてたまらなくなった。
 も、もうっ、な、仲良くしてくださいっ。
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