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記憶の断片
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翌朝、陽介は健一の腕の中で目覚めた。
健一はまだ眠っていて、その穏やかな寝顔を見ていると、心が温かくなった。
突然、断片的な映像が頭をよぎった。
健一と二人で花見をしている場面。健一が酔って頬を赤らめる姿。二人で手を繋いで歩く道。初めて結ばれた夜の記憶。
(記憶が……戻り始めてる?)
陽介は静かにベッドから抜け出し、リビングに向かった。窓際に立ち、朝日を浴びながら、昨夜のことを思い返す。
健一との一体感。体が覚えていた全ての感覚。そして、今朝方フラッシュバックした記憶の断片。全てが繋がり始めていた。
背後から足音がし、健一が近づいてきた。
「おはよう」
健一は陽介の肩に顎を乗せ、後ろから抱きしめた。
「よく眠れたか?」
「ああ」
陽介は健一の腕に手を重ねた。
「それと……記憶の断片が見えた気がする」
「本当か?」
「僕たち、一緒に花見に行ってるよね」
陽介は振り返り、健一の顔を見た。
「君が酔って、頬を赤くしてた」
健一の目が輝いた。
「去年の春だ。お前がフランスから帰ってきた後の祝いで……」
「フランス……?」
「ああ、コレクション発表のためにフランスに行ってたんだ」
健一は嬉しそうに説明した。
「各地で発表して、それが大成功して、帰国後にお祝いをした」
「そっか。そうなんだ」
健一は陽介を強く抱きしめた。
「焦らなくていい。少しずつでいい」
その日から、陽介の記憶は断片的に戻り始めた。大学卒業後の就職、初めてのコレクション発表、健一との旅行の思い出。
そして、健一との親密な瞬間も。初めて結ばれた夜、一緒に暮らし始めた日、将来を語り合った時間。全てが鮮明に蘇ってきた。
健一は根気強く陽介の記憶の回復を支え、一つひとつの断片を一緒に紡いでいった。
「あの時のキスを覚えてる?」
陽介が尋ねると、健一は微笑んだ。
「どのキスだ?数え切れないほどあるぞ」
「バルコニーで、雨に濡れながら」
健一の表情が柔らかくなった。
「ああ、俺たちの2周年記念日だ」
記憶が戻るにつれ、二人の関係はより深まっていった。もしかしたら以前よりも強く、確かなものに。
ある日、陽介はアトリエで新しいデザインに取り組んでいた。パリコレのための特別なコレクション。健一が助言をしに来ていたが、その目は陽介の作業する姿を愛おしげに見つめていた。
「どうかな?」
陽介はスケッチを健一に見せた。
「完璧だ」
健一は微笑んだ。
「間違いなく陽介の作品だよ」
そんな中、アトリエのドアが勢いよく開いた。
「陽介!」
厳しい表情の中年男性が立っていた。佐藤雄一。陽介の父親。
「父さん……」
記憶の中の父親の姿が蘇る。彼との複雑な関係。父親のデザイナーとしてのキャリアへの反対。そして最大の障壁――――健一との関係への激しい反発。
「元気になったようだな」
雄一の視線が冷たい。
「記憶が戻ったと聞いたが」
「断片的にね」
陽介は冷静に答えた。雄一の視線が健一に向けられる。その目には明らかな敵意があった。
「あの男とはまだ付き合ってるのか?」
雄一の声には嫌悪感が混じっていた。
その言葉に、陽介の胸に怒りが込み上げた。残りの記憶も一気に戻ってくる。父親からの反対。脅し。業界からの締め出しという圧力。
「健一のことだよね。はっきり言うよ、父さん。僕は健一を愛してる。事故前も、今も」
「愚かな……」
雄一は唇を引き結んだ。
「お前のキャリアを台無しにするぞ。業界での評判も」
「それは父さんが広めようとしているだけでしょう」
健一が静かに割って入った。
「佐藤さん、私たちの関係がどうあれ、陽介の才能は本物です。彼のキャリアを潰すことは、業界にとっても大きな損失になる」
