『公爵令嬢には、見えざるものが見える。話せる。殴れる。 話が通じないなら、へなへなぱーんち!』

しおしお

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第29話 疑問の言葉

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第29話 疑問の言葉

屋敷での一件から戻った翌日。
アヴァンシアは、いつも通り教会の控え室にいた。

石壁。
高い天井。
祈りの声が反響する空間。

(……変わらない場所)

変わらないからこそ、
違和感が際立つ。

ヴィオスが、
集まった神官たちを前に言った。

「次の依頼だ」

「名のある貴族家だ。
失敗は許されん」

神官たちが、
一斉に背筋を伸ばす。

アヴァンシアは、
黙って書類を受け取った。

(……また、ですわね)

『また、だね』

見えざる者が、
同意する。

依頼内容は、
見慣れた文言だった。

――屋敷に悪魔が出る
――不幸が続いている
――祈りでどうにかしてほしい

(……具体性が、ありません)

それが意味することは、
よく分かっていた。

「――では、
いつもの通りだな」

神官が言う。

祝詞。
聖水。
形式だけの儀式。

アヴァンシアは、
その流れを眺めながら、
ふと口を開いた。

「……一つ、
よろしいでしょうか」

場が、
一瞬で静まる。

ヴィオスが、
視線を向ける。

「何だ」

「今回の依頼――
“悪魔の兆候”とありますが」

言葉を選ぶ。

「具体的な存在や、
痕跡は
確認されているのでしょうか」

空気が、
ぴたりと止まった。

神官の一人が、
眉をひそめる。

「それは――
依頼主がそう言っているのだ」

「……はい」

アヴァンシアは、
静かに続けた。

「ですが、
実際に“いるかどうか”と
“祈りが必要かどうか”は、
別ではありませんか」

『言った』

『言っちゃったね』

視線が、
一斉に集まる。

「……何が言いたい」

ヴィオスの声は、
低かった。

アヴァンシアは、
一歩も引かなかった。

「祈りが必要な場と、
そうでない場があると
思うのです」

「それを見極めずに
同じ儀式を繰り返すのは――」

言葉を区切る。

「……教会のためにも、
ならないかと」

沈黙。

次の瞬間。

「――不敬だな」

ヴィオスの一言が、
空間を切った。

「教会のやり方に
口を出すつもりか」

「いえ」

アヴァンシアは、
首を振る。

「ただ、
疑問を申し上げただけです」

それが、
決定打だった。

「疑問?」

ヴィオスは、
冷たく笑った。

「疑問を持つ立場か、
お前は」

「見習い神官だ」

「教会の権威を
疑う資格はない」

アヴァンシアは、
何も言わなかった。

(……やはり)

理解は、
していた。

ここでは――
“考えること”自体が
歓迎されない。

『……怒ってる』

「……ええ」

だが、
後悔はなかった。

ヴィオスが、
断言する。

「次からは、
余計な口は挟むな」

「同行だけしていればいい」

その言葉は、
命令だった。

アヴァンシアは、
静かに頭を下げた。

「……承知しました」

その姿に、
神官たちは
満足そうに頷く。

だが――
彼女の胸の奥で。

小さな、
確かな音がした。

――何かが、
完全にズレた。

まだ、
追い出されてはいない。

けれど。

この瞬間から――
彼女は
“異物”になった。

それを、
誰よりも
ヴィオス自身が
理解していた。


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