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第35話 屋敷の再生
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第35話 屋敷の再生
変化は、
劇的ではなかった。
だが――
確実だった。
朝、
庭に出た使用人が
首を傾げる。
「……昨日より、
草が……」
「……ええ」
アヴァンシアは、
窓辺から庭を見下ろしていた。
伸び放題だった草が、
ところどころ
自然に倒れ、
通り道ができている。
刈ったわけではない。
(……道を、
空けたのですね)
『……邪魔だったから』
「……ありがとう」
見えざる者は、
得意げだった。
屋敷の中でも、
同じことが起きていた。
きしんでいた床が、
音を立てなくなる。
閉まりにくかった扉が、
すっと動く。
割れたままだった窓が、
いつの間にか
仮留めされている。
「……誰が?」
使用人が
不思議そうに尋ねる。
「……家、
ですわ」
冗談ではない。
屋敷そのものが、
“自分を使う人間”に
応え始めている。
執事が、
帳面を持って近づく。
「お嬢様」
「修繕予定だった箇所が、
いくつか……」
言葉を探す。
「……手を入れる
必要がなくなりました」
アヴァンシアは、
小さく頷いた。
「では、
優先順位を
変えましょう」
「危険な場所だけを
封鎖して」
「他は、
様子を見ます」
執事は、
一瞬迷い、
それから深く頭を下げた。
「……承知しました」
“直す”より、
“馴染ませる”。
それが、
今のやり方。
昼。
食堂に、
久しぶりに
笑い声が戻る。
「……音、
しなくなりましたね」
使用人の一人が
ぽつりと漏らす。
夜中に聞こえていた
不気味な音。
足音。
壁を引っ掻く音。
それらが、
ぴたりと止んだ。
『……叱った』
「……殴っては
いませんよね?」
『……ちょっとだけ』
「……“ちょっと”は、
ほどほどに」
見えざる者は、
気まずそうに
視線を逸らした。
午後。
庭の奥。
かつて、
家妖精の気配が
抜け落ちていた場所。
そこに――
微かな温もりが戻っている。
アヴァンシアは、
足を止めた。
「……まだ、
全部ではありませんが」
『……戻り道、
できてる』
「……ええ」
呼び戻してはいない。
命令も、
祈りもない。
ただ――
居場所を整えただけ。
それが、
最も誠実な
招き方だ。
夕方。
屋敷に、
初めての来客があった。
近隣の商人。
「……噂を聞きまして」
「最近、
この屋敷――
落ち着いたと」
使用人が、
戸惑いながらも
応対する。
アヴァンシアは、
奥から様子を見ていた。
(……噂は、
広がるものですね)
『……悪くない噂』
「……ええ」
夜。
帳面に、
新しい項目が増える。
――来客対応
――屋敷の安全範囲
――見えざる者との共存規則
(……公爵家、
らしくなってきましたわね)
皮肉ではない。
肩書きではなく、
機能として。
アヴァンシアは、
ペンを置いた。
「……屋敷は、
再生しています」
それは、
希望ではない。
事実だった。
この家は――
もう、
捨てられた殻ではない。
主を選び直し、
再び
生き始めたのだ。
-
変化は、
劇的ではなかった。
だが――
確実だった。
朝、
庭に出た使用人が
首を傾げる。
「……昨日より、
草が……」
「……ええ」
アヴァンシアは、
窓辺から庭を見下ろしていた。
伸び放題だった草が、
ところどころ
自然に倒れ、
通り道ができている。
刈ったわけではない。
(……道を、
空けたのですね)
『……邪魔だったから』
「……ありがとう」
見えざる者は、
得意げだった。
屋敷の中でも、
同じことが起きていた。
きしんでいた床が、
音を立てなくなる。
閉まりにくかった扉が、
すっと動く。
割れたままだった窓が、
いつの間にか
仮留めされている。
「……誰が?」
使用人が
不思議そうに尋ねる。
「……家、
ですわ」
冗談ではない。
屋敷そのものが、
“自分を使う人間”に
応え始めている。
執事が、
帳面を持って近づく。
「お嬢様」
「修繕予定だった箇所が、
いくつか……」
言葉を探す。
「……手を入れる
必要がなくなりました」
アヴァンシアは、
小さく頷いた。
「では、
優先順位を
変えましょう」
「危険な場所だけを
封鎖して」
「他は、
様子を見ます」
執事は、
一瞬迷い、
それから深く頭を下げた。
「……承知しました」
“直す”より、
“馴染ませる”。
それが、
今のやり方。
昼。
食堂に、
久しぶりに
笑い声が戻る。
「……音、
しなくなりましたね」
使用人の一人が
ぽつりと漏らす。
夜中に聞こえていた
不気味な音。
足音。
壁を引っ掻く音。
それらが、
ぴたりと止んだ。
『……叱った』
「……殴っては
いませんよね?」
『……ちょっとだけ』
「……“ちょっと”は、
ほどほどに」
見えざる者は、
気まずそうに
視線を逸らした。
午後。
庭の奥。
かつて、
家妖精の気配が
抜け落ちていた場所。
そこに――
微かな温もりが戻っている。
アヴァンシアは、
足を止めた。
「……まだ、
全部ではありませんが」
『……戻り道、
できてる』
「……ええ」
呼び戻してはいない。
命令も、
祈りもない。
ただ――
居場所を整えただけ。
それが、
最も誠実な
招き方だ。
夕方。
屋敷に、
初めての来客があった。
近隣の商人。
「……噂を聞きまして」
「最近、
この屋敷――
落ち着いたと」
使用人が、
戸惑いながらも
応対する。
アヴァンシアは、
奥から様子を見ていた。
(……噂は、
広がるものですね)
『……悪くない噂』
「……ええ」
夜。
帳面に、
新しい項目が増える。
――来客対応
――屋敷の安全範囲
――見えざる者との共存規則
(……公爵家、
らしくなってきましたわね)
皮肉ではない。
肩書きではなく、
機能として。
アヴァンシアは、
ペンを置いた。
「……屋敷は、
再生しています」
それは、
希望ではない。
事実だった。
この家は――
もう、
捨てられた殻ではない。
主を選び直し、
再び
生き始めたのだ。
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