「黙れ!」
雄一は声を荒げた。
「お前が息子を惑わせたんだ」
「父さん!」
陽介が強い声で言った。
「健一のことをそんな風に言わないで」
「目を覚ませ!」
雄一は陽介に向き直った。
「こんなやつとの関係で将来があると思うのか?」
陽介は深く息を吐いた。
「父さん、僕は自分の生き方を選ぶ。デザイナーとしても、一人の人間としても」
「選ぶなら、あの男か家族か、どちらかだ」
「それなら……」
陽介は迷わず答えた。
「健一を選ぶ」
雄一は怒りに震え、何も言わずに立ち去った。扉が強く閉まる音が響いた。
部屋に残された二人。健一が陽介に近づき、肩に手を置く。
「大丈夫か?」
「ああ」
陽介は健一の手を握った。
「全部思い出した……父さんとの対立、別れを決意した理由……全て」
健一は陽介を抱きしめた。
「辛かったな」
「でも今は違う」
陽介は健一の目を見つめた。
「今の僕は、誰に何を言われようと、君を選ぶ」
その夜、二人は互いの体を通じて、新たな誓いを交わした。
健一の体を隅々まで覚えている手が、愛しげに肌を撫でる。筋肉の一つ一つの起伏を確かめるように、陽介の指先が健一の体を巡った。
「君の体……全部思い出した」
陽介は健一の肩から胸元へと唇を這わせた。
「ここにあるほくろも……」
健一は喉の奥から漏れる声を抑えられず、陽介の頭を両手で包み込んだ。
「陽介……」
今度は記憶を取り戻した陽介が主導権を握った。健一の体を仰向けに押し倒し、唇で全身を丹念にたどっていく。首筋から鎖骨、胸、腹部、そして下腹部へ。
「待って……陽介……」
健一の声が震える。
「今夜は僕がリードするよ」
陽介は健一の腿の内側に唇を寄せた。
「君が僕にしてくれたように……」
陽介の唇が健一の昂りに触れると、健一は思わず腰を浮かせた。
「あぁっ……」
陽介は記憶を取り戻した自信と愛情で、健一の全てを味わい尽くすように愛撫した。舌と唇の動きに健一の体は激しく反応し、寝具を強く握りしめる。
「陽介……もう……」
陽介は健一の懇願する声を聞くと、満足そうに微笑んだ。
「まだだよ……」
陽介は上体を起こし、健一の胸元にまたがった。月明かりに照らされた二人の体が銀色に輝いている。陽介は自分の指をしっとりと濡らし、健一の目を見つめながら、その手を自分の背後へと伸ばした。
「陽介……」
健一は陽介の姿に魅了され、目が離せなくなった。自分を求めるために身体を開いていく陽介の姿。記憶を取り戻した今、陽介は彼らの愛の全てを覚えていた。
陽介はゆっくりと健一の上に身体を沈めていった。二人が完全に一つになる瞬間、二人同時に声を漏らした。
「健一……」
「陽介……」
陽介は健一の胸に手を置き、緩やかに腰を動かし始めた。その動きは次第に激しくなり、健一の手が陽介の腰を掴んで導く。
「愛してる、健一……」
陽介は息を切らせながら言った。健一の腰が上へと突き上げる。
二人のリズムが完璧に調和し、動きが加速していく。健一の手が陽介の前面に伸び、その昂りを包み込んだ。
「一緒に……」
健一が囁いた。
陽介は健一の目を見つめながら腰を回転させ、二人の間に生まれる快感に全身で応えた。月明かりの中で踊るように、二人の体は互いを求め続けた。
「あぁっ……健一……来る……!」
「陽介……!」
二人の動きは次第に激しくなり、部屋は熱と喘ぎ声で満たされた。絶頂の瞬間、陽介の体が弓なりに反り、健一の名を叫んだ。健一も陽介の中で解放され、強く抱きしめ合ったまま、二人は共に二人だけの世界へと昇っていった。
健一はまだ眠っていて、その穏やかな寝顔を見ていると、心が温かくなった。
突然、断片的な映像が頭をよぎった。
健一と二人で花見をしている場面。健一が酔って頬を赤らめる姿。二人で手を繋いで歩く道。初めて結ばれた夜の記憶。
(記憶が……戻り始めてる?)
