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第40話 謝罪
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第40話 謝罪
その日、
屋敷に珍しい来客があった。
門の前に立つ、
教会の紋章入りの馬車。
使用人が、
不安げにアヴァンシアを見る。
「……お嬢様」
「ええ」
彼女は、
落ち着いた声で答えた。
「通してください」
庭に出ると、
馬車から一人の老人が降りてきた。
――ヴィオス。
かつて、
教会の権威そのものだった男。
今は、
その背中が
ひどく小さく見える。
「……」
彼は、
アヴァンシアの姿を確認すると、
数歩進み――
膝を折った。
使用人たちが、
息を呑む。
「……お嬢様」
ヴィオスは、
地面に額をつけた。
「謝罪に、
参りました」
その姿は、
演技ではない。
だが――
美しくもなかった。
遅すぎる謝罪は、
ただ
重い。
アヴァンシアは、
すぐに答えなかった。
『……土下座だ』
「……ええ」
視線を外さず、
静かに待つ。
沈黙に、
耐えきれなくなったのは
ヴィオスの方だった。
「私は……」
声が、
震える。
「あなたの力に、
最初から
気づいていました」
「見えないものが
見えていることも」
「祈りが通じない場で、
結果を出していた理由も」
淡々と、
続ける。
「教会の体面を守るため」
「あなたを
“神官の補助”に押し込み」
「考えることを
禁じ」
「……利用しました」
アヴァンシアは、
小さく息を吐いた。
(……やはり)
驚きは、
なかった。
「教会は、
今――」
ヴィオスは、
言葉を探す。
「失敗続きです」
「貴族からの依頼は
激減し」
「王宮案件からも
外されました」
それは、
敗北宣言だった。
「……ですから」
彼は、
顔を上げないまま
続ける。
「戻っていただきたい」
「教会のやり方は、
改めます」
「あなたを、
正当に――」
「お断りします」
即答だった。
使用人たちが、
驚く。
ヴィオスの肩が、
びくりと揺れた。
「……ただし」
アヴァンシアは、
一歩前に出る。
「条件が、
ございます」
ヴィオスは、
顔を上げた。
その目には、
縋るような光。
「教会に
戻りません」
「住まいも、
ここです」
「ですが――」
言葉を区切る。
「実家から
通う形でなら、
力を貸します」
「同行の強制は
受けません」
「口出しも、
受けません」
一つずつ、
突きつける。
「教会は、
“祈りが万能”だと
言うのをやめなさい」
「祓えないものが
あることを、
認めなさい」
『……全部、
正論』
「……ええ」
ヴィオスは、
長い沈黙の末、
深く頭を下げた。
「……承知、
いたしました」
その声には、
もはや
威厳はない。
ただの――
依頼人だ。
アヴァンシアは、
それを確認し、
静かに告げた。
「では、
協力関係です」
「上下では
ありません」
ヴィオスは、
何度も
頭を下げた。
去り際、
ふと立ち止まり、
小さく呟く。
「……教会は」
「あなたを
追い出して、
自分の首を
絞めました」
アヴァンシアは、
微笑まなかった。
「……因果、ですわ」
ヴィオスが去る。
門が閉まる。
『……立場、
逆転したね』
「……ええ」
アヴァンシアは、
屋敷を振り返った。
ここが、
拠点。
ここが、
主の場所。
「……貸す力は、
選びます」
それは、
復讐ではない。
選択だ。
教会は、
もはや
彼女を縛れない。
彼女は――
誰の下にも
いない。
---
その日、
屋敷に珍しい来客があった。
門の前に立つ、
教会の紋章入りの馬車。
使用人が、
不安げにアヴァンシアを見る。
「……お嬢様」
「ええ」
彼女は、
落ち着いた声で答えた。
「通してください」
庭に出ると、
馬車から一人の老人が降りてきた。
――ヴィオス。
かつて、
教会の権威そのものだった男。
今は、
その背中が
ひどく小さく見える。
「……」
彼は、
アヴァンシアの姿を確認すると、
数歩進み――
膝を折った。
使用人たちが、
息を呑む。
「……お嬢様」
ヴィオスは、
地面に額をつけた。
「謝罪に、
参りました」
その姿は、
演技ではない。
だが――
美しくもなかった。
遅すぎる謝罪は、
ただ
重い。
アヴァンシアは、
すぐに答えなかった。
『……土下座だ』
「……ええ」
視線を外さず、
静かに待つ。
沈黙に、
耐えきれなくなったのは
ヴィオスの方だった。
「私は……」
声が、
震える。
「あなたの力に、
最初から
気づいていました」
「見えないものが
見えていることも」
「祈りが通じない場で、
結果を出していた理由も」
淡々と、
続ける。
「教会の体面を守るため」
「あなたを
“神官の補助”に押し込み」
「考えることを
禁じ」
「……利用しました」
アヴァンシアは、
小さく息を吐いた。
(……やはり)
驚きは、
なかった。
「教会は、
今――」
ヴィオスは、
言葉を探す。
「失敗続きです」
「貴族からの依頼は
激減し」
「王宮案件からも
外されました」
それは、
敗北宣言だった。
「……ですから」
彼は、
顔を上げないまま
続ける。
「戻っていただきたい」
「教会のやり方は、
改めます」
「あなたを、
正当に――」
「お断りします」
即答だった。
使用人たちが、
驚く。
ヴィオスの肩が、
びくりと揺れた。
「……ただし」
アヴァンシアは、
一歩前に出る。
「条件が、
ございます」
ヴィオスは、
顔を上げた。
その目には、
縋るような光。
「教会に
戻りません」
「住まいも、
ここです」
「ですが――」
言葉を区切る。
「実家から
通う形でなら、
力を貸します」
「同行の強制は
受けません」
「口出しも、
受けません」
一つずつ、
突きつける。
「教会は、
“祈りが万能”だと
言うのをやめなさい」
「祓えないものが
あることを、
認めなさい」
『……全部、
正論』
「……ええ」
ヴィオスは、
長い沈黙の末、
深く頭を下げた。
「……承知、
いたしました」
その声には、
もはや
威厳はない。
ただの――
依頼人だ。
アヴァンシアは、
それを確認し、
静かに告げた。
「では、
協力関係です」
「上下では
ありません」
ヴィオスは、
何度も
頭を下げた。
去り際、
ふと立ち止まり、
小さく呟く。
「……教会は」
「あなたを
追い出して、
自分の首を
絞めました」
アヴァンシアは、
微笑まなかった。
「……因果、ですわ」
ヴィオスが去る。
門が閉まる。
『……立場、
逆転したね』
「……ええ」
アヴァンシアは、
屋敷を振り返った。
ここが、
拠点。
ここが、
主の場所。
「……貸す力は、
選びます」
それは、
復讐ではない。
選択だ。
教会は、
もはや
彼女を縛れない。
彼女は――
誰の下にも
いない。
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