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2章
1話 ち、ちょっといくら何でも私の目の前で服を脱ぐのはやめて下さい
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「ね、葵ちゃん、一緒に地獄に行かない?」
は? ジゴク……? じ、地獄って……生前悪事を働いた人が死後に落とされるという、あの……地獄?
な、なんでそんなところに?
十一月のある休日、私の家で夕食を食べた後、キッチンで食器を洗っていたら背後からトシヤさんが唐突にこんな事を言い出したもんだから私は驚いて振り返った。
「そ、それはあれデスカ? どこまでも二人で墜ちてゆこう的な……? そういう刹那的な、なんかデショウカ?」
「は?……おっと危ない!」
トシヤさんは私の真横に立って私の手から滑り落ちそうになっていたお皿を受け止めた。
地獄に行こうって……。
「いや、だから……あの、愛の逃避行的な……?」
私、全然気が付かなかったけど、トシヤさんは何かとんでもない問題を抱えているんだろうか?
「んんっ! ちょっと、トシヤさんっ、泡が付きますよ!」
ふいにトシヤさんにギュッと抱きしめられて私は泡だらけの手で抱き返すわけにもいかず両手を宙に浮かす。
「だって……葵ちゃんがかわいすぎてムリ……」
「トシヤさん……?」
私を抱きしめる手がかすかに震えている。
「ぷっ、くくく……ふっははははっ、あ、愛の逃避行って……」
って、笑ってるじゃん! ちょっとどういうこと? なんで笑ってるの? 私、結構心配しているのに。
「あのね葵ちゃん、地獄って『地獄めぐり』だよ」
トシヤさんが腕の力を少し緩めてくれたので私は顔を上げた。
トシヤさんの瞳にはうっすらと涙がにじんでいる。
もうっ、笑い過ぎだよ! そんなに笑わなくてもいいじゃん。
「『地獄めぐり』って……大分の別府ですか?」
「ううん、雲仙。十二月の三連休に長崎の島原半島に旅行に行きたいなと思って」
「島原半島……私、初めてです! 行く、行きますよ! 地獄でもどこへでも!」
「じゃあ、決まりだね」
トシヤさんがかわいい顔でにっこりと笑ったので私も微笑み返した。
じゃ、食器洗いの続きをするか、と思うけど……トシヤさんはまだ私を離してくれない。
少しかがんで私の顔をのぞき込むと耳元でささやいた。
「……ねえ、もし僕が一緒に地獄に堕ちてって言ったらどうするつもりだったの?」
「んっ」
耳元にかかる吐息がくすぐったい。
おまけに何だか声が色っぽい気がするのは気のせい?
「ねえ、葵ちゃん、一緒に堕ちてくれるの?」
「そ、そんなこと……できませんよ。だって私にはクラスの子供達もいるし、無責任に全てを投げ出すことはできないから……。で、でもトシヤさんのことも手放しませんよ。何か問題があるのなら私も一緒に考えますから。地獄に堕ちなくていい方法を……」
「そう来たか……葵ちゃんらしいね。やっぱり君は凄い子だよ……葵ちゃんのそういうところが、好きだよ……」
「ち、ちょっとトシヤさんっ!」
トシヤさんの唇がスッと落とされて私はドキドキする。
付き合い始めてからしばらくたつけど私はいまだにこの距離に慣れない。
「あ!……ゴメンナサイ」
突然のキスにおどろいてトシヤさんの胸をギュッと押し返してしまった。手……泡だらけだったのに。トシヤさんのカットソーの胸元はびしょぬれだ。
「いいよ、ちょうどお風呂に入ろうと思っていたし」
トシヤさんはさっと上着を脱いでお風呂場に向かう。
ち、ちょっといくら何でも私の目の前で服を脱ぐのはやめて下さい。
心臓に悪い。
わざと?……わざとやってるよね?
私が赤くなっていると、
「あ、葵ちゃんも一緒に入る?」
トシヤさんはニヤニヤしながら振り返った。
「は、入りません!」
トシヤさんがお風呂に入っている間に急いで食器を片付けるとコーヒーを二杯淹れてソファーに腰かけた。
スマホで島原半島の観光スポットを検索する。
行ってみたいところがたくさんある。なかでも……。
「うわぁー、ここいいなぁ」
「え? どこ?」
お風呂からあがって部屋着に着替えたトシヤさんが隣に座って私の手元をのぞき込んだ。
ち、近いよ……。
「ああ、足湯だね。うん、ここいいよね」
なんでも橘湾の海岸沿いに105mもの『日本一長い足湯』があるらしい。赤いレンガが整然と敷き詰められている様子が素敵だ。おまけに、自分で野菜を蒸すことが出来る湯釜もあるんだって。
「ここ、小浜らしいんですけど……行けますか?」
いまいち土地勘のない私は地図アプリを立ち上げた。
「うん、雲仙に行く途中に寄れるよ……卵とかサツマイモとか持って行って蒸してもいいね」
「はいっ!」
うーん、楽しみ! 温泉の蒸気で蒸した卵やお芋なんて絶対美味しいに決まっている!
「他には……? どこに行きたい?」
「そうですね、あとは……」
私たちはこの日遅くまで旅行の計画を練った。
トシヤさんと行く初めての旅行……。
うっふっふ。
休み明け、給食中に思い出し笑いをしているところを目撃されてしまってクラスの児童に気持ち悪がられてしまった……。
反省。
でもね、先生だって冬休みが楽しみなんだ。
まあ、冬休みっていったって先生の仕事は暦通りだけど、それでも今年は終業式が終われば三連休が待っている!