陽介は静かにベッドから抜け出し、リビングに向かった。窓際に立ち、朝日を浴びながら、昨夜のことを思い返す。
健一との一体感。体が覚えていた全ての感覚。そして、今朝方フラッシュバックした記憶の断片。全てが繋がり始めていた。
背後から足音がし、健一が近づいてきた。
「おはよう」
健一は陽介の肩に顎を乗せ、後ろから抱きしめた。
「よく眠れたか?」
「ああ」
陽介は健一の腕に手を重ねた。
「それと……記憶の断片が見えた気がする」
「本当か?」
「僕たち、一緒に花見に行ってるよね」
陽介は振り返り、健一の顔を見た。
「君が酔って、頬を赤くしてた」
健一の目が輝いた。
「去年の春だ。お前がフランスから帰ってきた後の祝いで……」
「フランス……?」
「ああ、コレクション発表のためにフランスに行ってたんだ」
健一は嬉しそうに説明した。
「各地で発表して、それが大成功して、帰国後にお祝いをした」
「そっか。そうなんだ」
健一は陽介を強く抱きしめた。
「焦らなくていい。少しずつでいい」
その日から、陽介の記憶は断片的に戻り始めた。大学卒業後の就職、初めてのコレクション発表、健一との旅行の思い出。
そして、健一との親密な瞬間も。初めて結ばれた夜、一緒に暮らし始めた日、将来を語り合った時間。全てが鮮明に蘇ってきた。
健一は根気強く陽介の記憶の回復を支え、一つひとつの断片を一緒に紡いでいった。
「あの時のキスを覚えてる?」
陽介が尋ねると、健一は微笑んだ。
「どのキスだ?数え切れないほどあるぞ」
「バルコニーで、雨に濡れながら」
健一の表情が柔らかくなった。
「ああ、俺たちの2周年記念日だ」
記憶が戻るにつれ、二人の関係はより深まっていった。もしかしたら以前よりも強く、確かなものに。
ある日、陽介はアトリエで新しいデザインに取り組んでいた。パリコレのための特別なコレクション。健一が助言をしに来ていたが、その目は陽介の作業する姿を愛おしげに見つめていた。
「どうかな?」
陽介はスケッチを健一に見せた。
「完璧だ」
健一は微笑んだ。
「間違いなく陽介の作品だよ」
そんな中、アトリエのドアが勢いよく開いた。
「陽介!」
厳しい表情の中年男性が立っていた。佐藤雄一。陽介の父親。
「父さん……」
記憶の中の父親の姿が蘇る。彼との複雑な関係。父親のデザイナーとしてのキャリアへの反対。そして最大の障壁――――健一との関係への激しい反発。
「元気になったようだな」
雄一の視線が冷たい。
「記憶が戻ったと聞いたが」
「断片的にね」
陽介は冷静に答えた。雄一の視線が健一に向けられる。その目には明らかな敵意があった。
「あの男とはまだ付き合ってるのか?」
雄一の声には嫌悪感が混じっていた。
その言葉に、陽介の胸に怒りが込み上げた。残りの記憶も一気に戻ってくる。父親からの反対。脅し。業界からの締め出しという圧力。
「健一のことだよね。はっきり言うよ、父さん。僕は健一を愛してる。事故前も、今も」
「愚かな……」
雄一は唇を引き結んだ。
「お前のキャリアを台無しにするぞ。業界での評判も」
「それは父さんが広めようとしているだけでしょう」
健一が静かに割って入った。
「佐藤さん、私たちの関係がどうあれ、陽介の才能は本物です。彼のキャリアを潰すことは、業界にとっても大きな損失になる」
「黙れ!」
雄一は声を荒げた。
「お前が息子を惑わせたんだ」
「父さん!」
陽介が強い声で言った。
「健一のことをそんな風に言わないで」
「目を覚ませ!」
雄一は陽介に向き直った。
「こんなやつとの関係で将来があると思うのか?」
陽介は深く息を吐いた。
「父さん、僕は自分の生き方を選ぶ。デザイナーとしても、一人の人間としても」
「選ぶなら、あの男か家族か、どちらかだ」
「それなら……」
陽介は迷わず答えた。
「健一を選ぶ」
雄一は怒りに震え、何も言わずに立ち去った。扉が強く閉まる音が響いた。
部屋に残された二人。健一が陽介に近づき、肩に手を置く。
「大丈夫か?」
「ああ」
陽介は健一の手を握った。
「全部思い出した……父さんとの対立、別れを決意した理由……全て」
健一は陽介を抱きしめた。
「辛かったな」
「でも今は違う」
陽介は健一の目を見つめた。
「今の僕は、誰に何を言われようと、君を選ぶ」
その夜、二人は互いの体を通じて、新たな誓いを交わした。
健一の体を隅々まで覚えている手が、愛しげに肌を撫でる。筋肉の一つ一つの起伏を確かめるように、陽介の指先が健一の体を巡った。
「君の体……全部思い出した」
陽介は健一の肩から胸元へと唇を這わせた。
「ここにあるほくろも……」
健一は喉の奥から漏れる声を抑えられず、陽介の頭を両手で包み込んだ。
「陽介……」
今度は記憶を取り戻した陽介が主導権を握った。健一の体を仰向けに押し倒し、唇で全身を丹念にたどっていく。首筋から鎖骨、胸、腹部、そして下腹部へ。
「待って……陽介……」
健一の声が震える。
「今夜は僕がリードするよ」
陽介は健一の腿の内側に唇を寄せた。
「君が僕にしてくれたように……」
陽介の唇が健一の昂りに触れると、健一は思わず腰を浮かせた。
「あぁっ……」
陽介は記憶を取り戻した自信と愛情で、健一の全てを味わい尽くすように愛撫した。舌と唇の動きに健一の体は激しく反応し、寝具を強く握りしめる。
「陽介……もう……」
陽介は健一の懇願する声を聞くと、満足そうに微笑んだ。
「まだだよ……」
陽介は上体を起こし、健一の胸元にまたがった。月明かりに照らされた二人の体が銀色に輝いている。陽介は自分の指をしっとりと濡らし、健一の目を見つめながら、その手を自分の背後へと伸ばした。
「陽介……」
健一は陽介の姿に魅了され、目が離せなくなった。自分を求めるために身体を開いていく陽介の姿。記憶を取り戻した今、陽介は彼らの愛の全てを覚えていた。
陽介はゆっくりと健一の上に身体を沈めていった。二人が完全に一つになる瞬間、二人同時に声を漏らした。
「健一……」
「陽介……」
陽介は健一の胸に手を置き、緩やかに腰を動かし始めた。その動きは次第に激しくなり、健一の手が陽介の腰を掴んで導く。
「愛してる、健一……」
陽介は息を切らせながら言った。健一の腰が上へと突き上げる。
二人のリズムが完璧に調和し、動きが加速していく。健一の手が陽介の前面に伸び、その昂りを包み込んだ。
「一緒に……」
健一が囁いた。
陽介は健一の目を見つめながら腰を回転させ、二人の間に生まれる快感に全身で応えた。月明かりの中で踊るように、二人の体は互いを求め続けた。
「あぁっ……健一……来る……!」
「陽介……!」
二人の動きは次第に激しくなり、部屋は熱と喘ぎ声で満たされた。絶頂の瞬間、陽介の体が弓なりに反り、健一の名を叫んだ。健一も陽介の中で解放され、強く抱きしめ合ったまま、二人は共に二人だけの世界へと昇っていった。
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