うっふっふ。
はっ! またニヤついてしまった……。
「先生、ご機嫌だね……」
子供たちがひそひそ話しているのが聞こえてきて私は表情を引き締めた……。
は? ジゴク……? じ、地獄って……生前悪事を働いた人が死後に落とされるという、あの……地獄?
な、なんでそんなところに?
十一月のある休日、私の家で夕食を食べた後、キッチンで食器を洗っていたら背後からトシヤさんが唐突にこんな事を言い出したもんだから私は驚いて振り返った。
「そ、それはあれデスカ? どこまでも二人で墜ちてゆこう的な……? そういう刹那的な、なんかデショウカ?」
「は?……おっと危ない!」
トシヤさんは私の真横に立って私の手から滑り落ちそうになっていたお皿を受け止めた。
地獄に行こうって……。
「いや、だから……あの、愛の逃避行的な……?」
私、全然気が付かなかったけど、トシヤさんは何かとんでもない問題を抱えているんだろうか?
「んんっ! ちょっと、トシヤさんっ、泡が付きますよ!」
ふいにトシヤさんにギュッと抱きしめられて私は泡だらけの手で抱き返すわけにもいかず両手を宙に浮かす。
「だって……葵ちゃんがかわいすぎてムリ……」
「トシヤさん……?」
私を抱きしめる手がかすかに震えている。
「ぷっ、くくく……ふっははははっ、あ、愛の逃避行って……」
って、笑ってるじゃん! ちょっとどういうこと? なんで笑ってるの? 私、結構心配しているのに。
「あのね葵ちゃん、地獄って『地獄めぐり』だよ」
トシヤさんが腕の力を少し緩めてくれたので私は顔を上げた。
トシヤさんの瞳にはうっすらと涙がにじんでいる。
もうっ、笑い過ぎだよ! そんなに笑わなくてもいいじゃん。
「『地獄めぐり』って……大分の別府ですか?」
「ううん、雲仙。十二月の三連休に長崎の島原半島に旅行に行きたいなと思って」
「島原半島……私、初めてです! 行く、行きますよ! 地獄でもどこへでも!」
「じゃあ、決まりだね」
トシヤさんがかわいい顔でにっこりと笑ったので私も微笑み返した。
じゃ、食器洗いの続きをするか、と思うけど……トシヤさんはまだ私を離してくれない。
少しかがんで私の顔をのぞき込むと耳元でささやいた。
「……ねえ、もし僕が一緒に地獄に堕ちてって言ったらどうするつもりだったの?」
「んっ」
耳元にかかる吐息がくすぐったい。
おまけに何だか声が色っぽい気がするのは気のせい?
「ねえ、葵ちゃん、一緒に堕ちてくれるの?」
「そ、そんなこと……できませんよ。だって私にはクラスの子供達もいるし、無責任に全てを投げ出すことはできないから……。で、でもトシヤさんのことも手放しませんよ。何か問題があるのなら私も一緒に考えますから。地獄に堕ちなくていい方法を……」
「そう来たか……葵ちゃんらしいね。やっぱり君は凄い子だよ……葵ちゃんのそういうところが、好きだよ……」
「ち、ちょっとトシヤさんっ!」
トシヤさんの唇がスッと落とされて私はドキドキする。
付き合い始めてからしばらくたつけど私はいまだにこの距離に慣れない。
「あ!……ゴメンナサイ」
突然のキスにおどろいてトシヤさんの胸をギュッと押し返してしまった。手……泡だらけだったのに。トシヤさんのカットソーの胸元はびしょぬれだ。
「いいよ、ちょうどお風呂に入ろうと思っていたし」
トシヤさんはさっと上着を脱いでお風呂場に向かう。
ち、ちょっといくら何でも私の目の前で服を脱ぐのはやめて下さい。
心臓に悪い。
わざと?……わざとやってるよね?
私が赤くなっていると、
「あ、葵ちゃんも一緒に入る?」
トシヤさんはニヤニヤしながら振り返った。
「は、入りません!」
トシヤさんがお風呂に入っている間に急いで食器を片付けるとコーヒーを二杯淹れてソファーに腰かけた。
スマホで島原半島の観光スポットを検索する。
行ってみたいところがたくさんある。なかでも……。
「うわぁー、ここいいなぁ」
「え? どこ?」
お風呂からあがって部屋着に着替えたトシヤさんが隣に座って私の手元をのぞき込んだ。
ち、近いよ……。
「ああ、足湯だね。うん、ここいいよね」
なんでも橘湾の海岸沿いに105mもの『日本一長い足湯』があるらしい。赤いレンガが整然と敷き詰められている様子が素敵だ。おまけに、自分で野菜を蒸すことが出来る湯釜もあるんだって。
「ここ、小浜らしいんですけど……行けますか?」
いまいち土地勘のない私は地図アプリを立ち上げた。
「うん、雲仙に行く途中に寄れるよ……卵とかサツマイモとか持って行って蒸してもいいね」
「はいっ!」
うーん、楽しみ! 温泉の蒸気で蒸した卵やお芋なんて絶対美味しいに決まっている!
「他には……? どこに行きたい?」
「そうですね、あとは……」
私たちはこの日遅くまで旅行の計画を練った。
トシヤさんと行く初めての旅行……。
うっふっふ。
休み明け、給食中に思い出し笑いをしているところを目撃されてしまってクラスの児童に気持ち悪がられてしまった……。
反省。
でもね、先生だって冬休みが楽しみなんだ。
まあ、冬休みっていったって先生の仕事は暦通りだけど、それでも今年は終業式が終われば三連休が待っている!
うっふっふ。
はっ! またニヤついてしまった……。
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子供たちがひそひそ話しているのが聞こえてきて私は表情を引き締めた……。
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